#10 戦国一のならず者
元亀元年(1570)十二月十三日
言経は確と請け負うと言った。だがそれは暗に達成条件を仄めかす意味合いが強い。
銭を調達できるなら請け負うことも吝かではない。
そう受け取るのが公家の流儀として自然である。
そして同時にこれは挑まれている。何しろ天彦の菊亭が目下素寒貧なのは事情通でなくとも広く知られている事実だから。
そして絶賛追放処分され中。あらゆる利権には蓋をされた状態で、目下収入源は辛うじて唯一、東宮御所から気持ち程度の役職料(別当)が支払われている程度である。ほぼないと言っても過言ではない。
それを踏まえて、
菊亭ちゃん、お前さんにそれができるのか。挑戦状を叩きつけられたのである。
それも勝てるかどうかはわからないかなり分の悪い状況で、普通に考えれば劣勢だろうかなりしんどい展開であるにも関わらず。
だが我らが菊亭天彦くんは水を得た魚のように生き生きと正の感情を迸らせた。いつもの鬼気迫る緊迫の気配を前面に押し出して我関せず。周囲の目などどこへやら、己を世界の中心として思考に没頭しているのである。
すると、
「若とのさん、なんや嬉しそうですね」
「そうか? しんどいけどな」
イツメン含め居合わせる誰もが示し合わせたように遠慮する中、ノンデリ超特急雪之丞だけは天彦が醸す触るな危険の雰囲気を物ともせずに突貫してくる。
そんなことを気にしていたら天彦の兄役などとても務まらないと言わんばかりに。
「嘘ですね」
「ん? 唐突になんやのお雪ちゃん」
「だって若とのさん、不っっっ細工なお顔さんして笑ろてはりますもん。だからウソです」
「やめとけ!」
雪之丞は口で必ず失敗する。痛い目は見ても本人が気づかないまであるのでちょっと違くて。いずれ大失態を犯すであろう。
あの当たらないでお馴染みの室町のショタでさえズバピタで推し当てるほど一言は余計だったが、雪之丞の指摘通り劣勢が天彦を嬉々とさせることは事実であった。
これこそが天彦の真骨頂。あるいは性分。難解局面であればあるほど闘志が滾ってしまうのであった。
「やめてよろしいのですか」
「ええやろ。こう見えてまあまあ気にしてるんやで」
「ウソですね」
「さっきから人をウソつきよばわり。いったい全体どういう心算ねん!」
「どうもこうも、だって某が絡まんと淋しいくせに」
「いや清々しいの間違いやろ」
「ひどいです! 若とのさんのウソつき」
「酷ないやろ」
「あ」
「あ」
くくく、うふふふ。ははは、あはははは。
天彦は堪らず失笑してしまう。雪之丞も釣られて笑う。
するとたちまち空気が和んだ。
柱の陰で与六が悪い顔で頷いているところをみると、雪之丞をけしかけたのはどうやら、お察しのようである。
いずれにしてもこれは雪之丞を措いて他の誰にもできない芸当。プロの技前を披露して場の空気感をごっそり変えた。
これはお世辞ではなく雪之丞をおいて他にはできない。何しろ天彦、当主である以前に普通におっかないのである。むろんフィジカル的にではなくメンタル的に。神仏の存在が極めてリアルで近しい時代だからこそのおっかなさ。恐ろしさを秘めていた。
故にそんな天彦に睨まれて、涼しい顔でいられる家来はいなかった。
彼はただかわいい(不細工)だけのショタではなかった。
「算盤弾いたはるんですか」
「それもあるなぁ」
「ふーん。でも考え込んでもどうせ煮詰まるでしょ?」
「なんでや」
「だって答えはもう持ったはるんやもん。でしょう?」
「……」
信頼感がえぐすぎ晋作!
「大は小をカーネルサンダース!」
「……なんですの、それ」
あ、はい。
ボケはすべった。なのでこれといってまだ何も浮かんでいないとは言い出せない彦は、仕方なく笑えば自動的に含みのある顔になるいい(悪い)顔で薄く嗤う応接にとどめる。
「やっぱしや。あとは選ばはるだけやのに悩んだはる。つまり煮詰まるだけ。どないです」
「お雪ちゃんのくせに生意気ねん」
「ほら! ほなそれがしの勝ちですね。御褒美ください」
「勝手に賭けが成立してた!」
「吝嗇なことを。どうです、城下にでも繰り出しませんか」
「む。なんや可怪しいさんやな。……お雪ちゃん、正直に申してみ。してその心は」
「さすがです。実は某、気になって仕方ありませんねん。何やら外曲輪の楽市に玉椿なる甘味が売られているらしいんです。若とのさんは御存知ですか」
「銘菓玉椿か。薄ぼんやり訊いたことがあるようなないような。どんなさんやったかいな。うーん」
和解はしているがここは小寺(黒田)の居城。
万が一にも間違いが起こらないとも限らない。なので雪之丞たち面割れしているイツメン衆の町ブラは厳に禁じられていた。むろん家令発信による厳命である。
「ね、余計に興味でましたやろ」
「美味しそうなことに違いはないか。……よし。ほな昼食を呼ばれたら久々、皆で城下に参ろうさん」
「やた」
「そやけどお雪ちゃん、ラウラの説得は一緒にしてや」
「厭に決まってますやん、アホですか」
「あ」
おおぉ……!
むろん文武に関わらずイツメン衆はにんまりほっこり。
対するあまり馴染みのない新参侍衆は思わずといった感嘆のどよめきを上げるのだった。
「で、勝てそうですか」
「さあどないさんやろかぁ」
「ずるいです! 某だけにはこっそり教えてくださいよ」
「厭やろ」
「何でですのん、若とのさんのけちんぼ!」
「何でって話したら最後、某だけでもこっそりでも絶対になくなるからやろ。絶対の絶対に厭やろ絶対」
「あ!」
あはははは、わははははは、がははははは、げらげらげらげら――!
今度は譜代も外様もなく一同がどっと笑い大歓声を沸かせた。
「たしかに気分転換にはなりそうやな」
「でしょ」
口調こそ余裕ぶってはいるものの、ぶっちゃけしんどいことは紛れもなく。
だがどんなしんどい場面でも勝負としては“たいへん”以上にはしなければならないのだ。
たいへん以上、即ち勝率45%以上の手は理が非でも打ち返さなければならなかった。勝手一方的に押し付けられた後手番だったとしても。
清華家筆頭、藤原長者としてのメンツに懸けて。天彦の思い描く国家千年の計達成のためにも。
そんな壮大なスケール感でなくとも近視眼的に、彼ら公家衆を単に振り向かせるだけではなく、ケーススタディとして強烈なインパクトを与えた上で引き寄せたいという思惑もある。
欲張りと承知で、願わくは“菊亭やばくね?”とか“敵対したら損じゃね?”に代表される天彦忌避感情の向こう側にあるはずの畏敬の念を抱かせたい。
「お食事の支度が整いましてございます」
「ん。おおきに。ほな参ろうさん」
はっ――。
ここは腕のみせどころであった。
天彦は昼食の間に向かう道中もずっと、鼻息荒く利き腕をぶん回す勢いで必ずあるだろう勝ち筋を読み耽るのであった。
◇
午後一番、高見えセットアップ(狩衣)でおめかしした天彦は、イツメン衆(雪之丞・ラウラ・ルカ・与六・且元・氏郷・高虎・次郎法師・是知・佐吉)とイツメン衆の侍従(市松・夜叉丸・悪四郎)を引き連れ、雪之丞発信である城下外曲輪に赴いていた。
「若とのさん、ここです!」
「いらっしゃいませ――」
暖簾をくぐり、
「邪魔するで」
「あらまご立派なお方々。ですがあいにくと個室は埋まっておりまして」
「そこらでかまわへん」
「よろしいので」
「ええと申した」
「はい。ではおかけくださいまし。お茶をお持ちいたします。それまでは品書きでもご覧になってお寛ぎください」
「ん」
仕切りはすべて雪之丞。彼は茶店事になると俄然張り切る。
天彦は向かって最奥、入り口から最も遠い席に腰かけた。両サイドを与六と高虎の巨人組二人が固め、他は順次。
「殿」
「なんもないさん」
天彦は椅子の高さが合わず足が微妙(完全)に宙ぶらりんとなってしまう高さに若干苛立ちながら、与六の気遣いに目配せの感謝を送る。
さて、本題である。
言経が残したサインは一万貫or六万貫。
あるいはワンチャン“いいよあるときの今度払いで”のグッドハンドサインだった。
だが自分勝手に解釈するとたちまち友だちを失うのでとうぜん後者は選べない。
すると1~6となる。なるほど自由度は高そうだった。
一言に一万貫と言ってもそう気軽な額ではけっしてない。インフレ率激しい元亀ならざっと未来令和換算18億円相当の銭である。18億から108億。この乖離幅に頭を悩ませない者はいないだろう。仮にいてもアホなので置いていく。
「ゆーてる場合か。むっず。むずすぎるん」
むろん設問の難易度ではない。出題としてはむしろ優しい。
要するに言経が送ってきたハンドサインは解釈の余地がありすぎた。あるいは言経から発信されるハッシュタグがフェイクすぎたのだ。
迷わせ惑わせ引き寄せる。これぞきっと山科家のお家芸なのだろう。知らんけど。
つまりこれは値付けである。答えなどない。
解答猶予は彼が京へと舞い戻るまでの残り二日間。その間に天彦は山科言経という人物に対し値段をつけなければならなかった。
しかも彼が納得する金額かつ山(公家)が動かせる金額でなければならず、そしてその賄賂がリアルであることを証明する担保も添えなければならなかった。
即ちその資金調達手段も同時に捻り出さなければならなかった。この短期間の間にである。
絵に描いたお餅はけっして食べてはくれず、おほほと笑ってさえくれないだろう。逆に冷笑ならいくらでもくれるだろうけれど。
それほどに天彦を取り巻く最近の風潮は辛かった。
だが誤解なきよう。
京都といえば信用商売発祥の地。そう言われるほどツケ文化は浸透していて、市場にはすでに信用小切手の先駆けのような何かが出回っているくらいには信用商売が成り立っている。
それは公家社会でも例外はなく、彼らこそむしろ人の信用に値を付けて商売するのが専らであった。
だが天彦の信頼度は先バレ設定しているときの先バレなし疑似連なしリーチ演出くらいげろお寒い。つまりアタリほぼゼロ確。
家柄も家格も血筋も地位も名誉も申し分ない位置にあるというのに。
なんという信用のなさか。なんという信頼度の低さか。我ながら泣けてくるではないか。
偏に、風呂敷を広げさせれば天下一品にして与太話ならいくらでも。法螺ならほぼ無限に吹ける天彦の、これまでの生き様が祟った結果であった。
こと銭に限っては無類の信頼のなさを誇っていた。
「じんおわ」
最近の風潮として辛いのも偏に、誰も彼もが一瞬立ち止って考えるようになってしまっていたのである。
口約束より先にまず菊亭専用フィルターを通されてしまうのが痛恨であった。
だから何度でも言う。
「むっず」
――と。
「若とのさん、これはもうお店のお味さんですわ!」
「そのネタむっちゃんこ擦るやん。一応突っ込んでおくけどお雪ちゃん、ここはお店屋さんやで」
「むしゃむしゃごくり。知ってますって。うまー! あの……」
「ええさんよ。いくらでもお食べ」
「ほんまですか!」
あかんの選択肢がない顔で訊かれても笑笑。
玉椿はやはり天彦の思うまんまの姫路銘菓。手間暇かけたこしあんの高級甘味だった。
だが雪之丞の口には高級すぎてあわなかったようで、彼は口直しの串団子を頬ばったところである。
「やった!!! 用人さん」
「はいお武家様」
「追加や。ほな串を、ここに乗るだけ、……百つ! 大至急持ってきてんか」
「百つ……! 凄いです! お待ちくださいね。――お父ちゃん、たいへんや大急ぎで助っ人呼んでこなあかんわ」
やめとけ! あかんやろ。百つは。
イツメンたちは大笑い、または失笑しているが天彦は笑えない。
何しろ雪之丞の団子狂いは常軌を逸していて、下手をするとほんとうに完食してしまう恐れがあった。
むろん気懸りは身体のことではない。ないこともないが一番の気懸りはお財布である。天彦のお財布事情はそれほどに切迫していた。そういうこと。
「馳走であった。娘、取っておくがよい」
「ありがとうございます。――まあお侍様。こんなにも、およろしいので」
「武士に二言などあろうはずもなかろう。これを契機に気張るがよいぞ」
「なんと気風のよろしい御方。ありがとうございます、そのお気持ちを糧に気張ります」
勘定をつけたのは意外にも高虎であった。
彼は何と財布ごと放って寄越したのである。どうやら中には小判が数枚、銀貨も数個入っていたようで、やや苦い表情になっているのはきっと想定外だったからだろう。支払い役もお財布の中身も。
「津軽弘前銀か」
「殿の御慧眼、この高虎、恐れ入ってございまする」
「津軽右京太夫、如何な人物におじゃったのか。またゆるりと土産話でも訊かせてさん」
「……!?」
「なんやそないびっくりして。さっきのんは津軽弘前銀と違ごたんか」
「つくづく以って殿の御慧眼、この高虎、恐れ入ってございまする」
「らしゅうない畏まって。高虎、苦労をかけたな。この通り堪忍さんやで」
「め、滅相もございませぬ! 某、善き見分となったと逆に感謝申し上げてござる」
「身共のお目目が黒い内はずっと傍に居ってやで。頼りにしてます」
「なんと勿体なきお言葉、恐悦至極にござる。は、はは――ッ」
天彦はほんのチラ見で高虎の所有していた銀貨の出所を推し当て、そして浪人であった高虎がどこに居たのかまで当てて見せて、高虎はもちろん周囲をあっと驚かせた。
天彦は畿内経済圏政策検討のとき、射干に指示して全国各地から実物銀貨を取り寄せたので非常によく知っていたのであった。
この時代の貨幣はまだ完全には規格されておらず、特に銀貨の規格はまちまちであった。現在およそ二十の銀貨が存在しそれを領国銀、または領国貨幣と呼んだ。
畿内経済圏の展開に伴い目方(重量)で割合公正な取引がされるようになってはいるが、製法やそれに伴う純度の違いによってまだまだ完全一致には程遠かった。
「ほな町ブラでもしよか」
はは――。
ドヤ顔彦が茶屋を出て気分よく町ブラをしようとした途端、
「テメエ、誰に断って店を出してやがるんで」
「こ、ここは天下の楽市楽座。どなた様のお断りも無用と存じますが」
「ほう。度胸だけはありそうだな。ツラも案外悪くねえ」
「財布の中身もたっぷりあるといいんだがな」
「お姉ちゃんら。儂らを泣く子も黙る高砂一家と聞いてもまだ白をきれるかい」
た、高砂……。
行商だろう女衆がやくざ者だろう凶賊に絡まれている場面に出くわした。
行商の荷物持ち兼護衛らしき男どもはとうのとっくに逃げ去っていた。そんな場面に出くわせたのだ。
「お殿様」
「スルーで」
「もう」
ルカに半目で睨まれても面倒事とは遠ざかりたい。
当たり前だがおっかない何てことはけっしてない。何しろ彼らこそが戦国一のならず者なのだから。
ならばなぜ。つまることころ高砂一家なる凶賊が果たしてどれほどの賊かはわからないとしても、周囲の反応を鑑みるに吹けば飛ぶような勢力でないことだけは確かであるから。
すると即ちその背後には必ず奉行所か有力国人の存在があるとしたもので。
あるいは最悪、小寺の直参家来である可能性も捨てきれない状況下、彼ら凶賊自体が土着の豪族ならばむしろ重畳なほどの場面である。
今はそう。暴力と権力が密接に絡み合う。そんな民度の時代なのである。
「今は誰とも揉められん。心苦しいさんやがな……」
和睦はなった。官兵衛のごり押しで。むろん反対勢力も数多く現存していることだろう。
天彦の菊亭はさることながら、徳川にもその背後の織田家にも播磨勢を圧倒的に黙らせる力は、権力も財力も微力でもまだないのである。
仮に従っているテイを装われようものなら控えめに言ってお仕舞いです。
これからの征西が地獄の一丁目ロードになることは火を見るよりも明らかであった。
特に家内(伊予)に火種を抱えている菊亭は猶更のこと、播磨勢の利用価値延いては存在意義が桁違いに跳ね上がっている。播磨勢とは滅多なことでも事を荒立てたくはなかったのだった。
天彦がその場を離れようかどうか逡巡していると、一人の美丈夫(男装の麗人)がさっと一歩を踏み出して発言した。
「ルカ殿、殿の御心をそう惑わせるものではございませんよ」
「次郎法師殿。お言葉なれど申し上げる。差し出口を挟まないでいただきたく」
「これは異なこと。当家における御法度には直言御断無用の作法がございましたように記憶しておりますが」
「したり顔で申されているところ恐縮なれど、これは作法の話ではございませぬ。悪しからず尻尾を巻いて黙られよ」
「なに。ならば猶更黙れませぬな」
「下がれと申したが」
「故に下がらぬと申したまで」
やめとけ。
この場合、おま合格。吐き捨てる感じでルカが正しい。
この場を見て見ぬふりをしてやり過ごすと、後でどうせ猛烈に後悔する。
ルカは暗にそう言っているのである。業腹だけれど天彦のことをとてもよく理解していたルカの勝ち。
「次郎法師。おおきにさん」
「殿……」
「ふっ、ほらみろ外様風情が」
「裏切者の系譜がほざく」
「なに」
「なにか」
やめとけ。
天彦は遭遇した場面を俯瞰で見る。
まんじ。
やはり第一感、あらゆる勢力の息が掛かっていると感じた。
「ん……?」
だがどうしたことか。
絡まれている女衆の一人、おそらく主人であろう少女の顔に、妙な既視感を覚えてしまう。
するとどうだ。胸騒ぎと同時に胸の内から沸々とこぜ6感が込み上げてくるではないか。
「みいつけた」
天彦の表情ときたら。それはもう筆舌に尽くしがたく。
控えめに言って終わっていた。
いずれにしても格好の材料を。それも一石二鳥の好材料と遭遇、いや邂逅したのだ。これを逃す天彦ではない。
「くくく、顔見知りの御方さんならご無沙汰さん。当代を引き継いだ初めましての御方さんなら、……でゅふ」
ガクガクブルブル……!
護衛代わりに脇を固めるイツメンたちでさえ思わず反射的に仰け反ってしまうほど、天彦の愉悦の感情はおどろおどろしく周囲にどばどば漏れ出ていた。
と、
「誰さんかは存じませんけど、疾く逃げてー」
「なんでやねん――っ!」
雪之丞は天彦の久々本域のなんでやねんを引き出して、物の見事に自身の額に愛用の扇子を炸裂させた。
「痛いです」
「そらそうやろ」
「酷いです」
「酷いのどっちなん」
「それ本気でゆーたはりますの」
「一生本気。それが身共の座右の銘」
「あ」
「あ」
酷いのは果たしてどっち。
イツメンたちの泳ぐ目線が何よりも明快に物語っているのであった。
【文中補足】
1、狩衣(かりぎぬ)
公家の最も一般的な外着。運動性が高いため日常の普段着として愛用された。
また狩衣に冠を被ることは余程特殊事情でもないかぎりなく、その点に関しても天彦は一番のセットアップとして愛用している。
猶、庶民は水干を着用していた(絵は各人でググってね)。
水干は狩衣と同じ発祥で元々は庶民の平常着である。その名残は狩衣にない「菊綴」と呼ばれる総が前、後ろの要所要所にあった。
これは切れやすいところを補強して縫った糸の端を房状にほぐしたものが元になっていて、狩衣にある首上のとんぼはなく前後に付けられた紐で結ぶ。 烏帽子は五位以上が立烏帽子、六位以下が風折烏帽子。
2、玉椿(たまつばき)
姫路の代表銘菓である、天保年間 11代将軍徳川家斉の娘と姫路城主酒井忠学との婚礼の頃に作られた。 しっとりとした黄身餡を薄紅色の求肥で包んで「椿の花」に見立てており原材料に 白小豆を使用している。美味しいよ。
3、こぜ6。
これ絶対設定6。スロカスが午前中の挙動で思うあくまで願望ベースやつ。




