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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
2章 風の町 マニャーサ編
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2章 16話 :吐き出した思い

「リリィ…大丈夫?」


「なんで?」


心配そうな顔を浮かべるマオ。それに対して、ニコッと笑って見せるリリレヴァ。


「この通り、ぜーんぜん元気だよ?」


腕を大きく広げ、くるくると回ってみせた。


「ちょっ…!リリカてゃそ危ない!お肌を気にしないと!」


行きと同様にウツキは傘持ち係をしている。


「大袈裟すぎるよ?…そうだ!こうすれば良いんだ!」


リリレヴァはウツキを持ち上げる。

ウツキは声にならない悲鳴をあげる。そんなウツキにリリレヴァは笑いかける。


「ウツキったら、傷口が治ったとは言え動いちゃダメだよ?歩くだけでも傷口が開いちゃうかも。だからこうして、私が抱っこしてあげてるの!…嫌?」


「い…嫌じゃ…無いです」


思わず顔を自分の腕に埋めた。心臓の音が五月蝿くなる。顔が熱くなり、発火してしまいそうだ。


「ウツキ、傷口がなくなったってどういう…」


「マオさん、それは私からご説明しますので…」


ルナティアはマオの耳元まで近づく。


「今は、お嬢様の方が深刻だと思います。ウツキ殿はそれどころじゃないみたいですから、私達が見ていないと。」


ウツキは小さな声で「ルナてぃ…マオ…ヘルメス…助けて…」と呟いている。その様子をヘルメスは面白そうに眺めていた。


「ルナティア、ヘルメスの事は頼んだ。僕はリリィのそばにいる。…こんなことばかり任せてごめんね?」


「いえ…。貴方がお嬢様とどんな関係かは、奥様から聞いていますから…」


「2人とも〜?何話してるの?みんなでお話ししながら帰ろうよ〜」


2人はリリレヴァの近くに寄り、帰路を辿るのだった。



□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


リリレヴァ一行は無事家に着いていた。


「リリカてゃそ、大丈夫かな…?

なんか元気なさそうだったし…少しでも辛い時にそばにいてあげられたらな…」


リリレヴァの部屋の前に立つ。

部屋の中からは、荒い呼吸音が聞こえる。


ウツキは深呼吸をし、ノックをした。


「…リリレヴァ。大丈夫か?」


音が止まり、ゆっくりと ドアが開く。


「…ウツキ?」


少し開いた部屋から、上半身だけ覗かせるリリレヴァ。その顔は、血色が悪く、辛そうであった。


「…辛い事があったら何か相談してくれ。俺の血で良ければ、いくらでも飲んでくれても構わないし、君の為ならなんでもする。」


驚いた顔を

「…ごめん、ね。今は少し、1人になりたいかも。」


「…そう、だよな。わかった。何かあったら呼んでくれ。」


リリレヴァにドアを閉められる。

閉める瞬間、隙間から見えた彼女の顔は冷たく、どこか悲し気な顔を浮かべていた。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


少女は部屋に1人。ドアに寄りかかり、虚な目をしている。


「そばにいてって…そう、言えればよかったのに。」


ぽたぽたと何かが垂れる音がする。


少女は手をかざし、魔法を使う。暗い部屋を、赤い光がぼんやりと照らした。


「ウツキは、この事を知ったら嫌いになっちゃうかもしれないな…」


少女は自身の魔法で作り上げた物を抱き、座り込む。


「初めて、館の外であった人。

失いたくない…嫌われたく、ないな…」


魔法の消えた、暗い部屋で少女は涙を溢した。


「私が…泣いて良いはず無いのに…」


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


ウツキは閉められたドアを見つめていた。リリレヴァの不安の原因を取り除いてあげたい。


コツコツと、足音が聞こえる。音の方向を見ると、マオがいた。


「ウツキ、リリレヴァと話がしたい。大事な話だ。できれば…聞かないでほしい。」


リリレヴァとマオは仲の良さそうに見えた。ウツキよりも、ずっと大切な関係なのだろう。

そもそも、ぽっと出の自分ができることなんて少ないのかもしれない。


「わかった。残念ながら、俺に出来る事は何も無いみたいだからな…。あとは、リリカてゃそと仲の良さそうなお前に任せた。」


「…ああ。リリィの事は、任せてくれ。」


マオはドアをノックし、中のリリレヴァと何か話しているようだった。


2人の間に割り込むような事はしてはいけない。直感的にそう感じた為、どこか気晴らしに散歩にでも行くことにする。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


廊下を歩いていると、掃除をしているソルティアに出会った。


「おっ、ソルティアお姉様じゃん。お久〜」


「あっ…ちょうど良いところに。ちょっと命令があるのだけれど。」


「相場は『お願い』ですけどね…⁈」


ソルティアは、近くの扉の開いてる部屋に対して手招きをする。すると中からはルナティアが出て来た。


「姉様の武器が限界なのは知ってるわね?このままじゃ姉様は素手でしか戦えないわ。私がいない時に、可憐な姉様が襲われて、御手に返り血でも付いたらいけないわ。」


「勝つ前提なんですね…」


ソルティアは『当たり前でしょう?』とでも言いたげな無言の圧力を送ってくる。


「だから、今度『鍛冶屋』のところへ行くわ。」


「…ルナてぃは、棘の付いた棍棒で戦うんだよな?鍛冶屋とは…」


「別に、刀や剣に変えようってわけじゃ無いです。『鍛冶屋』と呼ばれる方の所へ行くんです。元々、刀作りが盛んな村で、代々作っていたようです。当代の『鍛冶屋』は武器屋を営んでいて、どの武器も扱える天才なのだとか…」


刀という事は、またしても和風な場所なのだろうか。まだ見ぬ地への期待、好奇心が湧いてくる。


「そういう事だから、貴方を肉壁係として連れて行くわ。」


「またかよ。」


若干のデジャヴを感じながら、この後も他愛のない話を続けた。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


「リリィ、入るよ。」


返事はない。

マオはドアを開けようとする。しかし、リリレヴァが寄りかかっており、無理に開ける事はできない。


「…リリィは、僕が誰だかも忘れたのかい?」


少女の目の前に、黒髪の男が立つ。


「えっ…」


驚いたように少女は目を見開く。


「僕は君と同じ、吸血鬼だよ?隙間さえあれば、霧散して入れる。入室を拒まなかったのはリリィだろ?」


「…そう、だね。」


リリレヴァをそっと抱き寄せる。


「リリィ、愛してる。君が生まれた時から。ずっと、これからも。どれだけ君が、人を殺しても、世界を滅ぼしても、僕を殺したって嫌いになるはずが無い。」


「そんな事…」


「『する訳ない。』わかってるさ。本当に、愛してる。そんなリリィの悩みも、痛みも、全て受け止めてあげたい。…何が辛いのか、教えてくれる?」


リリレヴァはマオを抱き返す。すると、堰き止めていた何かが決壊したかのように、大粒の涙が一気に溢れかえる。


マオはリリレヴァの抱いているものを見て、目を顰める。リリレヴァの頭を撫でながら、ゆっくりと質問していく。


「リリィ、それはどうした…いや、どうしたいの?」


ぼろぼろと涙をこぼし、隠していた気持ちを吐き出す。


「ウツキが…私の事庇ってくれてっ…!

ち、血がっ、たくさんとんで、ね…

自分だけ…痛い、思い…してないのが…

嫌で…!なんで、ウツキだけ痛いのかなって…私も、同じぐらいっ!…助けて、痛い思い…しないとダメ…だなって…」


「…そっか。」


マオはより一層ぎゅっと抱きしめる。


「だからねっ…これをねっ…ウツキにあげるの…!

渡したいの…。それでね、もっとね…償わなくちゃ…いけないのっ…

…みんなに甘えて…痛くさせてっ…

…もう、辛いのっ…!」


「みんな、そんな事してもらうより、元気なリリレヴァの方がいいと思うよ。でも、ウツキを思って、行動したんだよね?」


リリレヴァは小さく頷く。


「明日、それをウツキにあげよう。それで、この事は忘れよう?ルナティアもソルティアも僕も、ウツキも。身を削ってまで頑張るより、元気で明るいリリレヴァが見たい、そう思ってるよ。」


「…うん。」


「ほら、今日はもう寝よう。眠くなるまで、楽しい話でもしようよ。」


「わかった。」


2人はベットに潜る。面白い生き物の話、星座の話。リリレヴァの意識が落ちるまでマオはずっと、楽しい話をしてみせた。

申“し“訳“こ“さ“い“ま“せ“ん“ん“


今回も書いているのはみちをと申します…

今回も⻆谷氏に添削を頼んだんですね?でも添削してくださる⻆谷氏も暇では無い訳です。そして朝に弱いみちを。


夜に添削を頼むみちを。

暇では無い為、添削が朝になる⻆谷氏。

朝に弱いみちを。

起きると節々と喉と頭が痛いみちを。

時計を見ると9時のみちを。


そして今に至る訳です。

そう、起きて17分で頑張って後書を書いているみちを!


許されませんね。


3時間と18分遅刻です

申し訳ございません。

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