#12 菊亭アマヒコの憂鬱
元亀二年(1571)一月二十六日
おほほ、AHAHAHA――
うふふ、WAHAHAHA――!
六間四方の謁見の間に大勢の笑い声が響き渡る。
だがその笑い声も次第に乾いていき、一人また一人と減らしていく。
「が、ガブラル殿。お控えなされた方が……」
「がはははは! そんな肝の小さいことで極東の蛮地を制圧できるものか。笑え、笑い飛ばしてやればよい! がははははは――」
室内の空気が極限まで乾ききり、いよいよ不穏が見える化された頃にはすっかり笑い声も聞こえなくなっていた。二人を除いて。
その一人である天彦は愛用の扇子で口元を覆い隠すと珍しく待った。そしてガブラル司祭をじっと見つめた。
謝れない人はかわいそう。なんと惨めなのだろう。の感情を浮かべた双眸で。
だが一向に態度を改める気配はない。聞こえてくるは嘲笑含みの馬鹿笑い声だけ。いい加減、飽きてくる。とくに腹は立ってこない。
むしろ新鮮な感覚でさえあった。今となっては天彦にこのような剥き出しの侮蔑感情をぶつけてくる者は皆無だった。だから天彦は待ったのだが。
物事には限度があった。天彦自身の限度もあったが、何よりも周囲の家来たちが放つ堪忍袋の限度の方がそうとうかなり危うかった。焦る。
「おのれ伴天連風情が」
「何たる無礼」
「舐め腐りおって」
「コロス」
「……」
具体的な殺意を口にしている氏郷も大概だが、一番ヤバいやつの無言こそが天彦の焦りを最も急き立てる。やはり高虎の欠席は虫の報せだったのだ。
今更悔いても仕方がない。天彦は焦りながら懸命に考える。
暴力は反対。倫理ではなく好き嫌いの問題で。
延いては血も流せない。善悪ではなく好き嫌いの問題で。
そんな自分の感情を抜きにしても、ここでガブラル宣教師を粛清してみろ。それこそこの絵を描いたあるいは描かせた人物の思惑にまんまと嵌るに決まっていた。
それこそ結果は火を見るよりも明らかで、格好の口実与え。天彦の仮定する人物が仕掛け人なら、ここぞとばかり一気呵成に仕掛けてくることは当たり前に予想できた。
蹴散らすのも一興だろう。少なくとも胸はすく。だが天彦の欲しい答えはそれではない。
外国勢の力は出来る限り取り込みたい。温和に柔和に。
だが……。
気配はいよいよ殺伐を超えて危険領域に達しつつある。……まんじ。
家来たちのことは信じている。頼もしくもあるし親しみを感じている。ともすると実の肉親たち以上に。
だが一方でこうなったときは必ず、己の不甲斐なさや非力感を痛感して孤独を痛切に感じるのも本心である。
極論、自分は舐められている。いつまでたっても非情に徹せられない自分は、心のどこかで侮られている。そう感じずにはいられなかった。
彼ら武家勢は何度説こうと同じ過ちを繰り返した。己の意に沿わずば暴力に訴えてしまうのだ。それが家業、あるいは本懐なのだとすればやはり人種が違い過ぎた。それでは一生わかり合えない。当家は公家。断固誰が何と言おうと雅楽を伝奏する風雅家なのである。
しかもこの最悪なのは、天彦の意に反しても最後は許されると高を括られてることであった。天彦は自責の念ではなく事実としてその風潮を強く感じとっていた。
側近に視線を配る。
ルカは論外。ラウラも同様。冷ややかな視線に煮えたぎるような殺意を浮かべてしまっていて、是知もダメ。佐吉はもっとダメ。見習いキッズたちも話にならない。文官たちですら激怒の感情を隠せていない。じんおわ。控えめにいって終わっていた。少なくともこの場の誰ひとりとして、理性からは遠くかけ離れていた。
あるいは与六がいれば多少は流れが違ったのだろうが、今はいない。居てくれない。三介救出という重大事案だとしても用事を言いつけたばっかりに。
やはり信頼できる人材は手元に置いておかなければならない。即ち人材が足りていない。そうだろうか。……いや違う。たしかに人手不足だが、それ以前に菊亭には重大な何かが欠けていた。そう。圧倒的に理性が欠けていたのである。とか。とて。
汚職・貧乏・暴力を社会の三大悪とするのなら、汚職がないだけ当家はましな部類か。天彦は自嘲する。他家などは貧乏で汚職に塗れ暴力三昧の日常に毒されているのだから。しかもその日常に違和感さえ感じずに。覚えずに。
つらつらと刹那で益体もないことを思いつつ、
考えろ、考えろ、考えろ――。
あの阿呆かわいい家来たちの留飲を下げられる冴えた手立てを。
あの馬鹿キモ真っ直ぐな暴力脳たちの沸騰した頭を一瞬で冷やせる妙案を。
でろ、でろ、でろ。捻り出せ。
……これか。
格式と品位に能う応接はこれしかない。少し、いや少しでは済まない迷惑を実益にはかけてしまうが、魔王あたりは激キレするか。だが、ない。これしか。急場を凌げる妙案が。
天彦の捻り出した答えはこれ。
あるいは己が最も過激派であることを気付かずに。あるいは棚にあげまくった捻り出した答えがこれ。
天彦は愛用の扇子で天井を指し示す。そしてゆっくりと言葉を発した。よく響き渡るいい声で。
「God Knows」
神のみぞ知る――と。
すると天彦が発したその二語に笑い声がぴたりとやんだ。
怪訝な表情を浮かべながら双眸鋭く天彦を睨みつけるガルバス宣教師を尻目に、宣教師一団は天彦の期待以上の反応を示してくれた。
対して菊亭の面々は字面の意味を理解していないことも手伝って、まだその事実に気づいていない。辛うじてラウラを始めとした射干一党が微かに反応を見せただけで、依然として高い殺意を発散させて波乱を継続させている。
だが次の瞬間、空気はガラッと入れ替わった。
「チェンジで」
おおぉおおおお――
けっして小さくないどよめきが六間四方の謁見の間に響き渡った。
対する宣教師一団は今度は一転、逆にぽかんである。
それはそう。“チェンジ”とは交換の意味であり、まさか社会からの退場を意味しているとは誰一人として想像できないから当然である。
だが菊亭における“チェンジ”とはまさしく最後通牒の意味であり、その通りの結果をもたらす最も恐ろしい言葉であった。
菊亭に限らず菊亭と関わり合いにある者なら多くが知る言葉であり、あの織田家中にさえ最上位の警鐘を鳴らす言葉として周知徹底されているほど。それほどにこの“チェンジ”は当主天彦の完全な拒絶の意を表す語句として、上に下に浸透していた。
それを証拠に天彦に何らかの意図があると察してくれたようで、室内に蔓延っていたあらゆる害意が霧散していく。
「ほっ」
家来たちのつぶさな理解に天彦はほっと胸を撫でおろす。
やはり理解力こそがこの世で最も尊い知性であることを実感しつつ、だが油断は禁物。お馬鹿さんたちはすぐに沸騰してしまう。何せ戦闘民族なので。
天彦は対面に目を向ける。
すると一団の怪訝を代表し、通訳のロレンソ了斎が口を開いた。
「菊亭様、チェンジとは如何なご要望にございまするか」
これには天彦、待っていましたとばかり満面の笑みを浮かべて応答した。
「おほほほ、よくぞ申した。その通りの意味におじゃる」
「……重ね重ねお尋ね申し上げまする。その通りとは如何なる仕儀にございましょうや」
「その通りとはその通り。それ以上でも以下でもおじゃらぬ」
「そこを押して何卒、ご教授くださいませ。何卒」
「意志の疎通とは斯くも難しかったでおじゃるか。ならば無粋ながら申しておじゃろう。その通りとは日ノ本よりイエズス会を追放いたすことにおじゃる。どうじゃ理解できておじゃろうか。ほほ、おほほほほ」
「な――ッ」
これにてお裁きは一件落着。下がりおれ――。
得意満面。家令ラウラの間髪入れない非情な通告の言葉が凛と響く。
ラウラの発した言葉は一切の妥協を許さない意思を伝えるには十分な威儀を備えていた。
そしてラウラは菊亭一のしごでき女史である。彼女は念のため、母国語でも退室を通告するのも忘れない。
「Esto lo va a terminar, bajar de inmediato」
これにより疑いようもない交渉決裂を理解した一団だが、けれど相変わらずチェンジの意味までは理解できていないようであった。
よもや決裂を想像もしていなかったのだろう。場がにわかに騒然とする中、
おいロレンソ、何を言っているのだあのチビサルは。
日本管区長ガブラル司祭は、通訳のロレンソ了斎の肩を揺すって催促した。
「何を」
その答えを聞いたガブラル司祭は、やれるものならやってみろ。言わんばかりの剣呑な気配を纏い、双眸鋭く対面を睨みつけた。
「我らイエズス会はこの辺境の野蛮極まりない島国に大いなる恵み、即ち知性と富をもたらしてやっている。貴様はそれすら理解できぬのか」
「ありがたいことにおじゃりますぅ」
「ふんそのくらいは理解はしているようだな。ならば問う。貴様らが頂くジェネラルノブナガはこのワシをいたく重用されておられる。それを排除するだと。できるのかチビ。貴様にそれが」
「うふふふ、だから申し上げたでおじゃる。God Knowsと」
「ふん、くだらぬ。やはりできぬのか」
「God Knowsにあらしゃりますぅ」
「ふん虚勢だけは一丁前か。蓋を開ければ容易にめくれる。部下の手前、体裁を整えるだけの張り子の虎とはがっかりしたぞ」
「おほほほ、ようご存じさんで。この通り何もかんも小っこいので、日々体裁を整えるだけで精いっぱいにおじゃりますぅ」
「訊くと見るとでは大違いとはよく言ったものか。しかしこのチビサルごとき何を恐れているのやら。この様子では提督の任期も短そうだな。おい帰るぞ」
会談は平和裏に終えられた。
家来たちに伝わらないことをいいことに、天彦は徹底的に手を抜いた。
むろんラウラには筒抜けだが彼女は聡い。会話に隠された本意など説明するまでもないだろう。
らっきー。
この言葉に尽きるだろう。それはそう。やはりガブラル司祭を操っていたのはメネゼス提督であったのだ。しかもどうやら魔王様もいっちょ噛んでいる風。……たく、油断も隙もあったものではない定期。
その自分たちがけしかけた人物が、侮辱した上にあろうことかキレさせた。あの菊亭天彦を。
この事実は寒風吹き荒む京の都に、極寒の報せとして吹き抜けることだろう。二条第も内裏もどこもかしこも、凍えればいいと思う。
おおさむ。
天彦はこの二つの事実を最大の収穫とし、満足げに席を立った。
そしてにやり。
イエズス会追放は嘘ではない。その意志を伝えるべく念を押す言葉を残して。
「本日を限りに日ノ本にあらしゃいます、イエズス会は菊亭の敵と相成っておじゃる。手始めに佐吉」
「はっここにございまする」
「ローマ教皇にお手紙を書く」
「はっ」
「イエズス会の横暴と身共への侮辱を、あるがままに認めよ」
「はっ。確と申し受けましてございまする」
天彦はうんと頷き視線を移す。
「次に氏郷」
「はっ」
「都におじゃるイエズス会奉じる全教会を、すべて残らず破却せしめるでおじゃる。お前さんには酷な務めか」
「否にございまする! 確と承りましてございまする」
「よいのか」
「はっ、殿はゼウス神を否定なされた訳ではございませぬッ。それを証拠に伴天連とは一切申されておりませぬ」
「うむ、よう申した。菊亭はこの侮辱、雪辱を晴らすまでけっして京には舞い戻らぬと、家内総じて肝に銘じよ」
「ははッ――!」
は……!?
通訳のロレンソ了斎が凍ったように固まる中、
「殿の御退室であらせられる」
はは――
側近是知の間髪入れぬいい声が六間四方に響き渡る。
一番に退室していくその小さな背中を家来の誰もが、まるで眩い光でも見るかのように細く目を窄めて恭しく見送るのであった。
対して残された宣教師一団の、とくにフランシスコ・ガブラル司祭の顔といったら……。
ざまぁ。
◇◆◇
妙国寺の一角にある家令執務室。
そこでは部屋主であるラウラを始めルカ・イルダ・コンスエラといった射干の重鎮たちががん首を揃える射干の秘密裏な会合が開かれていた。
ラウラは手にする文に目を落とし、『織田三介殿を謀ったは生駒家で相違なく候』の不穏な文言に視線を落としたまま、ぽつり。
「母方の御実家と記憶しています。そうですか。生駒にはイエズス会の手が入り込んでいるのですね」
情報網に引っかかるネタがあったのだろう。最近まであちら側に居たラウラは確信的につぶやいた。
だがイエズス会に籠絡されているのは生駒家ばかりではなかった。今や武家どころか公家も多くが取り込まれ、寝技に力技にとほとんどの界隈が取り込まれていたのである。
中でもとくに商家は酷かった。あの生駒家が流れを汲む近江商人などはとくに酷く、すっかり一味と化していて、その惨憺たる有り様は能天気な天彦をして未来の現代を憂うほど、なのであった。
いずれにせよそれほどに欧州文化は根深く入りこみ、日ノ本の民は異文化発祥の芸術品がもたらす様々な富を享受している。
それが京にも遅ればせながらやってきているのだとラウラは感じた。
善悪や適否ではなく、あくまで単なる事実の認識として。
ラウラのそのつぶやきに、
「見っけたのウチだから」
「ウチも頑張ったから。その先も調べてるし」
褒めて褒めてとぶんぶんに尻尾を振る駄犬に対し、ラウラは素っ気なく応接する。
彼女らは本質的に異邦人。日ノ本の文化がどうなろうと究極的にはどうでもいい。どうでもいいに語弊があるなら感心がない。あるのは常に一党の繁栄だけ。延いては主家菊亭の繁栄も同様に。
「ずずず、ああ美味しい茶葉ですこと。さてイル。これの真偽は如何ほどで」
「もぐもぐ美味ぁ。うん、ほんとだよ。100ほんと。だってうちが直々にオニ締めしたから間違いないよ」
そうですか。
ラウラはその信憑性を推し量るように、イルダとコンスエラを交互に見比べた。ときおり怜悧な双眸を怪しく光らせて思案顔を浮かべながら。
と、そこにルカが疑義を挟んだ。
「イルダお姉様、罠なのではありませんか。どうしても信じられません」
「おいコラ三下、テメエがこの私に筋を問うのかよ」
「テメ、こないだの借りは忘れてないかんなコロス」
「くっ」
刺すような殺意に晒され分の悪さを感じたのかルカは引いた。
だがルカの疑義も尤もだった。そのネタの出所が目下家内で鎬を削る、風魔党から持ち込まれた(強奪したともいう)ネタとあっては。
あるいは厄ネタの可能性も無きにしも非ず。なのでは。
ルカはあるいは側に比重置いている派なのだろう。気丈にも食い下がろうとした。だがそのタイミングでラウラが口を開いた。
「いずれにしても風魔党は邪魔ですね。そこに異論はありません。イル、コン。許可します。思うように動きなさい」
「いいのかよ!」
「やた。殺っちゃっていい?」
「お好きになさいと申しました」
「へへ、ざまあみろてめえルカ」
「おら、これがうちらの信用だぜ。わかったかクソガキ」
二人は得意満面、ルカへの暴言を残すと疾風のように部屋を出た。
慌てん坊の二人の背中を見ながら、するとラウラは、愛用の鉄扇で口元を隠すとルカを手招く。こっちにおいで。
ルカは恐る恐る膝を擦り寄せ、
「よいのですか。風魔党の小太郎殿はお殿様の信厚い御方ですが」
「いいのです。どうせ大したことはできません。それこそ貴女の口から出たように、小太郎殿が大人物ならば。違いますか」
「試されるのですね」
「そんな不遜、するわけがない」
「……はいご無礼を。ですが家令様、誤解です」
「どうしたのルカ、そんな苦い顔をして。私が何か誤解をしたと申すのです。ひょっとして茶が口にあいませんでしたか」
「い、いえ。いただきます」
「そうなさい」
ずずずず、ずずずず。
苦い。苦すぎる。これを千振茶と言われても納得するほど苦かった。
「はぁ、美味しい、です」
「貴女の舌はバカ舌ですね」
「え」
「ですが正しい。やはり貴女はお利巧さんね。この茶葉は殿にお取り寄せいただいた宇治の最上級。逸品で鳴らす上物です。……風魔党が取り寄せた」
「あ」
そういうこと。
敵は敵で中々やりおる。毒でなかっただけ上々なのであった。
「風魔党をお潰しに」
「そんな軟であればよいのですが」
「はい。手強いと思います」
「それこそGod knowsなのでしょう」
「と、もうされますと」
「主家に役立てば栄え、役立たずば滅びる。それだけのこと」
「はぁ」
「ということで、こちらが真なる高級茶葉です。むろん殿にお強請りしました」
「家令様ばっかり。ずるいです」
「貴方ね」
ルカばっかり。こそ家内で囁かれる最上位の呪詛であった。
ラウラは半ば呆れつつも頼もしそうに部下を見つめる。そして態度を改めた。部屋の空気が一変するほど。
「ときにルカ」
「はっ」
「お前は慎重になさいませ」
「……と、申されますと」
「当面はイルとコンに家中を引っ掻き回わさせます。だから貴女は静観なさい」
「意味を理解しかねます」
「承知しているくせに」
「……お言葉を頂戴したく」
「よいでしょう。この一件、殿には内密に致しなさい」
「え。……ですが」
「いたしなさい。よいですね」
ラウラは断固言い切った。
一分、二分、三分と、途轍もなく長く感じる重苦しい空気が流れる。
ややあってルカは意を決する風に沈黙を破って言った。
「……いいえ。お言葉ですが、そればかりは承服いたしかねます」
「ほう。私を信じられないのですか。いいえ、射干の宗主たる私の言葉に従えないと」
「はい、いいえ。義務に反する心算など更々なく。ましてや信義の問題ではございません。申し訳ございませんがそれは信条に反します」
「ほう、命を上回る信条とは。申してみなさい」
「はっ、お殿様にお誓い申し上げておりまする。お殿様にはけっして秘密を作りませぬと。これだけは絶対のぜにございますれば、何卒ご容赦くださいませ」
菊亭にとっては崇高で正しい。反面、射干を預かるラウラからすれば明らかな離反の言葉。
しん。
ただでさえ冷たい室内の空気が更に冷えていく。
ルカはラウラの一声を待った。それこそ凍える気持ちで。ともすると震えながら。
だがラウラは目元に微かな笑みを浮かべると、どこか満足げに目を三か月に形どった。
「そうですか、あのルカが。といっても私は貴女の為人を知るほど認知しておりませんでしたけれど。ですが、ああなるほど。これがルカ。うふふふ」
こっわ。
控えめに言って恐怖である。
だがルカは不思議と、その応接に許しを感じ取っていた。あるいはそもそも怒ってさえいないのかもと感じてしまう。不思議なことに。
「お、お怒りになられませんので……?」
「怒っておりますとも。業腹ですよ。ですがよいでしょう。私は“内密に致せ”確と申し付けましたからね」
「え」
言い残しルカにそっと退室を促すのだった。




