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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
2章 風の町 マニャーサ編
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2章 3話:きっとお前は

風呂上がり、夜風に当たる為に夜のマニャーサを練歩く。風邪を引くほどの寒さはなく、熱った体を風が優しく冷ましていく。


ふと、路地裏の人影に目が止まる。こんなに星が綺麗なのに、わざわざ路地に入る人なんているんだな。なんて考えていた。

その人影は何かを食べていたのだ。


「…俺も、リリレヴァに会っていなければこうなっていたのか。助けてもらった側が『この人まで助けてくれ』なんて言えないからな。見捨てるしかな」


その人影は人を食べていたのだ。

大きな音を立てて、骨さえも残さずに、全てを食らっていた。

手に付いた血を舐め取り、舌なめずりをする。食事が終わったのだ。『それ』は人1人で満足できたのか。あるいは、


人影はこちらを向く。ほとんど首だけを動かして。


「…ああ、すみません。驚かせてしまいましたよね?私はアリエス。食事は終わったので、貴方を食べる気はありません!貴方が私を食べると言うなら、私も貴方を食べさせていただきますケド。」


見つかってしまった。アリエスと名乗った『それ』は言語は同じでも意味が理解できない。———否、脳が理解を拒んでいる。だって、理解してしまえば『それ』はまるで


「人を食べることが、食事をするように当たり前みたいな…」


「貴方こそ、何を言ってるんです?生物が生きるのには食べるのが当たり前でしょうに。…私には何も食べずに野垂れ死ねって言うんですか…?」


彼女は何を言っているのかわからない。論点が、根本がズレている。


「死んでしまった子供を親が食べたり、子を産む際に栄養をつける為にメスがオスを食べたり、卵の中で生き残る為に仲間を食べたり。ハムスターだって飢餓状態では共食いをすることもあります。生物にとって当たり前なのに、私は生き物じゃ無いって言うんですか…?」


筋は通っているが、道徳心に欠けている。何を言っても伝わらないような。そんな雰囲気をしている。


「世の中弱肉強食…殺すか殺されるか、ですよね…。貴方が『この世のものとは思えない』と、でも言いたげな表情で見てくるんですから…先手必勝です…」


アリエスは片手を地面につき、もう片方の手で中国包丁を翳す。その場で跳んだウツキの膝を中国包丁が掠める。


「中学のクラス対抗3分間八の字250回舐めんなッ!」


八の字飛びで跳んで避ける、前の人の後にすぐに飛ぶ瞬発力。それが今、自分の足を救うとは思いもしなかった。

しかし、まぐれで避けられたとは言えど、運動不足のウツキには体力も無ければ、体育で習った柔道しか無い。それも、毎授業やった組み手ですら1回も勝った事がないウツキに勝機は無い。


助けを呼んでみれば、これ以上死人は出ないだろうか。リリカてゃそを戦いの場に呼ぶのは論外として。


「…マオなら、リリカてゃそが危険だと言えば助けてくれるん」


首の左側に中国包丁が入る。


「私じゃ非力すぎて、切り落とせないんです…ごめんなさい。…えいっ」


左側の包丁は抜かれ、首の右側からも刃が入る。


「あれ、死なない…やっぱり心臓突かないとなのかなっ… ごめんなさい。」


「うがぁぁっ…!! いだぃ、やめ…ろ」


心臓を突こうとした中国包丁は、軟鉄の部分が肋を砕く。肋骨もろとも心臓を潰す。


「がッあああああああああっ」


ウツキは急いで手を口に当て噛む。人が起きて、この現場を見られてはまずい。アリエスは目撃者をすぐに消しにいくだろう。


痛みに耐えながらも、必死に頭を回転させる。


「声を出さないでくれて、ありがとうございます…なのに、一発で仕留められずにすみません。でももう、埒が開かないので」


アリエスはウツキの首元に噛み付く。剥がれかけている肉を引きちぎる。

彼女は手を合わせながら肉を味わっている。


「お肉は調理したほうが美味しいんですが、生の食感もまた尊い命を感じられて美味しいです。人の手が加えられていない感じがとても良い…!」


幸せそうな表情で肉を味わうアリエス。まるで高級レストランの料理を食べているような姿。


その腹には黒く、鋭いものが突き刺さっていた。


アリエスは血を吐く。ウツキのものではなく、彼女の血を。腹に突き刺さっていたものは抜かれ、背後にはそれを突き立てた男が立っていた。


「ウツキ。お前は助けを呼ぶという事を知らないのか?」


「…マ、オ。」


マオは足元に転がる幸せそうな表情の女を見下す。


「なぜお前は抵抗をしない?なぜ幸福そうな顔ができる。」


「貴方は仲間が死にそうだから私を殺す。それって結果的には、貴方が危機に直面した時に、その人が使えるようにでしょう?生きる為に殺すのならば仕方がない。私は帰っても虐げられるだけですし…結局死ぬならば、幸せな今。死後硬直で変な顔で残るよりは幸せな顔の方が人生誇れると思いません?」


彼女の理論が展開されていく。


「…お前は人間じゃ、ねぇよ。」


「…僕はリリィが生き甲斐だ。君の『生きる為なら殺しても構わない』と、いう言い方で言えば…リリィがいなければ僕は死ぬ。だからリリィを傷つけられる前にお前を殺す。別にコイツの為じゃない。」


マオは心臓目掛けて、伸びた爪を突き立てる。

地面には血が広がり、アリエスの口元からは血が滴り落ちる。


起き上がったウツキはアリエスの死んでゆく様を見つめる。


「コイツはコイツなりに信念があったのか。」


「コイツには信念なんて言葉は烏滸がましい。ただの…日の民だ。」


日の民。その単語に首を傾げる。


「太陽の民は、ある集落の人間の事だが、日の民は自分を太陽民と名乗る集団だ。正体が何であろうとも、頭のおかしいやつなのは確かだ。」


ややこしい。太陽の民と名乗る日の民。この世界の脅威的な存在が多すぎる。


「リリレヴァを…守らなきゃ…」


ウツキは改めて、白いダンピールの少女を守り切ると誓った。

皆さんこんにちは。みちをです!

とても眠いです!ここで書こうと思ってた事は活動報告で書きます…

皆さん見てくれてありがとう!おやすみ!

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