序章:どこにでもいる少年
風に吹かれ、カーテンが舞い、眩しい光が差し込んでいる。明るい光に目をくらませながら入道雲を見る。いつ見ても非現実的なイラストのように見える入道雲に対して、これがエモーショナルと言うものなのかと考える3時間目。体育の後の黒板にチョークで文字を書く音はとても眠くなる。
いつもなら寝ている時間なのだ。
いじめなどは無かったが、なんとなく学校に行きたく無かった。休んでしまえば簡単なものでズルズルと休みが続いた。
今日は高一の一学期最後の日。
学校においたもの全てを回収しに来たのだ。あくまでも他人に持って来させるなどの迷惑はかけたく無い。
しかし、大量の教科書は外に出ない自分にとっては気が重い。体育も水泳で見学だったから良かったが、長距離走ならば倒れていた自信がある。
そんなことを考えていたら、鐘が鳴り授業が終わった。カバンから「もちもちーずすてぃっく」というお気に入りの菓子パンとカフェオレを人目に晒されないように持ち、何人か教室を出た後に教室を出る。
「もちもちーずすてぃっく」とカフェオレなんて女子が食べそうな物を持ってたらなんて言われるかわからない。陰口だとしても、嫌なものは嫌なのだ。
「人に会いたく無いし」
誰もいない所でそうこぼし、階段を見つける。
そこには黄色と黒色の紐がかけられており、立ち入り禁止と書かれた紙が付いている。
「ここなら誰も来ないだろ」
紐をくぐり階段を進む。踊り場で食べようとも思ったが、ダメ元で屋上に繋がるノブに手をかける。
古びた鍵は閉め忘れられていた。
「立ち入り禁止なのに開いちゃダメだろ…」
錆びて重くなったドアを押し、屋上へと足を踏み入れる。
そこからは大きな入道雲が遠くに見え、富士山と思われる山がある。周りは木漏れ日が差し込む神社や分かれ道など、案外田舎風の街並みを見下ろす。
「…この柵は壊れそうでちょっと怖いな。」
緑のフェンスから離れる。人もいないので、贅沢に屋上の中心に座る。暑い中、冷たいカフェオレをごくごくと飲み、頭が痛くなる。夏の醍醐味だ。
そのまま寝転がりパンを頬張る。パンとは思えないほどもちもちとしていて、ほのかにチーズの風味が広がる。
「焼いてカリッとしたやつも好きだけど、そのままでもめちゃくちゃ美味しんだよな〜!…今更だけどこれパンなのか?」
目の前に広がる入道雲をみて、自分がちっぽけな存在だと再認識する。
「どうでもいいか…」
自然を目の前にすると何もかもがどうでもよくなる。多少なり冒険心だとか男心くすぐられるが、見ているだけでも何かエモーショナルな物を感じる。
「言語化できないと『えもーしょなる』って言葉を多用しちゃうな…これが流行りの『エモい』ってやつか⁈」
風が吹き、前髪が靡く。とても暑いのに心地がいい。冷えたカフェラテを手にそのまま眠る。
□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇
意識がだんだんと覚醒し、眠る前のことを思い出す。
「やばい授業っ!」
飛び起きたのは森の中だった。
「………は?」
辺りを見渡しても一面に広がる緑しかない。
「まだ寝ぼけてるのか…?」
手は動くし、足も動く。体に異常はなかった。眺めていたい気分ではあるが、当事者になるとそうも言っていられないので、探索することにした。
木が多いせいか、いつもとは空気が澄んでいる気がする。水は透明でそのまま飲めるのではとも思ったが、怖いのでやめておく。
近くにはナイフと謎の物が落ちていた。焦げた跡もあるため、旅人などがいたのだろうか。肝心の旅人は居ないため、ありがたく頂戴することにした。
「生きる為…って言っても死ぬような要素は今のところ無いけど、貰っていくか。」
素人がナイフを持った所で精々、邪魔な木を切る事しかできないだろう。
少し歩くと比較的光の差し込む場所に出た。
周りは相変わらず木に覆われている。
「少し疲れた…学校すら行かないインドア派には辛いて…」
少しでも何も考えない時間ができるとつい、ぼーっと自然を眺めてしまう。
だから、後ろから来る足音にも気づかなかったのだ。
後ろから銀色の毛を持つものが飛びついてくる。
それは獣の耳を持っていて、爪が長く、銀色が綺麗な——
———狼だった。
首元を噛まれた瞬間、周りに潜んでいた仲間も飛び出てきて、爪で腹が切り裂かれ、あらゆる所を噛み砕かれる。
「…日本に狼…?動物園から出てきた奴なのか?
ダメだ、血が出て頭が働かない…俺、ここで死」
プツンと意識が途切れた
初めまして、「義春みちを」と申します。
自分で書いた小説は初めて投稿するので、誤字や読みにくい点は指摘していただければ改善できると思います。
よろしければ『望月と少年の非日常譚』を見守っていただけると嬉しいです。