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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
参章 雲外蒼天の章
49/314

#02 極意、違うのです弁明させてください

 



 永禄十二年(1569)二月十四日






 民衆が意図せず作り上げた特設ステージから場所を変えた。

 そこは二条城本丸、二の丸造営が俯瞰で見える堀川のこれまた専用に拵えられた特設現場監督詰所。おそらく三郎信長はここから指揮を執るのだろう場所。

 その特設現場監督詰所には主だった来賓客が集められていた。そこにはむろん西国の雄を纏めるあの人物もお越し。天彦はそうだと覚られないようけれどちらちらと窺っていた。

 史実ならこの二年後にお亡くなり。かなりのご高齢のはずだが立派な髭をたくわえた目にもド迫力なオジだった。影武者か。なくはないか。


 他にも多数の有名どころがご列席。むろん紹介も受けていないのでよほどの匂わせでもない限り誰がどなたかは存じないとしても、そこに居るという存在感がやはり他とは違っていた。目力えぐ。

 その偉人達すべてが今回の主催者であり天下人に最も近しい人物のことを興味以上の熱量で注視している。その真横にさえ座らせられていなければ、天彦だってもっとこの壮観な会を愉しめたろう。なんでっ。


 これも一種の匂わせか。あるいは嫌がらせ、もしくは脅し。いずれにせよまるで昵懇の仲のような特等席を拵えられてしまう天彦は、はっきりと不満ですを顔に張り付け三郎信長の真隣におっちん。

 これには一家言あるという仏頂面を張り付けて、取り留めて中身のない会話に相槌を入れながら座を囲む。こういうときこそ自分の如才なさや社会人スキルを恨んでしまう。つい。


 あまりの凡人っぷりにすっかり凹んでしまっていると、三郎信長が唐突に建築関係の自慢うんちくから話題を逸らして、興味を天彦の側近侍衆に向けた。

 彼らは陰に日向にと四六時中天彦の許から離れずに身辺警護を請け負っていた。

 まさしく請け負いの字義の正しい引用であろう。なにせ天彦の警護をしたからとて高給で遇されるなどということはないのである。つまり請けて負けていた。


 なのに三人。揃いも揃ってほんとうに四六時中天彦の許を離れない。盛っていない。寝所もまるで押しかけ女房のように押しかけ隣室に勝手に変えてしまったのだから。今では隣室を三人で占拠してしまう始末。気概がえぐい。

 雇用主の天彦がうんざりげんなり、もうええからあっち行ってとお願いしてもまるで無視。これぞ天命と言わんばかりに至近に陣取り、警戒の目を光らせて親衛隊を気取る。その三人の侍に、三郎信長は声をかけた。


「死にたがりども。いいところに陣取れたな。そこは煉獄の一等席だ」

「はっ、忝く。まこと然様にてござる」

「御意に」

「さすがの御慧眼にあらせられる」


 なんでやねん!


「なんでやねん――っ!」


 天彦は内心の不満に上乗せして発声して不満を訴える。

 だが誰ひとりして賛同しない。漏れ聞こえるのは失笑か苦笑のみ。あるいはびびって遠巻きからしか参加できない雪之丞でさえ同意の頷きをしなかった。それほどに天彦の周囲は危険であると見做されていた。解せん。


 それとは別のムーブとして来賓の大名や貴族及びその家臣たちは息を飲んだ。

 御前に引き立てられるだけでも極度の緊張を強いられる相手を、しかも息のかかる至近にありながらあの自然体。やはり菊亭、人にあらず。噂に違わぬ物の怪かと、天彦の意図せぬところで別ベクトルの評価がなされているのであった。


 だが評価はあながち間違ってもいない。何を隠そうこうして親兄弟のようにフランクに接してくる天彦を、当の三郎信長自身が一番愉しんでいた。

 側近であればあるほどその様子の違いの機微を見抜ける。目下三郎信長の警護を担っている親衛隊であり遣い番でもある彼ら黒母衣衆には主君の心情が手に取るように伝わっていた。あれは完璧にお楽しみにあらせられると。


 閑話休題、そんな上機嫌の三郎信長が天彦に貸し与えた有為の人材に声をかける。

 もはや扱いはレンタル移籍ではないので三人は完全に天彦の家来だが、三郎信長にやれ誰の家臣だとかやれどこの大名だなどといういうせせこましい庶民感覚はない。

 なにせ御仁、常にフランク。常にマウント。常に生死を握っている。の三択しか他人への応接手段を持っていないが持ち味の、室町を代表するSSR・DQN戦国大名なのである。天彦のかなり厭そうな顔を横目に捉えながら、勝手気ままに振舞った。


 むろんこの応接をやられる方はたまらない。まるで俺の人生に貴様如き雑魚の出る幕などないと暗に言われている気がするのだ。ただでさえ楽観と悲観が常に不安定な脳内シーソーゲームを繰り広げている天彦にはきつい。普通にくらう。


「禿ネズミの腰巾着」

「はっここに」


 忠三郎氏郷はかなりの間を置いてから応じた。誰の目にもせめてもの反抗心と受け取れたので氏郷にとっては本意だろう。だが雇用主からすればたまったものではない。この場で家来が切り捨てられたら、ダメージを食らうのは雇用主である天彦だった。これだから武士……。


 日常会話に命張んなやぼけっ。感覚バクってるやろがい。の心境で天彦は忠三郎氏郷をきつくにらんだ。が、秒で飄々と受け流される。んごっ。

 その様子を心から愉しんでいる風の三郎信長は、軍扇をバシッと自らの腿に叩きつけ、皆の意識を引き付けた。するとたちまちやや緩慢だった気配に生死を匂わす臨場感が発生した。


「忠三郎。一石二鳥であるな」

「……はて、大殿のお言葉の意味が――」

「ほざくなっ!」

「くっ」

「キリシタンとしても寛容。野心を満たすにも絶好。これほど善き主君は他を探しても二人とはおらぬ。これぞまさしく縁。そう申した」


 忠三郎氏郷は言葉では応じず、首を垂れて答えとした。

 戦国大名蒲生氏郷。洗礼名をレオンという生粋のキリシタン。この頃から信心が芽生えていたかは知らないが、史実に適う逸話であろう。


「狐」

「お返事しませんから」

「なに」

「敬意を示してください。ここが格式作法の使い時ですよね。違いますか」

「……」

「よかった合うてましたようで。悪し様に罵られたんではここに居る意味ないですから。せっかく善意でこうして周知してくれたはるん。御心遣いがもったいないです」

「ふん、まあよい。これで満足か」

「はい。お感謝さんにあらしゃいます。これで今しばらく命を繋ぐこと叶いそうです」

「ならば善き。狐、ときに伴天連どもの臣従を認めたと訊いたが如何」

「はい」

何故なにゆえ

「信長さんやったらお許しになられると思ったから。この機会に賭けました。身共にとってとっても大事な御家来さんなん」

「……余の心境を計ったと申すか」

「はい。あないわかりやすく示されたら、そう読み取らん方が阿保ですやん。なんぞ不審なことありますやろか」

「で、あるか」


 せーふ。ガチギレ三秒前やったん。ちょっとおしっこちびったかも。

 だがそれも束の間、三郎信長は天彦をこれ以上ないほど峻烈に睨みつける。

 大げさではなくこの一睨みで対象物を睨み殺せるのではと思わせる張り詰めた眼力であった。


何故なにゆえ神仏を敵にまわしてまで家来如きの面目をたてる」

「仏さんも神さんも八百万神々も。どなたさんでもウェルカムござれ。但し余の進む道は一切邪魔することなかれ。ほざけば叩く、寄らば斬る。反逆するなら焼いてしまえ。そんなとこですよね。その御心に便乗し……あれ、違ごたかな」


 三郎信長は驚きを通り越し呆れ、あるいは畏怖の目をして天彦を見つめる。

 完全に比叡山焼き討ちを示唆していたからだ。あり得るのか。だがあり得ている。見たものがこの世のすべてだ。

 他方この時代、神仏を恐れぬ者の方がかなり稀。しかも罰当たりものとして相当の確率で排除される運命にあった。だからこそ神仏との戦いは熾烈を決める。互いの正義を賭けて存在その物を争うからだ。信徒、信者、教徒たちがその信じるすべてを懸けて挑み来るから。生半可な気持ちでは太刀打ちできない。


 ところが天彦はまるでそれこそがこの世の理であるといわんばかりの当然口調で、神仏を切って捨てたのだから三郎信長は複数の意味から驚嘆した。


「神罰、仏敵。恐ろしくはないのか」

「生まれてこの方、それが恐ろしいと感じたことはありません。それを操るお人さんはおっかないけど。今も絶賛やっつけられ中ですし」

「故のあの進言であるか」

「故の助言ですけど」

「ん」

「嘘です。御進言にあらしゃいます」


 軍扇で額をぱちり。痛い。


「操る人が怖い。やはり貴様、物の怪であろう」

「そう認めた方が安心ですか」

「……虚偽を申すと斬る」

「ですよね。でもこんなかわいいおててした物の怪さん居たはるやろか」

「くふ、くふふふ。ここに居るではないか。現にこうして」

「ひどっ」


 二人は笑い合う。二人が意気投合すればするほど周囲とのコントラストがエグいほど浮き彫りとなっていく。

 こっそり聞き耳を立てるお公家は卒倒し、こっそり会話を盗み聞きしている周囲の親衛隊たちはかなり血の気を引かせている。ドン引きの向こう側から。だが中でも特に神仏界の関係者は警戒感をそうとうかなり高めたことだろう。


「狐、いつ取りかかる」

「一月後なら尤もらしい面目が立ちますやろ」

「で、あるか」

「どなたさんが」

「サルに申し付ける。委細サルと詰めるがよい」

「チェンジで」


 誰が呟いたか魔王と魔の化身の頂上会談。と、今日の日のことは京雀たちに囁かれて喧伝された。第六天魔王と五山のお狐様の彼らにとっては他愛ない戯言会話はそれほどに周囲を恐怖のどん底へと突き落としていた。むろん天彦の意図とは180度違って。誓って。


 余裕ぶってはいるものの天彦にしても余裕などない。目の前の恐怖の見える化対応であっぷあっぷしているのだ。とてもではないが周りに気を配ることなどできっこなかった。

 そういう意味ではどんな無茶でもどんな歪な発言でも、若とのさんやったらあるやろ普通に。と、軽く聞き流してくれる家来の存在が何よりも心の癒しとなっていた。


「用が済んだんならもう解放してください。夜店屋台の見世物みたいでうんざりなんです」

「くははは。狐、大儀であった。――天彦」

「はい」

「壮健でいろ。貴様が居らぬと余はつまらぬ」

「ほえ。信長さんが居ったら身共はしんどいんですけ……あ、嘘です。おおきにさんにあらしゃいます。信長さんもご健勝さんで」

「で、あるか」


 天彦はまるでギャルみたいなメンタルで魔王に臨む。無論そう見せているだけだが周囲のハラハラ等物ともしない存在な扱いで三郎信長をあしらうと、まんまと魔王の御前を辞してしまった。ハッタリですやん。早よお家帰りたいん。


 しかし一方では天彦からすれば周囲がなぜ必要以上に畏れ敬うのかわからない。いや恐れて遠ざけるのかがわからない、か。恐れるのは正しい。だが遠ざけるのは違う。正しく恐れよ、そういうこと。

 織田三郎信長。あれほど現代人に近しい人物も他にはいないだろう。なにせ思考のすべてが合理的で建設的。常に最短経路を模索する勤勉な人柄。しかも偉ぶらず意外にも家来のこともちゃんと見ている。実は筆まめでもあるらしい。

 総合するとそう。天彦とはとても相性がいいのである。天彦の自認的に。但し間違えると全力で道化を演じなければ物理的に首が飛ぶという面倒さあるいは危うさとは表裏一体ではあるが。概ね肯定的に受け入れられた。あんな中小企業の社長オヤジはざらにいる。そんなノリで。


 一方、残された側の周囲はたまったものではないだろう。それができる者とできない者とでは天と地ほどの差があった。しかもほとんどができない派に分類される。

 できない派の面々は、色濃く残る天彦の余韻に白目を剥くほど意識を持っていかれていた。




 ◇




 ようやく獅子ライオンの檻から解放された天彦は、家人が集まってくるまで待ちがてら二条城普請作業に従事する大勢の作業員をそっと眺める。


 余談だが気分はご機嫌るんるんさんである。好機嫌の理由は世界がとつぜん優しくなったから。ならない。いくつかあるが一番はやはりお家に帰っても家業の鬼トレがないことであろう。これはかなりメンタル的にでかい。

 公家の家業は一子相伝。一子である以上必ず絶対に嫡子が受け継ぐ。今出川の場合は琵琶伝奏。廃嫡が決定したと同時にお役御免の免状が渡されたのも同然である。そう嫡子が誕生した。今出川と甲斐の懸け橋となる本物のお血筋が誕生したのだ。既に位階は天彦を超えている嫉妬は一旦脇においても、喜ばしい事実である。弟できたん。むちゃきゃわなん。

 なのに頑なに職能を伝授しようと足しげく通ってくるじっじには、この錦の御旗で堂々と撃退できているから、のご機嫌さんである。むろん四方山話はたくさんする。むしろする。家帰るのめっちゃ好きなん。


 すると“半家菊亭の雅楽伝奏はなんぞ”問題が浮上する。天彦は必要ないと考える。それが通用するかは別としても。たとえ通用しなかったとしても。

 そもそも伝奏の字義を考えて頂きたい。お伝えし奏じる。どなた様に。帝に決まっている。公家は押し並べて朝家の臣なのだから。

 すると無理やり家業を捏造する必要はあるのだろうか。たかだか分家の分家の分際で。たかだか琵琶の作法一つで。苦手だから必死で言い逃れているわけではない。ある。どこぞの家系図ロンダリングやあるまいし。なくて余裕ー。箔など要らないおぜぜをおくれ。



 閑話休題、


「しかし遅いな。……にしてもえぐい。ナンボなるんやろ」


 これほど動員した人件費は果たしていったいいくらになるのか。平均動員二万人の延べ七十日。最短でも。ちょっと暗算しただけでも眩暈を覚える天文学的数値である。労働信仰に真正面から喧嘩を売るスタイルでもなければとてもではないが支払いきれないはず。

 そこに兄弟子・吉田与七をこっそり参入させている。しているはずだ。抜け目ない商売人だから。はあ、胃が、胃がぁぁぁ。


 天彦は若干ではない不安に苛まれながら思う。悪いんは身共やない。悪いんは現代感覚と無意識に植え付けられている常識という名の先入観なんやで。

 しかし天彦のそんななんちゃって自責の念に駆られる意識もあながち間違いではないだろう。なにせ商社は勝者。絶対に儲かる仕組みの上に乗っかっている上級国民集団としたものだから。


 そんな兄弟子、吉田与七も勝者で土倉。勝ち組でないほうがどうかしている。

 実際に発注者直請けなので利幅も大きいはずなのだ。とくに商人の有用性を誰よりも理解し遇する魔王様だからして。おなしゃっすっ。

 いくら願ってもだが不安。あれほどお世話になっている大恩人の兄弟子にびた一文でも損はさせられないそんな不安から。


「若とのさん、お帰りなさい」

「ただいま。そやけどお雪ちゃん、まずは無事を喜ぶんやで」

「どうせ無事ですやろ」

「む。果たしてそうやろか。お人さんはお雪ちゃんが思うよりもずっと簡単に死ぬんやで」

「あれ、若とのさんってお人さんやったっけ」

「おい」


 頻りに頷いているお前とお前、覚えたからな。覚えておけよ。あとお雪ちゃん、もう当主やから若とのはあかんよ。ええねんけど。

 天彦がいつの間にか舞い戻っているラウラを含めたイツメン家人たちと帰途につこうとしたそのとき。


「やはり参っておりましたね。菊亭さん、御無沙汰にございます」


 噂をすれば影。天彦の前には絶賛売り出し中の若手商人、吉田屋吉田弥七が姿を見せた。


「兄弟子! こちらこそ御無沙汰におじゃります。ご健勝さんにあらしゃりましたか」

「はい。おかげさんで。若殿さんもお元気そうで。お噂はかねがね聞き及んでおりますよ。ずいぶんとやんちゃさんしたはるようで、何よりです」

「う。……恥の掻きついでに格式張るのはこのへんで。そや、兄弟子このあとお時間ありますか」

「はて時間とは。それがわからなあるかどうかはお答えできません」


 やっとんなぁ、やってもた。


「はははデスヨネ。無意識でした。身体はお空きですか」

「なるほど、それを時間と。刻限の言い換えですね」

「さすが鋭い。はい」

「変わらず突飛なご発想なことで。もう用はすんだよって体やったら空いてますけど」

「お茶しましょ。流行のスイーツ茶店があるんです。ご馳走しますから」

「すいつとは」

「どうでもよろしいやん。甘味です」

「どうでもはよくありません。若殿さんのお言葉をうっかり聞き逃すと大損する場合が往々にしておますので。……で、御馳走いただけますと」

「はい。なにか」

「まあなんと珍しいこともあるものです。明日は槍でもふるんやろか。いや鉄砲の雨がふるのやも。さいぜん気ぃつけな」

「あ、はい」

「ですがこちらも好都合さん。若殿さん、いいえ弟弟子の天彦さんには折り入ってご相談がございました」

「もう破門されてますけど、兄弟子のご依頼ならなんだって訊きますよ。ほな参りましょうか」


 取り敢えず歩を進めた。むろん誰の目からも凹んでいる風に肩を落として。そこで見えんと思てこっそり笑っているお前とお前、後でぜったいにしばく。

 吝嗇だった自覚がありありだった。しかも現在進行形の吝嗇である。自認と他評が合致している。これ即ち世間一般でいうところの鉄板事実であろう。間違いない。

 ざっと御付きを見渡して。家人や用人といった家僕さんらのお給金上げたらなアカンな。笑ろたお二人さんは維持かダウンやけど。人知れずそっと汗をかく天彦であった。


 両家はお互いの家人を引きつれて行きつけの茶屋に向かうのだった。

 時の人をお互いに持つ両家が連れたって歩く。しかも親し気に。これ以上ないほど人目を惹くこと請け負いの組み合わせであった。


 と、そこに部外者の唐突なカットイン。


「ここになんぞ儲け話があると、このよく利くで鳴らした鼻がゆうとるんにゃ。儂も混ぜるだぎゃ」

「ハウス」


 人物はあからさまな侍である。それもひと目かなり格のお高い。主君に倣って着ている小袖は粗末だが、差している大小の鞘が露骨に格式張っている。これほどの逸品、銭金ではなく地位がなければ持てないだろう。そういう代物。


 座はにわかに緊張が走る。おろおろして歩を進められない吉田与七を置き去りに、しかし天彦は前をすたすた歩いていく。何ならピッチを大幅に上げて。











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