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12. リミーアの妖精

◇◇◇

 おひさしぶりですねみなさま。語りのスチュワートでございます。もう慣れましたでしょうか? どうか今回も私めに、すこしばかりお付きあいくださいませ。


 メルさまとセオさまおふたりの関係性はですね、私にとってその……ごほんっ! 正直言って当時は悔しかったです! きっと、これが嫉妬なのでしょう。しかしながらやはり嬉しい気持ちが勝りますね。重ねてお伝えしますが、メルさまの幸福そうなお顔が、私の最大の幸せにございますから。


 さてさて、このたびは少々趣をかえてみようかと。……セオさまが読まれた絵本の物語、みなさまご興味はございませんか? ふむふむ。では私のとりとめのない話は早々に切り上げ、始めてまいりましょう。この土地が舞台の、旧エギシア国に伝わるおとぎ話をどうぞお楽しみください。

◇◇◇




  リミーアの妖精



 むかしむかし、赤髪の若い王様がいました。王様は家来とお城の外へお出かけに行きましたが、彼らと森のなかではぐれてしまいました。


 ひとりぼっちになった王様が森を歩いていると、娘の歌声が聞こえてきました。王様は歌声を頼りに森を抜けました。そこはリミーアという美しい山々と川がある豊かな土地で、王様はさらにあるものを見つけます。小さな妖精が、原っぱで歌っていたのです。


 歌声も姿も、リミーアの土地とおなじくらい美しく、王様はたちまち妖精に恋をしてしまいました。


 王様は妖精に言いました。


「妖精よ妖精よ、私の城で暮らさないか」


 妖精は宙を舞いながら王様に言いました。


「ごめんなさい。私はこの地を出られません。いまの私はマモノのもの。彼らの手のなかで、私は自由になれません」


 妖精はそう言って、王様から離れていきました。


 家来と再会した王様はお城に帰りました。けれど豪華な宮殿でご飯を食べても、眠るときも、王様の心は美しい妖精のことでいっぱいなままでした。


 王様は家来たちに、リミーアの妖精について調べさせました。家来たちは、妖精は不思議な力を持っていることと、それを独り占めするためにマモノという存在が妖精を囚えていることを王様に伝えました。王様は大好きな妖精を助けて自由にするため、マモノと戦うことを決めました。


 リミーアで戦ったマモノたちはとても強く、恐ろしい姿をしていました。それでも王様は戦いました。妖精にもういちど会いたいという気持ちだけで、力がみなぎりました。


 王様はついにマモノたちを追い詰め、倒すことができました。しかし、そこには妖精の姿はありません。どこを探しても見つかりませんでした。


 マモノから解放された妖精は、どこか遠くに飛び去ってしまった――王様はそう考え、悲しみに頬を濡らしました。


 王様はきょうも、リミーアの方角をお城の窓から眺めます。妖精が王様に言った『自由』とは、誰にも束縛されない、言葉そのままの自由です。妖精に恋をした王様は彼女を自分のお城に住まわせるつもりでした。それはつまり、妖精の自由を奪うことでもありました。


 妖精を独り占めするマモノを倒そうとした自分自身もマモノだった。そう王様は思うのでした。




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