第71話【練習から出ろ】
「おい、ちゃんと補強やれ!」
ある日、ヤイチーの怒鳴り声が聞こえた。
「だって、自分なりのケアをしろと…」
怒られていたのは、エースだった。
「ナメるのも大概にせえよ!」
ヤイチーは、ご立腹だった。
「これが、自分なりのケアの仕方です。筋トレは、毎日同じところを限界までやっても逆効果になるだけなんで…」
エースが論破を試みた。
「言い訳すんな!」
ヤイチーは、頭の固い老害タイプだった。
「そもそも、ちゃんとした所属選手でもないのに…」
エースは、ボソッと言った。
「練習から出ろ!」
いつもは、耳が遠いのにエースの呟きは聞こえていたらしい。
「よろこんで!」
エースは、あっさり帰った。
「何やってんだ?アイツ。すげぇな」
チームの人が笑いながら言った。
「エース…」
フィリアとアリスは、心配そうに去ってくエースの背中を見ていた。
「エース、何があったの?」
その日の夜、部屋でアリスは、訊いた。
「練習出ろって言われたから出た」
エースがどうでも良さそうに答えた。
「なんて、従順なの?」
フィリアが皮肉混じりに言った。
「何をしにここに来たか、分かってるの?」
アリスが少し怒りながら言った。
「安心してちょーだい。あの後に酒場で情報収集して凄い情報を手に入れたんだから」
エースは、自慢げに言った。
「どんな情報なの?」
フィリアが食いついた。
「この町には、優秀な冒険者がいるらしい。魔術と剣術の両方が使えるとか」
エースは、聞いた情報を思い出しながら言った。
「何それ!最強じゃない!」
アリスが目を輝かせた。
「でしょ?優秀じゃない?この情報を手に入れた僕」
エースは、自慢げに言った。
「じゃあ、その冒険者を仲間に入れられれば…」
「どこにいるの?その冒険者」
アリスとフィリアがエースを向く。
「それが…分からないんだ。酒場の人も誰も知らなかった。町の近辺にいることは、確からしいけど…」
エースは、残念そうに言った。
「じゃあ、野球をやって待ってましょ!」
アリスが言った。
「何気に楽しんでるね、アリスちゃん」
フィリアが微妙な笑顔で言った。
次の日も3人は、グラウンドに向かった。
「どこに行っとったんじゃ」
着いて早々、エースは怒られていた。
「いや、練習から出ろと言われたので帰りました」
エースは、本当のことを言った。
「ナメるのもええ加減にせぇよ!」
ヤイチーの声が響き渡る。
「は?」
エースは、理解出来なかった。
「ったく、謝ることもできんのか…」
ヤイチーは、エースに聞こえるように言った。
「すいませんでした」
エースは、仕方なく謝った。
「……今回は、掃除で許してやる」
ヤイチーは、ほうきを渡しながら言った。
「だる!なんやそれ!」
エースは、ヤイチーに聞こえない声で言った。
エースは、練習をする仲間たちを見ながら掃除をして、その日の練習が終えた。
そんなこんなで、冬が明け、春がやってきた。




