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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
弐章 臥竜鳳雛の章
37/314

#08 道徳的な一体性、切実に欲しいのん

 



 永禄十二年(1569)一月二十六日(旧暦)






 座発足実務担当者レベルの顔御合わせと打ち合わせ終わり、残すは懇親会ばかりという過程で一安心しているところに、ラウラ配下が飛び込んでくる姿が見えた。

 やや頬を上気させているように見えるのは気のせいだろうか。天彦は打ち合わせそっちのけで家来と陪臣の動きに目を奪われる。

 赫々然々、やがて何事かを聞き届けたラウラは一つ頷くと同時に天彦を見て、なぞのウインクをぱちりとひとつ寄越すのだった。アカン!


 気になって仕方がない。天彦は事後の懇親会など大巻きの巻きで巻きに巻き、やっつける。

 祇園さんをいち早く脱し、一目散にラウラの元へと駆け付けた。


 鴨川沿いのあぜ道で、


「――同盟とゆうたか」

「はい申しましてございます」

「わかった。ほんでなんでそんな嬉しそうなん」

「我が殿の描く構想力と神をも平伏ひれふすであろう神通力に心酔いたしております、の笑みです。他意はございません」

「ガチ勢がわらわら湧いてきそうな内容の筋に巻き込まんといて。ていうかラウラはキリシタン違うんか。神さん平伏せさせたら絶対にアカンやろ」

「いつ申しましたか。私がキリスト教信者であるなどと」


 ぱっぱ教会神父説は外れたか。絶対そうやと思たけど。


「では何を信じてる。あるいは身共とおんなじ神道か」

「異なことを仰せになります」

「なんやろ」

「もう、五山のお狐様信心に決まっておりますでしょ。因みに相当数おられますので今後は天彦さんの心情とは無関係に肥大化してまいります。つまり公的評価と本人の人格は不可分となります。悪しからずご了承いただきますよう」


 おまっ――。


 最近やたらと耳にするヤツ、ひょっとしなくともラウラ発信では。まあええわ。キツネくらい可愛いもんやろ。

 軍神とか毘沙門天の化身とか赤鬼とか独眼竜とかマムシとか。挙句の果てには魔王さんかていたはるし、畏れ多いのごろごろいてる。一個お世話焼いとこ。


「ラウラ」

「はい」

「こういう場合、身共に対して手の者の有用性と必要性が証明されたと大袈裟に喜んでやるんやで。褒めるときは徹底的に。叱るときはさっぱりと。特に目立つ働きには現ナマお小遣いをあげるとええ」

「なるほど。後ほどと思っておりました、改めます」

「うん。ひと目が多ければ多いほどええんや。知らんけどそうゆうもんらしい」


 ほら、とまだ待っている若い衆(といっても天彦よりも断然年上だが)を一瞥する。若い衆は恐縮して顔を伏せた。

 この時代の人事考課の基本のきらしい。実益曰く。

 するとでは御前失礼を。言ってラウラは天彦の前を辞し向かって行く。そしてアドバイス通り言葉を添えて何かを握らせた。地味働きの若い衆からは思っている数倍の反応が見られた。周囲もあれは誰だとざわめきが起こる。どうやら間違ってはいないようだ。実益もたまには役に立つもんや。さて。


 天彦は歩きながら思考を纏める。


「相模あたりには絶対激震走っとるん」


 とんでもない情報が舞い込んだ。越後と甲斐の同盟だ。どちらかが滅んだよりもある意味で衝撃的な情報だった。なぜなら永禄十二年現在、軍神はぴんぴんに健在だから。健在どころか天下さえ望める位置にいる。それを仇敵と結ぶだなんて、何がどう転べばそうなるのか。きっと甲越の国境に超巨大な大瀑布でも出現したのだろう(棒)。


 さて措き、甲越同盟。史実では1579年に四郎勝頼と軍神の後継者上杉景勝との間で成立する軍事同盟である。なぜなら前年1578年に毘沙門天の化身(上杉謙信)がお隠れ遊ばすからだ。

 あり得るのか。あり得ない。少なくとも天彦はそう断定した。


「ふむ。ふむふむ。軍神とドラゴンの組んだタッグマッチ。むっちゃ強やん」


 織田徳川勢なんか目じゃない。北条今川勢なんか屁でもない。

 だからこそあり得ない。世に英雄は並び立たない。豊臣と徳川がそうであったように必ずどちらか一方が上に立たなければ関係性は成り立たない。

 即ちおそらくだがこの同盟、何らかの縛りある盟約であろうと推察される。少なくとも対等同盟とは思えない。何しろ四郎勝頼は家内を完全に掌握しているわけではないのだから。足元不安定な敵性国家と対等同盟を結ぶ利はほとんどまったくないと思われる。てか普通ない。


 つまり四郎勝頼。オフィシャル氏名を諏訪神氏と名乗ったときと同じ覚悟の程をみせたのだろう。誰に。天彦に。そして実益に。何より自分自身に対して。

 なぜなら四郎勝頼は何らかの激辛酸っぱい辛酸キャンディを舐めたものと思われるから。それは相当にからくてつらかったことだろう。ふーん、やるじゃん。


 だが天彦は一向に気にしない気に病まない。これは疑似相関だから。

 天彦が助言したから然もこうなった風だが、実際は違う。たしかに一見すると相関関係と因果関係が密接に絡み合っているように思える。ははは、気のせい。思い込み。あくまで尤もらしい混同である。天彦はハイライトが消えた瞳で鴨川を眺めた。あ、ちゅーしてはる。


「それでも……」


 一つだけ感心した。


 大局を読み、その読みに従い仮説を立てる。この立てた仮説を立証するため検証作業に腐心する。むろんそうなるように意図的に。段取り八分ではないけれど作意は見え透いているほど効果的。

 などと粋り散らしたことを、実益と三人。車座になって語り明かしたあの夜に、たしかにそんな実践術めいた与太話を、熱く語った気がするのん。く、黒歴史やん。完全にブラックやん。封印しよ。


 いずれにしても四郎勝頼はどうやら語った通り実行に移しているようである。

 何より。何よりか。きっと何よりなのだろう。天彦は普通に感心した。普通にお武家さんの凄味に感服した。さすがは甲斐源氏武田氏。洒落ではなく伊達ではなかった。あ、ハイ。


「殿、仔細ございましたか」

「ありまくるけど心配ないで」

「え、あ、はっ」

「佐吉、ほどほどさんがええ塩梅なんやで。わかるやろええ塩梅」

「はっ忝く候。某、殿の御金言、心中深くに刻み込みまする」


 それやねんけど。むっちゃ心配なるやん。


 佐吉は危険なくらい意気込んでいた。これ絶対美味いヤツ。違う、これ絶対しくじるヤツ。知ってるねん、自分の過去を見ているようやから。

 香油座マターに抜擢したら鼻息がリアルに見れるほどの入れ込み具合。心配になるのはむしろ天彦の方であった。


 よし身共も。天彦が触発されて意気込んだ途端、鬼門の方角から不吉を告げる使者が舞い込む。


「申し上げます! 緊急事態出来におじゃります」

「うそーん」


 どうやらじっじご推薦らしい、まだ名を聞いていない新任家人の一人が駆けつけるなり声を張った。




 ◇




「あいつマジでなんなん。まじでなんなん。もう要らんねん、死んでくれや。いやコロそ」


 帰り着くなり天彦は自室で物騒な独り言をつぶやく。端的に申せばブチ切れていた。

 多少目をつむれる理由として、またぞろ清水谷がしでかしてくれたからだ。

 まさかの清水谷再登場。常に祟ってくれる御仁だ。今回はあろうことか家令面して久御山荘園を勝手に人選、差配して実質の押領をぶちかましてくれたのである。普通にビビるんやが。

 なにせ菊亭襲撃火付けの第一容疑者のまま嫌疑は晴れていないのである。それはビビる。その出雲大社のしめ縄よりも図太い無神経さにビビる。


 他方、天彦が一周回ってビビっているのと同様にか、あるいはそれ以上に首謀者を疑われている菊御料人も恐れ戦いていた。


「そ、そのような物騒な。妾と菊亭さんは円満やと申したでおじゃります。ほらこの通りここに祈請文きしょうもんが」

「そんな血塗れの気色悪いもん見せられても困ります。義母上ははうえ。和解は致しましたが円満とは初耳です。さすがに欲を掻きすぎでは」

「まあ。そんな無体な」

「無体。はて無体。なんやろ無体。また後程辞書でも引いときますわ。それで義母上ははうえ、正直に。どないです、裏で糸を引きましたやろ」

「引いておじゃりません」



 引いとるやんけ――ッ! あーあ、お仕舞いだよ今出川。



 問い詰められたら途端に目を逸らして声を震わせるヤツに正直者居らんのよ。

 いやあるいは逆に嘘つきがいないのかもしれないが、天彦はうんざりげんなりしてしまう。今回ばかりは本当の本気で清水谷を弾劾しようと決めていたから。

 つまり斬首。公家は切腹をしないので極刑は斬首が相当。辛い決断だが仕方がない。

 あるいは辛いとも思っていないが、この国には厳正な法も厳格な裁判官もいらっしゃらないのだから当然の沙汰。家内のことはすべて天彦が検察官で裁判官だった。


 の、感情で菊御料人を見つめると、菊御料人は居住まいを正した。そして如何にもお高そうな絹の小袖の裾をさっと払うと、


「四郎さんにはくれぐれもよしなに願い奉るでおじゃります」

「どの口で?」

「まあ何たる」

「こっちが驚きなんやが」

「仮にも義理とはいえ妾、母御前ぞ。親しき仲にも礼儀が必要でおじゃろう」

「その前にもっと必要な物、お忘れにはなってはおられませんやろか」

「無礼者めッ」


 ええ、ま?


 自分のしでかしたことのケリも付けず、もうこの対応、この態度。

 つくづくお姫様気質とでもいうのか。真面な神経ではとてもではないが付き合っていられない。ならば、こっちも調子あわせたろ。


「ああ、それと義母上ははうえ

「なんでおじゃろう」

「もうご臨月さんなようで。可愛いやや子が生まれるとよろしいですね」

「ひっ」

「え、なんもゆうてませんけど。ちょっと触らせてもろてもええやろか。撫でるだけでええです」

「ひっ、来るな。こっちに来るなっ。美代、美代はどこにおじゃるか、はようしる、はようしるんやっ――」


 這い蹲って出ていってしまった。……あ、ウン。


 なんか猟奇的な人扱いされて逆に凹まされた。いっつも逆手を取るじゃん。

 つくづく菊御料人との相性の悪さを痛感しつつ、けれどまあ史実通りなら無事に生まれるやろ。弟くんが。だが反面これで更に天彦の方向性は険しくなる。弟にはぱっぱがつく。これは確実。


 史実云々のメタな話ではなく、単純に状況証拠の積み重ねの証明から。

 今出川の舵を尾張主軸方針に切ったぱっぱ晴季が、今後尾張と密接となっていくこと請け合いの四郎勝頼との縁を切るとは到底思えない。生まれてくる子は今出川家の戦略兵器だ。およよよ。お可哀そうに。きっと今出川嫡子として高く遇されるだろうからそれでどうにか、といったところか。


 弟くんのパトロン四郎勝頼にしても現状はいい。だが保証はない。未来が誰にも見通せない以上は。明日一気にベクトルが明後日の方向に向かったって驚かない。人の心とはそうしたものだから。人の心なるものなど絶対にけっして見破れないのである。つらたん。


 他人事のように想定している天彦だが内心は穏やかではない。

 いずれ四郎勝頼が牙を剥くのかそうでないのかによって天彦の危険度も乱高下するだろうことは確実だからだ。

 よってだからこそ武田に全賭けはできない。何よりも武田が何かを成し遂げてしまうと天彦の有為性が根底から崩れ去ってしまう公算が高かった。何も持たない天彦にとって唯一のアドバンテージを失うそれは脅威であり恐怖である。


 よって全乗りはしない。時にはそういう場面も必要かもだが今ではない。現状は足元不安定手元不如意。警戒しすぎるほど警戒して、すべてに保険を打つ心構えでいて丁度いい。すべての可能性に満遍なく備えなければならないのだ。立てている中間努力目標大綱に准じれば。

 とくに本気でこの修羅の時代を生き抜くつもりなら猶更用心深さの価値は高まるはず。あー、しんど。


「誰かある」

「はい。ありますよ」


 すっと雪之丞が襖扉を開けて顔を出した。


「お雪ちゃん、ひとっ走り職安ハロワ行って人材募集かけてきて。求人雑誌インディードに掲載するんも忘れずやっといてや」

「ぜんぜんわからへん。でもなんや懐かしいですね」

「なにが」

「新しい言葉を生み出すだけのお遊びや。ゆうて若とのさん面白がって某に一所懸命に言い訊かせてはったやろ。あの日々がなんや懐かしく思えまして」

「ああ、あまりに暇で銭もカラッけつやったからな。たしかにお雪ちゃんの間抜け面がおもろかった。でもお雪ちゃん、まだ過去を懐かしむ年やないで」

「そやけど懐かしいんです。なんやお人が増えてきて、ちょっと嬉しいんかもしれません。某の家来は一人も増えてませんけど」

「アカン。大至急取り下げなさい」

「何をですのん、なんでですのん」

「フラグやからに決まってるやろ。発言すべてを取り下げなさい」


 雪之丞は天彦のあまりの剣幕に戦慄き謝罪して前言を撤回した。

 天彦と雪之丞、お互いに口調や言動の僅かな機微で相手が本気かどうかくらいは見抜ける関係性になっていた。


 雪之丞はフラグコワいとインプットして。


 と、天彦は改まった。


「植田雪之丞」

「なんやろ」

「植田雪之丞」

「……はっ、ここに居ります」

「弥生月吉日を以って、元服といたす。よって元服の儀を執り行う。家族に申し伝えよ。……お雪ちゃん、ちょっと早いけどおめでとうさん」

「ぁ……っ!」


 感動か感激か驚愕か。いずれにしても雪之丞は礼も言えないほど胴震いに身体を震わせる。


「作法や。きちんとしよ」

「忝く存じ候。某、この大恩に報いるべく今以上、身を粉にしてお仕えいたす所存哉けり」

「うん、頼んだで」

「はい!」


 佐吉にはゆうたらアカンで。聞こえたのどうか。

 すると雪之丞は立ち止って振り返り会心の笑顔で言う。


「若とのさん、弥生月っていつですのん」

「やるやん」

「それでいつですのん」


 三月やで。告げるともうすぐやんっ! 


 喜々として叫んだ。そして背中に羽の生えた脱皮したてのさなぎのような覚束ない所作で礼を言い、けれど全身に喜びを感じさせるまるで跳ねるような足取りで天彦の元を去っていった。おめでとうさんやで。


 その雪之丞に入れ替わるようにしてラウラがわきわき飛び込んできた。


「大事出来!」

「どないしたん嬉しそうに」

「将軍義昭さん、本圀寺にて襲撃され」

「おお、やった」

「ん? まんじではありませんので」

「うん、これは小さくガッツポーズするとこや」

「はぁ……、やはり読めないお人さんです」


 史実では新年早々。それも幕の内の事変だった。すっかり油断していたが、実際に起こって一安心。これも歴史の修正力の為せる業か。

 何にせよこれで兄弟子(吉田与七)に顔が立つ。立たないとまずかった。神秘性(笑)の箔が剥がれてしまうので。あるんかどうか知らんけど。


「世間さんは大わらわです。天彦さんは何かなさいませんので」

「せんよ。身共に何ができるん。きっと惟任さんが張り切らはるやろ」

「惟任日向守、でございますか」

「そやで」

「彼の御仁、幕臣ではございませんけど」

「建前上はそうなってるな。野心家は一君に仕えず。そういうことや」

「芯のある善良そうなお武家様とお見受けしましたが」

「善良なお武家。なんかわろける。一個だけ教えたろ。帝の御内意を無視して寺領切り取る輩が善良て。草生えすぎてもう藪やで」


 ラウラの中で何かの整合性が合致したのだろう。得心した風に頷くと、


「この場合の草は揶揄ですね」

「そやろ」

「なるほど。我らは惟任の術中に嵌められていたのですね」

「おそらくな。今回の阿波煽ったんも惟任さんやとしても身共は驚かんけどな」

「……然り。僭越ながらお尋ねします。なぜ三好の犯行とご存じなのですか」

「阿波とゆうただけで一言も……、仮定の積み重ねと消去法による推論や」


 今度ばかりはラウラも納得は示さなかった。

 だが追及しても明かされないことは承知。会話を進めた。


「三好家、煽らずとも警備体制のリークで十分と」

「リークはあかんやろ」

「通じればもはやネイティブお言葉。そう仰せでしたのはどなた様か」


 誰やろ。頭湧てるんちゃうソイツ。


「そういうこっちゃ。さてどうなるやろな。一番働きを評価されて幕臣の中でもかなりの地位に抜擢されるはずやろし。誰かさんの破滅の序章か、それとも……」

「誰かさんとは」

「誰かは誰かやろ」


 言い放つと天彦は考え込むように虚空を見つめた。

 誰も寄せ付けない凄味を纏って。

 こうなるともう心ここにあらず。合図として無意識に扇子が調子を取っている。


 ラウラはじっと傍で付き添う。もうすっかりお馴染みの光景である。

 もしここで話しかけようものなら千ではとても足りない罵詈雑言が霰となってこれでもかと降り注がれる。たまらない。

 常の表面的な怒りとは質が違っていて、そうなると年甲斐もなく仕舞いには泣かされてしまうのだ。なんたる屈辱なんたる恥辱。だから絶対に邪魔をしない。


「ラウラ」

「はっここに」

「検事と裁判官と処刑人の職がある。すべての職に就けるとしたらラウラならどれを選ぶ、あるいはどれを選ばない。この現状どない思う」

「……」

「ほな主君替えと裏切りの違いを定義として纏めてや」

「はっ。は……?」


 どっちも宿題さんや。言われた瞬間、ラウラは貴重な紙に何かを懸命に書き留める。天彦はそれじっと待ち、


「脳みそさんが甘味をご所望や。序にお口さんにも季節を感じさせたって欲しいんやけど、なんぞええのんあるやろか。この時期の甘味ってなんやろ。但しじっじのお抱えさん以外でやで」

「ですれば洛外のお取り寄せスイーツしかありません。但し少々値が張ります。時節柄的におぜんざいになろうかと」

「ええなおぜんざい。ほんまは白玉おぜんざいがええんやけど。あそこの出前茶店やね。高ついてもしゃーないかそれにしよ」

「はっ、早速参らせます」

「頼んだ」

「おいくつ分」

「一個にしぃ、……二つや」

「確実に不興を買いますが如何」

「ええい四つやっ。持ってけ泥棒」


 ラウラの頬が綻びた。が、一瞬で固く結び直される。

 天彦、口調では悪し様に罵りながらも向ける笑顔が破滅愛くるしい。

 意図的にずっとこの表情でいればああも恐れ戦慄かれないのに。果たしてこのお人は。

 ラウラは改めてこの化物じみた知見と先見に畏怖と恐怖を覚えるのだった。












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