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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
五章 万里一空の章
84/314

#08 性懲りもなく残当、空と瑠璃唐草のとけあう丘で

 



 永禄十二年(1569)五月十三日






 寅刻平旦、暁七つの鐘がなるよりも早く、菊亭総勢五十有余名の文武入り混じった精鋭は定宿旅籠を出立していた。むろん行く当ては越後である。


 京から近江、伊賀、美濃、尾張を見て回って信濃を抜けるルートであり、一部に中山道と未来で呼ばれることになる街道を利用する王道の旅路である。

 このようにすべて陸路の移動だが移動のほとんどが織田版図内。甲斐領内も通過はするが御味方勢。そう危険な旅路にもならないだろう。と切に願いつつ理由が理由だけに速度もけっして無視できない。

 故に貢納品は厳選した。籠も固辞して馬に跨る。その下り行程目標は20日を設定している。それなりに高いハードルに思われた。まだ街道敷設が進んでいない現在では。


 余談だが一応念のためにとお強請りはしてみたのだが。やはり朝廷のお扱いにはしてくれなかった。つまり宣命勅書は頂けなかったのだ。それどころかお願いに上がった目々典侍には諸々の件も併せてまぢギレされた上にガンギレされて逆お強請りされてしまうという災難を被っただけ。大損である。

 ふんだりけったりの参内となったのだが、猶正式な参内ではないため公式にはまだ昇爵並びに昇職のお礼は済んでいないという酷い有様である。くぅ。


 さて同行者の選抜だが天彦は頭を悩ませる必要性はなかった。というより悩ませてもらえなかったが正解か。全員がマストで随行すると言い張ったから。頑強に。その理由は一致して天彦の居場所が本拠だからだった。実にらしい回答である。

 らしいが迷惑。天彦は敢えて異論を唱え言った。分散こそが生存戦略上最も冴えた策ではないか。知ってるくせに。ここが陥落したらどないするん。


 だがそんなことは彼らにとって何の問題にもなっていなかった。回答は満額。しかも全会一致で“我らが共に破滅してお仕舞いです”とのこと。アホやん。まあアホやな。自分も含めて。


 言い換えるならお前自身が我らが城であると言われてしまっては如何な天彦とて言い返す言葉に力が入らなくても不思議はなかった。あ、うん。……でもにぱ。

 このときの天彦、気付いていたのかいないのかいずれにしても終始ニマニマがとまらずに、ずっと相好を崩していたのだから何を言っても説得力などお亡くなりになられて尤もであった。


 本拠に殿がいるかぎり手足たる重臣がいるのは至極当然。その論法の意味するところは菊亭移動要塞なのだろう。

 天彦はその意図せぬだろう着想に我が意を得たりと興奮した。住めば都の曲解だが終の棲家を探し出す。それこそが天彦の望むところだったのだ。

 それが結果的に京であってもいいのだし無人島であってももちろんいい。目で見て触れて心で感じて。要するに旅が好きだった。

 だがお家のことがあって動けなかった。野垂れ死にとか恥すぎるので。


 ところがそれが許された。天彦の中での理論上だが。いずれにしてもその気運がやってきた。奇しくも本家のお血筋には正当後継者も居たはることやし気兼ねなく。

 つまり天彦は目に見えない何事かからの重圧から解き放たれた解放感がえぐかったのだ。まるで天意でも降りて来たかのような天彦の興奮具合に周囲が引くほどであったとか。

 それとは別に家人、特に雪之丞を始めとした佐吉も是知もワクテカしていた。


 貸し馬の鞍上にある天彦は自身の背中に感じる温もりに向けて言葉を放つ。


「お雪ちゃんどないさん。しんどないか」

「楽しいです。嬉しいです。まあなんと見晴らしのいい景色だこと」

「しんどないか訊いたんやけど、まあええわ。でも浮かれてたら落ちるで」

「はい。ちゃんとこないして括ってもろてるから大丈夫です」

「さよか。でも気ぃつけや」

「はい!」


 天彦はタンデムの雪之丞とぐるぐる紐で繋がってそっとにんまり。

 一方不思議な感覚もあって、これほどパーソナルスペースに侵入されても違和感のない他人が存在するだろうか。いずれ確実にするだろう婚姻相手にさえここまでの安心感を得られるかはかなり相当疑問であった。

 それは撫子でも佐吉でも是知でも氏郷でも高虎でも且元でも及ばない正体不明の感覚と信頼感。あるいはラウラなら覚えるかもしれないが考え込むまでもなくやはり違うと断言できた。


 いずれにしても実に頼もしい家来たちばかり。天彦は鞍上から後続の隊列を見渡して密かにそっと感心する。そして今回の洛中を震撼せしめた大騒動の一件を、もっと密かに振り返った。


 事実だけ開示すれば結論、一切合切お咎めなし。それは織田家も朝廷も。但し室町幕府の意向は知らない。訊いてもいなければ伝えてもこないので。すると以上終了お仕舞いですとなってしまうので少し捕捉を。

 天彦の視点とは別に客観的視点から振り返る。今回ばかりは如何な猛者揃いの菊亭家中でも出る幕はなかった。射干党の大鉄砲隊も戦火を交えることはなかった。

 すべては天彦の独壇場だった。正確には天彦率いるイルダ隊とコンスエラ隊の混合部隊となるのだが。

 結果的に射干党を率いる天彦の本気を垣間見た家人たちは正しく“混ぜるな危険”と厳に認識したことだろう。あるいは家中だけでなく世界そのものが。

 それほどに戦果がもたらした惨劇は見た目の派手さも伴ってえげつないことになっていて、常々やかましい京町雀を黙らせるほど恐怖のどん底に叩き落した。


 そんな経緯から菊亭家来衆の多くが天彦を棚に上げてしまった。物理的にも精神的にも。見た目こそ遠ざけて見えるがこの状況はまさしく棚上げ。この何かは判然としないがしかし確実に神聖恐ろしい物体を取り敢えず祀っておけと言わんばかりの遠ざけ方は。


 むろん大前提、最大限の敬意と畏怖は忘れずに。つまり単純に恐れたことは明らかで、天彦の一旦やると決めたときの容赦のなさとその異能の前に恐怖してしまったと思われる。

 当然だが天彦は只人である。無から有を生み出す異能などない。むしろ性能面では明らかに並み居る歴史に名を刻む大英雄たちと比べれば、比べることが烏滸がましいのほど凡夫凡人と自覚しているくらいである。

 よって洛中洛外大爆破惨劇事件の立役者はその技術と品を調達してきた射干党のモノとなって然るべきなのだがそうはなっていなかった。


 ここに至っては家来のお手柄も殿さまの成果。そのウザムーブにも一定の理解は示している。しかしそれとは別の志向性として、未だ顔と名が一致しないとは申せどもゆうて家人。この荒神でも祀るかのような扱いに、しかし当人はむちゃんこ淋しい思いをしている。

 イツメンがその分余計にフォローアップはしているのだろうが、それとこれとはまた別口。食後のスイーツが別腹であるのと同じベクトルで。


 なにせ天彦、気の置けない家人たちと延々ずっとあーでもないこーでもないとじゃれ合っていちゃこらしたいだけの人生だったのだから。

 そのことに気づいたのは魔王城で。魔王に問われ考えた挙句答えが出なかったことが答えだと気づけたのである。気付いてしまった。たとえばどれだけ揶揄されてもコミカルに生きていたいと。それが自分の理念であると。


「若とのさん、あれなんですのん」

「あれ……?」


 背後の雪之丞が背を叩きせっついてきた。指さす方を見れば何やらリスかハクビシンかタヌキの幼生体か何か識別はできないが、あっちふらふらコッチフラフラとまるで酩酊状態さながらであった。はは、おもろ。


 好奇心を刺激する光景に天彦は純然たる興味を覚えて観察する。五・六匹が同じリアクションで千鳥足。周囲には木々が。成っているのはなんだろうか。だが確実に落ちているのはビワだか杏。……ははん、なるほどと大いに納得。推論を終える。

 そんなことが現実にあるとは聞いたこともないが、こうして目の前で起こっているのだからそれが事実と結論付けた。


「あれ酔っぱらっとるんや」

「ええ! あいつらお酒飲まはるんですか」

「はは、それは知らんけど酔うてるんは果実の酒精やろ」

「酒精?」

「発酵しとるんやで」

「発酵ってなんですのん」

「腐敗」

「え、ばっち」

「そうゆうけどお酒もみな米を腐らせた飲料やろ」

「あ、ほんまや。へーすご」


 確かに凄い。滅多とお目にかかれない光景だった。野生の小動物が集団で果実を食って酔っぱらっている場面など。

 皆で足を止めて観察し、すると是知が仮説を立証したいと傍に駆け寄り見事正解と天彦を大いに称える一幕があった。


 そうこう和気藹々している内に一行は関所という名の第一通過チェックポイントに到着するのだった。




 ◇◆◇




 出立して早五日、旅路はいたって順調であった。


 織田領内を難なく通過。参議菊亭の三つ紅葉紋の効力と言いたいところだが一歩控えて冷静になって考えてみれば当然である。天彦一行に与えられている通行手形は果たしてどこのどなた様が発行したものであるのかを。

 やはり名より実。公家より武家。ここ近江辺りではまだマシだが、その現実は京から離れれば離れるほど顕著となって表れてくる。

 だが一方、武門の武威はそうにあらず。日ノ本すべて津々浦々多少の差異や濃淡はあれどほぼ均等に鳴り響く。


 旅路も五日目に入り、美濃を抜けていよいよ武田領内へと入っていった。

 しかし危惧などなんのその。織田家当主の自筆署名花押入り通行手形証は仮想敵地信濃の地を踏んで猶、無敵の効力を発揮していた。


 のだが、雪之丞を筆頭にイツメンのほとんどが不愉快を隠さず憤慨している。というのも、


「あいつらなんですのん! 腹立つわぁほんま」

「まあまあ。あの程度の嫌味でそないかっかしんと」

「そやけど言うに事欠いて、紅葉のように散り行くお家やなんて! あかん、某また腹立ってきたわ、ぐぬぬぬ」


 我が事のように怒れるなんてほんまええ子。だが確かに紅葉を家紋にしている家はそうとう少ないように思う。

 天彦的には儚くて風雅だと感じていて実に自分らしいとも思っていた。しかし武家には評判がよろしくないよう。家紋としての紅葉模様は。

 紅葉そのもの自体は広く愛されているはずなのに。つまり当て嵌める様式が変われば印象も180度違ってしまうまさに好例。これも一つの真理だろうか。


 だが天彦がこうしている今もタンデムの自称菊亭一の御家来さんぶーぶーぶー垂れてうるさいことうるさいこと。天彦は常備している目下一番お気に入り味のキャンディを取り出して、


「ずっと怒ってるやん。ほらかっかせんと飴ちゃん食べとき」

「頂きますけど。あーん。……わぁニッキ味や」

「なにその声。ひょっとしてあかん?」

「苦手です。なんや木の皮の味がしはるもん」

「木の皮なんやが」

「うげぇやっぱし」


 むちゃんこ美味しいけど。まあええわ。

 雪之丞とわちゃわちゃ言い合っていると、


「ほわあ、なんですのんこのむちゃんこ綺麗な景色は」

「やばっ。えぐっ。まんじすごっ」


 雪之丞の感嘆に被せる天彦だが語彙が完全に死滅していた。それほどに眼前に広がる丘の景観に目を奪われていたのである。

 瑠璃唐草の青一色に染まる丘は雲一つない空の青と溶け合い、言葉にできない景色を映し出していた。


「ネモフィラブルー」


 そんな言葉があるのかどうかは知らない。だが持ちうる知識を総浚いしてその花の名を引っ張り出した天彦は思わずそうつぶやいてしまっていた。

 天彦の足が止まる。即ち一団の足も止まるということ。菊亭一行は誰ひとり言葉を発することなくその光景を目に焼き付けていた。すると、


「殿」

「ん、……ああ」

「お控え願います」

「なんや危ないんか」

「そのように指導しておりますので」


 且元は偵察の騎馬の走り方でわかると言った。天彦にはわからない。単に先頭を行く氏郷隊偵察隊の旗指物が砂塵を巻き上げ舞い戻ってくるのが目に入るだけ。


 天彦は護衛担当助佐且元の指示に従いレンタルポニーの胴を蹴る。機敏ないい反応を見せるレンタルポニーはさすがの血統。洛中行きつけの貸し馬屋でも一、二を争うほどの良血馬だとの触れ込みはどうやら盛ってはいなかったよう。大きく下がって報告を待つ。


「氏郷隊、前へ!」

「応さ――っ」


 騎馬隊を預かる氏郷が下知を飛ばすと見事な練度で騎馬隊が一方方向に突撃体制を敷いて構えた。鞍上の侍誰もが手にした槍の穂先を剥き出しにして。


 それに続いて高虎が大声を張った。


「高虎隊、全体三の構えぇ」

「応――!」


 するとざっざっざ。足軽隊が駆け寄ってきて天彦の面前五十歩のあたりに展開した。こちらも抱えた槍の穂先を剥いて前方に突き出し構えた。


 ややあって偵察騎馬が駆け戻ってくると教練通りなのか馬を下りずにそのまま鞍上から声を張った。


「申し上げます! 北東十町の場所で交戦中。攻め手野盗と思しき集団と守り手貴種と思しき集団とが剣戟交えて激しく交戦中。繰り返します――」


 偵察はそのまま言い置くとまた同じ方向に馬首を向け、あっという間に駆けていった。すると入れ替わるようにもう一騎が砂塵を巻き上げ同じように旗指物を翻して猛然と駆けつけてきた。


 程なくして、


「守り手側貴種劣勢なり。家紋は四つ菱! 繰り返します――」


 天彦の周囲に大きなどよめきが起こった。天彦も同感だった。

 割菱紋といえば広く知られるところ。第一感で武田家の家紋である。そしてここは信濃である。あり得るのかのどよめきだった。


 だが天彦の第一感は他と違った。武田菱と同系だが一切無縁の家紋をよく知っていた。何となくだが直感的にそうだと思って確信していた。


「葉室さんやろ」

「ああ、そうですか。ですがそやけど」

「そや。……参ったさんやな。ははは」

「はあ」


 天彦は薄く笑った。天彦の言葉を拾った周囲も落胆のため息を漏らす。

 葉室家は家格を名家に分類される貴家であり、古くは白河法皇に近臣し夜の関白と称されるほど権勢を揮っていた名門である。

 通常なら助太刀に入って然るべき局面。だが周囲の渋い反応と同様に天彦は逡巡する。むしろ放置側でどうにかできないものかと思案するほど。

 葉室家は藤原北家勧修寺流の名門である。だが惜しむらくはあの宿敵九条家の門流であることだけは救いようのない罪だった。のーん。

 しかも当主葉室尚書定藤は左中弁だが蔵人所にも在籍していた元同僚役人。まったく知らない仲ではなかった。むろんいい意味ではなくて。いい意味のはずがなくて。


 すると天彦の推論を裏付ける続報が届いた。


「貴種は公家様! 貴種はお公家様にござるっ」


 はぁ、まんじ。


 天彦は周囲に隠さず迷惑ですのため息を吐いた。

 いい人ぶろうとしないこと。それがこの戦国乱世を生き延びるたった一つの冴えた術だと念頭に置いて生きてきた。しかも九条の門流とか。


「若とのさん」


 ちゃんちゃら可笑しくて臍でゴマを育てたるわ。普通っ!

 この切れのなさではボケもすべる。


「残当」

「若とのさん」

「どないした且元。身共は残当やとゆうたぞ」


 え……!?


 名指しされた且元はもちろん至近に侍る氏郷までも、天彦の言葉の意味が理解できず困惑を浮かべおどおどするばかり。


「若とのさん。ラウラは居てません」

「……嗚呼、そやった」


 天彦は扇子を掲げて言い放つ。


「残念やが公家として主君を同じくする同胞の助太刀は当然の義務である。よって残当。者ども疾く掛かれ! 同胞葉室さんを野盗の魔の手から御救いいたすんや」


 応お――!


 天彦の下知を訊くや否や菊亭青侍衆は気炎を上げて猛然と駆けだしていくのであった。


「若とのさん。某思いますけど、これ絶対にややこしなりますよ」

「お雪ちゃんのあほっ、それ絶対ゆうたらアカンやつ」


 すると、


「某も植田殿に同意でござる」

「はい、某も!」

「各々方それは無粋と申すもの。お二人もいい加減、参議のことをご理解召されよ。そんなことでは菊亭家のご家来を務められませぬぞ」

「む」

「む」

「む」


 佐吉と是知はいいとして謎に雪之丞までムッとするのは意味不明。

 だが与六はうんうん頷き、


「宜しいかお三方。一々表明せずとも参議は事が複雑化する茨の道に進まれるに決まっておろう。この御仁、己が信ずる正しき道をどうあっても真っすぐに歩まれるご気性なれば」


「「「おお、与六かっこええ!」」」


 なにがカッコええねん。ちゃうやろ。しかもその理屈でゆうたらかっちょええのん身共やろ。天彦は普通に拗ねた。

 だが思いもよらぬ買い被りにぞっともする。こうやってイメージは独りでに作り上げられていくのだろうか。岐路があれば自分などむしろ楽ちんな方にしか進んでいないというのに。そして再度思う。ほんでなんで与六が評価されとんねん。と。心底からかどうか極めて怪しく腹を立てつつ。


 そしてその与六。すたすた天彦に近寄ると、代わりに申してやったぞみたいな“わかってるで顔”で馬上にある天彦の太ももをぽんぽんと二回叩いて謎の戦友ムーブを置いて去っていった。……え、誰あいつ。あいつ誰。

 どうやら天彦、与六の中で武士もののふ的武人カテゴリーに組み込まれたようである。氏ぬ。


 天彦が混迷を深めていると、


「ほら。もうややこしい」

「これはちゃうやろ。でもややこしいな」

「そやけどこれで一気に信憑性高こなりましたね。どないしよ」

「はは、あははは」

「なんですのん馬鹿にした笑い方して」

「ぷぷ、ふは、くははは!」


 自分で種を蒔いておいて自分で不安になっている、そんなアホなお雪ちゃんが大好きです。

 字余り、詠み人菊亭天彦。天彦は開き直って内心で雪之丞を弄って笑う。


 だが正気に戻れば切実度が振り切れていた。九条は敵。けっして相容れてはいけない敵。なのにこの厭な予感はいったい。

 この予感めいた感情、確実かと問われると即答は避ける。だが経験則的蓋然性なら100と言えた。エビデンスはもちろん必然に至ってはまったく皆無でいいのなら。つまり確実、そういうこと。


「んなことあるかい、阿保らしい」

「だからありますって」


 やーめーてー。


 菊亭でもお墨付き。厭な方だけやたらと確度の高い予言がひとつ。ネモフィラブルーの花弁と友に天彦の頬を叩くのだった。戦いに赴いた家来の身をそっと案じながら。











【文中補足・人物】

 1、葉室定藤(はむろ・さだふじ数え12)

 永禄元年(1558)、葉室家当主、従五位上左弁官・五位蔵人、権中納言葉室頼房の子、左弁官の唐名が尚書のため専らそう呼ばれる













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