2章 4話:白昼夢のような
「失敗…したっ…」
少女は駆ける。心臓周りに空いた穴を手で抑えながら。荒い呼吸によって、喉は潤いを失っている。
酒場の角を曲がった路地に入る。
「タウルス…さん。偵察…結果ですけど、居ましたよ…始祖の『太陽の民』の特徴を持つ者———ツクモウツキが…」
がっしりとした体型の男は、ただアリエスを見つめる。赤い血が滴り落ちるのを、爛々とした目でただ見つめている。
「あの、タウルスさん…?」
「…ああ、すまない。ツクモウツキが、居たんだな。吸血鬼は…?」
「あの血筋とは…雰囲気が違う気が、しましたけど、居ましたよ…」
アリエスの喉は「コヒュッ」という音を鳴らす。枯れた喉に血が逆流する。
鋭い目つきでその様子をタウルスが見つめる。
「ひぇっ…」
アリエスはへたり込む。
タウルスは服を脱ぎ、アリエスに近づく。脱いだ服をアリエスの胸元にきつく巻く。巻き終わると、タウルスは何処かへと歩き始めた。
「…殺されるかと…思った…。でも、私はもうすぐ死ぬだろうなぁ。最後に何か…出来ることは…」
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「…逃げられたけど、いいのか?」
「…別に。リリィにまた近づくなら、返り討ちにするまでだ。」
「本当にブレねぇのな。」
2人は泊まっている宿の外に座って話している。逃してしまったアリエスが、反撃してきても撃退できるようにである。
「…僕の能力について言っておきたいことがある。お前は弱くて、教えたところで弱みにもならないからな。僕は、陽が出ている間は力が上がる。逆に、太陽の光を反射する月すら見えない時は弱まる。質は置いておくとして、作戦を考える脳の数は多い方がいいから、覚えておけよ。」
「遠回しに馬鹿って言うなよ!否定はしないが。…俺からも、1つ、いいか?」
急に怖気付く。自分でもよくわかっていない体質についてだ。回数制限の有無や、不死なのか再生なのかすら、ウツキにはわかっていない。
なによりも、化け物じみた能力。それを知った時、マオがどのような行動に出るのかが予想できない。
「…それは、」
マオの言いかけた声に、ウツキは肩を振るわす。しかし、それを意に介さずにマオは続ける。
「さっきの、心臓を刺されたのにピンピンしている事に関係あるのか…?」
「…あぁ。自分でも、よくわかっていないんだが。体の傷が戻る。厳密にどんな能力なのかもわからない。肉壁としか利用できない能力だ。」
マオは何か考えこみ、黙ってしまった。ウツキの能力に仮説を立てているのか、その利用法を考えているのかは定かではない。
マオは顔を上げ、ウツキとは反対の方向を見る。
手でこめかみの少し上から後ろへと、髪を掻き上げるような動作をする。ウツキが瞬きをした瞬間、マオの頭には獣の耳が生えていた。
「は、はぁ⁈え、おまっ…耳⁈」
「黙れ静かにしろ」
耳が前方の音を集めるように、前を向く。固く鋭い爪を伸ばし、構える。
ようやくウツキの耳でも、音が聞こえる。何かを引きずるような音。何か、固い者同士が擦れるような。
目の前には巨漢が現れる。まさに『筋骨隆々』と言うのが正しいような男だ。
「それ以上近づくなら、こちらとしても抵抗させていただくんだが?」
「…お前は殺して、奥のやつは捕まえて行く。それが、俺の天命、天の導き。」
「…天の導き」
それはヘルメスと初めて対峙した時にも聞いた言葉だ。この世界には、この言い回しがよくされるのかもしれない。
そんな呑気なことを考えている場合ではない。その男の太い腕には、いわゆるバトルアックスが握られている。
今度こそ、首を切り落とせないどころでは無く、脳天すらかち割れそうな筋肉と武器だ。
「ウツキ、リリレヴァを起こしてこい!コイツを近づけさせるな!」
マオの呼びかけにハッとする。
宿の中へと急ぎ、ドアの前まで行く。
「リリレヴァッ!起きてくれ!ここから逃げ出すぞ!」
どれだけ呼びかけ、ノックをしても部屋から返事はない。ドアは力尽くでこじ開けようとしてもびくともしない。やむおえず、ドアを蹴り壊す。小さく割れた穴を蹴り、人が通れる大きさまで穴を広げる。
「リリレヴァ…ごめん!」
これだけしても起きないのならば、何をしても起きないだろう。ウツキは寝ている少女に触れ、連れ去る。
ドアの穴は、割れた木の破片が危険な上、狭いので、窓の鍵を開けて外へ出る。
地面に降りた衝撃で足が痺れるが、そんなことを言っている場合ではない。ただひたすらに安全なところを目指して走るしかないのだ。
遠くでマオが先ほどの巨漢と戦っている。マオは体力を失っているようで、巨漢に押されている。
猛攻を受けていたマオは足を滑らせた。
こんにちは。みちをです!とても眠いです!
これ、投稿日の一時に書いてます。少しばかり忙しくて、いま意識が朦朧としているぐらい眠いです!なので、とても短いです。来週、再来週もしばらく短くなりそうです。休載したら、それに甘えてダラダラと休みそうなので、できるだけ書きますよ。




