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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
1章 異世界新生活
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1章 9話:手探りでぇと

9話

想い人の部屋を訪ねる。それはデートの約束をする為。ウツキは緊張しながらノックを3回する。


「…? 普通に入ってくれば良いのに。」


部屋の主———リリレヴァはドアを開け、顔を覗かせてくる。リリレヴァは少々価値観がズレているのかもしれない。


兎にも角にも、ウツキは大きく息を吸い、深呼吸をする。


「リリレヴァ、大切な話がある。」


リリレヴァは眉を顰め、不安そうな顔をする。


「俺と、デートしてくれないか?」


リリレヴァの顔は少し明るくなり、少し考えてから口を開く。


「うん。わかった。」


デートが「好きな人と出かける」という事を知らないリリレヴァをデートに誘う。少し罪悪感が無いでもないが、内心では大喜びしていた。


デートの日程を決めようとすると、明日空いているとの事で、日程は明日になった。


「…そういえば、紙とかに何か書いてたけど、何してたの?」


「領地…みたいなものの運営方針を書いているの。難しい事はソルティアがやってくれているんだけどね。」


「…俺って、かなり地位の高いところに来ちゃった?」


リリレヴァによると『領地』というと聞こえはいいが、そこの長と契約した土地を運営しているだけらしい。それも、ソーカミキ家が代々契約しているのであり、リリレヴァは何もしていないそうだ。


「私は、本当に何もしていないんだよ。ただ椅子に座っているだけ。買い物について行ったりもするけど、結局は森の外には出るなって言われてるから。自分の領地にも行ったことないの。領主失格だよね。」



『領主失格』。それを否定できるほど経験を積んでいない。声の掛け方がわからない。


主人を領地にすら行かせない使用人がいるとは思えないが、それほど外に出したくない理由があるのだろう。


どちらの答えもウツキには分からず、夕食に呼ばれるまで、沈黙を選ぶことしかできなかった。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


ノックを4回、彼女はそれに答えてくれるかのようにドアを開く。


「ウツキは、いつもの服で行くの?」


「うん。ルナティアが同じ服を作ってくれたんだが…好みとかが無いから、他の服はつくりようが無いって。」


「じゃあ、私が選んでもいい?」


リリレヴァに手を引かれて服が収納されている部屋に入る。そこにはメイド服や執事服のほか、ドレスなど、多種多様な服が置かれている。


「好きじゃ無い服とかある?」


「リリカてゃそに選んでもらえるなら、なんでも嬉しいよ。」


それを聞くとリリレヴァは嬉しそうに部屋の奥へと進んでいった。


ドアがノックされ、少年が入ってくる。最初に牢屋に閉じ込められた時にいた人だと思い出す。


「…リリィの部屋で何してるんだい?」


眉を顰め、睨まれる。


「いや、忍び込んだんじゃねぇよ⁈リリカてゃそが服選んでくれるから、ここで待ってるんだよ。」


「…あの子は人形だとかは買い与えられなかったからね。精々、着せ替え人形になる覚悟はしといた方がいいよ。」


それだけ伝えると、この部屋に来た用事も済ませずに、そそくさと出ていってしまった。付き合いが長いであろう彼が逃げるのは大袈裟なのではないだろうか。


すると、リリレヴァが奥から出てくる。腕には大量の服が抱えられている。目の前に服の山を置くと、キラキラとした目でウツキを見つめる。


「…全部着るの?」


「…だめ?」


本人に自覚はないのだろうが、上目遣いで悲しそうに見てくる。


「着ます!着させてください‼︎」


リリレヴァの表情が明るくなり、服を渡される。


「いや、どうやって着るのコレ…?」


困惑していると、物理的に後ろ髪を引かれる。リリレヴァに髪を結んでいたゴムを取られる。


「ウツキって髪長いよね。髪を解かせば綺麗なサラサラになるんじゃない?」


ただ人と話せずに散髪にも行けないだけなのだが、意中の女の子との話題の一つになるなら本望だ。


しかし、それとは別に服の着方が本当にわからない。リリレヴァが持ってきたものは、女物ばかりなのだ。そもそも、この部屋に男女兼用よりも女性用の服が多い。もちろん、ウツキは服に頓着が無いし、その上女性用の服なんてきたこともない。腰で絞られている服は肩が通らなさそうで、そもそも下から着る物なのだろうか。


「ウツキ…それは、背中のファスナーを開けて上から着るんだよ?…たしか。」


「え、確かって何⁈コレで破ったりしたら怖いんだけど⁈」


どうやらリリレヴァの服の基準は、着やすいものの次に可愛さらしい。


言われた通りに、後ろのファスナーを下げる。


「…お見苦しいところをお見せしたく無いので、後ろ向いていていただけますかね…?」


言われてから、ハッとした表情で後ろを向く。正直、居られるのもなかなかに恥ずかしいのだが、リリレヴァが気にしないのであればどうでもいい事だ。


「…リリカてゃそ、コレでいいのか?体のラインが出過ぎでは…」


青をメインとしたドレスで、フリルがたくさん付いている。もっとふわっとしたものを想像していたが、意外にも体のラインの出るドレスだ。運動不足のもやし体型がバレてしまう。


「…あっ!そういえばマオが、『ぱにえ』ってやつを履くとか言ってた気がする…』


道理でスカートのボリュームが無いわけである。


「…全部着ないとダメ?」


「…選んでも、いいケド…」


リリレヴァは明らかに不満そうである。しかし、1着だけでなかなかに大変だったので、短時間で何回も着るのはお断りしたい。


ウツキは1番きやすそうなものを選ぶ。


「恥ずかしいが、大変な服を今日は着たく無い!」


「やっぱり黒系の服は似合うと思ってたの!可愛いでしょ、その服!」


たしかに、服自体は良いと思う。露出も無く、可愛げもある。しかしウツキの価値観では、着るにはなかなかの勇気が必要だった。


バニー服の一種なのである。


執事服に、ミニスカート、編みタイツという欲張りセット。ちなみに編みタイツは、ニーソは暑そうなのでウツキが自主的に選んだものである。


リリレヴァが言うには、「耳までがこの服」「太陽の民は少なくとも最初は人間だったから、耳が生えていたら皆んな勘違いしないと思うの。」との事だった。前者は兎も角、後者のように言われては断れない。


「髪…は、私不器用だからやめとくね。ぐしゃぐしゃになっちゃう。ソルティアにやってもらう?」


「ゴミを見るような目で見られるからやめとく。」


支度も整ったので、早速デートへと出かける。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


「なにこれー!!」


きらきらと目を輝かせるリリレヴァ。その視線の先には、ウツキとルナティアが作ったゲルがあった。


「そんなに興味を示してもらえるとは思ってなかった…」


自分なりに頑張って作ったものを、純粋に喜んでもらえて、ウツキの表情筋が緩む。中は椅子とテーブルぐらいしか用意ができていない。しかし、それでもリリレヴァは子供のように無邪気にはしゃいでいた。


「お昼作ってきたけど、食べる?」


「お昼まであるの⁈なにかな〜!」


リリレヴァがウツキからバスケットを受け取ると中を開ける。中には、手探りで作ったサンドイッチがあった。


この世界の食材の味がよくわからないので、ソルティアにアドバイスをもらいながら作ったものだ。


「食べていい?」


「勿論、リリカてゃその為に作ってきたから。お口に合えばいいけど…」


両手でサンドイッチを掴み、かぶりつく。


「ん〜!美味しい〜!!」


足をパタパタとさせて、全身に美味しさが表れている。リリレヴァは次々に手に取り食す。あっという間に、バスケットの中身は空になった。


「…あっ、ウツキの分無くなっちゃった。ごめんなさい。」


「別にお腹空いてなかったし、リリカてゃその為に作ってきたんだから別にいいよ。超可愛い食べ姿も見れたし。」


リリレヴァは少し複雑そうな顔をしたが、笑顔でお礼を言ってくれた。


「リリカてゃそ、ちょっとついてきて欲しいんだけど…」


2人は外へ出る。そこには、犬神が座っていた。


「えっ…犬神様?」


想定していない展開にウツキは驚く。


「犬神様だ…!珍しい、もう見られないと思っていたのに」


「いや、犬神様も可愛いけど!俺が見せたかったのは違くて…」


ウツキは犬神を抱え、森の奥へと進んでいく。最初は歩いていたが、だんだんと早くなっていく。それにリリレヴァは急いでついていく。


すると、2人は街へ出た。


「なに…これ…」


「リリカてゃそに、早く見て欲しくって。前に言ってた『領地』、『レームルの街』だよ!」



皆様、こんにちは!投稿日前日みちをです!

現在21:30分、まずいです!ギリギリ!


余談ですが、

語感で『レームル』と名づけましたリリレヴァの領地。

名前が被っていないか調べたら、被ってなかったです。

その代わり、『もしかして、レムル』と出てきたので興味本位で調べてみると、難関大学レベルの英語で『領地』という意味を持っていたんです…!


…まぁ、作者は頭がいいので(?)勿論知ってましたケド?

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