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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
肆章 切切偲偲の章
73/314

#11 たとえこの耳がその声を忘れても(後編)






 



 永禄十二年(1569)四月十二日






 何とイエズス会。来るには来たが最強の布陣で臨んできた。やはりコスメ・デ・トーレス日本布教区布教長というトップを送り出してきたのである。

 布教長以下十数名のここぞといった配下を引き連れた錚々たる顔ぶれが列席した。

 これは相当異例であろう。あの信長にさえ京都支部布教長ルイス・フロイス止まりなのだから。しかもここを襲撃されたら布教活動に差し障る。だからこその分散活動だったはず。

 だが裏を返せば本気度の現れと取れる。少なくとも子供の使いです出直しますだけはあり得ない布陣。天彦は本腰を入れ直し来客と面と向かう。


 歓迎の茶と茶請けがゆっくりと運び込まれるその間はやや緊張感の増す瞬間だった。

 天彦は作業的に一人一人の顔を見る。護衛の青侍も同様に。あれ以来襲撃過敏になっていてどうしても警戒してしまうのだ。悪気はないと言い訳しつつまじまじと観察していく。

 すると一行の中には外見容姿が他とは少し違うおそらくイタリア人もいた。


 あ、まさか。天彦の予測が正しければおそらくニェッキ・ソルディ・オルガンティノであろう。天彦のテンションは今日一上がる。

 あの御仁、見方を変えればルイス・フロイスと同格くらいの有名人。少なくとも天彦にとってはそう。彼こそが宇留岸伴天連ウルガンバテレンで名を馳せた大の親日家宣教師なのである。その人物であればだが。


 なるほどええお顔さんしたはる。


 天彦の思うとおり推定オルガンティノは史実で伝え訊くまんまたしかに人好きのする印象で、快活なとてもいい笑顔をする見た目好人物っぽい人だった。

 また終始あっちきょろきょろコッチキョロキョロと落ち着きなく、しまいには隣の年若い助祭に腿を抓られているではないか。くふぷぷぷ。挙動の一々に愛敬があって妙に親しみを覚えてしまう。身に覚えのある天彦などは特に。会話も交わしていないのに心の距離感をぐっとつめられた気分だった。


 また天彦の記憶によるとおそらく彼はルイス・フロイスの従者なのでこの中にルイス・フロイスも紛れているのだろうと踏む。普請には日参されていたようだが結局会えずじまいだったのだ。まだ自己紹介はされていないが待ち遠しい。うーんもやもやする。ええい訊いたろ。


「ロレンソ」

「はい。如何なさいましたでしょうか参議」

「不便はないか。あればなんでも申し付けよ。家中の者は我が事以上に構うでおじゃろう」

「なんと勿体ないお言葉。恐悦至極にございます。はい。ですが十分に足りております」

「ならばええ。いつでも申すがええさんや。ときにあの二列目の向かって右から二番目にいる人物はどちらさんやろか」

「少々お待ちを」


 盲目のロレンソ了斎は天彦の言葉をすかさず通訳する。するとすぐにニェッキ・ソルディ・オルガンティノ宣教師にございますと欲しい答え返ってきた。当たり。

 ついでになのか念のためなのかその左右のメンツも紹介された。ガスパル・ヴィレラ宣教師とやはりルイス・フロイス宣教師京都支部長だった。この時代の有名どころ宣教師揃い踏みの陣容だった。


 なぜ天彦はニェッキ・ソルディ・オルガンティノが気になったのか。天彦には宇留岸伴天連ウルガンバテレン主従を厚遇しようという感情が芽生えているからで、たとえ母体(白人支配国家)が悪の巣窟であろうとも親日家を贔屓しないという選択肢はなかったのである。

 ポルトガルに限らずこの時代の外国勢力は天彦にとって須らく敵性国家認識である。認定はしない。まだ事実を我が目で耳で心で確認できていないから。だから認識にとどめておく。結果は同じでも余白がまったく違うのと解釈の余地は残しておきたい。そういうこと。


 何にしても自国民を誘拐し奴隷売買する国家など当然の敵勢認識であろう。あと無知に便乗した金・銀の買い叩きも。舐められている以外の何物でもないのでただ単にむっちゃだるい。そういうこと。

 余力でアジア圏の植民地化というダルさもあるがそれはその当時国の王様や民が考え対処すればいいこと。天彦の手には余る。


 そしてそんな神の僕を標榜しながらその実は悪魔の尖兵である彼ら宣教師に助力を請わなければならない自らの不甲斐なさに嫌気がさす。絶望しかないという文言はまさにこの局面を指す言葉であろう。天彦の双眸にはまんまと絶望が張り付いていた。

 だが天彦の理性は事が重大であればあるほど仕事を果たした。務めて冷静に合理的に是々非々論で物事の天秤をバランスさせて向き合えたのだ。


 今は目の前。


 茶が運び込まれ茶請けを頬張る。皆いい顔でいい感じに驚いてくれている。じっじナイスさんやでぇ。じっじのお抱えパティシエの力作という名のスペシャルマカロンなのである。

 むろん合作。味も申し分ないことは天彦のこの舌が確認済み。ここに至るまで何度鬼殺されそうになったことか。工夫を含めて感慨深いスイーツである。


「トーレス司祭を始め皆なんと美味なる茶菓子かと驚嘆を言葉にしております」

「そやろそやろ。まだたんとある。御代わりさんはなんぼでもゆうてや」

「御心遣いに感謝を」


 ここまではいい感じの社交辞令会だった。だがにわかに雲行きが怪しくなってくる。


「トーレス司祭は景色が風流だと申しております」

「ん?」

「はい。トーレス司祭は景色が風流だと申しております」

「けったいなお人さんや。身共の目ぇには襤褸い建物と忙しなく行き交う通行人さんしか見えへんけど」

「それはキャンパスを切り取った一部の側面。この景観すべてが風雅であると仰せです。キャンバスとは書画を飾る額縁のことにございます」

「ほう。風流な感性をお持ちさんのようや。そやけどそれはあんたさんの私心もしくは恣意と違うか。御髭のお方さん、一言も申し述べてはらへんで」

「……お待ちを」


 待つけど。


 こういった会見はあくまで印象操作の場。教会側はロレンソがいい風に印象を操るなら私見を交えるのは不文律で許されたこと。だが天彦は敢えてそれを指摘した。要するにここと見定め仕掛けたのだ。

 ところがロレンソは天彦の直截的なきつい指摘にも厭な顔ひとつせず真摯に応じてみせた。意図を掴まれたか。あるいは嫌味には慣れっこなのか。なんとも掴みどころのない人物だった。


 御坊さんが外交の使者に立つ理由が何となく感じ取れた天彦は、ならばと帯を引き締める。

 揺さぶりの手が生温いなら辛味を加えるまで。天彦は左目を眇め双眸厳しく引き絞りじっとロレンソを待った。


「申し訳ございませんでした参議閣下。やはりトーレス司祭はこの景観すべてが風雅であると申しております」

「心眼えぐっと本来なら笑ってのツッコミどころやお思いさんやけど、まあ確かに感じ方はひとそれぞれや。しかし普請が終わってからというもの薄汚い破落戸と職にあぶれた職人が屯しとるな。高虎」

「はっ、ここにござる」

「治安維持こそが為政者の本懐。目障りや蹴散らしてきて」

「ははは前後の文脈が違い申すが、畏まってござる。腕が鳴りまする。見事蹴散らして御覧に入れまする。参るぞ藤堂党!」


 応――!


 菊亭家中でも最も荒っぽい一団、藤堂党が勢い勇んで飛び出していった。


 シフトなのだろう。入れ替わって帰参した且元が指揮する武官衆が天彦の警護を担う。あの件以来天彦の警護は鉄壁の布陣となっていて、天彦が何を言おうとけっして人壁が崩れることはないのである。


「……卿、あれは食うに困った切支丹と存じますが」

「そうなんや。知らんかったわ」

「あ。いや」

「どないしたん。そんな慌てて」

「いえ、しかし」

「なんや知らんけど、まあええわ。近頃わらわらと湧いてきてお困りさんやったんで。連れて帰るなら置いておくけど」

「あ、いや、それは……」


 琵琶法師、見えない薄目を開けにけり、か。


 そんなはずはないのでロレンソ了斎はこの状況をこうなる以前から存じていたと考えるのが妥当。つまりこの状況すら意図的に作り出された演出だと考えることも十分可能。というよりその公算が極めて高い。と考えるのが妥当ではないだろうか。このロレンソの落ち着かない調子では。

 つまり彼方はすでに仕込んでいたと。舐め腐る。ええけど。その分勝ちが手繰り寄せやすくなるので。天彦はそっとニヤリ。


 さてしかし一方、夕方が近くなると破落戸どもが湧いてくるのは実際だった。四度五度あるいは十度以上かもしれないが、かなりの回数炊き出しをしたからなのと拾ってもらえるとか何とかそんな都合のいい噂を聞きつけたからだろう。

 と、この瞬間までは天彦は思っていた。だがあるいは誰かさんに誘導された公算が濃厚となった今、猶更阿保らしくて気が滅入る。どうでもよさが水増しされた感覚か。


 いずれにしても天彦の瞳に慈悲の温もりは一ミリもない。むしろ真逆で果てしなく冷ややかな視線だけがそこにはあった。むろんそこに揺さぶりという名の悪巧みは潜ませているが。半分は実直な感情でもあった。

 単純な話、それらはすべてラウラの心がやったこと。あの心清らかなラウラの施しだっただけ。天彦はその考えに賛同しただけのこと。主体性など鐚銭一文どころか一ミクロンだって持っていない。それが事実、それがすべて。故の追っ払いなのである。


 そういう目で見てみるとなるほど半数ほどが切支丹か。残り半分は本物のあぶれ者や破落戸だった。

 その清らかな心の者を、ここに集うお外さんの大半が差別しているという可笑し味たるや。その論点からなら確かに笑えた。大笑いだ。

 天彦はラウラが好きだっただけの話。彼らお外さんなどむしろ……、そこでロレンソに話しかけられ天彦は意識を目の前に戻す。


「トーレス司祭は仰せです。参議菊亭卿は武門なのかと」

「公家やろ参議やのに。可怪しなこと訊かはる葡萄牙人やで」

「ぶどうきば、にございますか」

「口がすべったん。独り言さんや放っといて」

「はぁ」

「あとトーレス司祭は、何と暴力的で生意気なガキやとゆうてはったで。あと“Macaco e estúpida”ともゆうてたな。意訳は愚かなサルでええんやろか」

「あ、……そんな」

「お如何さん」

「あ、いえ、……はい」

「合うてたええのんかさよか。お仕事ご苦労さん。でもちゃんとし。さすがに無礼千万やで」

「まさか通じておられるとは」

「世は不思議に満ちたはるなぁ」

「は、はは」

「気にせんでええ。織り込み済みさんや」

「忝く存じまする」

「貸しやで。わかっているとは思うけど日ノ本の宰相への貸しはけっして安うはないさんや」

「はい。承知しております。お返しできる日がくればよいのですが」


 来るよ、すぐに。


 天彦は独白を飲み込む。ロレンソ了斎がどちらに軸足を置いているのか鮮明になったところで、そんなこんなを語りつつ一頻り社交辞令が済みぼちぼち核心部分に入る頃合いか。

 天彦は上座から扇子を取り出しぱちぱちと小気味よいリズムを刻む。そしてざざざっと広げ上げると菊亭家門、三つ紅葉紋を掲げ曝した。


 すっと立ち上がり、


「おおきに憚りさん。本日その方らを召喚したのに訳あり。汝コスメ・デ・トーレス、吾参議菊亭、達ての願い事の儀ありけり。疾く訊くや否や如何」


 天彦は芝居がかった所作と口調で、真ん中ででんと座る大柄な宣教師を名指しして気迫を込めて言い放つ。


 他方、やはり敵もさる者引っ掻くもの。どうやら先刻承知のよう。指名されたコスメ・デ・トーレスを筆頭にイエズス会宣教師たちも居住まいを正して“ははぁ”もうすっかり慣れたように見える座敷作法を操って遜った。

 そして天彦の意に適うべく180度聞く耳を持ちますという姿勢を示し殊勝な態度で身構えた。


 天彦はロレンソ了斎に告げる。そこには気負いも衒いも良心の呵責も何もなかった。あるのはただ事実の羅列。そして圧倒的な権限者の顔があるだけ。


「然る者を奪還したい。その手を貸せ」

「と、申されますと、つまり我が祖国の海洋帝国ですな」

「そや」

「だとするなら容易ではございません」

「お前さんらセットと違うのんか」

「……別組織にございますれば。その誤解を解いて認識していただけるとありがたく」

「阿保ぬかせ。どこのお花畑に水撒いとるんや。身共は太政官宰相なるぞ」


 ロレンソ了斎が大慌てで通訳する。するとコスメ・デ・トーレスの表情が豹変した。仮面を剥いだ名うての商人といったところか。それとも高級貴族かも。いずれにせよ天彦にはよりやすいタイプに変わっただけ。ロレンソは言う。


「けっしてお安くはございませんけれど。可能ではございます」

「神さんの御用聞きさんは銭の多寡で応接変えはるんやろか」

「はい。このような地の果てまで参って一向に成果をあげられずといった毎日に正直申せばうんざり辟易としておりました。むろん己の不徳の致すところに」

「つまり」

「背に腹は代えられませんので。引継ぎまでに何としても成果をあげねば合わせる顔がございません」

「座れる椅子がないのんと違うかぁ」

「解釈はご自由に」

「なるほど。理解できるお考えさんや。ほな――朝廷の布教認可状を取り付けたろ。それでどないさんやろか」


 ちょっとした問答を舞い得ているので通訳のラグがあって、天彦の言葉に座が小さくどよめいた。


「ほんに」

「参議菊亭が嘘を申すとでも」

「あいや、しばらく」

「待ったろ。なんぼでも」


 織田の後ろ盾はあってない不思議なものだった。将軍の腹心織田信長は布教に対する許可は出すがその他の一切に加担をしてくれない。紛争が起れば100負けてきた。

 だが朝廷の認可があれば状況は一変する。彼ら切支丹はこれまでの日々の中で朝廷の権威の何たるかを身を以って思い知ってきたのである。


 天彦には更なる腹案があった。何とは明かさないもののそれは海洋帝国にとって十分な利得となり得ると確信している。もし望むなら奴隷も連れていったっていい。ラウラが返ってくるのなら。

 天彦にとって世界とは自らの手と目が届く範囲に限った。個別対応には一々応じるとしてもそれがすべて。それほどラウラが大事だった。掛け替えなかった。世界とは天秤を掛けられないほどラウラが必要。そういうこと。


 もちろんそれが正義や正しさなどと露とも思っていない。だが親しみを持って関わったものはすべて守る。それが菊亭であっていたい。それが自分であっていたい。あって欲しい。その強い思いだけが天彦をこの狂気の世界で辛うじて正常性を保たせているのだ。だからそうする。心に従う。


「いくつか御聞きしたいことがあるとトーレス司祭は申しております」

「申してみ」

「仏閣との紛争については」

「参議菊亭の名の許に公平性を担保したろ」


 またぞろ小さくないどよめきが起こった。


「活動の拠点は頂戴できますでしょうか」

「やろう。洛外に使える区画を押さえてある」


 喜びの感情が勝ったどよめきが起こった。


「錦の御旗は頂けますか」

「滅びたいんやったら好きにせえ。身共はべつに止めへんよ」

「……欲張りましてございます」

「そやろな。もう次はないさんやで」

「はい。ではこのご依頼、イエズス会・日本支部が請け負いましょう」

「そらええこっちゃ。ほなお相手やけど――」


 天彦の明かした相手の名を訊いて座に今日一番のどよめきが起こった。

 天彦はそのどよめきの大きさを以って相手の大きさを認識する。


「では早速御意志に適うよう行動に移ります。御前失礼いたします。神のご加護を」

「よしなに」


 イエズス会宣教師たちを送り出し見送る。


「帰らはりましたね。信用できますんやろか」

「まさか」

「え」


 天彦は曖昧に笑って雪之丞の疑問的追及を誤魔化しかわす。信用ならないのは本心だ。信頼もしていない。だが人の感情は信じられる。とくに欲望は。

 宗教家が本当に理念や思想だけで活動しているならこの策は通用しない。だがそうでないならこの目の前にぶら下げられたニンジンを何としてでも食べようとするはず。食ってくれ。


 そしてこれにて理念派と実利派が相容れないのはウソであるとことが立証された。人の営みが常にエビデンスと科学的根拠で成り立っているなどと考えるのは大きな間違い。生き物なのだ。お人さんは。

 いずれにせよそういった割り切れる何かや倫理体系から切り離された一切別物のステージで事は決まった。そういうこと。但し、


「ラウラさあ」


 むっず。宿題のレベル可怪しいやろ。こんなんさらっと置いていく宿題ちゃうやん。むっず。


 天彦は難易度の極めて高いその分達成したときの報酬が大きいと固く信じ、この無茶ぶりクエストに挑むと決めた。

 むろん菊亭の大前提である家風に沿って、織田や甲越同盟を頼って武力制圧という誰もが考えつく容易な正攻法解決策は全封印して、飛び切りいい(悪い)悪巧みの顔をして。


「舐めるなよ。たとえこの耳がその声を忘れても心がしっかりと覚えてる」


 逃がすかぼけっ。自分だけ勝手に一人で……。


 天彦は常に何かを演じている。その意識がなくともそれがこの世界への適応方法の最適解だからどうしても。今も無理やり出来る風の家長役を演じていることは家内にはナイショ。

 だがラウラへの想いという名の執着心だけはどうやらウソ偽りないホンモノだったようである。


「是知」

「はっここに」

「天下さんへ遣いや」

「……はっ」

「苦手なら他へゆうけど」

「いえ。はっ!」

「うん。十日後吉日当旅籠にて元服の儀、執り行う」

「はっ託りましてござる。殿、この度は誠に祝着至極に存じ奉りまする」

「おおきにさん。是知も一緒にするか」

「え。よいのですか!」

「ええよ。そやけどその心算で支度間に合わせなアカンよ」

「はい! ご厚情生涯忘れませぬ。殿、御前これにて御免仕りまする」

「くれぐれもよしなにと」

「はっ確と託ってござる」


 やった。


 是知はるんるんで走り去った。他方会話に聞き耳を立てていた周囲はこれ以上ないほど冷めた目で去っていく是知の背を見送る。悪意とまでは言わないがお世辞にも言い感情とはいえない視線で。

 今に始まったことではないがスタンドプレーがエグいのだ。すでに文官と武官に少なくない派閥も形成しつつある。

 長野是知、上を狙う者にとって菊亭家中で最も捨てけない存在となりつつあった。










【文中補足】

 1、太政官

 立法・行政・司法すべての政を総轄し八省百官を統括する帝の御内意代理機関である。官内は大臣・納言・参議という朝廷最上位の官吏及び太政官内に設置された左弁官局・右弁官局・少納言局の三つの役所で構成されているこの三局を纏めて太政官内という。


 大納言(亜相) 中納言(黄門) 参議(宰相) 猶()内は唐名である。

 八省)中務省、式部省、民部省、治部省、兵部省、刑部省、大蔵省、宮内省


 2、イエズス会(カトリック男子修道会)・日本布教区布教長


 フランシスコ・ザビエル 任期1549~1551

 コスメ・デ・トーレス  任期1551~1571

 フランシスコ・カブラル 任期1571~1580


 イエズス会の布教活動と南蛮貿易とはイコールの関係性である。言い換えるなら侵略と布教がイコール関係であり伴天連のアジア支配、植民地化は本国ポルトガルの至上命題であった。

 莫大な富を生む広東貿易とジパング貿易には挙って貴族が参画した。1557年マカオの居留権を獲得したポルトガルは同地と九州とを拠点としながら南蛮貿易を展開していた。南蛮貿易は主にゴールド・シルバーを破格で供出させ安価な人材(奴隷)を多く買い付けることが目的であった。


 3、ニェッキ・ソルディ・オルガンティノ(イタリア人)

 カトリックイエズス会宣教師、大の親日家、宇留岸伴天連ウルガンバテレンとして親しまれ30年を京で過ごす、ルイス・フロイスの従者。


 4、ガスパル・ヴィレラ

 ロレンソ了斎と共に京での布教に尽力する。














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