2章 1話 :浮かれた道中
宙吊りとなった少年は、酸欠で意識が飛び、死ぬ。そして、再生する。だが、まだ首を絞める縄は存在している。宙吊りとなった少年は、酸欠で意識が飛び、死ぬ。そして、再生する。だが、まだ首を絞める縄は存在している。
宙吊りになった少年は、酸欠で意識が飛び
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浮上しては沈む意識の中、だんだんまともな思考へと変わる。苦しいのに、頭に霧がかかったようで、なにも考えなくていいような。
ここで死に続けるのは、どうなのだろうか。苦しい。とても苦しい。死んでも死ねない苦しみから抜け出せるのはいつなのか。ここは地下牢なので人が通りかかるところではない。
ダメ元で暴れるが、体が壁に打ち付けられるだけで全く取れない。
「もうコレ、頭切り落とした方が早いか?」
それをする勇気も、実行するための道具も持ち合わせていないのだが。
もうどれぐらい経ったのかもわからない。その時、地下の扉を開ける音が聞こえた。
「客人、大きな音がしたから見に来たわよ。転んだの?ぶつけたの?」
声の主はソルティアで、地下牢に入り、カーテンを開けた。
「…ぁの…助けてもろて…ええですかね…?」
「…なにをしているの気持ち悪い。服だとかは自分で洗いなさい。」
何か、魔法の様な斬撃でロープが切れる。圧迫されたことにより、全身の穴から体液が出ていた。
「…トイレ先に行っててよかった…こんな知識も一応役に立つんだな。」
用意周到な事に、下には布団を引いていた。
「私は着替えをとってきてあげるから、その汚い顔をタオルで拭いときなさい。」
「タオル、ないんですけど」
ソルティアは呆れた表情で、着替えとタオルを取りに行った。
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「もう風呂に入ってきなさい。汚れるから着替えは私が持っていってあげるわ。感謝しなさい。」
「素直に感謝します。」
ソルティアは風呂場に着替えを置くと、そそくさと出て行った。それが、血などの匂いのせいなのか、相当嫌われているのか、はたまた気遣いなのかは分からない。
1人で使うには広すぎる風呂場。銭湯かと思うほどの大きさに加え、露天風呂まである。
「広っ…でも、確かにこれだけ大きい屋敷の人が1人づつ入ってたらそれだけで半日終わりそうだしな。」
その屋敷に住んでいるのは今や、ウツキを含めて6人な訳だが。
臭いが残らないよう、入念に洗い、貸切露天風呂を楽しんだ。
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地下室の扉がノックされる。返事をしても届かないような分厚い扉なので開けに行く。
「今ちょっといいかな?」
「えっと、あなたは…」
彼は最初にここへ来たときに、ウツキを監視していた者だ。
「まだ名乗ってなかったね。僕の名前はマオ。リリィの…護衛兼執事みたいな?」
マオは最初に会った時とは違い、表情が柔らかい印象を受ける。
「君、リリィを外に出したのかい?」
表情には出ていないが、直感的に怒りを感じる。
「別に、外に出すなって話じゃない。あの子がいいならいいんだが…あの子の!肌が!焼けたら!どうするんだ!」
ぐうの音も出ない。ダンピールがどこまで吸血鬼の性質を受け継いでいるのかはわからない。だからこそ、気をつけるべきだった。もっとリリレヴァのことを知るべきだったのだ。
「…まあ、本題はここからだ。リリィは自分の力で街を運営していきたいらしい。ただ、リリィは何かを参考にできるほど外に出ていない。なにが求められていて、なにが不満にするのかを知らない。それでリリィに危害を加えるなら…」
マオは口を噤む。外に出なければ、領土を運営する知識をリリレヴァは得られない。しかし、外に出すのはあまり良く思っていない。
「…護衛、って事でいいのか?」
「ああ、もちろん僕も行くけれど。頭数は多い方がいい。戦えなくても荷物持ちが増えるだけで僕の手が空く。そうすれば戦いやすくなる。」
戦えないから役に立てない。そう言おうとしたが、荷物持ちでいいのなら話は別だ。
「いつ出発する?俺も同行しよう」
「明日出発するから」
「…は?」
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マニャーサ。それは風が強い事で有名な町。花畑や風車が観光地となっている。
「っていう、マニャサー?に行くって認識でおk?」
「マニャーサ。観光地は魅力の一つだから、取り入れられるところは取り入れていこうってわけだよ。」
「それ、まだびっくりすんだけど…」
マオは霧散して、空気中にいる。吸血鬼が用いるとされる変身の一種で、形を持った固体よりも気体の方が無駄なエネルギーを消費しないらしい。
「それと、君。うちの子に手出したら、どうなるか…わかってるよな?」
「それってどういう…」
「あははっ、バレてますね、これ。もう僕に勝ち目はなさそうです。内側から破裂させるとかも出来るでしょう?こんなに強いボディガードがいるなんて聞いてませんよ。」
木の上から人が降りてくる。鼠色の肩まで伸ばした髪が靡く。こちらを見るその瞳は翡翠色をしている。
手を挙げて降伏の意思を見せた。その首にはマオの長く伸びた爪が突き立てられている。
「降参、降参。この挙げている手が見えないですか?なんなら付いて行かせてください。そもそも、僕の狙いはあっちですし。」
指でウツキを指してみせる。マオは一瞬険しい顔をする。
「…同行を許可しよう。別に彼ならどうなったっていいさ。」
「えぇ…?突然の裏切り…まあいいけども。」
ウツキは狙われていたのにも関わらず気にしておらず、マオはウツキを見捨てている。その状況にリリレヴァは急展開に戸惑っている。裏切りもなにも、最初からマオはウツキを守ろうとはしていないのだが。
「それで?名前と、なんで俺がここにいることがわかったのか教えてもらおうか。」
ウツキは異世界から来たのだ。なので、素性を探ろうにも、この世界でも素性も何も無い。この世界に召喚した奴との関わり、もしくは本人の可能性だってある。
「僕の名前はヘルメス。君がここにいるのがわかったのは…天の導き、的な?」
軽く笑ってみせるが、言っていることの意味がわからない。
「なんだよ、それ。」
「なんか、気質的なものが僕たちの王に似てて。でも王は1人で十分だし?とりあえず殺しとこう的な?」
にこやかな表情だが、何用が物騒すぎる。ヘルメスの中ではその王とやらが唯一神のようなものなのだろう。だから他にはいらないから消す。
「まぁ、別にいいけど。リリカてゃそに手を出さないのなら。よろしくな、ヘルメス。」
「…! 殺されるかもしれなかった相手に対してよろしくだなんて。本当に、面白いね君は。ああ、こちらこそよろしく頼むよ。」
ウツキの差し出した手に、一回り小さいヘルメスの手が重なる。どこか、薄っぺらいような言葉。しかし、ウツキは信じる。死にたくは無いが、死なないのだから。狙いがリリレヴァ出ないのならば、それでいい。
「ヘルメスさん?」
「そんなに畏まらなくていいですよ。えっとリリカてゃそさん?」
「私はリリレヴァ。好きに呼んで?えっと、じゃあ…ヘルメスちゃん。」
リリレヴァと、リリレヴァやウツキよりも身長の低いヘルメスが並ぶ、とても微笑ましい絵面である。側から見れば姉妹と言われても違和感はないだろう。
マオが見守る中、2人は会話を弾ませている。自然とマニャーサへと向かう4人は、リリレヴァとヘルメス、マオとウツキという風に分断されていた。
「この感じ、小学校の頃の下校みたいだな。」
生憎、ウツキには中高と友達はいないので、懐かしい感覚であった。
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「着いた、マニャーサ!!」
ウツキ一行はマニャーサへと辿り着く。
道の傍には水路があり、水車がある。和風に近い街並みをしていて、特にウツキの家の周りが和風の街並みだったというわけでもないのだが、どこか懐かしさを覚える。
「ウツキ、離れちゃダメだからね?」
「だから、そんな子供じゃないからっ!心配なら、俺が傘さすよ。そうすればリリカてゃそから離れられないでしょ?」
リリレヴァは、人に傘を持たせたくないのか、渋々ウツキに傘を渡す。
「少しでも日に当てたら…」
「はひっ、分かっております!!」
リリレヴァに日を当てないことは大前提として、もし当てた場合マオに殺される。そう悟ったウツキはより緊張感を増し、傘がとても重く感じた。
毎度こんにちは、義春みちをです。
いや、初手から短いな。というか、今投稿日の0:53です。
書くの遅い!!Twitter見てもらえればわかるのですが、絵とかばっか描いてます。すみません。
現在2章の名前が『風の町マニャーサ』なんですが、おもんなさそうな名前なので多分変えます
追記:わかりにくい文章になっていたところを
修正しました。 2025/06/08




