#07 安定して不安定な1/fのゆらぎ
永禄十二年(1569)三月二十九日
あれほど人々の心と目を慰撫し自身も咲き誇った桜もいよいよ萌黄がかった葉を見せ始める頃。
すっかり家と言って恥ずかしくない陣容を整えることができた菊亭一門はそれこそ上から末端まで総出で辞を低く畏まる中、帝の勅使である従四位上・蔵人頭・右近衛中将庭田重通が紅色に染められた漆塗りの小櫃を頭上に押し頂く。例の市井の襤褸旅籠の二階天彦私室兼応接室で。
所狭しと居合わせる総勢六十名を超える菊亭一門衆は勅使の所作に倣い更に深く首を垂れ、息を凝らして次の指示を待った。
「従四位下菊亭藤原朝臣天彦。参議参候。天気如此、悉く、以状。謹んで拝命いたす」
「はは、臣、謹んで拝命いたします」
てんきかくのごとし、これをことごとくせよ。もってじょうす。
――か。
相変わらず知らん。ええねんけど、よりにもよってなんで参議(太政官)なん。
苦手やわぁ、会議とか。朝、早いんやろか。
天彦が拝命した参議は文字通り朝廷の政に参議するという字義のままの役職であり朝廷の議政官に位置する。議政官とは律令制における大臣・大納言・中納言・参議からなる太政官の意思決定機関である。つまり政の最高機関なのである。
また朝廷最高機関である太政官の官職のひとつであり納言に次ぐ職位である。唐名宰相はダテではなく権限は相当かなり強いと訊く。ええんやろかこんなおチビに与えはっても。
猶、三位以上を公卿とするが例外的に参議だけは四位も公卿と認められる。よって天彦本日からオフィシャルで卿と尊位を付けて呼ばれるご身分となった。望む望まぬにかかわらず。それが朝廷の御意志だから。
さてこの拝命。文句はある。ほぼ無限に。まず望んで強請ったみたいな風潮がこの都中に蔓延っているのが我慢ならない。絶対に要らん。だから違うとどこかの場を借りて強弁したいほど憤っている。これもきっとどこかの抵抗勢力の仕業であろう。たとえば九のつくお家とか一とか二とか三とか、あるいは実の父親とか……。
例え挙げればきりがない。だがその中でも最上級の文句と言えば、ぱっぱ晴季に会議のたび顔を合わせなくてはならなくなることだろう。
“ようっ天彦、元気”という感じで気さくに接してきた日には普通にブチ切れる自信があった。控えめに言って、いつかコロス。
閑話休題、
天彦が果たして本当に身内に真なる害意や敵意を向けられるのかはさて措き刹那の感情的にぱっぱ絶対コロスマンにメタモルフォーゼしたことによって、まだ勅使がおられるにもかかわらず渋面を浮かべて儀式終了の儀に臨んでしまっていた。
「天彦さん」
「ん」
「お顔、険しいですよ」
「あ、あぁ」
まったくいつか見た光景である。シチュエーションもマインドも。
すると天彦のその態度があまりにも不遜だったからか、すべての儀式が滞りなく終わったころには勅使にも天彦の感情が筒抜けとなっていた。
むろん大前提、帝の綸旨は完全完璧に承っている。つまり事後のクールダウン的雑談会での失態であった。それでさえ天彦の態度は目に余ったが以前とは受け手の感情が180度違っていた。
イケメン官吏右近衛中将庭田重通はまったく以前とは真逆の感情をその裏山怪しからん美顔に浮かべて天彦に問いかけた。
「不快ならばご辞退なされればよろしかろう」
「ええですか。ほな」
「待った! そこは殊勝に遜ったと記憶さんやが」
「はは、申し訳おじゃりません。つい根が正直なもんで本音がおぽろりさんと。やり直しましょか」
「いいや。その前にまず正直の定義を頂戴さん」
「そのかっちょええお目目さんで身共を見られれば定義としては十分さんなん」
あはははは、御冗談はお顔だけに。
あはははは、いつかシバク。
二人は柔和に微笑み合った。
「だがこのやり取り、つい最近のはずやのに随分懐かしいお気が致しますなぁ。御立派にならはって。改めましておめでとうさん」
「はい、ほんにおおきにさんにおじゃります。図らずも距離を取らせるような無様な真似をしてしもて、参議天彦、この通り心からお詫びさんにあらしゃります」
空気が引き締まった。それを証拠にイケメン右近衛中将の目に緊張の帳が降りる。
天彦は暗に今出川絶縁並びに廃嫡後の意図的な疎遠状態を指摘しているので右近衛中将の反応は天彦の意に適っていた。
意図的に距離を置いたのは何も右近衛中将だけではない。多くが距離を置き様子をじっと覗った。その中には薄以々や烏丸光宣なども含まれる。親友なので報せがないのはいい知らせなのだが、哀しくはある。そんな感じ。
むろん避けて通ることもできた。むしろ避ける方が無難であろう。だが天彦は敢えて踏み込んで場を乱した。これからの参内にあたり、御味方は一人でも多いに越したことはないからだ。
今後は上がるステージがこれまでとはまったく次元が違ってくるであろうことは容易に想像がつく。すると敗北がそのまま終了ちんになってしまわないとも限らない。そこはきっと政という名の政治闘争の場なので。
すると文字通り命を奪われる可能性だって含まれているのだろう。多くが謎の死を遂げている現状を踏まえればおそらくきっと。
現関白近衛でさえかつては追放されていた。あの権勢を誇った九条も同じく現在進行形で失職している。その派閥構成員たるサイドキッカーズ家もいわずもがな。
宿敵九条派閥凋落を反面教師としての事例を踏まえて天彦は先手を打った。超妥協的産物の歩み寄りを表明したのだ。さてどないさん。ボールは放った。やんわりと。
右近衛中将は十分に含意を理解したと伝わる目ぢからで天彦を直視すると、ゆっくりたっぷりと間を取ってから頷いて言葉を発した。
「あの件、借りっぱなしで申し訳あらしゃりません。ずっと心残りにおじゃりました。ですが忘れたわけやありません。心中深くにでんとあります」
「有効利用されたようで、それだけで菊亭の心は安らいでおります」
「ほう。ずいぶんとお変わりにならはった」
「そうですか。自分ではなんとも」
「いいや変わった。以前なら必ず咎めだてなさったはず。お自覚がおありでは」
「あります。ごめんなさい」
「あいや、なんの。元同僚の好で今後ともお引き立てのほどを」
「同僚などと畏れ多い。こちらこそ。あんじょうよろしくさんにおじゃります」
二人は故実に則った儀礼を交わす。右近衛中将は天彦のフリには直接応じず、けれど天彦が持たせたかつての土産(三好襲撃並びに避難勧告)の話題に振り替え、新たな関係構築を提案してきたのだった。いずれも言葉にはしなかったがむろんこの場で合意形成はなった。それを疑う者はいない。
天彦にとっては大いなる収穫であった。頼もしいかどうかは問題ではない。一人御味方ができた。そのことにこそ意味があった。
なぜなら可能性がゼロではないという完全な示唆だから。派閥形成への道はまったく閉ざされたわけではなかったのだった。
「参議、登朝のご予定さんは」
「帝へのお礼の日取りが立ち元服を済ませてからかと思うてます」
「改めて驚きさんや。まだお子様やとは」
「お恥ずかしい」
「なんの。それではその時に」
「それでは」
イケメン官吏従四位上・蔵人頭・右近衛中将庭田重通はどこか満足げな表情を残し帰っていった。
彼こそが名高き竜胆中将なのだが天彦は今度こそ存じている。それはそうだ。つい最近までの直属の上司だったのだから。その人物が自分を上に置いた。感慨はどうだろう。おそらくないのかも。所詮は肩書き。いつだって剥奪されるレッテルだ。
だが天彦が得た官職は軽くない。ほとんど全員が腰を折る高貴な代物。見合う自分でいなければ。そんなプレッシャーを感じたり感じなかったり。そんな感情で帝の勅使右近衛中将一行の背中を見送っていると、
「菊亭家参議就任、祝着至極に存じまする。えい応、えい応――っ!」
「えい」
「応!」
「えい」
「応!」
青侍どもが感情を爆発させてえいえい応をコールした。それこそ宿の壁が爆裂しそうなほどの威勢を纏った大絶叫を挙げて。
先頭で音頭を取ったのは蒲生忠三郎レオン氏郷。彼は通名にレオンを標榜するようになっていた。そして近江の蒲生壮から親戚縁者を根こそぎ呼び寄せるほど天彦に賭けていた。いや心酔しているのか。いずれにしても天彦の怪訝は濃くなるばかり。なんで、どこが。え、へ、え。
「そこ、もっと声を張らんかっ!」
「応っ」
「まだまだぁ」
「えい応っ!」
天彦の困惑をよそに蒲生家の面々は生き生きと大声を張ってこの晴れの日を楽し気に声を嗄らしていた。雪之丞と佐吉はドン引きだが。
何にドン引きかといえばあれほど文官ヅラして雪之丞や佐吉に与していた是知が時流が青侍衆の武官に寄ったと見るや否や氏郷殿! しれっと乗り換えてしまったこと。今もああして嬉しそうに喉を嗄らして叫んでいる。
恐るべきは今出川創設以来つづく長野家の血筋か。それとも是知の処世術か。あるいはさすがは古参諸太夫家というべきか。いずれにしてもこっわ。古参家こっわ。ということである。
雪之丞と佐吉は珍しく意気投合させぶるぶる小さく震えるのだった。お子ちゃまやね。
「おめでとうございます。射干党を代表しお祝賀させていただきます」
「おおきに。これからも御頼みさんやで」
「はいむろん。さて天彦さん、例の件如何なさいます」
「ん……」
例の件。数日前、義理ぱっぱ基孝から持ち込まれたお願い事の件である。厳密にはその娘、新内待基子からだが。
結果からいうと帝の御内意伝言係あるいは魔王の御機嫌取り係、武家伝奏の成り手がなかった。魔王がむちゃくちゃするからだ。送られた勅使はことごとく泣かされて送り返されたと訊く。
史実で武家伝奏を務めたはずの飛鳥井を始め有名な五人衆(勧修寺晴右・庭田重保・甘露寺経元・三条西実枝・中山孝親)のすべてが御役を辞退した。あり得るのか。あり得たが信じられない。
天彦としては知らん知らん。言えればどれほど楽だろう。だが言えない。この難題が持ち込まれたのが大恩人経由だから。つらたんたん。
おそらくは帝の御内意であろう。推測するのも不遜だが、関係性のすべてを承知で新内待基子に託された。やはり抜け目のない凄いお人だと思う反面、天彦は少なからず申し訳なさも持っていた。帝が御示しになられたここ連日の御差配には相当タイトな損切りの後が覗えるから。特に帝にとって追放させた九条植道は大切な家臣の一人だっただろうから。心が痛む。後悔はしていないとしても。
だからといって朝廷と織田家との橋を渡すいっちゃん損でしんどい役回りなどお銭を払ってでもお断りしたいところ。マストで。
なにせ言い換えるならこの問題、根底には実戦的要素と尊厳的要素の相反があるのである。つまり言い換えるなら政府と君主である。政府=足利家と君主=天皇家の、言葉を飾らず言うなら利益配分の齟齬が生じているのであろう。実際耳にするのもその話題が中心だった。というか押領すんな。厭じゃボケ。そればっかし。よって調整役なのだ。最悪ゲロまんじに決まっていた。
更に言及するとそこには将軍義昭の接待役も含まれることだろう。天彦は将軍の覚え目出度くなくていい系男子なんで厭すぎるに決まっていた。
それでなくとも無理難題を多く抱えているのだ。もうお腹いっぱいぽんぽんなん。堪忍してぇ。撫子、勝手したお兄ちゃん許してぇ。一生出禁とか氏ぬ。まじで氏ぬから。
閑話休題、表情をキリっと真顔で答える。
「武家伝奏はお受けでけへんやろうなぁ。さすがに」
「たしかにこれ以上のご公務遂行はお体に障ります。ですがよろしいので」
「義理と恩のことを指しているならよろしくないに決まってるやろ」
「お辛いですね」
「そう思うんやったら代わって。そや! 知ってるか一日菊亭家長という制度を」
「いいえ存じません。その恐ろしい制度はどのように取得するのでしょう」
「人気投票。もしくはくじ引き、とか」
「つまり誰にも取得できるのでしょうか」
「当り前やん」
「雪之丞も」
「そやで。お雪ちゃんなんか適任さんや」
「滅びますが。一日と持たずに。100の確度で」
「あ、うん」
「もう。いい加減諦めて現実にお戻りください。適うならとっくに身代わりとなっておりますわ。いじわる」
「あ、はい」
これ以上問題を複雑化させたくないので素直に撤退。そや。
「お雪ちゃん、佐吉」
「はい」
「はっ、ここに。ただちに」
呼ぶと駆けつけてきた。どんな顔するやろ。わくわく。と、その前に珍しいのでお雪ちゃんからの慇懃な言祝ぎを頂戴する。おおぱちぱちよくお出来さんやった合格です。さあ本題。
「四月朔日を以って我ら三名、元服の儀を執り行う」
「はい。謹んでお受けいたします」
「はっ、謹んで拝命いたします」
え、ええぇぇ。……あ。やられた。
「だって知ってましたもん。若とのさんが参内するにあたって元服の儀が必要なこと」
「某も同じくにござる」
「そっか。いよいよやな」
「はい! 某もこれで一人前や。気張ります。やったるでぇやったろ」
「一所懸命、今まで以上にまい進いたす所存にて。ご指導ご鞭撻のほど何卒お願い申し上げまする」
ええさんやわ。この二人。色は真逆やのに同じくらい癒される。あれ待てよ。
「お雪ちゃんしゃんとして」
「はいしゃん」
「え」
「背ぇ伸びましたやろ。一寸ちょっとも伸びましたんやで。これで若とのさんとは二寸ほど開きましたん。どやっ」
「厳密性いらんやろ」
「要るやろ」
「しばくよ。身共の全権力総動員で振り絞ってしばくよ」
「ええ、そんなんずるいっ」
「大人とは狡いとしたもんなんやで」
「某より子供のくせに!」
勝ったったん。ほんまか。ぜんぜん勝った気せえへんのなんでやろ。どなどなどなどーなー。
そや一年。一年差がある。……厳密には半年しかないさんやけど。おのれ数え年めぇ。
「ラウラ。お昼はお雪ちゃんの大好物のニンジンさんメインで」
「またそんな子供みたいなこと言って」
「子供やろ」
「当主です」
「あ、はい」
日も無いので細かな打ち合わせを詰めがてら食事にする。衣装諸々はすでに出来上がっているので問題はない。中止順延にならないことを願いながら食堂へと降りていった。
◇
昼食を食べた昼八つ。東山七条天台妙法院に参って用事を済ませてから洛中堀川通を南へ。天彦がイツメンを連れて向かう行き先は、苦行でお馴染み経済財政諮問会議。公卿だけに。ばんざい。
できたらどれほどいいだろうか。天彦は切実に思う。だが直面している現実はシビア。あの成果主義絶対マンでお馴染みの魔王に啖呵を切ったのだ。結果を残さないと薄皮一枚残らなくなる。どれだけ甘く見積もっても。
他方、そんな脅迫観念に駆られでもしないかぎり主体性を以って何事も取り組まない性質なので、それはそれで天彦にとってはよかったのかも。
というのが側近家人のマジョリティオピニオンではないだろうか。仮説はいずれ検証するとして、やはり切るのは啖呵ではなく穏やかな短歌にすればよかったと猛省。光宣元気にしてるやろか。
人生のテーマ図なら生意気にも持っている。だがどうだ。その図面を基に出来上がっていく出来形はなぜかまるで意に沿わない物体で、意図とは真逆の明後日の方向にベクトルが向かうヘンテコ筐体。なんで。なんでなん。
それは一々感情的に物事に対処するからだが、それを失うと最後の持ち味まで失ってしまうので致し方なし。一生付き合っていく他ないのだろう。到着。
普請作業も佳境を迎え、いよいよ残すは本丸天守及びその取り付け関連を残すのみとなった。途轍もない素早さである。その出鱈目さは未来の現代では到底不可能であろう。いったいどれ程の作業員が人柱となったことだろうか。
ご冥福をお祈りしつつ天彦は、少なからず関わってきた我が事ながらどこか俯瞰でけれど改めて織田家の意向の凄まじさを思い知る次第。
と、不意に青侍たちに緊張が走る。十分な警戒態勢を敷いていたことは紛れもない。だがなぜかほどなくして警戒状態になぞのデッドスポット的な僅かな隙が生じてしまう。その隙を縫って闖入者は天彦の前に躍り出た。
「お命頂戴仕る。菊亭、あんた煤けて見えるで」
「好きで煤けていると思うんか」
「言葉を巧みに操る狐のことや。嘘もホンマもようわからん」
「嫌味に対する即興の返しとしては100点やったん。ご褒美に態度を少し和らげてくれてもええさんや」
「黙れ。死ねっ」
「まあ落ち着け。銀、何があった」
「……お前が騙した。金を返せっ、あいつはお前のせいで死んだぞ!」
え、いや待って。まじで知らんし。どいうこと!?
そんな顔をしてたのだろう。銀の殺気めいた激昂もやや緩んだ。単に息継ぎの間であった感も否めないが、青侍たちを責められない。
隙が生じたのも尤もだった。身内判定した者相手にどれだけ訓練を積んだ侍でも100の警戒心は抱けない。菊亭に気安く頻繁に出入りしていた銀は紛れもなく彼らの身内だったのだから。
だが青侍衆は具に状況を把握すると、躊躇うことなく臨戦態勢に入った。そして今にも愛刀を振り抜かんと鬼気迫る。
「待った! 双方共に五歩下がれ」
「ですが」
「下がれと言った」
「はっ。蒲生党、下がれ」
「応」
青侍衆が天彦の指示に従う。さあ銀は如何する。だが銀は下がらない。波紋を怪しく光らせる小刀を懐に構えたまま、天彦を厳しく睨みつけていた。だからなんで。
「口って何のためについてはるんやろか」
「お前を罵るためやっ! こうしてやるぺっぺっ卑怯者、ろくでなし! 死ねっ嘘つき」
「事実なんで返す言葉もあらへん。違くて。教えてくれ。何があった」
「守ると言ったくせに金はお前のせいで攫われて殺されたぞっ。半月も前に報告を上げたのに無視しやがって! そのせいで金は死んだ」
「え」
「死ね。これが金の痛みや」
「あっ……おまっ、それはアカンて、なんで、そんな」
「黙れ!」
痛っ、まんじ。まあしゃーない。
「気ぃ、済んだか」
「す、済むかっ」
「話合お、な」
「なんで、おま……」
血反吐を吐いて倒れ込む。不思議と痛みを感じずに。
銀、おもくそどてっぱら二回も刺しといて今更ビビるとかなんか笑ける。
「殿――っ! おのれぇ貴様ァ」
「殿、殿ぉ」
「薬師を、薬師を呼べ」
「何ということを、貴様ァ」
九条さん、これはアカンわ。今回ばっかしは完璧にすべってるで。
天彦は微睡む意識の中、直感的にシナリオが解けた。だから何だという話だが最後の気迫を振り絞り“軽挙を慎め”。言おうとしてなぜか躊躇い、すると小さくけれどハッキリと“ケーキ食べたい”。そうつぶやき間違えるのだった。
ウケたかな。点数気にしてる時点で小物臭エグいけど。
嗚呼、えげつな痛い。あかんぽい。
一句。
名利言祝ぐ女坂、菊亭、甘い言葉の囁きに自ら伏して草生える。
光宣どないさんやろ。字あまりまくってるし草も生えたし、きっと怒ったはるんやろな。
どうでもええけど復讐の連鎖って、どこで断ち切ればええんやろ。どこに線を引けばええのん。教えて頭のいいお人さん。




