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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
2章 風の町 マニャーサ編
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2章 6話:痛みに泣いて

「少年、来てくれて嬉しいよ。頼ってくれた事も、ね。」


目の前には全身に黒い衣装を纏った少女が、椅子に座っていた。


「なんだよそれ。」


「男子は皆、年上の女性に『少年』と呼ばれたい生き物なんだろう?」


偏った知識ではあるが、ウツキからは否定できない。言い淀んでいる姿を見て、セレーネは少し微笑んだ。


「まあ、ゆっくりしていってね。そこのソファでブランケットに包まっていればいい。」


セレーネはウツキの肩を持って、ソファに押し倒す。


「土足では落ち着かないだろう。僕がしまっておく。」


靴を脱がされ、雑に顔面にブランケットをかけられる。セレーネは何をするでもなく、自分の椅子に座って、本を読み始めた。


ウツキは丸まり、かけられた大きなブランケットに全身を入れる。


全て投げ出して、逃げてしまった。守ると言ったのに、守れなかった。動けなかった。

先ほどの事に対する後悔や、自分に対する怒りで涙腺が崩壊する。息が苦しくなり、一生懸命空気を吸う。上手く吸えずに声が漏れる。涙が枯れるまで、涙を流し続ける。

最後まで逃がす為に戦った人、自分のために戦った人を気にかけた人。それに対して、自分は早々に割り切って、命を賭けて託されたものを守りきれなかった。


だんだん涙も枯れ、無気力になっていく。


「殺してくれ…。」


「…その顔は、誰かが殺されてしまった顔かな?それで、君自身は何をしたいんだい?」


「死にたい」


許して欲しいなんて、立派なものじゃない。ただ、償いとして、自分の心を楽にしたいのだ。


「…助けたい、とは言わないんだね。」


「もう…どうもできないだろ…。」


またしても、セレーネは笑みを浮かべた。


「『どうにかできる』と、言ったら?」


「対価があるんだろ。俺ができる事ならなんでもする。でも、リリレヴァ達に不利益が起こるような対価なら…」


「確かに対価はもらうが、そんな事は最初から提案しないさ。前も言ったけれど、僕は君の力になりたいだけなんだから。」


ウツキは唾を飲む。自分以外への不利益がないのであれば、喜んで手を取る。


「僕からの望みは、『契約』。僕はここから出れなくてね、僕の話し相手になって欲しい。それ以外は君にとっては無条件で力を借りれる。そう言っても過言ではない。どうだろう、僕と契約してはくれないかい?」


持ちかけられた提案はセレーネが損をする内容だった。話し相手になるだけで助けてくれる。そんな上手い話はあるものなのだろうか。


「…『契約』の内容は?」


「だから言っているだろう?『僕の話し相手になって欲しい』って。こんな森の奥に、定期的に出入りする奴なんて居ないんだ。僕に寿命の概念はないから、退屈でたまらないんだよ。僕にも利益はあるし、win-winの関係ってやつさ。」


同じ場所に囚われ、無限に生き続ける。それは罰とされる程の苦しみ。


刑務所に犯人を捕える事によって、その間のその犯人による犯行は無くなる。しかし、なぜ釈放するのだろうか。それは『捕える事』に罰の役割があるからである。更生させる為の罰として用いられているのが『捕える事』である。


そんな罰を永遠と受け続けているようなものだ。外に出れなくとも、話をするだけで、少しは楽になれるのだろうか。


互いに利益のある話ならば、それ以上詮索する気も無い。所詮、自分の命だけで賄えるのならばそれで良いのだ。


「…わかった。契約をする。それでリリレヴァ達を救えるのなら。契約するにはどうすればいいんだ?」


セレーネは契約について教えてくれた。


契約は、目には見えない繋がりを作る事である。

その為には、契約の内容を書いた魔法陣を用いる方法、もしくは特別な紙に専用のペンを使い契約をする方法である。


前者は時間をかけずに、道具がない場合でも契約が可能である。しかし、両者が魔力を出力可能であり、片方がその場で魔法陣を書く技術を持っている場合に限る。


後者は魔力を出力できない者でも契約のできる方法である。特定の紙に、魔道具のペンを通じて魔力を出力する。その為魔道具が必要となる。


契約は上級の魔法陣を用いらない限り、契約者のどちらかの亡命により破棄される。また、後者の場合は、紙を破損する事によっても破棄されてしまう。


「これが契約の基礎。君は魔力を出力する練習をしていないから後者の方法で行う。


紙を取り出すとセレーネは魔法陣を書いていく。


「魔法陣を書けなくても契約できるんじゃ」


「後者は本を見ながらでも書けるから、技術はいらない。前者は即席で用いられることが多いから技術がいる。戦場に分厚い魔法陣の参考書を持っていく奴なんて居ないだろう?

まぁ、最近は元から魔法陣の書かれている紙もあるらしいけれどね。」


セレーネが使っていた物とは違うペンを渡される。


「勘違いしないで欲しいんだが、君が使うのは魔道具のペン。使えば使うほど劣化していくから、魔力の出力のできる僕は普通のペンで描いていただけだよ。」


てっきり、自分のお気に入りのペンをコイツに使われたくないと、いう考えなのかと思ってしまった。


文字を教えてもらいながら記名していく。英語とは違い、一音一音に文字がある。なので、単語を覚えずとも、文字さえ覚えていれば読める日本語スタイル。日本人からしたらありがたい話である。


「これで…契約が…」


安堵と同時に枯れていた涙がこぼれ落ちる。セレーネに気づかれる前に袖で拭う。


「さあ、脱いでくれたまえ。」


「…はぁ⁈ な、なんでだよ急に!」


突拍子もない発言に、反射的に声を荒げる。

セレーネは少し驚いてから、笑い出す。


「ああ、言ってなかったね。契約を刻むから、上裸になってくれ。」


「まわりくどい言い方か、説明不足でしか会話できねーのかよっ! クソッ…」


「顔真っ赤だね。流石思春期高1男子と言ったところか。」


「うるせー!」


さっさと上着を脱ぐ。どちらにせよ、泳ぐわけでもなく上を脱ぐ事に若干の恥じらいと抵抗があった。


「こちらに背を向けてくれ」


セレーネに背を向けて座る。

セレーネはどこからともなく、水の入ったトレーのようなものを出した。その水で紙を濡らしていく。浸され、水の滴り落ちる紙の両端を摘んだ。


「我と汝の名の下に契約を結ぶ。」


ぶわっと、紙が青く発光する。まさに異世界ファンタジー。これで契約が結ばれ…



「ふんぬッッッッ!!!!」



バシッ



「いっっってぇえええっ⁈」


紙を背中に叩きつけられる。紙から滴り落ちた水滴が背中を伝う。


「何すんだよ!」


「古いタイプの契約は…こうしないとっ…うまくいかないんだよっ…」


ぐりぐりと紙を背中に押し付ける。


「いででででで」


叩かれた背中を手で押される。

気が済んだのか、慎重に紙を剥がす。


「やったぞ、成功だ!」


「失敗する事あんの…?」


「しっかり付けないと、端っこから契約がほつれていく。」


「タトゥーシールかよ⁉︎

跡とか残ってないよな…?温泉とか行けなくなったらマジでしんどいんだが…」


セレーネは嘆くウツキを笑う。そして、ポンと手を叩く。


「さて、君には一旦ここから出ていってもらう。説明するよりも見た方が早いだろうからね。外に出たあと、もう一度入ってきてもらえるかな。」


「…ああ。わかった。」


ウツキは扉を開き、一歩踏み出した。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


一瞬、目の眩むような光が発せられた。


かと思えば、暗い場所にいた。

目の前には鉄格子。どうやら自室(仮)にいるようだ。



地下室の扉がノックされる。返事をしても届かないような分厚い扉なので開けに行く。


「今ちょっといいかな?」


「え…ぁ…」


目を擦る。現在視界は良好。確かに扉の前には


「マオ…?」


「あれ、もう挨拶した?そう。僕の名前はマオ、リリィの護衛兼執事みたいなものだ。」


そこにはマオがいた。頭は二つに割れていないし、爪も折れていなければ、血の一滴すらついていない。


「ぁ…ああ。俺はツクモウツキ…よろしく。」


右手を差し出す。手は握られた。


「手、震えているけど…大丈夫かい?」


震える両手でマオの手を挟み、こちらからも手を握り返す。存在を、熱を確かめるように握り、手を見つめる。


震える。息が荒くなる。頭を割られた少年は確かにここに存在していて。


「あの…ウツキ君…?ちょーっと近すぎじゃない⁈」


「えっ…ああっ⁉︎」


気づけばマオの手を顔の前まで持っていき、爛々とした目で見つめていた。


「す、すみませんっ!ぁ…ぇっ…

そ、そう!爪が整えられていて綺麗な手をしているなって!!すみません、ジロジロ見ちゃって!」


「いや、構わないよ。君が心ここに在らずって感じだったからね。少し心配しただけさ。」


手を顔の横でひらひらとさせて、マオは笑う。


「でも、意外だったな。リリィを連れ出して出かけてたのに、握手とかする礼儀正しい常識人だとはね。最近は滅多に見ないんだよ、握手までする人。」


カルチャーショックなのか、時代の流れなのかはわからないが、握手は今、珍しかったようだ。勝手に人を連れ出すようなイメージの人物とのギャップなのか、少しのことで大分印象が良くなったようだ。


この前までの強いあたり方が嘘のようだ。


「そんな君に頼みがあるんだ。リリィはこの前の外出から、任せっきりにするより自分で運営していきたいそうだ。リリィの視点は面白いからもっといい街になると思う。だが、あの子は他の街の例を知らなすぎる。」


「だから、他の街まで行って、その護衛に俺を…。」


マオは頷く。


「戦えなくても、荷物を持ってくれるだけでいいんだ。そうすれば、リリィと…君も、守ってあげられる。どうだろう?」


「もちろん、日傘、荷物持ちは俺に任せてくれ。」


と、言う事で急遽として明日から、隣の街に行く事になった。


マオは、手を振りながら重いドアを閉める。それをウツキも手を振替しながら見送る。

ドアが完全に閉まったあと、鉄格子に寄りかかり、座る。


「…良かった。本当にっ…生きてる…!」


セレーネに戻るよう言われているが、涙がこぼれ落ち、しばらく戻れそうになかった。

おはこんばんちゃ、みちをです。

さて、今回はギャグ多めな気がします。軽い伏線もどきも散りばめつつ…

マオはどうして生きているのか?リリレヴァは無事なのか?

次回判明しますので、お楽しみに〜

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