2章 10話:立ち止まってはいられない
「貴方、なんのつもりですか?お嬢様とウツキ殿、マオさんに手は出させませんよ。」
マニャーサの路地にて。ルナティアは釘バット———ならぬ、棘バットを取り出し、ある者に向ける。
「やめてくださいよ、怖いなぁ。
そんなの向けないでよ。」
茶化すような口調で答える。しかし、翡翠色の目は、バットを持つ少女の目を捉えている。
お互いが警戒し合い、目を離せない。離さない。目で「捕える」と言うのが1番適切な状況。
「大体、そんなか弱いお嬢さんに何が出来」
足を後ろへと下げた。その時だった。
その瞬間に、ルナティアは目の前の人———ヘルメスの両手首を掴み、地面へと押さえつけていた。
「お嬢さんったら大胆…。でも、お嬢さんになら僕の」
「黙りなさい。貴方の目的は?なんのために接触してきた?」
ルナティアの左目にかかった髪が、重力に身を任せ、落下。結果、左目が露出する。
「その目…」
「別に隠してたわけじゃないんですけどね。この目の所為で、常に私の魔力は常に枯渇して。全く、困った話です。」
ヘルメスは必死に抵抗をするが、力ではもう勝てない。力のみで勝てたとしても、この体制。上に押し除けるのは、下に押し付けるのよりも力がいる。
「良いんですか…っ。今日のウツキさん、辺りを見渡していて…すぐにバレますよ?」
腕を握るルナティアの力が少し弱まった。かと言って逃げられはしない。
しかし、ルナティアはヘルメスを解放する。棘バットを、寝転がるヘルメスの顔横に突き立てる。睨んでから、何事も無かったかのように棘バットに体重をかけ、立ち上がる。
「その脅し、乗ってあげます。元々、忠告だけするつもりでしたし。これはただの私の勘ですから。
そんな者で始末してしまっては、お嬢様や、お姉様に怒られてしまいます。」
あまりにも何事も無かったかのようにルナティアが振る舞う。その為、呆気に取られたヘルメスはルナティアを見つめることしかできない。
路地から通りに出る時、ルナティアはヘルメスの方を振り向き、物理的に見下す。
「何してるんです?早く戻らないと、私まで怪しまれてしまいます。さっさと立って、店に戻りますよ。」
その言葉で、ようやく我を取り戻したヘルメスは慌ててルナティアの後を追いかけた。
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ドアに付いた鐘が鳴る。目線をそちらへと向ける。そこにはルナティアとヘルメスが立っていた。
「ルナてい…!」
「おかえりなさいませ!お待ちしておりました!お召し物をお仕立ておわりましたよ!」
店員が目を輝かせながら、ルナティア手を引く。更衣室へと連れ込まれ、素早く着付けをされる。
しばらくすると、更衣室のカーテンを開き、ルナティアが出てきた。
「これを…ウツキ殿が?意外と服のセンスとかあるんですね…。ありがとうございます。」
「めちゃくちゃ似合ってるよ!やはり、俺の目に狂いは無かった…!」
ルナティアの服は和風メイドを意識してみた。
肩のフリルや、エプロンを浴衣に着けたような衣装。エプロンと裾にも細かいフリルをあしらった。
あまりこんなことは言いたく無いが、戦ってもらう為に来てもらっているのだ。普段のヴィクトリアスタイルではなく、脚の可動域が広そうなフレンチスタイルをモチーフにした。
「ルナティア、すっごく可愛い!」
「お褒めいただき、ありがとうございます。お嬢様も、とてもお似合いです…!」
美少女2人が、自分のデザインした服を着ている。なんて贅沢なのだろうか。
「ルナてい、なんかオドオドしてね?」
「い、いえっ、いつもはこんなんです!ただ…ウツキ殿の前では良いかな…と。」
「え、ディスってる?」
元々の性格は弱気な方らしい。ウツキには、『今更態度を変えるのも違う』との事で少し強気な対応をしているらしい。本人が良いなら、なんでも良いのだが。
「リリィ、それにルナティア。よく似合っているよ。それと、ウツキ。これで好きな物を買ってきなよ。」
いつ着替えたのか、着物姿のマオが小袋を差し出してきた。その中には通貨が入っており、これで好きなのもを買えとの事。
正直、この世界に来てからずっと、予備の使用人の服を借りていたので、謎の罪悪感があった。なので、お言葉に甘えて私服を購入する事にした。
ヘルメスを除く全員が服を着替え、心機一転。
この先に訪れる運命を捻じ曲げる為に。人知れずその思いを胸に、ウツキは行動を始めるのだった。
おはこんばんちゃ。みちをです。
あの、「話が動き出すかも」とは?
次回!次回には!ね?
日常回は終わり!多分きっと!!




