表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
十六章 貴種流離の章
260/314

#08 あるいは稀によくある流れのひとつとして

 



 元亀元年(1570)十二月九日






 月山富田城攻略はいったん棚上げ。天彦は与六に撤退を命じていた。


 最終的に決定を下したのは徳川であった。またの名を責任逃れともいうが、その方が面目がたったので。尼子勢に自信満々大見栄を張った手前、ものっそハズいし。

 だが実際のところさすがの家康公をしても、十六八重表菊の意向を無視することはできなかったのである。むろん宮廷雀が恣意的に操った勅令なき偽造文書であることを分かった上で。


 朝家の忠臣たる菊亭天彦にも異論はない(棒)。要するに内裏工作には時を要するということである。

 何しろ彼ら公卿に代表される貴族たちは、石橋を叩いて叩き過ぎてぶっ壊すほど叩きまくる慎重派が主流派を占めているのだ。菊亭株など危うくて、おいそれとは買ってくれない。よってロビー活動には時を要した。むろん銭も。たっぷりと。


 当然だが天彦は内裏の心情はあまり気に留めていない。今となっては。

 そもそも論、政局自体にあまり関心を持っていない。出世欲がほとんど皆無ということもあるが、それより銭。何よりも銭である笑。よって内裏の意向はあくまで貴族としての良識、民としての一般論として受け止めているだけに過ぎないのである。

 とくにおっかない父であり偉大な上司であり人々の神であった帝がお隠れになった今、天彦に内裏の意向を意識する謂れはほとんどなかった。


 ならばなぜ。

 それは簡単。絶対に公卿の協力を取り付けなければならない人物が陣営にいるから。

 今後政の中心に座り思う存分辣腕を揮うためには、公卿への配慮は重ね掛けしても足りないくらい慎重な配慮が必要であった。盟友にして親愛なる主家の御曹司、西園寺亜将実益のために。延いては七百家から連なる御一門のためにも。


 七百家はさすがにちょっと盛ったが、結論。


「魔王様やりおる」


 これを見越して太政大臣の人選なのだろう。少なくとも天彦はそう感じている。あくまで雑感レベルだけれど。


 とか。


「若とのさん。このお団子さん、もうお店のお味ですやん! うまー」

「なにそれほどか。どれ儂にも寄越せ」

「厭やろ。あっち行け」

「おのれ朱雀、貴様いったい誰に申しておる!」

「あんたさんやろ。アホちゃうか」

「しばく」


 お店から取り寄せているので間違いなく店の味であることはさて措いて。


 さて目下、天彦は庭先を臨んで団らん中。面子は元祖自称菊亭一のお家来さんと、がはは儂見参でお馴染みの日本一のお馬鹿さんとである。


 例えばの話。


 とある武家の嫡男が当主である父親に謀反を画策しているとしたら。

 そのとき母を同じくする実弟はどう思いどう動かれるのか。あるいはどう対処するべきなのか。

 武門を束ねる頭領としてそのお考えを訊かせてほしい。あくまで一般論として。


「茶筅、例えばの話なん」


 天彦は――といった風な非常に言い出しにくい話を、目下、雪之丞と競い合うように茶請けを頬張っている三介に向けて吐き出した。オブラートにオブラートを重ねて。


「岐阜中将が謀反を目論んだか。愚かしいことじゃ。――おい待てお雪、貴様それは儂のじゃぞ」

「やだね。だってもともとは某の取り分ですもん」

「おまっ、厭とかへちまとかの話ではあるまい!」

「はぐはむはむにゅ」

「……おのれ、貴様」


 真に恐ろしいのは三介か雪之丞か。あるいはそのどちらも。

 天彦は一本の串団子を奪い合うそんなおバカな二人を見ると、なぜだか恐怖とは少し違うけれど憧れでは絶対にない妙な感情を覚えてしまう。あるいは肌感覚なのかもしれないけれど。


 危うい。そう。危ういのだ。あまりにも危うい二人を前にして、天彦はついキッチンハイターとアルコール消毒液との関係性を連想せずにはいられなかった。混ぜるな危険。そういうこと。


「茶筅、なぜそれだけで対象者が兄御前と言い切れるでおじゃる」

「親父がお前の側近を家老に付けたのが理由じゃ。兄者はお前を嫌っておったにも関わらずに。可怪しいであろう。儂にくれと申したが返答は拳骨の一つであった。くそっ! そのお前が形式的にとは申せ都を追われたのじゃ。今動かずにいつ動く。じゃが親父め、まんまと目論見を外しおった。ざまあみさらせ」


 儂をどつきまわすからそうなるんじゃ。神仏はおったな。がははは。


 得意げに胸を張る三介だが、うん。それは違うよ。何となくね。


「それは織田さん家中では広く知られることなんやろか」

「……お前、ときどき本当の阿呆になるの」

「ひどっ。いいから教えてよ」

「家中の者が知るわけなかろう。尤も我が織田家中、知っておっても知らぬ素振りは達者なのでな。強ち100とも言い切れぬが。何しろ親父があの調子で、しかもお前に疎まれたら最後、口先一つで誅殺されるらしいからのう。がはははは」


 笑ろてはるでこのお人さん。


 天彦が呆れた顔で先を促すと、


「ん? 藤吉郎を誅したのは貴様であろう。家中では専らの噂じゃぞ。もしや違うのか。儂もそう思うておるのじゃがな」

「……それはなぜにおじゃります」

「お前に認められ、いや違うな。お前の叡智に適い取り立てられた者は必ず大出世を果たすと訊く。あのうだつの上がらぬ無名公家であった西園寺を最大の例として。今や亜将、位人臣を極めようとしておるではないか。他にも数え切れないほど多くおろう。とくに菊亭家中の家臣どもの名は、ともすると民草のガキまで一度はその名を耳にするほどこの日ノ本の津々浦々にまで轟いておる。同じ武門として誉れなことよな。がははは」

「一歩譲って事実として、それが何の理由になるん」

「やはり阿呆じゃの」

「お前には負けるけどな」

「何をッ」

「わかったから早う」

「ちっ、よいか。対してお前に敵対し疎まれた者の末路をみよ。あの二百有余年つづいた室町幕府が絶家寸前にまで追い込まれ、そしてあの親父ですら恐れ戦慄いた戦国を代表する甲斐の猛虎擁する最強軍団武田家を滅亡に追いやり、あまつさえ我が織田家中に蔓延る反菊亭勢力を物の見事に黙らせおった。その代表格であった藤吉郎を口先一つで誅することによってな。違うのか」


 うん。違わない。でもなんか違う。


「お前、さては偽もんやろ」

「おいコラ、どういう意味じゃ!」

「茶筅の持ち味は、DQN特有の一般人マジョリティを理解に苦しめさせる恐怖の鈍感力にあるやろ。お前さんの勘働きやお利巧さんは誰も求めてへんで」

「おい待て。しばく」

「しばくな、わざわざ褒めたのに」

「褒めてるか! 意味の大半は理解できぬ。じゃが悪気があることだけは確と感じとった」


 やりおる。


 だが非っっっ常によろしくない。ちょっと織田家を舐めていたか。あるいは戦国武将の嗅覚を侮っていた。


 天彦が一瞬考えに耽っていると、


「じゃが天彦」

「……ん?」

「確信したのはつい先日、今出川の姫がこの陣に来臨遊ばせたときじゃ」

「夕星が。なんで」

「儂はかつて親父に問うたことがある。藤吉郎にそそのかされての」

「……何を」


 厭な予感がしたのだろう。天彦は固唾を飲んで身構えた。

 むろんこの会話に聞き耳を立てている側近やイツメンたちも同様に、生唾を飲んで息を凝らして聞き入った。


「なぜ親父はあれを恐れるのか。公家など、菊亭など恐るるに足らず。あれは身内に弱いと訊く。今出川の姫御前でも攫えば途端、手足のように使えるのではないか。とな」

「……」

「待て! 違うんじゃ。お前と争っていたときの話じゃ。そう凄むな、鬼の形相ではないか」

「……つづけるん」

「ごほん。親父殿は呵々と御笑いになった」

「お笑いに」

「ああ、そうじゃ。そして目を呵っと見開いて申された。日ノ本の破滅と引き換えならその策も有望よな。と。そして二度と申すなと特大の拳骨と共に部屋を追い出されたのじゃ。なぜか知らん藤吉郎はぼっこぼこのめっためたにしばき回されて庭の片隅に吊るされておったがな」


 確かに異論はない。


 天彦の脳裏には世界を破滅に導ける兵器製造の数式が、ぱっと思い浮かぶだけで10つはあった。

 中でもこれといった装置も不要なサイレントキリング剤の数式なら、さぞ人々を恐怖のどん底に引き摺り落とせることだろう。

 天彦の重用するギークたちなら嬉々として作ってくれるだろうから。やつらの倫理観はぶっ壊れてしまっているので。いい意味で。いや悪い意味で。


 だがそんなことはしたくない。あくまで例えの話である。

 この世界とも随分関係性が深くなった。とくに家来たちとは深まってしまっている。

 それこそ万一にも失ってしまえば正気を保っていられるか自信がないほどに。あるいは我が身を割かれるほどの激痛を伴うことが請け負いなほどに。愛が何だかは知らないけれど。何となく確信的に思ってしまう。



 閑話休題、

 結論。親父(魔王)が禁ずるその愚策を用いたからこそ、兄信忠の謀反を確信したのである。と、三介は言外に告げていた。


 天彦にも異論はない。エビデンスは少々違うがリザルトはだいたい同じ。


「で、天彦よ」

「はいさん」

「兄者はどうなる」

「それこそ茶筅さんがお決めになること。身共の領分にはおじゃりません」

「お前が蒔いた種であろう」

「言いがかりはやめてんか」

「ふん。……あれはたいそう小賢しいが根っからの小心者。悪事をなせる柄ではない。お前や親父殿のようにな」

「つまり」

「……母御前が草葉の陰で悲しまれよう。あれは大そう母に懐いておった」


 儂は総大将の器ではない。


 ぽつりつぶやく茶筅だが、そこには否定できない兄弟愛が感じ取れた。勝利者総取りの世界観にあって、とても珍しい感情である。


 一般論としては美しい美談、なのだろう。知らんけど。

 だが天彦には同時にとても甘く感じてしまう。それこそお砂糖たっぷりのバニラアイスにたっぷりのチョコソースをぶっかけて更にそこにチョコトッピングでデコったやつくらいに甘甘の。


「お雪ちゃん、チョコ食べよか」

「え何ですのんちょこさん、ちょこさん美味しそうな響きですやん!」


 とっておきのイスパニア土産が天彦の隠し蔵には置いてあった。それを出す。まさしく蔵出しの取って置き。


 すると、


「でも若とのさん。お蔵にあった茶色い甘味なら某がみーんな頂きましたよ」

「おまっ……!」


 雪兎が口一杯、頬一杯に何かを頬張っているかのように一心不乱に団子を貪っていた雪之丞が重い空気を消し飛ばした。


 天彦もついにんまりとしてしまう。怒りに肩をふるわせながら。

 そしてにんまりのまま三介の方をとんとん叩いて、にぱっ。


「……なんじゃ天彦」

「茶筅、好きねん」

「な!? や、やめい、気色の悪い」

「ひどっ」


 だがこれこそ天彦の偽らざる本心であった。


 つまり際疾くギリギリを突いた心算で、ちゃんと一線を踏み越えてくるやつすき。


 そういうこと。






 ◇






 姫路城三の丸、執務室兼天彦自室にて。


「与六、手間かけさせてしもたな。堪忍さん」

「何のこれしき。面目なきはむしろ某にござる。土佐一条ごとき雑兵を一蹴できなかった某の咎。どうかお許しくだされ」

「ははは、鬼神のようなやり働きやったとあそこに居るチビどもが戦慄いておじゃったが」


 与六はギロリ。


 部屋の片隅にそっと控える清正(夜叉丸)と正則(市松)を睨みつけた。


 ひっ、ひっ、ひっ――!


 だが小さな悲鳴が三つ上がる。天彦が目を凝らすと、大きな体を目一杯縮こまらせた悪四郎の姿があった。


「しごいたってるんか。ご苦労さん」

「筋はよろしい。度胸も満点。しばらく躾ければよき武士となりましょう」

「そうかぁ。嬉しいさんやなぁ」

「してあのばか者ども、ご迷惑をおかけしておらねばよいのですが」

「夜叉丸に市松かぁ、くくく、楽しませてもろてるでぇ」

「……おい。おのれら、後で話がある」


 ひっ、ひっ、ひひっ――!


 またぞろ小さな悲鳴が上がった。図ったように順番に三つ。


「うふふ、与六はいっつも優しいさんやなぁ。そして痒い所に手が届く気配り。この通り、おおきにさんにおじゃります」

「はっ、恐悦至極にございまする」


 正式に土佐一条家の月山富田城からは手を引くと、使者に申し付けてお引き取り願ったことを受けての会話であった。


「して殿、動きがござったとか。何やら四国に不穏があるとか」

「そんな大そうな話ではないん。しかしまだ評定にも上げる心算はない案件やが、はて誰さんからやろ」

「……風の噂で聞きつけてござる」

「お雪ちゃんさあ」


 甘味ですぐに釣られてしまうの、いい加減何とかならん? 

 対策しないとけっこうヤバそう。天彦は真剣に検討することを決めた。果たして都合何度目だかわからない度目の真剣に。


 だが実際はせいぜい叱りつけることくらいしかできない。

 仮に対策できたとしてどうなる。即ち雪之丞から自由を奪うことを意味し、すると鳳蝶から翅を奪うのと似て、雪之丞は良さを失ってしまうだろう。すると延いては家中から灯が消え失せてしまうだろう。

 あるいは天彦本人が絶望の淵に立ち、深い哀しみに暮れること請け負いである。故にどうせ対策など意味をなさないのであったQED。


「お雪ちゃんがそれでええんなら、身共は何でもええさんや」


 天彦は負け惜しみ以外で訊かない台詞をつぶやいて、そっと立ち上がると窓ガラスのない窓枠から眼下を覗いた。


 そもそも論、可怪しな話なのである。

 雪之丞案件は、ならばメリットは最大限享受するがデメリットは絶拒すると言っているのに等しく、そんなことは許されない。仮に許されたとしても所詮、程度が知れてしまうのである。


「雅に参ろう、雅さんに」

「はっ」


 すると、


「殿」


 窓枠の外から声がした。天彦は一瞬ぎょっとするもののすぐに小太郎の声だと気づいて「なんや」と応じる。心臓をばくばくさせながら。もう、びびるて。


「伊予が攻め入られてございます」

「え」

「本拠地伊予松山城、僅か一刻にて陥落との由にござる」

「は?」

「備前宇喜多、土佐長曾我部家並びに土佐一条家の連合軍にございまする」

「まんじ」


 それってつまり……。


「はっご明察。伊予の手の者の手引きにござろう」

「やりおった」


 村上武吉。


 第一感、天彦はあのむくつけき海賊の顔を思い浮かべていた。


「九郎の不在を突いたんやろうなぁ」

「おそらくは」


 不幸中の幸いか。菊池家の家臣には辛い思いをさせてしまうが、天彦にとっては最悪だけは免れていた。


「他にもいくつか」

「申せ」

「何やら九州勢も加担しておるような。手の者の調べによれば例の御仁が土佐入りを果たしているやもしれぬと」

「詳しく」


 例の人が居すぎて困る。だいたい全部惟任のせいでお馴染みの惟任日向守を筆頭に。九州勢には困らせ組が多くいる。


「京兆家かと」

「なんと、まさかの右京太夫か」

「はっ」

「ちっ、いつまでねん!」


 亡霊どもめ。


 天彦は悪しざまに罵った。


 細川京兆家。今頃になって室町幕府の亡霊が暗躍するのか。

 たしかに土佐を領有する権利はある。いやなくはない。土佐管領だったのだから。

 だがその言質を与える幕府はもうすでに存在しない。果たしていつまで過去の栄華に縋る心算か。家ぐるみの老害どもめ。


 やはり邪魔者は根から絶するのが正解なのか。

 天彦についそんな過激な不穏を思わせてしまうほど、足利家絡みの侍たちは天彦の足元を掬いに掬いまくってくるのであった。


「佐吉」

「はっここにございまする」

「内裏にお手紙書いてほしいん。速達で」

「はっ」


 内容を耳元でごにょごにょごにょ。


 何しろ絶賛喪中である。売られた喧嘩とはいえ穢れには違いなく。

 中央政権を牛耳っている内裏貴族は頻りに菊亭の禁忌やぶりを喧伝していた。

 対策は必須である。悪党と同じ土俵に上がってやる道理など更々ない上に、ここでぷっつんキレたらこれまでの忍耐が水の泡となってしまう。


 されど。


「くふ。くふふ」


 環境を整備せずにルールだけを厳格化する行政府のアタオカ感はこの時代からつづいているのか。もはや笑ってしまうしかない。マッチしていないにも程があった。


 いわゆるこれが稀によくある。というやつなのだろう。知らんけど。


「石が冷たいん」

「あ。申し訳ございませぬ。ただちに取り替えて、……え。あっつ! あ。ひ、平にご容赦を、ご無礼仕りました!」

「ええさんや。そんなことより手当いたせ」

「は、ははっ」


 石カイロを触った用人がたまらず叫び声をあげてしまう。それほど石はちんちんだった。


「誰か、九郎をここへ」

「はっ、ただちに」

「是知、九郎が参れば政所は下がりおれ。与六、代わり侍所を招集いたせ」

「ははっ」

「はっ」


 他にはなにか。天彦がイツメンたちの顔を見渡すとラウラが、脇に控える次郎法師の横顔を見ながら、


「徳川殿の御手当てを」

「それな。兵は借りられそうか。精鋭二万程でええさん」

「うふふ、ご無理を承知でお尋ねなさいますそのお癖、直された方がよろしいかと」

「知らんかった。なら直さんとなぁ。でもラウラは引っ張ってきてくれる。そやろ?」

「ずるいお人。ならば井伊殿と」

「わ、私もですか!」

「そうだが何か。井伊殿はまさか異論でもございますのか」

「くっ、……相分かり申した」


 そもそも論、この征西に従軍する義務は菊亭にはない。

 都合がいいので便乗しているだけであり、意見が衝突すればいつでも離れる心算はあった。

 故にこれは試金石。家康公の口では何とでも言えるその気構えを試すのには絶好の機会であった。前向きに捉えれば。


「ん。お願いするん」

「はい、お任せください」


 ラウラに一任。


 皆が散開していく姿を見送って、天彦は窓ガラスのない窓枠に向かって小さくつぶやく。


「あー忙し。天の声さんもこれから大忙しなことさんやなぁ」


 返事は返ってこなかった。


 天彦は不謹慎を承知の上でふざけながらも反面、腹を括っていた。

 ゆーて天彦、寺子屋卒ですらない低学歴男子なので。


 我慢は苦手。一般論で。


 そんな激しい気性を見える化させるような、激しくも冷ややかな双眸から感じる熱量からも明らかなように、腹を括っているのである。

 即ち世界への理解を深めようと解像度を上げる工夫を放棄する。その覚悟を決めたのだった。


 小さな身体に静かなる闘志を燃やして。











【文中補足】

 1、細川昭元(ほそかわ・あきもと)1548~ 幼名聡明丸

 細川京兆家または管領細川家第十九代当主。正五位右京大夫。室町幕府三十四代管領細川晴元の嫡男、六角定頼の娘の子。阿波・摂津・丹波・土佐守護。

 史実では連戦連敗であったにも関わらず、信長の妹お犬の方を正室に迎え入れるほど信長からは重要視されていた人物(※武門では足利将軍家に次ぐ名門であったから説が有望か)。













ちょこ、うまいよね。ちょこ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ