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雅楽伝奏、の家の人  作者: 喜楽もこ
十五章 気焔万丈の章(本編合流編)
247/314

#03 ゴメンナサイの代用図柄

 



 元亀元年(1570)十一月十日






 菊亭徳川陣営陣幕。


 申の刻。夕七つの鐘が鳴る夕暮れ時。



『追伸、敬愛なる主君にして最愛の天彦様。使い古しの言葉でもいいです。何かひとつください。叶うなら濃厚な愛の言葉を。あなた様の忠実な家来より愛をこめて』



 天彦は文末にそう締めくくられた茶目っ気たっぷりの文(私信)を懐にそっと仕舞い込むと、


「悪徳通販のぼったくり契約書にサインするような真似、身共がするわけ――」


 有るのか無いのか。


 それは天彦の心の中にだけ仕舞っておく。そっとね。


 だが一つだけは確実に推測できる。どうやらラウラの状況もよろしくないようであると。

 天彦はそっとごめんなさいの代用図柄であるハンドサイン(きゅん)を人目に付かない袖の内で作って送った。運用が正しいかどうかは知らないけれど。


「まあ、ちゃうんやろなぁ」


 彼女はきっと何とかする。きっとしてくれるはず。

 都合のいい全幅の信頼を勝手に置いてさて。


 大前提、この世のすべてに一旦は抗いたいとして。


 けれど依然として小寺姫路城の攻略がならない菊亭徳川陣営の空気感はかなり微妙で如何ともしがたく。

 というのも理由は大きく二つあって。一つに目下、いまだに戦況が果たしてどんな結末に落ち着くのか誰の目にも杳として知れないからだ。むろん天彦にも。むしろ天彦が知れないからこそ混乱を招いていた。


 西園寺実益太政官就任が世に広く知られるようになって既に半月余り。本来ならとっくに和睦の使者が送り送られして手打ちの算段がつけられて尤もな頃合いのはずである。

 だが菊亭徳川陣営から送り出された使者は死者として送り返され、あらゆる交渉手段が絶たれていた。


 天彦には姫路小寺勢の延いては大軍師の腹心算と落としどころがまったく理解できなかった。


 なぜなら一言で結論付けるならあまりの非合理だから。この場合非条理でも同義である。

 そして解せないのだ。それが天彦の偽らざる所感であった。

 神輿役の小寺はどうだかわからない。だがあの腹黒軍師がこんな損ばかりの無理無茶無謀を果たして押し通すだろうか。

 あるいは歯向かえば歯向かうほど利益が損なわれていくと知りながら、一切何の得もない徹底抗戦をするだろうか。あの太閤秀吉をして次の天下人と恐れさせた腹黒軍師黒田官兵衛が。


 否。断じて否である。


 それが天彦の第一感、いや一にも遠く満たない第ゼロ感であった。


 戦など所詮は権力者によるグロテスクな茶番にすぎないと考える天彦にとってこの状態は心が荒む。だから一刻も早く終息へと駒を前に進めたいのだが一向にその兆しが見えない。


「お雪ちゃんはええなあ。あの冬毛に生え変わる前の雪兎と同じで」

「某が? それどういう意味ですの」

「生きること以外、なーんも考えんでええさんやで。という意味や」

「若とのさんにしては珍しいですね」

「なにが」

「某を手放しに褒めるだなんて。ひょっとしてええことありましたやろ。某のも分けてくださいよ!」

「あははは。おもろ。やっぱしお雪ちゃんは最高やな」

「何がですのん」

「ええことなんか何一つ無いし、何よりまったく褒めてない。ひっとつも」

「あ」

「あ」


 冗句は冴えないし善悪の基準が日を置くごとに揺らいでいく。眼前に焚かれている篝火かがりびの揺らめきのように。

 だが善に触れようが悪に染まろうが結果は同じ。人殺しにはかわりない。


 天彦の小さな心がちくちくと痛む。あるいはけっして癒されることのない鈍痛に苛まれる。負わなくともいいはずの謎の義務感と責任感によって。


「気のせいやろか、なんや視線が痛いんは」

「気のせいではござらぬ」



 ……。



 無言も短く天彦は横並びに座る家康のあからさまに張り詰めた気配と声のトーンに、真骨頂であるはずの無駄口を封印して真摯に応じた。


 そう。これが理由の第二であり、冷えた空気を醸造している大部分の理由かと思われる。

 そんな主犯と共謀者は周囲の耳目を集めていることを当然のごとく意識しながら、どこか空々しい態度で会話を進める。


「さて権大納言様。彼是半月。そろそろ攻略の大方針をお明かしになられまするには善き頃合いかと存じまするが如何」

「総大将さんを差し置いて恐れ多いん」

「参謀とはそういうお役目ではございませぬか」

「参謀職など買って出た記憶はひとつもないん」

「では改めてこの場でご依頼申し上げまする」

「ほな買い被りなん」

「ははは、何の何の。つい先だっても有馬の隠し湯を、僅か地図を一睨みしただけでお見事探し当てられたとか。このタヌキは聞き及んでおりまするぞ」

「おうふ」


 身共のアホ! なんでそんないらんこと……。


 それはね。温泉に浸かりたかったからだよ。赤茶けたお湯さんに。ゆーてる場合か。


「……三河守さんもまあそう慌てんと。急いては事を仕損じるん」

「それも片や真理にございましょうな。ですが某、これでかなりお待ち申し上げましたが」

「半月待てたらひと月も同じなん」

「それで状況が好転するならいくらでも待ちましょうぞ。言質を下さりましょうや如何」

「あ、うん」

「いただけまするのか。如何」

「お家に持ち帰ってぱっぱにご相談差し上げてからの返答になるん」


 苦しい返しだ。言葉を飾らず言うなら阿呆かと嘲笑されても不思議はない答弁である。

 だが家康公は一切そんな感情を表に出さず、ただひたすら真摯な態度に務めて対話を求めた。但し吐き出す言葉の端々に毒気をたっぷりと含ませて。


「なるほど権大納言様ともなれば某と同じ状況に陥られたとて鷹揚に構えられることでありましょうなぁ。いやはやご立派なことにござる。某如き凡将には、到底及ばぬ域にござる」

「あ、うん」


 この“あ、うん”はごめんなさいの代用図柄としてのもの。

 意図が正しく伝われば嬉しく思います。伝わってください何卒かしこ。


 だがさす家。まったくもって見事である。

 あるいはさすが戦国の戦人だからなのか。どんな苦境に立たされようともその口調に陰りはない。

 けれど天彦の目には家康公のひた隠す心中の憂いがイメージとして確と可視化されていた。

 あるいは一族一党丸ごと詰みかけ五秒前の人物が切る、なるほどこれが最上位の大見得だと言われればなるほど納得するような輪郭を纏って。


「某の顔に何かございまするかな」

「当代の武士もののふさんを代表するええお顔さんやと思うてな」

「……肝が冷えまする」

「なんで!?」


 返答が可怪しいやろ。


 然は然りながら、そしてこちらが心がちくちくと痛む理由その一。

 たぬき殿、これでかなり危機的状況であった。

 何しろ彼には後がなく、すでに領地は召し上げ同然。征西を迅速的かつ成功裏に納めなければ最悪はお仕舞い。お仕舞わなくとも室と子ともおさらばしなければならなくなる超・超不遇な状況にあった。人質の意義とはそれに尽きるのだろうから。


 本来信長公は人質を捕るという行為その物を嫌っている。というより決定力に疑問符をつけているのか。家を預かる武士が人質如きで決断を鈍らせるとは考えていなかったのかも。

 だか事実として捕った。そして実行力に関して右に並ぶ者のいない魔王様のこと。そこに情けをかけるとは到底考えにくい。むしろ煽り気味に始末することだろう。これ幸いとばかりに。


「権大納言様はかならずこのお役目(征西)を成功裏に納めさせてやると金打きんちょうくださいましたな。だからこそ某は意気に感じ、こうしてお待ち申し上げてござる」

「あれはノリ……、念を押さんでもわかってるん」

「なれば結構。大船に乗ったつもりでおりましょうぞ」

「身共はずっと穴の開いた泥船を必死のぱっちで漕いでるだけやのに」

「あははは。これは重畳」

「何が」

「お得意の減らず口が戻りましたな」

「あー……、ふん。まあ見とき。なるようにはしたる」

「はっ。この三河守、御化身殿には全幅の信頼をおいてございますれば御尤もかと存じる」



 きゃあああああ、やーめーてー。



 無条件の信頼が重い。重すぎる。

 何せ天彦にとってこの展開、史実から大きく離脱する最もよろしくない展開である。その上に、何より苦手な分野と言って差し支えない苦しい局面でもあった。

 何しろ量産型常識人の平均値を自称する天彦にとって、奇人や変人の考えなど到底予想だにできないのである(棒)。


「ぼう」

「殿、ここにございまする。何かございましたか」

「おおきにさん与六。そやけど大丈夫、身共のひとりごとなん」

「はっ」


 与六にっこり。天彦にぱっ。


 だからガンバル、頑張れる。粛々とプロファイリングの大原則に則り、自身の経験則と照らし合わせて勘案する他なく。


 人を。戦国の侍を。こうまでして破滅に向かわせるものとはいったい。

 そればかりを延々ずっと小さなおつむで考えていた。

 目の前に無理を承知で破滅へと向かっている代表格的人物の存在にも気づかずに。



 と、そこに。



 ちゅどーん、ずばばばばーん。



 秋の乾いた空気を切り裂くように一発の炸裂音が轟いた。


 にわかに殺気だつ徳川御家来衆。

 主君家康に暗殺者を送られたばかりなので銃声にナーバスになるのも尤もであろう。

 だがそれはこちら側も同じこと。戦国の戦の勝利条件は至極明快。白旗を挙げさせるか大将を取ればよいのである。


「ええ腕なん」

「ほう。見たように仰る。風魔党でしたか」

「ん」

「しかし射干を手放したかと思えば次から次へと。乱破衆とよほど相性がよろしいのか。何がやつらを惹きつけるのか。その理由を教わりたく存じまする」

「さあ。運としか」

「あははは。運にございまするか。御仏を粗末になさる権大納言様に最も縁遠い言葉にござるな」

「ひどっ。見解の相違なん」

「ははは。して先ほどの種子島は山鯨であると」

「ほな賭けようか」

「さてはすでにここいらの生態を把握されておいでですな」

「さあ」

「まったく抜け目のない。が、負けと知って博打を打つ者はございませぬぞ。その点はまだ研鑽の余地がございますな」

「負け戦こそ武士の華と訊いたが」

「はて。それはいったいどこの家の阿呆ですかな」


 某ならその発言後即、阿呆のそっ首叩き斬っておりますな。


 らしい。やはり戦は勝ってこそ。当たりまえでした。


 と、陣幕最奥。並みいる武将たちに面と向かっておっちんしている天彦は、もう一度確証的につぶやいた。


「半刻後に小太郎が参る。今夜は牡丹鍋なん」

「ならばその前に隠し湯に参りましょう」

「ええな」

「では某もご相伴に預かりまする。よろしいな」


 果たして風呂か。それとも鍋か。あるいはいずれもか。

 天彦は後者だと判断して、軽く頷き意識を一旦切り替える。


「ふむ。大は小をカーネルサンダースか」

「は? ……何と仰せで」

「ひとりごとなん」


 すべるならまだしもギャグであることすら理解されない哀しみまんじ。

 秘湯有馬温泉に向かった。






 ◇






 ご存じ有馬温泉は奪還目標である三木城から五里(≒20キロ)の距離にあり、万葉集や古事記にも登場する古湯である。また史実の秀吉が大規模に開発するまでは秘湯として有力者に愛されてきた。

 但しもちろん現下は秀吉開発前。故に秘湯中の秘湯であれば余人がその位置を的確に探り当てることは不可能とは言わずともかなり困難のはずであった。


「余裕なん」


 周囲の呆れと畏怖とそれらを包括した今更感の目線を一身に浴びながら天彦は、どうせならと双方の主要なイツメン家来衆も伴い茶褐色の金泉につかる。


 改めて。


 姫路小寺勢の強硬な態度。イスパニア海洋帝国船団の傍観。

 イスパニア海洋帝国提督フェルナンド・メネゼスは海賊貴族の分際で空気を読んでしまっていた。ふざけるなふざけろ。

 要するに手柄に焦らず帝崩御に半旗を掲げてしまっていた。文字通り船団を海上に停泊させて部外者を気取っているのだ。オーダーに答えましたよのテイを装って。


 何たる理知的、常識的、紳士的振舞いであろうか。氏ねぼけ。

 ここは“だまれカスVSしばくぞボケ”のノリでよかったはず。少なくとも天彦にとっては好都合の展開として。


 おそらくはとある方面の意向が強く働いたからだと思われる。

 具体的には大銀主である教会の意向が強く働いたのだろう。如何な海洋帝国の大船団とて燃料を注いでくれる大銀主にはきっと逆らえないのだろうから。たとえ人力可動船だとしても。


 つまり手柄に逸らない海賊とか、いずれ破滅と確定している道に突き進む侍大将とか。とかとか。一番要らん存在であった。


「一番が二つも。なぁ与六。身共は呪われてんやろかぁ」

「ならば其の物、某が一刀両断に成敗してご覧にいれまする」

「与六ぅ、おおきに。元気が出たん」

「なんのこれしき。お役に立てたなら幸いにござる」


 はいそこ。いちゃいちゃしない。


 とか。

 天彦にしてみればいずれも到底理解に及ばない摩訶不思議の連続である。

 理解できる事実だけを羅列すれば、それは天彦の大いなる誤算。という一言に片付けられるのだろう。いずれにせよこれまでにはあまり経験してこなかったイレギュラー反応であった。


 提督の考えはまだ理解に及ぶ。理に聡い彼のこと。大方主役は遅れて登場とでも考えているのだろう。最後にすべて掻っ攫う算段でもつけながら。尤も天彦でもきっとそうしただろうから声を大にしては非難できない。

 あちら側には船団を繰り出したという事実さえあれば、あとはいくらでも交渉の手札はあるのだし。


 故に菊亭徳川陣営のこの拙い空気感は、天彦の切れの悪さが原因といって過言ではなかった。部分的にあるいは息苦しいほどの重苦しさを纏っていておよそ祝賀ムードからは程遠い状態が高止まりでつづいていた。

 それもそのはず。この中には唯一絶対的に退路を絶たれたもう後がない人物が一人いるからだ。太政大臣(仮)が帰洛の途に就き不在の今、総大将として陣営の指揮権を預かる人物である。


「ははは、化身殿にも見通せぬ先がございましたな」

「一寸先も見えてないん」

「ご謙遜を」

「何度も申すが三河守さん、身共は一ミリも謙遜などしておじゃらぬ」

「これは失敬を致しました。何しろ上様には狐殿の謙遜を絶対に鵜呑みにするなと御忠告頂いておりましてな。ですが、ふむ。それではちと弱りましたな」


 さすが戦国の戦人。どんな苦境に立たされようともその口調に陰りはない。

 だが天彦の目には家康公のひた隠す心中の憂いがイメージとして確と可視化されていた。

 あるいは一族一党丸ごと詰みかけ五秒前の人物が切る、なるほどこれが最上位の大見得だと言われればなるほど納得するような輪郭を纏って。


 悪巧みなら山ほど浮かぶ。だが朝廷の顔を潰さず世間の風評も上々で、かつ信長公もご納得のおタヌキさん大お手柄策ともなるとてんで浮かばず。


 思考が三周ほど空転したところで。

 天彦の身体が芯まで温もる10秒前。つまり逆上せる五秒前。


 それは起こった。唐突に。


 ずどん。


 端的に示せば地面が揺れた。それも天彦の第一感では天変地異の類ではない人為的な揺れである。

 次いで連続して、ずばばばばーん。と、菊亭に籍を置いていれば誰しもが一度や二度は必ず耳にしたであろう凄まじい爆撃音がまるで空気を切り裂くかのような勢いで劈く。


「な、なんじゃ!」

「殿」

「氏郷、親衛隊どもを」

「おう」


 高虎が驚嘆した風に大声を挙げると且元が即座に天彦の前に立った。

 そして与六が冷静に天彦傍回り衆である侍衆の手配を氏郷に指示する。

 武家も真っ青な菊亭家の手際の良さに家康の目が自然と細まる。そこに最大限の感心も警戒感も滲ませながら。


 ややあって爆音が落ち着く。


「権大納言様。果たしてこの騒動は」

「冤罪なん」

「まだ何も申しておりませぬが」

「どうせ申すん」

「やはりお身内の犯行で」

「犯行て。まあ犯行なんやろうけども」


 天彦が確信的に言葉を吐き出すのとほとんど同時に、


「申し上げます――!」


 吉報か凶報か。けれど吉報ではけっしてないことだけは確かな、報せを運ぶ使者がなだれ込んできた。爆音と揺れが収まった僅か五分後に。

 これは戦国時代では異例の速度である。何たる技術、あるいは秘術か。けれどそのことは今は後。


 天彦は急使を傍に招き入れる。むろんだが与六たちが作る人柱壁を五枚ほど隔てて。


「申し上げます! 突如として御味方軍勢が湧きたち、三木城天守諸共消し飛ばしましてございます!」

「は!?」

「御味方軍勢、三木城天守諸共消し飛びましてございます!」

「いや訊いたし。で、その御味方とやらは何で味方と判断した」

「……敵を撃破したので御味方かと。申し訳ございません。訊いておりませぬ」

「しゃーない。して旗印は」

「はっ、三つ柏紋との由にございまする! ……あと丸に三つ銀杏並びに大一大万大吉もちらほらと」

「いやそれ後の方が主体やろ」

「いや某は……」

「大方ルカにでも釘を刺されたんやろ。気ぃ遣わんでええ。ご苦労さんゆっくり休みや。おい誰か。急使を労ったれ」

「はっ」


 まんじ。


 なるほど御味方に相違ない。鉄板中の鉄板で。

 天彦は去っていく風魔党急使の背中を見つめながら頭を抱えることしばらく。

 家中にこそ潜んでいたイレギュラー中のイレギュラー存在を脳裏に思い浮かべていた。


 腹たつわぁ。


 込み上げてくる感情は可笑し味30に腹立ち70。

 今回ばかりは腹立たしさの圧勝であった。

 だがそれも含めて側近として雇用していたのは己。


 天彦はすーはーと呼吸を整えるように心音を宥めつつ冷静さを取り戻すと。


 ややあって、


「くふ」

「権大納言様!?」


 くっくっく。知ってたけど。知ってたけども。


「是知さあ。あとギークもか」


 なあバカ知。いったい誰さんを抱き込んだん。

 誰でもええさんやが身共のかわいい佐吉を悪事に巻き込むのやめてくれへん?


 天彦が怒りすぎて一周回って薄笑いを浮かべてしまっていると、


「三つ柏。おそらくは奥州葛西家のご家紋かと存じまする」

「……葛西?」

「これは某の推測ですが、おそらく天覧の御馬揃えで名を挙げた奥州葛西家左京太夫晴信が嫡男、四郎清高かと」

「ああ魔王さんから金子千枚せしめた悪目だち四郎か」

「悪四郎にございましたな」

「うん。おもろい侍さんやったな。けどそれがなんでうちに加勢するんや」

「そこまでは。……殿の魅力かと」


 さすがにそこまでの煽てには乗らない、あるいは乗りたくとも乗れない天彦は自嘲気味の乾いた笑いで聞き流し、


「知ってるか与六。今喪中なんやで。帝お隠れになった喪中の現下、不浄を出すことは朝敵にも等しい最大の不敬なんやで」

「むろん存じておりまする」


 だからこそ無駄足を踏まされているのだから。


 これはマナーの問題ではない。日ノ本に生まれた貴種ならマストで従わなければならない規律であり鉄則である。

 特に今は葬儀もろくに行えない衰退著しい皇室ではないのである。朝廷の意に背くことは文字通り国賊を意味していた。


 端的に愚か。浅慮。おバカ。


 だがその愚か者のおかげで局面は一気に動いた。

 そしてこれをどう料理するかは天彦の手腕にかかっている。


「是知おおきにさん。お前さんの放ってくれたお命さん、けっして無駄には使わへんよ」


 の感情を込めた天彦のつぶやきを耳にした菊亭イツメンたちは、最大限に張り詰めさせていた緊張の糸を解き一気に脱力するのであった。












【文中補足】

 1、金打きんちょう

 堅い約束をすること。武士が約束を守ることを示すためそれぞれ刀の鍔を打ち合わせたことに由来する。

















ただいま、お帰り。はい。ごきげんよう。お元気でしたか?

ゴメンナサイまたはアイシテルの代用図柄として#03をお届けいたしました。如何でしたでしょうかリアクション来るかなー来てほしいなー(๑>؂<๑)ワクテカ とか。


さて今更ですが、明けましておめでとうございます。

ドクシャーの皆さまに幸多い一年となりますようにご祈念して新年の挨拶と代えさせていただきます。

本年もなんやかやよろしくお願いいたします┌○ペコリ


Xアカウント @kirakumoko502


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― 新着の感想 ―
お帰りなさい、そしてこちらもただいまです。 また読み始めさせて頂いてますが、膠着した戦局を【謎】の大火力を味方(?)さんが空気読まずに放つのは、、この後の大混乱を天彦さんがなんとかしないといけないの…
リアクションしに僕がきた!!! いよっ待ってました!!! そしてばか知さすが過ぎるし、停滞からのドッカンバトルは最早お家芸かっ!!!!!楽しい!!!! バラけたみんなも帰ってきて、益々盛り上がってきた…
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