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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
肆章 切切偲偲の章
68/314

#06 夕晴れに映える背、已む無く凛然と



 



 永禄十二年(1569)三月二十一日






 境内物々しい雰囲気の厳戒態勢の中、二条衣棚にじょうころもだな・日蓮宗妙覚寺本堂には、織田家重臣を始めとして紛争の甲乙双方が家人を引き連れ対峙していた。

 上座にはむろん裁断者として織田弾正忠三郎信長が。そして向かって下座には並んで津田城城主河内津田家当主・津田主水と天彦が。双方共に目を合わさず上座に向かって意見を申し述べる。それも束の間、


「ふざけるなっ! 何を申すかと思えば、茶番にしても程があろう」

「受け止め方はお人さんそれぞれ。お好きにどうぞ、なさるがよろしい」


 津田城城主河内津田家当主・津田主水はブチ切れていた。天彦の秘策を聞き届けた瞬間、烈火のごとく激昂し場を弁えず吠え散らかした。だが天彦は織り込み済み。飄々淡々と受け流す。


 前哨戦は互いの立場と経緯を申し述べた。尤も片や攻め盗ったはずなのに横槍を入れられただの、片やご存じの100捏造でむちゃくちゃなことを申し立てているだけなので内容としては訊くに堪えない。正当性さんが訊けば大欠伸おおあくび必須の茶番劇である。

 しかも被害者である片岡家不在で進行している。発言など端から求められていない仕置きなのでもはや公正さの欠片もなくそんな気もないのだろう。

 よってこの御成敗は結論ありきのデキレであると見る者が見ればひと目で見抜けるそんな裁きの場であった。



 閑話休題、

 この座の主催者。上座の魔王が先を促すように愛用の軍扇の先端をはらう。


「如何な雅のお方とはいえ、差し出口がすぎるのではござらぬか」

「あれ、お鏡さん見てゆうたはるんやろかぁ。人様の土地に物盗りに入ったお人のお言葉さんとは思わしゃらんお見事さんな口上、不思議さんやわぁ」

「物盗り、じゃと」

「お違いさんとでも」

「言葉が通じぬようだ。お山に戻られては如何か。人里は住みにくかろう。礼儀も言葉も流儀全般何もかもが違うのだから犬畜生とは、ははは」

「田舎もんさんは嫌味や皮肉まで外連味がかっていて田舎臭うてかなわんさんやわぁ。あー臭い臭い」

「貴様! 如何な貴種といえど無礼であろう」

「無礼、はて。はて無礼。帝の直臣たる参議菊亭にお向かいさんならはって無礼と宣うあんたさんは果たして関白太政大臣さんにあらしゃいましたか。それは存じ上げんと失礼さんをば申し上げさんでした」

「ま、誠、参……議、にござるか」

「さいです。お初さん。直言を許しましょ」

「んっ、ぬぐぐぐ」

「あれ、どないしはったん。震えたはるお人さんがあらしゃいますけどぉ。お薬師さん呼ばしゃりましょかぁ」

「ああ言えばこう申すっ! この清華家鼻つまみ者の三流公家がっ」

「ほう、それが戦が戦場にしかあらへんと思たはる三流侍のお言葉さんか。よう効かはること。おほほほほ」

「くっ」


 津田主水は罵り合いに不利を覚ったのか白旗は上げずに会話を仕舞い、親戚筋の有利性を疑わずに上座に問うた。


「弾正忠殿。こんな茶番、よもやお許しにはなりませんでしょうな」


 津田主水はこの日初めて天彦の横顔を覗き込んだ。主水のその瞳は勝利を疑わず顔は満面に勝ち誇りで満たされていた。背後に控える津田家中も同様に、誰も彼もが仕置きの優位を信じて疑っていない風である。


 だが河内津田家以外はすべてが平静。座の大半を占める織田家中のご家来衆はまるで何事もなかったかのように泰然とその場に鎮座する。たった一人の例外を除き。

 その例外さんは上座からぱちんぱちんと愛用の軍扇をリズミカルに慣らし階下の普請の風景を眺めている。ややあってどこか尤もらしい思案顔を浮かべたまま下座に座る津田主水に視線を合わせた。


「主水、言い分は以上であるか」

「以上にござる」

「相分かった。参議菊亭卿の申し分に疑義なしと見做し直ちに枚方城は城主片岡野蘭申し立ての原状回復に努めることと致す。他、諸々の沙汰は追って報せる。これにて御成敗評定閉廷いたす」

「弾正忠殿っ! それではあまりにも」

「下がりおれ」

「織田殿ぉ――」


 津田主水は親衛隊に連れ去られ強制的に座を辞した。だが天彦の想定よりだいぶ信長の仕置きは緩やかで、かなり穏やかな退場だった。その時が来るまではじっと控える。そしてぱくっ。さしずめ野生のヒョウやトラといった気配の殺し方である。天彦は首回りに不意に薄ら寒いものを感じた。


 ならばとっとと辞すが最善。天彦もやれやれ顔でしれっと御暇しようとしたのだが。


「たあけおみゃあ、舐めとるんきゃあ。なにが婚姻だぎゃあ。ありゃ昨日今日まで儂の手下だったんだで」

「あ、はい」


 デスヨネ。うん知ってた。諦め100の顔でその場にすとんと腰を落とす。

 信長公は怒っていない。天彦は最近めっきり声のトーンで感情の起伏度合いがわかるようになってきた。この尾張弁変換も並み居るご家来衆へのパフォーマンスに過ぎない。そうであってくださいお願いします。


 他方、天彦とて最善を尽くそうと信長には事前申し入れを打診した。だが却下されたのでぶっつけ本番となってしまった。だから身共ワルクナイ。

 しかしあの作文を初見で聞いてよく受け入れてくれたものだと懐の深さに改めて感心しているくらいである。ご褒美に少々叱られても我慢してあげてもいいかもしれない。天彦はそんな感情で流れに身を任せる。


「まあよしとしてやる。狐、茶は」

「頂戴さんです」

「おい茶だ。儂にも淹れろ」

「はっ直ちに」


 頂きます。ずずず、ああ美味し。さてと。


「さあ天彦。まずは参議就任祝着至極。ようやっとその気になったのだな」

「おおきにさんにおじゃります。どうでしょうか。でしたらええんですけど」

「あのならず者ども、よう躾けているようだが秘訣があるのか」

「はて、特にはございませんけど」

「さて、どこまでが事実でどこからが策だ」

「本題はいんのはやっ」

「引き延ばしてもいいことあるまい。それともあるのか」

「ああ……、ああ、としか」

「貴様、まさか」

「じんおわ」


 100捏造とは言えなかった。言ったのも同然の応接だったが。

 周りを見渡しても聖女や賢者や勇者はいない。居るのは可愛いだけが取り柄の自称菊亭一の家来さんだけ。

 信長公直々の同行指定だったのでさすがの雪之丞もぶっちできなかったのである。最後の最後まで渋ったが。


 裏を返せばそれだけあの一件は買われているのだ。あの魔王に。それはきっと光栄な事だと後世の評価を知る天彦は思う。だが今を生きる彼らからすればどうだろうか。迷惑感情の方が勝つのかも。思ったり思わなかったり。

 いずれにしても栄誉である。武人の天辺に居る方からの賞賛なのだから。

 そんな一の家来に勇気をお裾分けして貰い天彦はこれだけは伝えておこうと気持ちを奮い立たせて魔王に立ち向かう。


「ここさん。必ず役に立ちます」

「……詳しく」


 天彦は懐に手を突っ込むと手製の略図をさっと広げた。

 そしてここ、ここ、ここと。予め記入してある味方陣地(砦または城)地点を扇子で指し示す。次に今度はそこ、そこ、そこと、敵方陣地(寺社や寺内町)地点を指し示した。

 そして天彦は手と口を止めることなく自身の温めていた策意を明かしながら悪巧みの中身を詳らかにしていった。


 始めこそ胡乱を浮かべながらも余裕たっぷりに訊いていた信長だったが、次第に表情から余裕を失わせやがては額に薄っすら汗さえ滲ませるほど驚愕を張り付けるまでに至っていた。


「狐、……貴様は」


 それが何を意味するのかは定かではないがこの瞬間、信長の天彦を見る目はかなり色味が違っていた。それだけは確かであろう。


「信長さんのお胸さんにしまい込んだはる策意には必ず沿います。背後を取らせない場所的にも戦術的にも」

「貴様、まさか石山を」

「この場での具体性、要りますやろか」

「で、あるか」

「ほな参ります。おおきにさんにおじゃりました」

「一つ」

「ほんまにお一つなら」

「ここまで周到に下拵えしておきながら、あの鬼札、なぜ惟任に引き渡した」


 信長は天彦の痛恨をピンポイントで指摘した。怖いお人。

 対する天彦は答えたくとも答えられない。まさかいい人だと思ったからなどと答えようものなら、大笑いされるか正気を疑われるかのどちらかだから。

 あんな野心家であんな策略家だと知っていたら絶対に預けなかった。人情家で悲劇のお人さんやと思ったから……、それだけは確かであった。

 天彦は答えに窮し、といった風な感情を総体的に浮かべた顔で苦り切っていると、


「ふはっ狐も人の子か! かか、なんと笑える話じゃ」

「あ、はい」

「茶筅を見舞ってやれ。季節の変わり目でへたばっておる」

「おおそれは大変さんや。どちらさんに」

「ここの離れで休んでおる」

「ではすぐにでもお参りさんにあらしゃいます。御前これにて失礼さんです」

「最後に」

「なんですやろ」

「姉御前、当家でもらい受ける」



 …………。



 天彦は俯いたまま一切応じない。身動ぎもせずただ膝元辺りの一点を凝視しているだけで呼吸すらしているのか怪しいほどの著しい動揺状態に陥ってしまう。

 おいコラ。不快感を我慢すると誰がゆうた。喉先まで出かかっている言葉が制御不能に陥る寸前、


「ふん青いな。所詮は元服前のお子様か」

「へ。……あ。まさか、ひょっとして」

「噂の検証じゃ。貴様がよく申すこと余も真似てみたまでよ。尤もなるほど仮説には検証が一番よな」

「ふぁっ」


 やられた。可能性は常に脳裏に仕舞っていた。だが咄嗟すぎて上手く対応できなかった。上手くどころか下手すぎた。身共のどあほ、氏んでまえ。


「だがどうじゃ狐。姉御前、撫子と申したか。余に預けてみぬか。悪いようにはせぬぞ。茶筅ならば存じておろう」

「茶筅さんに嫁がせるんですか」

「そう申した」

「なぜ、そこまで」

「貴様が狂うと世界が破滅しそうでな、妙に寒い」


 信長は首筋をさすりながら地球儀を指さし言う。天彦は一瞬だけ視線を向けて薄く笑った。

 すると終始天彦の動向を覗っていた信長の小姓二人がほとんど同時に小さな悲鳴を上げ、信長は脇に備えている太刀を掴んでしまっていた。自分でも驚いているのできっと無意識だったのだろう。上座の全員が息を飲む中、


「はっ、なんやその程度のことで御心配さんですか。世界さんくらいいつだって簡単に破滅させて進ぜましょ。取り急ぎ畿内なんかはお如何ですか」

「貴様……、よい。もう十分である。下がれ、下がりおれ」


 だが天彦は下がらない。らしくない感情を押し出し目には峻烈な激情を宿しじっと居座る。

 あるいは茶筅なんかに持っていかれるくらいやったら世界纏めて道連れにしたるわ、の見る者が見ればハッキリと伝わる猟奇的な危うさを纏って。


「なぜそうまでして突っ張る。なぜそうまでしてこだわる」

「なぜ。なぜと……」


 愛だ恋だと内面的交歓を言語化せよと言われてもただ困ってしまうだけの天彦は、あ、負けでいいです。あの手この手でずっと避けてかわしてきた。だが今は逃げない。そう決めたから。

 むろん言語化などできないけれど、思いのたけはぶつけてやる。その気迫で信長に迫った。


「訊かれる方が心外さんや。たった一人の分身さん。そやのうてもお血を分けた家族とはそういうもんやあらしゃりませんのん」

「余にはわからぬ」

「嘘ばっかし」

「……で、あるか」

「信長さん思い当たる節おありでしょ。家族思いのお方さんやから」

「たあけが。手出しはせぬ。余の名に懸けて」

「もう一声」

「ちっ貴様」

「お願いします」

「ふん、強請るだけか。貴様の想いとはその程度か」

「上等や! ほなら畿内に新しい風を吹かせましょ。如何さんですか」


 信長の理解は早い。周囲の疑問を置いてけぼりに信長は天彦の引き合いに出した提案が新しい経済の仕組みであることを具に察した。

 彼もやはり稀代の天才の一人には違いない。だがその信長をして天彦の才能は自身の理解を超える異様に映っていたのだろう。

 それを証拠に信長は自分で強請っておきながらごくりと生唾を飲み込んだ。


「なにを望む」

「安全を」

「それだけか」

「はい。撫子の安全。今はそれだけで十分さんです」

「欲のないことを。だが相分かった。如何なる者も勝手は許さん。菊亭天彦の姉御前、撫子の処遇はここなる狐と余で預かった」


 広間に信長の宣告が響き渡った。祐筆がその旨記帳していくのを見届け、


「さすがは天下さん。なんと太っ腹なこと。誠におおきにさんにおじゃります。一生恩にきますよって、信長さんに於かれましては本日を境に枕を高こうお眠りさんにあらしゃりますよう、この五山の狐が細大漏らさずあんじょう請け負いますことをここに御誓い申し上げます」

「ふん大そう大きく出おって。食えぬ狐じゃ。参議天彦、大儀であった」

「では御前さん、失礼いたしますぅ」


 参議の方が百倍格上なんやけど。天彦は内心でぺろっと舌を出して信長の前を辞した。


 熱波と極寒。あるいは狂気と冷静。いずれがいずれだったのか。

 だが僅かな間にお互いの意地と矜持をぶつけ合い、互いは互いの勝利条件を満たした上で引き分けて別れた。なんたる高等技術であろう(棒)。


 あるいは単にただ癇癪の虫を患ったクソガキを理性的な大人が大人な対応で往なしただけの場面であったのかもしれないが、少なくともどれだけ低く見積もってもこの瞬間歴史は史実を大きく塗り替え新たな分岐に突入していたことだけは紛れもない。それだけは間違いない事実であろう。


 そしてそんな天彦を見る視線は果てしなくドン引きである。この場に居合わせた織田家中の上は重臣から下は足軽まですべて、未来永劫、姉御前撫子の存在を語らぬ触らぬ存ぜぬと固く誓ったとか誓わなかったとか。いずれにせよ撫子の存在そのものを禁忌と捉えた節があった。

 こうして天彦のお狐伝説は尾ひれをつけてまた一つ、世に送り出されることとなった。そして史実では激イタのシスコンとしてさぞ名を馳せることであろう。恥とは歯止めを利かさねば幾らでも上塗り出来ると証明しながら。


「ほなお雪ちゃん、参ろうか」

「若とのさん。凄かったです」

「むほ、身共みども、かっこよかった?」

「それはもうむちゃんこ。若とのさんが主役さんや思いました」

「伝説のやつな。そやろそやろ。もっと褒めや。褒め惜しみするのんがお雪ちゃんの数少ない悪いとこやで。身共はだいだいカッコええんや」

「それはないわ」

「おい」

「そやけどあんな勝手してよろしいのん。撫子姫さんの耳に入ったら一大事ですよ」

「あ、やっぱし。……ヤバいかな」

「むっちゃヤバですやん。ブチギレですやん。絶対に怒鳴り込んできて旅籠潰さはりますよ絶対」

「二回ゆう! なんで絶対二回ゆうたん、やめてコワいし」

「だって絶対ですもん。若とのさんがゆわはったやん。大事なことは二遍ゆえって」

「う」

「何を今更怯んでますのん。あの撫子姫さんですよ。そや兄さんゆうたはったけど、撫子姫さん最近薙刀振り回したはるらしいですよ」

「おうふ」

「しかもむっちゃ筋がええらしいですわ。お姿想像つきますね」

「こっわ、こっわ」


 大事なことなので二回怖がった。薙刀て。それはいっちゃん持たせたらアカンやつやん。信長さんに近代兵器持たすのの次くらいにアカンやつやん。なにしてんのん。

 天彦は撫子ゆうづつの耳に届かないことを切実に祈りながら仕置きの場である妙覚寺本堂を後にするのだった。




 ◇




 気持ちいつもより夕焼けがまぶしく感じる昼七つ。天彦が成果を引っ提げ陣屋に帰参すると何やら気配が怪しかった。

 だがざわめきの中にもどこか緊迫感もあり怪しさの種類が違う。直感的にお偉いさんの来臨を予感する。


 だから前もって雪之丞に指示を出す。


「気を揉んでるやろから助佐に教えたって」

「ええんですか」

「なにを」

「あいつら武官、若とのさんからの直接のお声掛けを喜びよるんと違いますやろか」

「そんなもんやろか」

「たぶん。最近はとくにそんな感じが強うしますん」

「ほな後で」

「はい」


 因みにあいつら武官の中にはお雪ちゃんも入っているんやで。とは敢えて言葉にせずに旅籠に入る。


「あ、お帰りなさい旦那様」

「只今さん。六男りくお、いつもおおきにさん」

「とんでもおません旦那様」

「六男、身共は旦那様ちゃうと何べんゆうたら覚えてくれはるんやろ。厭やねん旦那様、旦那様いや。お願いやから覚えて」

「はあ、すんまへん旦那様」

「あ、うん。……そや、どなたか参らはってるか」

「はいお越しです。きっとお偉いお人さんかと」

「おお欲しいのはそういうのんや。ほな飴ちゃんあげよ」

「ほんまですか! おおきに菊亭さま」


 こいつ。さては。


 玄関が持ち場の癖のある丁稚と普段よりやや余所行きの挨拶をかわして二階へと足を向ける。と、やはりいらした。


「大蔵卿、申し訳あらしゃりません。お待たせしまして」


 ジャンピング土下座で下座の更に下手に回っておっちん。座布団おくれ。はいどうも。


「なんの。こっちさんの勝手都合で押しかけたようなもんや。すぐに返信くれて嬉しかったで。ええんかいな律儀なことやけど」

「いえ当然のことにおじゃります。新内待もご機嫌麗しゅう、ご無沙汰んにあらしゃります」

「御無沙汰さん。元気そうやね、妾が何度申し入れても一切取り合ってくれないやんちゃさん」

「ははは、お耳が痛いん。ですがおかげさんでやんちゃさんはこの通りにおじゃります」

「それはええ」

「怒ってはります? こうしてお会いできましたやん」

「つん」


 ユニークなお人さん。

 大蔵卿持明院基孝親子のご訪問であった。


 義理ぱっぱこと基孝は天彦の大がつく恩人であり子になれと本気で口説いてくれたこともあったほどの親天彦派の数少ない理解者である。その娘新内待基子(孝子)も借りがある恩人さん。いずれにしても自ら足を運ぶのが筋なお相手。天彦は恐縮しきりで客人を迎え入れた。











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