#11 君がため惜しからざりし命さえ
永禄十二年(1569)一月二十九日(旧暦)
刻は黄昏。まさに今、宵五つの鐘が鳴る。
衣冠を脱ぎ小袖に着替えて戸の前に立つ。厩舎からは嘶きひとつ。空ではないことに胸を撫で降ろし、「貸し馬屋さんお客やで」訪問を知らせてじっと待つ。
程なくするとぽっと部屋の明かりが灯った。しばらく待つも出てこない。叩いたろ。
「頼もー、頼もー」
どんどんどん。
「頼もー」
「なんですのんこんな夜更けに騒がしいして。……あら名もなきお公家さんやあらしまへんか」
「台無しや。ゆうたらアカンってゆうたやん」
「はいはいしーですね。お公家のぼんさん、毎度おおきにさんです」
「あ、……ええわ。騒がしくして堪忍さん。でも急ぐんや。二頭いけるか、大至急借り受けたい」
「少し待ってくださいね。旦那(厩務員)起こしてきますよって」
「うん」
バレてるし菊亭に付けといて。ゆうたらさぞ腰抜かすやろな。
天彦たちは洛中にいくつかある貸し馬屋に走った。行きつけとまではいかないが店主とは互いに何者かを認識できる程度には顔見知りだった。
厩舎はむろん営業時間外。大声で騒ぎ立てると運よく宿直は顔見知りのご婦人だった。厩務員(旦那さん)を叩き起こし無理を頼んで借り受けた。
「ほんまに叩いて起こされたんは初めてや。こいつらでどないです」
「十分や。助かった」
「お役にたてたなら立派ですわ。お気をつけて」
「うん。おおきにさん。あそや、おばちゃん口軽いゆうて叱っといてや」
「え、内のもんなんぞおましたんやろか」
「あったからゆうてるよね」
「は、はは。ほんまや」
「おっちゃんもおばちゃんに叱られとき」
「ほえー、達者なぼんさんや。はいはい叱られときます」
そこだけ時代歪んでるんちゃう。
というほどのんびりしたいい味の御夫婦だった。
さて馬だ。二頭。相変わらずの寸胴でだが足は立派。まあ鈍足は間違いない。
「お前、顔のことはようゆわんけど、世を儚みすぎやろ」
お馬は放っておけとばかりぶるると鼻息で迷惑アピール。
失礼なやっちゃ。天彦は手慣れた手つきで馬の首を叩き撫で、鐙に足をかけ這いあがる。んぎぎぎぃっと鞍に捕まり顔を真っ赤に必至の形相で。
頭では馴れていても物理的に身体のサイズはどうにもならへんのやで。
近世の馬は現代種からすればたしかに小さい。だが何事も相対。天彦目線からすれば木曽馬も歴とした巨馬である。もたもたしていると、後ろからとんっとお尻を押されてはいおっちん。
「あと三秒待てば自分でできた」
「お礼の言葉に代えさせていただきます」
「あ、それゆう。身共の台詞や。参ろうか」
「はっ」
向かう先は西園寺家家領、醍醐の荘。洛中からおよそ三里(12キロメートル)。
どうやら馬を使い潰す必要はなさそうだ。むろん高尚な動物愛護の観点からではなく、もっと下世話で実利的な理由からの安堵。
いずれにしても天彦の技前なら苦になる距離ではない。ラウラも同様に。問題は途中都合三カ所ある関である。難癖でもつけられたらかなりしんどい。“朝まで待て、じっくりと改める”だって普通にあり得る。奥の手使お。
天彦は隠しポッケに縫い付けてある西園寺の連枝しか持たされない扇を脳裏に思い浮かべた。むろんでかでかと左三つ巴が描かれた御立派なやつ。
洛中を並足で慎重に。二条を過ぎたら速足で駆けさせる。それが洛中乗馬の不文律であった。
「ラウラ、色々と隠し種あるんやったら出し時は今やで」
「あるとお思いで」
「おいそこは堂々とあれよ。普通あるやろ。なかったら雰囲気詐欺がすぎるやろ」
「ふっ笑止。普通とは」
「あ」
ラウラさぁ、本性出すん遅ないか。
種も仕掛けもあるポンコツマジシャンの顔して値打ちこきすぎ。
「そんなことより天彦さん」
「おまっ。ええわなんや」
「また随分とらしくないことをなさいましたね」
「うん、たしかにちょっと気障やったな」
「後学のために心境をお聞かせください。なぜキメにいったのですか」
「主君の感情見たいなんて僭越やろ、厭や控え」
「なにとぞ」
なにとぞって脅迫のときの文言やったっけ。違うのなら表情も一緒に頼むのが筋ちがうやろか。なにそのどうでもよさそうな表情。ちょっと笑ける。
「ええけど。訊いてわかるんか」
「鋭意努力いたします」
「ふーん、さよか。そやなぁ信条とか信念とか思惑とかご大層な話ではなくて、シンデレラフィットが気持ちいいってことなんと違うか」
「……シンデレラ、フィットにございますか」
「そや。デッドスペースにマッチしたら猶最善や」
「あ、はい」
ほらみい。負荷領域のデジャブ味わっとるやん。
実際はどうだろう。言葉にするのはとても難解な感情だ。天彦は思う。実益には恩がある。それは揺るぎない事実である。だが延いてはぱっぱにも恩がある、となるのだろうか。どうしても天彦の思考には限界があった。
これを感情論で処理できない時点でお察しなのだが、だから仮定した。
知らんけど。仮にも主筋の親やし。たしかそういう設定になっていたはず。身共にとっても親になるんと違うんか、と。
「要するに義理事や、義理事って命張るには持って来いなんやろ」
「はは、まさか」
「おい。散々っぱら喋らせといてそれはアカン」
「御冗談にしてはあまりにも面白くもないもので。たしかスベッタでしたか」
「うるさいわ、すべってるかい」
すべっていた。完全に。どの言葉を切り取っても説得力が皆無ではさすがにウケてはいないだろう。
そもそも論、天彦のような合理主義者、即ちドライな人間が情ごときで貴重な命を張るはずがない。そのことはラウラも確信を持っていた。いやあくまで希望的観測か。なにせ怜悧さよりも合理性に惹かれて、この幼き主君に郎党諸共仕えようと決めたのだから。そうでなくては困ってしまう。
それを証拠に義母とはいえ母親に命を狙われていても平然と割り切ってしまえている。生まれてくる弟だか妹だかをどう考えても楽しみにしている。実の父親に邪魔にされ邪険に扱われてもけろっとしている。あり得ない。少なくとも聖典をバイブルとするラウラの正常性バイアスは異常シグナルを発信している。
だからこそラウラは自らの命を預けた。だからこそラウラは郎党を率いて集合した。要するに持てるすべてを懸けたのだ。
ラウラは天彦の隔絶した知見よりも、この時代にたいへん貴重な理屈で割り切れる合理性こそを最大の臣従決定理由としていたのであった。
「お答えを」
「しつこいやっちゃな。思いたい風に思うてたらええやろ」
「お答えを」
「ちっ。答えへんかったどないするん」
「辞めます」
「あ、待って。すぐにマッハで捻り出すから」
「どうぞ」
自分の魅力を知っている女性は厄介なの。負けた。
だがいつかし返す。氏神に御誓い申し上げたら二条通りに差し掛かった。
天彦は“そろそろいくで”と馬首をさすりながら話しかけ徐々に反応を促した。そして馬が反応した手応えを感じ取ると鞍上から、
「ノリや。面白なってもならんでも、どっち転んでも借りは返せる。つまりどっち転んでも損はせえへんのんや。儲かったった。はは身共天才か」
「義理とは」
「なにそれ、美味しいん。勝負やラウラ、はいやっ――」
「くふっ、あはっ。上等です、惨敗させて進ぜましょう。ハイや――っ!」
ラウラのようやくお気に召したよう。二騎は最速速足で洛外を駆け抜けた。
但しラウラは天彦が一流の偽悪師であり露悪師であることを知らない。そして天彦が自分語りにかんして最も信頼できない語り手であることをまったく知らない。
◇
日付の変わる夜四つ(人定刻)。
「ギブ」
「降参します」
予定よりはやくたどり着けた。関を全ぶっちできたので。予定通り実益ぱっぱ公朝とも合流できそう。唯一予定と違ったのは醍醐荘園がすでに織田軍の手に落ちているということだろう。
むろん落ちているといっても戦時徴発されているだけで押領されているわけではない。
およそ一万からそれ以上の兵が荘園のいたるところに陣を張って待機していた。
そこに駆け付けたので誰何をすっ飛ばして槍衾で実質的には捕縛されてしまっていた。だが怪我をしなくて幸運だった。殺されずに済んで重畳だった。誇張なく率直にそう思えるほど陣内の雰囲気は重苦しく殺気立っていた。
天彦は自身に槍の穂先を向けている足軽頭に衣装を見ろと頻りに催促。普通わかるやろ。どう見ても公家やろ。苛々しながらも根気よく勘所の悪い壮年の足軽頭に身の潔白を訴えた。
なにせ不穏。足軽兵の気配が怪しい。偏にラウラの容姿が良すぎるために一手に不穏を引き付けていた。美人危険。美人不便。この標語は絶対に通用する。とくにこの戦国においては確実に通用した。
「ええ女子じゃ。我慢ならんぎゃあ」
「やってみゃあ」
「ええかいな」
「ええだぎゃ。もう身体がちんちんになってみゃあ」
「やりゃあ」
みゃあみゃあうるさい。させるか惚け!
天彦はとびきり腹の底から声を張って叫び声をあげた。そして扇を取り出しばさっ。左三つ巴が燦然と輝く。
「頭が高い! この扇が目に入らんかぁ」
なんだぎゃ、なんみゃ、うわどえりゃあ。
どうせ何もわかっていないだろうけど。雰囲気物としてびびってくれた。
足軽どもは三々五々散り散りになって逃げ去っていった。せーふ。
くそDQNどもめ。怒る反面、もうさすがにラウラの裏だか隠しだかの設定には期待していないので天彦は本気で焦っていた。
それが雑兵であれなんであれ数とはダイレクトに脅威となるのだ。本気で危なかった。たった一人さえ相手どれないという超現実はさて措いて。
と、
「えりゃあ威勢のええお公家の御曹司だぎゃ。どなたさん」
あ、嗚呼。
天彦たちの前に姿を見せたのはニックネーム(禿ネズミ)そのままの容姿をした木下藤吉郎が姿を見せた。さす信長。
感心はさて措き、この時期藤吉郎は丹羽長秀の配下として京都の政務に就いていたはずである。よってなんら不思議はない邂逅だった。(猶、天正元年改名・羽柴藤吉郎秀吉であり現在は木下藤吉郎のままであると思われる)
天彦の記憶がたしかならこの年、永禄十二年(1569)に毛利元就依頼の但馬国出兵織田軍二万の軍配を預かっているはずである。つまり侍総大将。超が付くお偉いさんだ。甘えたろ。
「保護を求めておじゃる」
「どちらさんで」
「知ってるやろ。それとも木下さん、あんたさんの目ぇは節穴か」
「……ようご存じで」
「舐めてるんか」
「いえ、まさかそのようなことは」
「ほな頭が高いんと違うか」
「はっ」
名乗りは無用とばかり、藤吉郎は恥も外聞もなくどろどろの地面に膝を屈して首を垂れた。これ以上は踏み込みすぎと踏んだのか。役者である。
だが天彦は人知れず安堵する。賭けだったがやはり試されていた。おそらくだがどこかのエピソードで目を付けられていたのだろう。明智との面会とか将軍との謁見かもしれない。史実を絡めた諸般の事情から惟任日向守個人のリークは消してもいいはず。出世競争のマッチレース中らしいので。
だからたぶん別件から。尤も史実の藤吉郎なら何をやっていても驚かない。なにせド平民から関白太政大臣にまで上り詰めたお人さんなので。天彦は薄ぼんやりだが想像もできん凄いことは何だってするやろ、そんな程度の信頼感は持っていた。
「大儀である。面を上げや」
「はっ畏くも藤原貴種の御連枝におめもじ叶い祝着至極。臣木下藤吉郎、なんなりと仰せに従いまする」
「さよか。ほなさっそく、保護したってや」
「むろん。万事お任せあれ」
「おおきにさん。頼りにしておじゃる。尾張さんはおいでなんか」
「いえ。主君上総守はただいま駆けつけている道中にござる」
「お疲れさんなことにあらしゃいます。ときに西園寺の左相国さんを訪ねて参ったんやけど、どちらにあらしゃりますやろか」
「本陣にて丁重にお預かりしてござる」
「おおきにさん。ほな案内してくれはるやろか」
「承ってござる。ささ、足元がお悪うござる。こちらへ。ささこちらへ」
「え」
「え」
え、やない。なんでお前もびっくりする。厭やろ。こんなキモいおっさんに抱っこされるん。
天彦が無言の拒否信号を発信しても藤吉郎はしれっと延々伸ばした腕を引っ込めない。厭やろ。絶対に厭やろ。
「無礼でおじゃろう。身共公家ぞ、藤原朝臣ぞ」
「なんの。おみ足をお汚しした方が断然ご無礼。ささ、どうぞこちらへ」
「いやぢゃ」
「む」
ラウラに救いを求めたのが失敗の始まり。二人してラウラを見つめる構図となってしまっていた。眼力つおっ。
あ、負けよった。弱すぎやろ。なんでそっち側に付くかね。あとでしばく、絶対や。あーあ、ほんまに負けよった。
「おお柔い。しかし軽うござるな。む、すーはー、よか匂いだぎゃ。まるでお陽さんを嗅いだようだぎゃ。これが貴種のお香りだみゃあ」
藤吉郎は正気を失ったようにすーはー天彦の頭皮を嗅ぎまくった。なにしとん。
「おい」
「失礼仕りましてござる」
「次にやったら帝にチクる。身共は直臣藤原朝臣、嘘や思たら痛い目みるで」
「帝!? ち、ちくる。ちくるとは何でござろう」
「怖いでぇ知らんでぇ京の都ではいっちゃんおっとろしい言葉やでぇ」
「ひっ」
頭皮ゼロ距離スーハ―キモ攻撃からは回避できた。命がかかっていたので嘘ではない、はず。デスヨネきっと。
尤もこの応接さえ一流の擬態ブラフ説まであるので、そういう意味では木下藤吉郎という人物、まったく信用ならないのであった。
◇
藤吉郎に招かれたのは庄屋屋敷だった。その前方が本陣になっていて、いざとなれば大本営になるのだろう。
藤吉郎は気を利かせてかその場を辞した。むろん抜け目などない。後ほどの面談言質を確実に手にして。やりおる。
だが収穫もあった。彼の人物、相当権威には弱そうだ。むろん今だけだろうけど、憧れを拗らせてかかなりビビっていることが垣間見えた。
母屋に入ると実益ぱっぱがいた。数名の傍付きと暖を取って温まっていた。
「菊亭さん、よう参ったなぁ。寒いやろ、こっちおいで」
「おおさぶ。はいっお邪魔さんです」
「久しぶりやなぁ。元気してたんか。まあゆっくりしていき」
「はい。御無事で何よりです。おかげさんで元気でした」
「そうかいな。それは重畳なことや。どうせ亜将が駄々こねたんやろ。お守も大変でおじゃるな」
「いいえ。自ら進んで参りました」
「……茶にしよか。美味しいの淹れたって」
え、なにその胡乱な目。不審な顔。なんで。
実益ぱっぱは実益よりかは幾分目が見えていた。尤も過去に遡れば実益ぱっぱ公朝が天彦の言動を胡乱がり不審がる理由は幾らだってあったのだ。そういう意味では天彦も実益と似たり寄ったりの節穴である。
「で、五山のお狐さん。見解を訊かせたってや」
「勝ちますやろ」
「どっちがや」
「どっちかが」
またぞろ胡乱と不審な目を向けらえる。なんで。あ、ハイ。
「尾張さんの圧勝で終わりさんやと思います」
「くふ、ぷぷぷ。お狐さんも腕上げはって」
実益ぱっぱは喜色を浮かべた。むろん駄洒落に気をよくしたわけではないだろう。こうまで貸し与えているのだ。勝利してもらわねば採算が合わないだろうから。
「ほな前祝でもしたりましょ」
「飲みませんよ」
「固い固い、ささ一献」
「厭や、いややぁ。いやぢゃあ――。ラウラぼさっとしてんと助けてたもれ」
「あ、いや、ですが」
「はよせんかっ」
「は、はっ!」
「こら、逃げるとは不届きなるぞよ。待ちりゃれ」
酒から逃げたのではない。酒からも逃げたが、飲んだ実益ぱっぱから逃避したのである。ラウラには目もくれず。衆道コワいそういうこと。
「はぁはぁぜぇぜぇ、助かった。キモすぎた。おいラウラ、って……ほえぇ」
庄屋屋敷から逃げ出し表に出ると、ひと目空気が張り詰めている感覚が実感レベルで感じ取れた。まるで空気が重みをもったかのように、周囲全体に重く張り詰めた気配の帳が舞い降りていた。
「天彦さん」
「黙っとき」
「あ、はい」
天彦はその原因の真っ赤なビロードマントを陣羽織に仕立てた背中に視線を預けてみた。威風ってこれか。なるほどです。
果たしてどんな場面で邂逅するのか。あるいはしないのか。一個人として単純な興味本位以上の感動を覚えていた。指、震えてるやん。ごっついわぁ。
人物が振り向いた。時空ごと歪んだような錯覚に見舞われる。
天彦は我を忘れて食い入るように人物を見た。
「童に化けた五山の狐か。それとも五山の狐を装うただの童か。さて小僧殿、汝はいずこの狐であるのか、いざ尋常に答え召され」
「それずるい。もうキツネゆうてもうてるやん」
「かは、わははは!」
「そないウケたらご機嫌さんやわ」
「余を恐れぬ公家とは恐れ入る。今宵は甚だ気分がよいぞ」
「ええお魚さんも釣れましたしね」
「三好を魚と申すか。ならば餌は将軍か」
「身共なぁーんもゆうてません。お悦びさんで何よりや。はじめましてお邪魔さんであらしゃいます」
「で、あるか」
織田上総介三郎信長さん。案外存外、ひょうきんなお人さんやも。
天彦、あの信長やぞ。そんなわけ絶対あるかいな。と脳裏では確信的に思いながらも一方では無意識に警戒心のベールを脱ぎ去っているのであった。
だがしかし。これで四郎勝頼と織田上総介が裏で通じていることは確信した。敢えて惟任日向守リークではないと決めつけているのは早計か。
だがどうしても感覚がその可能性を捨ててしまう。いずれにせよ希望的推論よりかは何倍も確度は高いだろう。なにせ惟任日向守、じきに謀反を起こすから。
真面な感覚での謀反ならきっと重要情報は伏せるはず。天彦が重要であるとかないとかの話ではなくて。
すると転じて四郎勝頼のお口が軽いことも確定するのではないだろうか。お雪ちゃんとどっちやろ。どっちにしても終わっとんな。氏ねボケ恩知らず。絶対に許さん。何ができるわけではないけれど。つらたん。
「ラウラ」
「ここに」
「身共はこの凡才に生まれた我が身が辛い」
「ふっ、今のはかなり可笑しかったですよ」
なんで。
これやから甲斐は厭やねん。平気で裏切る平気で騙す。それがヒトの性といわれれば“そうなん”としか言えないけれど。
決めつけは危険だと感じつつけれど天彦は確定的にうんざりしながら、こっそり四郎勝頼の警戒レベルを二段階引き上げるのであった。はぁ、だっる。
【文中補足・人物】
1、西園寺公朝|(さいおんじ・きんとも数え56)
従一位・左大臣。すでに実益に家督を譲り出仕免除を届け、自身は多くある家領を転々としている自称下向仕事人の実質遊び人なお方。北条家とは昵懇の間柄であり北条綱重(幻庵次男)に庶子の娘を嫁がせている。
2、木下藤吉郎秀吉
説明いりませんよね。
3、織田上総介三郎信長
この余白では足りませんよね。
4、貸し馬
駄賃馬稼(だちんうまかせぎ)。 主な営業品目は御者付きの古くからある輸送サービスであり、室町後期(戦国時代)には馬そのものを貸し出した記述も多くある。洛内には百にも及ぶ貸し馬屋があったとか。馬貸座(大和国八木)




