第56話【おもちゃ】
「いやぁぁぁ!やめてぇぇぇ!」
窓もない薄暗いコンクリート打ちっぱなしの部屋にアリスの悲鳴と鞭の音が響く。
「失望したよ君には。君ならできると思って依頼したんだから」
マゲベウは、不気味な笑顔で言った。
天井から吊るされる鎖に拘束され、鞭に打たれるアリスをマゲベウは、部屋の景観に合わない豪華な椅子にふんぞり返って、楽しんで観ている。
「このヤロウ!」
アリスは、マゲベウを睨む。
「もっとやれ」
マゲベウが鞭を持った兵士に告げる。
「いやぁぁぁぁっ!」
パシンという大きな音ともに、アリスの服が裂ける。
「今の状況が分からないのか?反抗しても良いが、お前の体が持たないだろう」
マゲベウは、高らかに笑った。
「クソがっ!…ギャァァ!」
アリスの悲鳴は、鳴り止まない。
アリスの服は、下着がみえるくらいに裂けている。
服からこぼれた肌色に赤色や青色の痕が付いている。
「ハァ…ハァ…」
声の出し過ぎで息が荒くなったアリスは相変わらず、ゲベマウを睨む。
「これでわかっただろ?私に逆らうとどうなるのかが」
マゲベウは、愉快に笑う。
「おい、そのへんにしてやれ」
マゲベウが兵士に伝えると鞭の音が止んだ。
倒れたアリスの服に、にわかに赤いシミが付いている。
アリスが部屋を出る時には、傷は、すべて完治し破れた服も元通りになっていた。
マゲベウが証拠隠滅の為に、強力な治癒魔法をかけているからだ。
アリスに残っているのは、鞭に打たれた痛みの記憶と反抗したらどうなるのかということだけ。
聖騎士は、城内にある寮で暮らしているので部屋に戻るまでに色んな人とすれ違う。
その中にエルザの姿もあった。
「どうしたんだ?顔が死んでるぞ」
エルザは、死にそうなアリスに声をかけた。
「それが……いや、なんでもないです…」
マゲベウのことを言おうとしたが、後が怖くて言えなかった。
エルザは不安気な顔でアリスの背中を見送った。
数日後、アリスにマゲベウからまた依頼が来た。今回も討伐依頼だ。
アリスは、王都ノルカロのすぐ近くの森へ赴いた。
森の中に入り、Bランクの魔物キャンディーラビットを倒しに向かった。
ドゴン、ドゴンと大きな音がアリスに近づいている。
そして、現れたのは、大きな顔色の悪いウサギだった。
これがキャンディーラビットだ。
(名前と見た目のギャップどうなってんの?)
アリスは、思った。
アリスは、今まで通りスキルと剣術を使ってキャンディーラビットを倒した。
討伐依頼の成功をマゲベウに報告した。
「それでこそ、アリスだ!これからも頼むぞ」
マゲベウは、アリスを称えた。表面上では、そうだった。
アリスは、マゲベウの罠にハマってしまっていた。
その後もマゲベウは、無理難題をアリスに押し付け失敗するように仕向けて、お仕置きと言う名目でアリスに罰を与え続けた。アリスの体は毎回リセットされ、残るのは、痛みの記憶だけ。
いつしか、アリスは考えることをやめ、目には光が無くなり、言われるがままになっていた。
そして、マゲベウの行動がバレることも無かった。
無理な依頼と同じ数の簡単な依頼をアリスにさせ、報告されるのは成功した簡単な依頼だけ。失敗依頼は、マゲベウが揉み消していた。つまり、上書きだ。
マゲベウは、虚偽報告の天才だった。
アリスは、マゲベウのおもちゃとして2ヶ月間過ごした。




