#09 気高く嫋やかに
元亀二年(1571)四月五日
公家町菊亭屋敷・本邸大評定の間、にて。
総勢百十余名の諸太夫、青侍たちを前に主座(上座)のチビ主は余所行きの顔つまりキメ(モ)顔で、
「存在を分析するくらいの価値はあるようやな」
と、実に尤もらしく言い放つ。
これで終われば格好がつくのだが。
そこは菊亭。だがけっして締めさせてはくれない。当主の戯言をふんわりと逃がしてくれるような優しい手合いは皆無である。
それどころか逆に、“どんな主張にも一里あるの巻ちゃうねん”と言わんばかりの峻烈な視線を向けて発言主の座長をこれでもかと咎めたてた。
だからといってガバナンスが機能していないかといえばそうではなく。
いい意味でも悪い意味でも、それがこの家の家風だった。
家来たちの鋭い視線に根負けして、けれど見苦しい言い訳はしたくない天彦は愛用の使い古された扇子で口元を覆って咳払いをひとつ入れる。
そして、
「ちゃうねん」
「ではどうぞ」
言い訳をした。恥も外聞も臆面もなく。Omgの感情で。
つまり菊亭家は本日も正常だった。
「ちゃうねんて!」
「ですからどうぞと申し上げましただりん。どうぞ」
「二遍ゆー」
「当家のおバカなご当主に倣いまして」
「おいて!」
愛はありそうだが容赦はなかった。あるいはその愛もかなり微妙かも。
いずれにせよ最前列に居座るイツメンたちの声を代表してなのだろう。ルカの鋭い舌鋒はいつも以上に重圧を感じさせる厳しさを纏い、首座のおチビを容赦なく責め立てる。
主家西園寺から凶報が齎されて一夜明けたぎりぎりの午前。しばらくすれば昼九つの鐘が鳴るだろう午の刻手前頃。
大評定の開催を持ちかけたのは家臣たちの方からだった。
それは非常に珍しく、ともすると天彦の記憶にあるかもかなり怪しい。それほど希少な機会だった。つまり前触れ。むろんよからぬことの。
というのももたらされた凶報が意義通りの働きを見せたのだ。
政局第三勢力はあの上奏という名の請願書を宣戦布告と見做し、実力行使に打って出たのだ。
具体的には次々と舞い込む商人たちからの取り引き停止宣言によって、今まさに菊亭家中は公家町にありながらも兵糧攻めの渦中にあった。
これは紛れもない形を変えた戦である。
というのも菊亭、公家にあってはかなり珍しい雇用形態をとっていた。
ともすると大名家に似通っている、家臣は自らの食い扶持を自らで確保するという他力本願寺システムを導入していた。
導入しているというと意図的だと誤認されてしまうが、実際はそうならざるを得ない事情があるので自然偶発的な必然であろう。
要するに菊亭家のご主君は家来に報酬を支払えないのだ。よって家来たちは已むに已まれぬ事情を察し、食い扶持や俸禄を自らの手で算段していた。
むろん丸丸がすべて自力ではなく、稼ぎのネタは菊亭にいくらでも転がっている。少し商いに対する才覚があれば余裕だし、商才がなくとも菊亭にはそんな人材はいくらでも転がっている。
青侍衆は商才豊かな諸太夫の誰かに“ちと知恵を拝借したき儀がござる”その一言で事足りた。
彼らの収入源は多岐にわたる。食品や食材はもとよりその加工品まで。あるいは食品以外の加工品といった特産品や名産品とか。ときには特許品や発明品とほんとうに多彩なバリエーションで稼いでいる。
このように収入のほとんどを商いに依存していて、よってそのどれもに商家が絡み、そのどれもが輸送に頼った。
占める割合は果たしてどのくらいだろうか。土地を持つ大名格の家来を除けば八割を超えるのではないだろうか。つまりほとんどすべてである。そう言っても過言ではない。
ところが。
それら商いを包括的に営むざっと八割の商家に、取り引き停止を宣告されたのは今朝方早くのことだった。らしい。
まだ菊亭家本家にはその通告は齎されていなかった。し、その気配も一ミリも感じない。
普通に考えれば口実だろう。権大納言家に対し取引停止は体裁が悪い。それだけの理由で彼らの主家菊亭家は取り引き停止を免れていた。
まったく以って1ミリも。いや1ミクロンだって意味はないけれど。
それもそのはず。そもそも彼らの主家菊亭に信用はなく、仮に取り引きできたとしても現金限定。
扱いと認識は、まるでではなくまったく以って禁治産者のそれである。
控えめに言ってもじんおわだった。
むろん天彦自身が身分や地位に乗じて銭を踏み倒したなどという実績は……ない。おそらくきっとたぶんめいびー。
いずれにせよ観点はそこではなく、もっと本質的な対立構造が根幹にある。
そう。寺社との対立構造だ。延いては寺社を支持する商家とも。あるいは菊亭が阻害してきた既得権者とか。
数え上げればきりがないほど、天彦は敵即ち既得権者と敵対してきた。それは魔王率いる織田家とて例外ではなく。ドラゴン率いる上杉家も同様に。
依然としてこの戦国元亀、銭の取り扱いは寺社に依存していた。
むろん天彦とて指を咥えて座視していたわけではない。魔王にも再三上申書を提出しているし、何なら直接訴えてもいる。新たな制度が必要だと。同時に寺社に変わる銭の取り扱い業者(または団体)が必要であると。
だがそのどれも着手にはいたっていない。
そういうことなのだろうと天彦は受け止め、今日に至っている。
要するにこれも天彦の失策、あるいは見込み違いの一つだった。
信長は謙信公を警戒するあまり寺社へのテコ入れに躊躇してしまっていたのだ。延いては銭そのものの構造改革にも、二の足を踏んでいた。
その二の足を踏ませていたのは自分自身である自覚があった天彦としても、そこには強く打って出れない。
事実そう仕向けていた以上当然の認識として、この問題は今後の課題として先送りしていた。
だが祟った。それ以上でも以下でもなく痛恨のエラーとして、こうして天彦に重く圧し掛かる形で結果を反映させてきた。
失策あるいは見込み違いの幾つかの例を挙げるのなら、
一、魔王が思いの外ヘタレだったこと(謙信公を恐れ過ぎた)。
一、逆に謙信公の野望が思いの外色濃かったこと。
一、貴種の権威が思いの外認識を超えていたこと。
一、同様に寺社の存在が思いの外人々の暮らしに根差していたこと。
一、東宮が思いの外味方ではなかったこと(バランス重視の観点で)。
一、後宮の必死さを舐めていたこと。
一、銭の力が思いの外強かったこと。
一、商家がクソだったこと。
一、自分が雑魚だったこと。
――ざっとこのくらいだろうか。精査は後ほどするとして。
表立って権威に刃向かうのだ。その裏には当然根拠が必要で、必ず後ろ盾の存在がある。
何しろこうなってもまだ、実益はおろかあの魔王さえ目立った動きを見せないのだから。
首座の天彦に対し恭しくお辞儀をする家来たちの、儀礼以上の切実さが、天彦の肩、いや胸に重く圧し掛かった。
「一旦仕舞おう」
「はっ。これにて大評定を仕舞いとする」
はは――ッ。
天彦は言外の幹部会開催を告げて席をたった。
その天彦の背を見送る総勢百十余名の諸太夫と青侍たちは、煮え切らない雰囲気を残し辞去していった。
◇
家内には重苦しい雰囲気が漂い、いい意味で菊亭らしさが失われつつあるそんな大評定の場を後にした天彦は、私室である書斎にゆっくりと向かった。
書斎は執務室とは別にあり、三間四方の間取りながら小評定を想定してイツメンたちの地位に準じた席が用意されてあった。
家令府からはラウラ、ルカ、雪之丞、小太郎。
諸太夫政所からは是知、佐吉、菊池九郎重元。
青侍侍所からは与六、且元、氏郷、高虎、大谷紀之介吉継が。
そして与六のオニシゴキに耐え抜いて新たに青侍侍所に大抜擢されたかつての悪ガキコンビだった虎之介清正(夜叉丸)、市兵衛正則(市松)の両名が挙って。
天彦が書斎に赴くとすでに彼らは集合していた。
この屋敷では初の小評定(幹部会)ということもあってか、自認または他認で比較されたのだろう席次に揉めることなく着席していた。揉めることなくはかなり盛った。
席取り合戦の熱気冷めやらぬ書斎は、明らかな波乱の気配に満ちていた。
全員起立で迎えられた天彦は主座につくと、お座りさん。一声かけて自身も改めて居住まいを正す。そして、
「なんや九郎。ずいぶんと不貞たお顔さんして」
「滅相もございませぬ。ですが殿をご不快とさせましたのなら、我が身の不徳の致すところ。精進いたす所存にございまする」
「さよか。まあお気張りさん。よう堪えた。御立派さんやで」
「はっ忝く。殿のそのお言葉で救われ申した」
で、問題は所在が変わって新たに幹部として抜擢された二人。
天彦はやや厳しい視線を向けて言う。
「市松はええ。そやけど夜叉丸は、まだなんぞ言いたそうなお顔さんしたはるけど、どないさんや」
「め、滅相もございませぬ! 断じて某、席次に不満などございませぬ」
「あるんかい」
「め、滅相もございませぬ! 何卒、何卒平にご容赦を――」
「さよか。ほならそれで」
菊池の若殿さまが古参の格下青侍に噛みついた。
構図はざっとこんな感じだろうか。他にも火種は燻っていそうだが。
規律にうるさいはずの与六や是知が介入していないあたり、諸太夫と青侍の代理小競り合いの様相も想像できるが、さて。
天彦は書斎の波乱のほとんどが静まり返ったことを確信すると、うんと頷いて席に着いた。
と、ルカが待っていたとばかり本題に斬り込んだ。
「ご身内の敵対宣言に始まり商家の反乱に民草の反感といった主家を取り巻くこの状況を、お殿様は存在を分析する価値しかないと仰せでしたが、その御心は」
「捏造すな。身共は分析する価値があると申したはずや」
「ではそれで。して、その御心は」
「ごみや」
「なるほど」
言っていた。いない。
京都市民がゴミだと言っているわけではない。ある。
いやない。ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)がクソだと言っている。言ってない違う。
どんな主張にも一理ある。そんなレトリックにすぐしてやられる世情にクソだと突き付けている。
たしかに道理はあるのだろう。けれど不明点が多いのなら、なぜ精査しないのか。それはもはや怠慢を超えた罪ではないか。天彦はどうしてもそう考えてしまうのだ。
この情報が遮断された元亀世界において、その評価があまりにも酷だと薄っすら頭では理解しておきながら、それでもクソだと断じてしまう。
つまるところ市民感情を扇動した反菊亭を掲げる政局第三勢力がクソだと断じているのだが、庶民はそのことには気づかない、気づけない。
なぜなら判断材料であるはずの対象が、消去法的にあちらの意見に正当性を与える愚か者だから。
天彦は正当性を否定されるのには十分な結果と実績を、あるいは印象という名の悪名を散々っぱら轟かせてきたのだった。
「悪名は無名に勝るとか。ふっ」
だぶりゅーだぶりゅー。
何事も時と場所は選べという教訓としての金言ならまだしも。
「お考え、纏まりましたか」
「ん」
閑話休題、
冗談のような真面目なこのやり取りに、けれど三間四方の間にはクソデカため息が漏れ聞こえた。
それ即ち安堵なのだが、天彦がお宝と言えばお宝なのと同様にごみと言えばゴミである。それが信用の積み重ねなのかあるいは波長がそうさせるのかはわからない。
けれどいずれにしても彼らイツメンの価値観は控えめに言ってバグっていた。いい意味でも悪い意味でも。
と、席次上位者がおもむろに発言した。
「ですがこの際、具体性を示してやらねば動揺が収まらぬ家人も中には居りましょう」
「ほう。例えばそれは誰にござるか、扶殿」
「っ――、暴き立てなど卑劣にござろう。ここは詮議の場ではござらぬぞ!」
「ふっ笑止千万。貴殿こそ他者の言葉を借りて物申す卑劣漢にはござらぬか」
「なにを!」
是知だった。
尤も彼の卑劣で鬼畜は今に始まったことではないので誰一人驚かない。忌避感を示さない。
むしろこれこそが日常を取り戻したシグナルとして好印象で生温かく迎え入れられていた。
「是知の言い分も尤もや。具体案を示したろ」
何しろ天彦は目下、カッコいい人キャンペーン中なので。
カッコよさはマストだった。そのカッコいいの定義は別として。
だが反応は予想外の方向に向けられ瞬く間に見える化され天彦に現実を突き付けてきた。
え。
え。
え。
え。
え。
突如として発生した重い沈黙と同数の驚愕の“え”として。果たしてたちまち、三間四方に凄まじい疑義の渦を落とし込んで。
「何でやねん!しばく」
これも自責。しばかれるのは果たしてどちらか。
天彦は咳払いで仕切り直すと、意図してお得意のいい(悪い)顔を作って強引に場を掌握しにかかった。
秒と掛からず主導権を取り戻して、
「グリップが効けば然して気に留める必要はないさんや」
「と、申されますと――くっ」
なるほど。天彦はこの日このとき、正しい意味で貴種の正装の武装性を認識した。
静かに立ち上がり質問の主に正対しただけなのに。だけは盛った。少し意図的に流し目を加えて居丈高に振舞っただけなのに。
彼はまるで正装が放つ威儀に気圧され然も圧倒されたかのように大袈裟に戦慄くと、慌ててその場に叩頭した。
すると次々と与六に倣いイツメンたちが叩頭していく。
「え」
天彦は言葉にもならないクソデカ感情を言葉にもならない小さな言語で口にして、あまりの効き目に少し震えた。
「まあ訊き」
…………。
それはまあなんと傾注してくれること。正装もちょっと考えものですね。
そんな感情で天彦は完全には纏まっていない心の内を、整理しながらも訥々と言語化した。
「アカデミックは政治と距離を置くとしたものなんや」
学術的な。学問の。正統的で堅実な様。
意味は様々重複するが、天彦の意図でこの場合は市内に多く点在する寺子屋つまり学問所を意味している。
「そして経済が潤えば文化、芸術が芽吹くとしたものなんや」
それは単なる事実である。人の志向性に引っ張られた営みの定理としての。
茶器の猛威はえげつない。
すでに信長はこの茶器を政治利用に活用している。近頃では茶器一式がお城と等価で交換されたとかされないとか。巷の話題をさらっていた。
と、
「――畏れ多くも畏くも、その御心の内をお訊ね申し上げまする」
「ん」
与六がイツメンを代表して声を挙げた。
天彦に戦はできない。正しくは武力を用いた戦はできない。思想や理想に掲げる“暴力でしかあらゆることが抑止できない社会体制からの脱却”という大題目と現実面の両面からも。
だが仕掛けられた戦は買う。なんなら徹底的に何としても買う。それも出来得る限り高値で買う。
要は銭を稼げばよい。可能な限り安定的に。あるいは他者が安定的だとそう直感してしまうインパクトを与えるように。
そしてその安定的な収入源を剣に変えて、横っ面をバシバシしばけばそれでお仕舞い。黙らせるには十分なはず。
有象無象が寄って集ってきたところで、権威では勝っているのだ。あとは民意とやらに計ればよい。
「好きやろ。ばら撒き」
これまで天彦はどこか貧乏を少なからず楽しんできた節が窺えた。
けれどもう改心している。事ここに至ってはそうもいかない事情ができた。そういった意味での悪ふざけ彦はもうこの世にはいないのだ。
「若とのさん、かっこいいです!」
「そやろ、そやろ」
雪之丞にあれほどの意思表示をされたのだ。それは少しは効いていて当然なのかも。
天彦は沸々と込み上げてくる嬉しみと、ただカッコいいと言われたいだけの感情をそっと仕舞って回想する。
あの夜雪之丞は左目からの涙がとめどなく流れて止まらなかった。
涙腺がぶっ壊れたのかそれとも感情がぶっ壊れたのか。とめどなく涙を流しえんえんわんわんとむせび泣いた。
今は“涙腺コルクでぎゅ”のギャグで治まっている。いない。眼帯で急場を凌いでいる。お医者さんに診てもらお?
雪之丞は嬉し泣きした。もうえげつないほどのギャン泣きで。天彦のリプライが心に染みたからだろう。
感情的に泣き止んだ雪之丞と二人。月を眺めながらお団子を食した。
甘甘のやつを甘甘のシチュエーションで。
温温のお茶を温温の感情で。
………………、
…………、
……。
やばっ。
回想お仕舞い。
あまりの心地よさに、無理やりにでも切り替えないと一生現実に戻って来られなそうだった。
天彦は言う。
「このでっかい世界で虫さんの声を聞けるのは身共ら日ノ本の民と、ポリネシア人だけなんやで」
「……」
「この貴種たる身共が芸術性に長けていて、何の不思議がおじゃろうか」
「もしや。商材のネタに御閃きでもございましたか」
「ときにラウラ。都を追いやられたメネゼス提督さん。今はどこに居たはるんやろ。連絡を取り合っていないから知らんとかそんなお建前さんは堪忍やでぇ」
「……越前沖にございます」
「ん。ほな渡りをつけてくれるか」
「はい。ですが老婆心ながらも申し――」
「杞憂や、ちゃんとわかってる。土産はたっぷりと用意してる」
「僭越にございました。では」
「ん、佐吉」
「はっ! ここにございまする」
「代筆を」
「はっ、支度整ってございまする」
「佐吉は偉いさんやなぁ」
「そ、それほどでも。――はっ。恐悦至極にございまする」
その前に、
「算砂を呼び出し、織田さんとの会談を取り付けてほしい」
「では某が」
且元が請け負ってくれた。
天彦は善きにつけ悪しきにつけ常にニュートラルな佐吉の挙動に気をよくしてこっちへおいで。
「まずは神屋宗湛に」
「はっ」
それは何てことはない博多にいる菊亭御用商への召喚命令文だった。
だが次の案件は発声せずに、呼び寄せた佐吉の耳元でごにょごにょごにょ。
「う」
耳にした佐吉を数舜凍り付かせると、今度こそ本物のいい(悪い)貌で小さく薄く、けれどとびきりの笑顔で嗤った。
「織田さんには静観したこと。とことん後悔してもらおうさん。拝領するで三国さん」
それは天彦自らによる天下布武宣言に相違なく。
三国拝領はまさにその代用図柄として家来たちの鋼の心に響いたはず。
おお、
お、おおおぉおおおおおおおおおおおおお――ッ!!!
ややあって巻き起こったどよめきが即座に雄叫びめいた声となり、天彦の小さな耳朶をこれでもかと強烈に叩きつけるのだった。
雪之丞の手前でゅふを封印したのは痛恨だが、まあどうにかなる。
おほ、おほほほほほ――
気高く嫋やかに、されどお家芸である悪巧みはしっかりと軸に見据えて。
天彦はこれみよがしに卑屈笑いの下位互換あるいは代用図柄であるお公家様笑いを響かせて、家中に更なる畏怖を呼び起こすのだった。




