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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
2章 風の町 マニャーサ編
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2章 12話;もう覆すには遅すぎた

さて、どうした物だろうか。店主は逃すことができたが、戦力が無い。


「あんなこと言っといて何だけど、マオも俺が巻き込んでたんだよな…。今更だったかも」


『前回』はマオを巻き込んでも、今回は巻き込んでいない。


「あ〜あ。逃しちゃったじゃないですか…私はただ狩りをしているだけなのに。貴方が代わりに、私の肉になってくれるんですか?」


「…なんで、人間を狩るんだよ。」


時間稼ぎに、アリエスの話に乗る。


「知ってますか?『家畜化できる動物』って話。なんでも、群れなどの中で上下関係のある動物は家畜化可能。人間がその頂点に立つ事で成功します。人間って、その条件に当てはまるんですよ?国王がやっている事は、理論的には家畜化と同じ。でも、人間って知能だけは発達してるので『叛逆』を起こします。

何が言いたいかっていうと、家畜化がめんどくさいんですよ。頂点に上り詰める気もありませんし。なにより、誰かが飼育した家畜を食べる方が早く無いですか?そういう意味では、『狩り』ではなく『盗み』が近いかもしれませんね。あぁ、でも!」


「この過激派逆ヴィーガンが…思想の押し付けは良くないけど、お前は少しぐらい見習え。」


「びーがん…?と、いうのはなんですか?」


「…動物が可哀想だから、肉を食べない人のことだよ。野菜とかしか食べないんだ。」


「逆って…私は積極的に殺してるわけでも、食べているわけでもないですよ?確かに私も、殺されるのは可哀想だと思いますよ?でも、私を野生動物として置き換えたらどうです?何も変なことしてませんよね。誰だって生きているんだから。生きるっていうことは、誰かを犠牲にすること。家を建てるにしても、もともと動物さんの家だった場所を使いますし、蜂蜜や、ミルクだって、人間が奪ってます。仕方のない事です。私は無意味に殺しているのでないのだから。1番多い肉を食べてるだけなんですよ?大体、それならなんで私の親は…私達だけが…」


『アレ』は何かを熱弁している。1人で話している分、何もしなくても時間稼ぎができるので都合はいい。


ここからどうするか。時間を稼いだところで、案が思い浮かばなければ意味が無い。中国包丁を取り上げる方法?相手を殺す方法?どれもウツキにはできそうも無い。


「うるさい。睡眠の邪魔をするのか?」


1つの足音が近づいてくる。振り向くと、マオがいた。


「な、なんでっ⁈」


「そこの女の独り言がうるさくて、リリィが起きちゃうからね。リリィの睡眠を邪魔する奴は…消す。」


マオの爪が伸びる。


「そう、そうです。睡眠は三大欲求の1つ。生きる為に必要な1つ。生きる為に殺す。生かす為に殺す。良い、良いです、良いじゃないですかっ!生きる為の戦い。意味のある戦い!」


アリエスもナタを構える。


マオは先手必勝とでも言うかのように飛び出した。爪を避けるように、後ろへアリエスが跳ぶ。ナタでマオの首を狙う。


爪でナタを防ぐマオの腹目掛けて、アリエスは蹴りを入れる。マオはサッと身を引き、攻撃を避ける。


ふたたび、アリエスは首を狙う。しかし、マオは飛び上がり、振り翳されたナタの上に乗る。


「わぁあっ⁈」


ナタに体重がかかり、それを持っていたアリエスはこける。


倒れたアリエスの上にマオが座る。


「乗らないでください…!」


「じゃあ、頭を靴で踏まれたいか?女の子だからって、一応配慮したつもりなんだけど。」


アリエスは不機嫌そうに黙り込む。


「ウツキ、どうする。コイツを生かしておきたいなら、逃しても良いが…。僕的には殺すのをオススメするけど。」


アリエスは『生きる為』と言い人を殺していく。自分を正当化して。


「…さっきの『親が、私達が』って、何を言っていたんだ?」


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


私は生まれた時から首輪を付けられていた。逃げ出したら首輪から刃が出て、首が切り落とされるとか。


両親も首輪があった。私の一族は羊と人の混血。

私達を恐れた人間は、私達を家畜化しようと考えた。羊と人間の血を引いている為、私達は家畜として飼われることになった。


「ねぇ、アリエス…。私、お肉が柔らかくなる事、してもらったんだ…。もうすぐ、食べてもらえるの。」


友達は虚な目で言った。それからは、何も言わずに何かを考えていた。


私達は、いつも何かに怯えていた。食べられる、快楽のために使われ殺される。もしくは、想像を絶する何かに。


このままでいいのか。


「おかしいよ。私達だけが…」


私は、他のみんなとは違う。心を壊されたみんなとは。心まで屈してなるものか。


「殺られる前に…殺る。」


友達が捌かれることを聞いた。私は身代わりとなり、人間の懐へと潜り込んだ。あいつらは私達を『家畜』としか見ていない。私達を見ていない。

だから、『肉になる個体』が入れ替わっていても気づかない。



「お前は発育がいいな。食べる所も多いし…よし、俺が肉をほぐして柔らかくしてやるよ。」


人間は体を触ってきた。


「ほら、気持ちいいだろ?俺の手捌きでほぐして貰えるんだ、光栄に思えよ、家畜。」


私は耐えた。気持ち悪い。見ているだけで吐き気がする。大きく、熱い手が体を這う。仲間を殺し、血肉を食らった奴が、己の欲の為に擦り寄ってくる。



「おじ様、私達を殺す作業、お肉をほぐす作業、お疲れ様です。頑張っているおじ様に、私からもご奉仕致しますわ。さぁ、あちらを向いて座ってくださいまし。」


「…。」


いつも臆病な私だが、何故か『できる』気がした。本当は奉仕なんてわからない。でも、奴は油断している。反抗なんてされないと思っている。


私を捌くはずだった———仲間を捌いてきた中国包丁を手に取る。



「なんで…お肉無いの…?」


「肉食動物は肉が硬い。それに、お前らに与える肉なんて、元からねぇよ。」


重いものを持つ時、毎回このやりとりを思い出した。もういない、あの子の声を思い出した。


栄養の足りていない私達は、非力にも程があった。

大切な物を落とさずに運ぶ筋力が無かった。

暴力に素手で立ち向かう筋力が無かった。

重い包丁を慎重に扱うほどの筋力はなかった。


でも、力任せに、『安全に配慮しない使い方』であれば扱える。


両手で持ち手を持つ。そして、その男にめがけて包丁を振り回した。


私を軸に、視界が、世界が、回る。

周りに配慮なんて必要ない。どれだけ失敗しても、手から包丁がすっぽ抜けても、怒る人なんていない。


何でもできる気がした。解放された私達は自由だ。まずは、祝杯をあげよう。


私は喰らった。私達を蔑ろにしてきた奴を。喉の渇きを、飢餓感を満たしていく。


「こんなに食べ物があるのは初めて…。こんなに食べられない」


食べ物を粗末にしてはいけない。食事も少ない家畜として飼われ、肉になる気持ちと大切に食べるという経験をした。


「水浴び…してみたかったのよね。お水なんて、少量の飲み水しかないし…何にも活用せずに捨てるよりは、いいよね。保存できるようなものなんて無いし。」


血を体に塗りたくる。液体を体に大量に付ける。私にとってはとても清潔な気分になった。一回も水浴びなんてしたことがないのだから。


「なんて楽しいの…!外は、どうなってるの?心踊るような気分!」


くるくると回り、慣れない広い場所を千鳥足で走る。あたりに血を撒きしらしながら。



□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


「これぐらいでいいですかね。最後にお話できて楽しかったです。私の最後の時間が役だったなら生涯に悔いはありません。」


ウツキは何も言えない。そんな過酷な環境で育ってきてはいない。結論をつけるには経験が少なすぎるのだから。しかし、殺すことへの価値観が変わらない限りは、一生分かり合える気もしない。


「役に立った…?」


マオが口を開く。


前回、アリエスの逃亡後に巨漢が出てきた。


「マオッ!もう1人どこかに潜んでるかもしれない!」


「ああ。」


マオの目線はずっとアリエスに向いている。もう1人いる可能性を頭に入れていないかのように。


どこからか鳴り響く地鳴りが聞こえないかのように。すぐに音は大きくなり、


マオの背後の路地から音の正体が現れた。


マオへ巨漢の斧が振り翳された。

皆様おはこんばんちゃ〜みちをです。


某smy氏に添削してもらいました。いつもよりいい文章に修正できてるといいな…(修正後のものを見てもらってない)


えっと…今回の表現で伝わらなさそうな所を一箇所、補足しますね。

まず、僕って同性と異性どっちからもセクハラ?痴漢?を受けたことあるんですよ。

僕の場合、混乱→気持ち悪い、何かできたのではと、放心→怒り

の、順番で感情が来るんですよ。ほんで、本当に疲れてたり、何にもやる気起きない時って全部自分のせいにしたり、怒りが湧かないんですよね。


と、ここまでが補足?でした。

元々、僕は『人に対しては』基本怒りませんけどね。

ではまた来週〜!

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