2章 15話:傷を負う
25話き
「やぁっ!!!」
ルナティアが街灯を振り回す。街灯が首に当たったタウルスはあまりの衝撃によろける。
反撃に出たタウルスの斧と、ルナティアの街灯がぶつかり、火花を散らす。
「…ウツキ?」
後ろから微かな声が聞こえる。そこには白く透き通るような美しい髪を持ち、幼子のような仕草と表情を浮かべるリリレヴァの姿があった。
「リリカてゃそ⁈なんでここにっ…」
「起きたらヘルメス以外みんないないから…外でもすごい音がしてたし、何かあったのかなって。」
リリレヴァの目は、話し相手———ウツキの目を見つめていたが、視線を外してルナティアを見ている。しかし、心配はしていないのかすぐに視線を戻した。
「リリカてゃそ、危ないから下がってて。絶対に守ってみせるから。」
ウツキは戦う2人に振り返る。緊張しているのか、顔をこわばらせていた。
重い一撃を、ルナティアは軽く避ける。街灯の先で、タウルスの頭を殴る。街灯の光を覆うガラスは割れ、電気がタウルスに火をつける。
タウルスは倒れ、あたりに地響きが鳴った。
ルナティアは『武器などどうでもいい』とでも言わんばかりに、街灯を投げ捨ててリリレヴァへ駆け寄る。
「お嬢様っ!ご無事ですか?」
「うん。ルナティアが戦ってくれてたなんて…お疲れ様。」
「い、いえ。私の力不足で、お嬢様の休息を邪魔してしまい申し訳ございません。」
リリレヴァが感謝し、ルナティアが謝罪する。何回かこの会話を繰り返していた。
「あの一族は…許してはおけない。道連れぐらいにはッ…!」
2人の方へとタウルスが走ってくる。2人は話していて気づいていないようだ。
「リリレヴァッ!ルナティアッ!」
出来るだけ攻撃の通らないように、四肢をめいいっぱい広げる。それでも、攻撃されたのは腹だけだった。
ウツキの影からルナティアが飛び出す。死角から出てきたルナティアに対応できず、タウルスはデコに拳を喰らう。今日1の火力のパンチをまともに喰らったタウルスは、今度こそ気絶し、倒れた。
「ウツキッ!!」
リリレヴァは倒れるウツキを受け止める。ゆっくりと、ウツキを横にする。
ルナティアはタウルスの心臓部を拳で潰し、完全に息の根を止める。それを確認してすぐ、ウツキに駆け寄った。
「…お嬢様、こんな他力本願な事を言うのは烏滸がましいのですが…お嬢様の力でなんとかできませんでしょうか…」
□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇
熱い。寒い。熱くなった血液が、熱が、こぼれ落ちていく。そんな感覚に襲われる。痛みに耐えようとするほど、血が溢れる。
きっと大丈夫。前も大丈夫だったのだから。
そうわかっている。けれど、このまま死ぬのでは無いかと思うぐらいの痛み。死なないのと、痛く無いのは違うのだ。
そもそも自分は死なないのだろうか。前も同じ事を考えた気もする。
そんな事を考えていると、腹のあたりが温かくなるような感覚がある。春の心地よい陽光のような。
安心すると疲れが体を襲う。『アドレナリンが出ていた』というものだろうか。自分だけ重力が強くなったような。地面に沈むような感覚。その感覚はウツキの眠気を呼んだ。
ウツキの思考は夢の世界へと落ちていった。
□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇
目覚めると、そこには知らない天井があった。服は和服へと着替えさせられており、傍には寝ているヘルメス。
「お前…ずっと寝てたのか…?」
ヘルメスはすーすーと、寝息を立てている。空いている窓から風が吹き込み、サラサラとした鼠色の髪が頬を流れ落ちる。
「まったく。こんな思春期男子とこいつを一緒の部屋で寝かせるなんて…どこのどいつなんだっ⁉︎」
「ウツキ殿にそんな度胸はないと思いましたので。」
「ーー⁈⁈」
適当で阿呆な独り言を聞かれ、声にならない悲鳴をあげる。
部屋の入り口にはルナティアが立っていた。
「おはようございます。」
寝たまま話すのは如何なものかと思い、起きあがろうとする。
「そのままで大丈夫ですよ。」
「いや、もうどこも痛くないし…」
「万に一つでも、傷が開いたらどうするんですか。寝ていて下さい。」
一刻も早く治して、リリレヴァの役に立てる事を探したいウツキは、言う通りに再び布団に横になる。
「結局、今日は1度帰宅することになりました。お嬢様は『大丈夫』と言っていましたが、明らかに体調が優れていません。」
ルナティアは小さな声で「お嬢様が外に対する心の傷を負ってしまったら…」と呟いていた。見てわかるほどに、心が参っているようだ。
「そうか。今はゆっくり休んでもらおう。また、来れるときに行けばいいし。」
「そうですね。お嬢様が元気になってからまた来ましょう。…私は荷物をまとめてきますね。準備が出来次第呼びに来ます。」
そういうと、ヘルメスを叩き起こしてルナティアは部屋を去っていった。
□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇
寝れずに窓の外を見ていると、ふわりと甘い香りが漂う。
「ウツキ、お外行きたい?」
心臓が止まると思うほどウツキは驚く。
「リリカてゃそ⁈い、いつの間に…襖の音とかしなかったと思うんだけど…」
「…部屋、抜け出して来たの。こんな感じで」
目の前でリリレヴァは霧散してみせる。
「ヒェッ…」
リリレヴァが消えるところを見て、自分の前からいなくなってしまう事を連想する。思わず声が出てしまった。
「…驚いたでしょ。」
急に再び現れる。
リリレヴァはウツキの布団をめくり、距離を詰めてくる。
「リリカてゃそ…?」
ウツキの来ている着物の襟に手をかける。
「あ、ぁの…はだけちゃうんですが…」
ウツキは思わず目を瞑り、赤くなった顔を隠すように腕で顔を覆う。
リリレヴァの暖かい手で傷のあった腹を触られる。
「傷、治ってるね。人間って案外、傷の治りが早いんだ…」
「…」
リリレヴァの白く透き通るような髪が腹に落ち、くすぐる。
「り、リリレヴァさん…?少しこそばゆいと言いますか…」
「…ごめんね。」
立ち上がるとドアノブを捻り、振り返る。
「私、みんなの事手伝ってくるね?」
襖は音を立てて閉じられた。
リリレヴァを引き止めたかったが、具体的な理由も無かったので黙って見送った。
ルナティアの言う通り、いつもとはどこか違う雰囲気を纏っているように感じた。
「元気なリリカてゃそが1番だけど、ああいうリリカてゃそもいいな。」
どうもおはこんばんちゃ〜みちをです。
今日は月曜の1:09!ヤバいです!ギリギリ!
という事で眠い。
書く事あんまりないのでまた来週!




