#10 運命を決する判定の笛をノリで吹くとか笑
どうぞー
元亀元年(1570)六月朔日
細工は流々。仕上げを御覧じろ。
信長最後のオーダーは“京雀・京烏を黙らせ、遍く京町人の意識から水色桔梗への信頼感を回顧意識ごと断ち切り、織田家の威光で上書きすべし。
天彦はこの一見すると無茶としか思えない要求を達成してみせた。
市中を練り歩く超・超ド派手な軍事パレードによって。
これを主催したのは織田弾正忠家である。その事実に触れ、号令に集った三千諸侯の放つその勇壮な武威を見て、あるいは直接肌と心で感じ取った京の人々が果たして何を思うのか。それは火を見るよりも明らかであった。
どんなに感性の乏しい者であろうと、一時代の終焉と並びに新時代の幕開けを感じずにはいられない。勝手に感じ取ってくれるはず。
圧迫でも脅迫でもない。ましてや言論統制など以っての外。するはずない。
これは歴としたお祭りであり、帝の御座す京の都を守る将兵の軍事行進である(鼻ほじすっ呆けー)。
天彦の思惑が那辺にあろうともどうでもよい。思惑は思惑以上の効果を発揮して京の町を駆け巡った。それがすべて。
このように前代未聞の御ド派手なパレードを以って天覧馬揃えは無事、予定されていたすべての進行をすべて終え、終幕を降ろすのであった。
「天下布武への布石は打たれた。我が宰相、我が宝玉、大儀であるぞ!」
叡山を焼き討ちして以降、すっかり魔王の呼び名が浸透してしまっている魔王信長は三千諸侯が見守る中、誰よりも真っ先に天彦の知恵働きを褒め称えた。
三千諸侯が列席する慰労懇親会の真っ最中に。
もはや逃げ場はない。世界は天彦を認識した。その悪辣なまでの鮮烈な悪知恵と共に。
天彦から強請らずとも信長は策が正着したことを、太鼓判を押して褒め称えた。
猶、叡山を火の海に沈めてからというもの、すっかり魔王の呼び声を浸透させてしまっている。もちろん本人の前でそれを口にする者は皆無だけれど。
「魔王さん、身共は申しましたよね。近江半国は御大層すぎる上に身共の手には余るから要りませんって!」
「で、あるか。だが天彦、余を何人たりとも首を横に振らせぬ天下人に押し上げたのは貴様であるぞ」
「あ、はい。……いやいやいや、無理やって!」
「ふはははは、で、あるか」
いた。僅かに一人。
そして、
「申し上げます!」
トップ会談にも関わらず早馬の伝令が口を差し挟んでくる。
これの意味するところをわからない者はこの場にはいない。場に飛び切りの緊張感が押し寄せていた。
その緊迫の帳を払いのけるようにして、まず真っ先に反応を示したのは座の上座にでんと座る人物であった。
信長はいかにもな渋面を浮かべるとそれでは事足らなかったのか。なんと伝令に背を向けてしまっていた。疑いようのない拒絶の意に、天彦は思わず笑ってしまうwww。
だが然もありなん。この大人げなさこそが信長の本質なのだから。
あるいは天下を意のままにできる人物とはこのような人物なのかもしれないと、天彦は苦笑をかみ殺しながら伝令にあたった。
「何か」
「はっ、朝廷より御使者が参られております」
「相分かったん。丁重に託をお預かり申し上げさん」
「はっ。ご無礼仕りましてございます」
「お務め、おおきにさん」
何がこうも信長を嫌がらせるのか。天彦には判然としている。むろん釈然とはしないけれど。
「主上さん、馬揃えがよほどお気に召されたようですね」
「ふん。もう三度目の打診じゃぞ。こうも強硬に求められては引っ込みがつかぬではないか」
「なるほど。正三位・右大臣右大将あたりを打診されましたか」
「……貴様、あまりにも察しが良過ぎぬか。よもや裏で画策しているのではあるまいの」
「あははは、まさか」
「ふん、どうだかの。じゃが狐。余の不審を払いたいならば、上策を授け見事この厄介事を解決してみせよ」
「なんで要らんのですか」
「……貴様が嫌がるからであろう」
「え」
「何を今更。武家が朝廷に入ることを殊の外嫌っていることを、よもや見抜けぬ儂であると思うてか。舐めるなよ小童が」
「あ」
じんおわ。
らしかった。
自分に対する最大限の配慮。まさかのまさか。
胸がじんと熱くなる。
「魔王さん」
「おのれ貴様」
あ、しくった。
ならば、お詫びの印に。
「簡単な話なん。譲位と引き換えになされるがよろしい」
「……」
「あれ、聞こえませんでした?」
「聞こえておる。たしかに催促がぴたりと止みそうじゃの。しかし相変わらずの不遜よな。貴様、ほんとうに帝を敬っておるのか」
「いちおくぱー」
「いちおくぱ……、わからんが、なるほどの。我が宰相、大儀であったぞ」
誤魔化されたことを察した信長はそれ以上を追求せずに歓談をしまった。
こうして前代未聞の御ド派手なパレードを以って天覧馬揃えは予定されていた進行をすべて終え、終幕を降ろすのであった。
◇◆◇
元亀元年(1570)六月九日
成功裏に終えた天覧馬揃えから早十日。
三千諸侯に見守られる中、織田・徳川連合軍は官軍の証である錦の御旗を掲げて出陣した。
官軍が響かせる軍靴や当世具足の擦れる音は、越前に破滅を伝えるまさに死の旋律。その様を見送った誰もが越前朝倉の滅亡を確信したことだろう。
そして災禍の根幹である惟任はというと名目上だけ罰せられ、都を追放処分とされた。実に軽い処分である。
あくまで織田家の面目をたてるという理由付けで。むろんだが惟任引き立てを画策し奔走した黒幕たちからの謝罪はない。けっして事実を認めないという観点からは正着だが、感情論的には大悪手であろう。
遠征出征間際、魔王は魔王の表情とあの特徴的な甲高い声音でたしかに言ったのだから。
「戻れば初めに手を付けるは朝廷の掃除である」
――と。
魔王様激オコ。近衛も九条もお仕舞いです。
猶、元将軍義昭は来なかった。なぜだか関東管領も最後まで姿を見せなかった。
義昭が逃げ込んだ先は炙り出されている。九州勢で大友家だけが東宮の呼び掛けに応じなかったから。
いずれにしても天彦にはこの二点がどうしても気懸りで仕方ないが今は後。
「九郎にはそうとう頑張って働いてもらわなあかんかもなぁ」
「お任せくだされ。菊池権守としての当家の力、存分に示してご覧入れまする」
「頼もしいこっちゃ。せいだい気張ってやぁ」
「はい」
そんな今日この頃、天彦も天彦とて順風満帆とはいかない。むしろ不機嫌寄りに絶賛不快感を振りまいている。
朝廷の都合・不都合によって名乗ったり名乗れなかったりする位階なんか要らんねん。お前さんら身共をどれだけ振り回せば気が済むんや。
言えればどれほど胸が空くだろうか。
だが実際は紫味の暗い赤色で茜と紫で染めた深緋位袍の正装を装着して登内している。
それが答え。それが天彦の朝廷に対するスタンスであり、それ以上でも以下でもない。
本当に業腹だがこの権威の象徴を失うわけにはいかなかった。
その職または地位に就き運用、言葉を選ばず言うなら悪用している人物はまったく以って無用だけれど。
今の荒廃した日ノ本、延いては人心には拠り所が必要だから。とか。
そんな高尚な考えは一つもない。
もっと単純な理由から。例えば菊亭天彦という人物を欲目なく因数分解していくと、果たしていったい何が残るのかを突き詰めて分析すれば答えは必然的に導き出される。
そう。菊亭天彦という個体は何者でもない。必要なのは血統であり家柄である。
天彦は血筋を紐解けば朝家に繋がる今出川家の直系男子であり、その今出川家は大英雄家の大家。この血統こそに天彦のバリューはあった。
ただのクソガキの言葉に誰もが耳を傾け一目置いてくれるのもすべて、この血筋・血統に裏付けされたネームバリューがあるからである。それに尽きた。
但し裏を返せば権威など無用の絶対的な何かを得ればその限りではないのだが、天彦にはその何かを得る予定は当面ない。いやあるいは一生ない。……かもしれない。知らんけど。
なぜなら天彦は自分が権威への帰属意識しか残らないカスだと知っている。
だから怖くて解体に踏み切れない。答えは至極単純であった。
もちろん銭に汚い天彦なので新たに名を広めるイニシャルコストとの比較も十分に検討していることだろう。それも含めて事なかれ主義カスの一人であった。
「正四位・菊亭藤原朝臣天彦。太政官参候。天気如此、悉く、以状。謹んで拝命いたす」
「はは、臣、謹んで拝命いたします」
てんきかくのごとし、これをことごとくせよ。もってじょうす。
――か。
知らん知らん。ええねんけど、よりにもよってなんで復官なん。
苦手やわぁ、宮務めとか。
天彦は果たして何度目になるのか。かなり記憶の怪しい官位拝命の儀式に臨んでいた。
だいたいいつもと同じである。儀式・作法とはそうしたもの。綸旨を賜りありがたく頂戴する簡単なお仕事。
ただいつもと違うのは心持ちである。感情はむしろ委縮寄りに恐縮していた。
むろん菊亭天彦という人物は御使者の格に気後れなどしないし委縮などもっとしない。天彦はまったく返せていない義理にこそ委縮し気後れしてしまうのだ。
「参議さん、ずいぶんと御立派にならはって。麻呂も推してきた甲斐があるというもんにおじゃりますなぁ」
「いえ、まさか。今の身共がおじゃりますのも、偏に権中納言さんの温情のお蔭さんにあらしゃります。この場をお借り致しましてこの通り、感謝の弁申し上げさんにおじゃりまする」
「おおきにさん。ほんまに昔っから口は達者やったが、更に上手うなって。そら月日が経つのも早いはずや」
「光栄さんにおじゃります」
お相手の視線が本来あるべき体形の生育輪郭をなぞっていたことはきっとキノセイ。
推定十センチは平均値に不足している現実がそこにあるとしてもきっとキノセイ。だって平均値だから。これが中央値ならメンタル氏ぬが。
つまり御使者は天彦に遠慮のない視線と忌憚のない言葉を同時に送れる人物である。
今や天彦は刻の人。天下に号令をかけ、かけるだけではなく従えさせることが可能な二人の人物に破格の評価で迎えられているのだ。そうそう不躾な視線を送られることもない。そうそう無礼な言葉を送られることもない。
そして有象無象がすり寄ってくる。公家とはそういう生態だから。だがそのすり寄り勢とはまるで違う。何もかもが違っていた。
そう。
御使者は天彦の公家ぱっぱである権中納言・持明院基孝であった。
しおしお基子ちゃんのリアルぱっぱでもある大恩人である。
頭は一生上がらない。天彦が今以上にもっと何者でもなかった頃からずっとお世話になってきた。
その恩人がまたしても朝廷に働きかけてくれた。
二度あることは三度あると訊くがまさにそれ。大恩人ぱっぱが今回も三度働きかけてくれたのだ。そして働きかけるだけではなく、見事清華家への復帰並びに官位復位、並びに位階昇爵と要らなかったが太政官参議への復職を手にして、こうして吉報を運んでくれた。
今回もまたしてもお世話になってしまったのである。好意だけで奔走し調停工作して天彦の復権に尽力してくれたのだ。ありがた味以上の申し訳なさと心苦しさに苛まれるも、感情は喜んでいた。ほんとうに嬉しいと。
「さて、旧交を温めたところで参議。本日はお願い事を持ってきた」
「願い事、におじゃりまするか」
「そうや。あかんか」
「いいえ。ではお聞かせください。身共で可能なことなら全力で応じる所存におじゃります」
「そうか。そう申してくれると信じておじゃった」
持明院基孝が居住まいを正す。すると空気がたしかに入れ替わった。
天彦は興味と嫌悪感を半分ずつ内心に潜めて大恩人の言葉を待った。
◇
「あ」
やられた。それが天彦の第一感であった。
持明院基孝が持ち込んだのは、天彦が策の一環として盛り込んでいる重要なネタについてであった。
即ち真宗一向一揆の建前ともなった畿内の飢饉だが、完全に問題を払拭できているわけではなかった。朝廷からの御使者はその問題にあたるように伝えてきたのである。
むろん天彦とてこの問題の深刻さは百も承知。だが……、先にも述べたように天彦にこの問題を解決する心算はさらさらなかった。
「お言葉ですが権中納言さん。身共にお振りにならはるんはちょっと筋が可怪しいと違いますやろか」
「異なことを。天彦さんともあろう御方さんが、この公家の父御前である麻呂を前にしてすっ呆けるとはそれこそ筋がちゃうんと違うかぁ」
権中納言・持明院基孝の口調はすっかり身内に寄せる砕けたものであった。
だからといって油断は禁物。彼とて魑魅魍魎が跋扈する宮廷を渡り歩いてきた大妖怪の一人。油断などできるはずもない。……ないのだが。
「ぱっぱ、ずるいん」
「許せよ、天彦。麻呂をはじめとした朝廷はもはや成す術無し。こうなれば稀代の大賢者に首を垂れてでも解決を強請る他、打つ手はないさんにおじゃります。参議、この通りや。麻呂の顔を立てて――」
What’s――!?
いや待て待て待て待てーい――!
天彦には他人に頭を下げられて悦に入る趣味はない。ましてや相手は大恩人。感情は浮かれるどころか真っ逆さまに沈んでしまう。
だからと言って腕を取り直ってくださいの応接もできない人物が相手。
仕方ない。
「……参議」
「この通りにおじゃりまする。どうか直ってくださいませ」
互いに坐している。けれど腰を折らずに首と視線だけで謝意を示している相手に対し、天彦は全力で腰を直角に曲げて額を畳にこすり付けて応接した。
早い話が土下座である。こういった最上級の謝意には触れ慣れているだろう持明院基孝もこれにはさすがに面食らったようであった。
目をぱちくり。数舜固まり天彦のつむじを直視していた。
ややあって、
「これでは果たしてどちらが懇願しているのか、わからんでおじゃるな」
「この通りにおじゃります。何卒、ぱっぱが身共如きに頭をお下げにならはりませんように御願い申し上げさんにあらしゃりまする」
……わかった。お人さんに見られる前に直りやぁ。
持明院基孝は味のある声で申し伝える。
これに抗う天彦ではない。即座に直り面を上げた。
「いつまでも変わらんお人さんやなぁ。あの落ちぶれていた頃と何一つ変わらはらへん。天彦さん、麻呂は今日ほどほんまにあんたさんを倅としたく思うたことはないさんや」
「この菊亭、受けた恩義は生涯けっして忘れません」
そやけどぱっぱ。身共を倅としたら持明院家が破滅してしまいますぅ。
天彦のどこかお道化たけれど本心とわかってしまう言葉に、持明院基孝はすべての疑問が解けたような顔をする。
なぜ頑なに自分の申し出を受け入れなかったのか。すべてはこの言葉に集約されていると直感したのだ。
――なんと健気な。なんと律儀な。……そしてなんと恐ろしい。
持明院基孝は天彦が齢五つですでにこの考えに至っていたのだろうと確信した。
愛情と敬意と恐怖。様々な感情がないまぜとなり、けれどやはり最後に顔を見せるには愛なのだろう。知らんけど。
持明院基孝の瞳には終始きらりと光る雫が浮かぶ。それが笑み崩れてぽろり。一筋の線となって頬を伝った。
「またな」
「はい!」
会談はお仕舞いとなった。
◇
とんでもない宿題を与えられてしまったの巻。
これも裏を返せば惟任の悪運の強さなのだろう。
天彦は腹立ちよりもどこか納得感の強い表情で中庭の鹿威しを見つめていた。
この飢饉を利用して打って出るはず。そこを叩きのめす算段であった。
惟任へのある意味での絶大な信頼感は揺るぎない。
あいつならこう出る。今や天彦にとって惟任の考えほど読み解きやすいものはなかった。なぜなら……、
「業腹やけど、おんなじなん」
紅色と水色は真逆のようで写し鏡。
天彦が惟任の立場ならどうする。それを惟任は細大漏らさず実行してきた。やはり稀代の天才策士。惜しみない称賛は送らない。自画自賛しているようでハズいから。
だが認めてはいる。天彦のはライフハック。いわゆるチートだ。対する惟任はそれを自力の地頭だけでやってのけているのである。すごい。この三文字以外の感情は……あるな。うんある。
「惟任氏ねどす。天地が逆さに引っ繰り返ろうとも何があろうとも氏ねどす」
感心と感情は別物。そういうこと。
さて惟任を完膚なきまでにタタキコロス算段をつけなければ。違う。飢饉と経済対策である。
今や日ノ本の経済は昇竜が如し。どこもかしこも好景気に沸いている。
そしてその経済圏の指針として織田升を使っているかどうかが目安とされていて、その指針に習うなら織田経済圏は東は越後、西は周防国にまで及んでいることになる。
対して新たな問題も浮き彫りとなる。食料供給問題である。経済が好調だと人口は増える。そして実体経済が好況であればあるほど食糧不足は人々の暮らしに深刻な影を落とし込んだ。
食料を供給する側の地方はまだいい。供給量をセーブすれば事済むから。
問題は畿内を中心とした大都市圏。特に都を中心とした食料の生産を衛星都市に依存している成りかけ近代都市である。
これら高度な経済都市は食糧高騰問題はレッドゾーン(超えてはならない一線)すれすれで推移し、何か一つ切っ掛けを与えれば今にも決壊しそうな危うさを孕んでいた。
「お雪ちゃん」
「はい、どないしはりました?」
「このお茄子さん、一本いくらするか知ってるか」
「お茄子さん、ですか?」
なんぼやろお茄子、お茄子なんぼ?
訊くまでもない愚問。雪之丞が知るはずもないのだから。
だが雪之丞ばかりではない。この座に集うイツメンのほとんどが物の値段など知らないのだ。そんな必要性がまったくないから。
「百文です!」
「ほなこれは」
「百文です!」
「ほなお団子さんは」
「百、文……? あれ、あれれ」
物はだいたいなんでも百文。ゆーてる場合か。
だがゆーてる場合であった。これがこの飢饉の本質。インフレの核心だから。
経済はある程度誘導してやらなければならない。完全には制御できないとしても。
故に教育すべきは庶人ではない。自分たちを代表とする為政者側であると確信した。
天彦は意を決して気乗りしない重い腰を上げる。
「是知」
「はっ」
「畿内に居る主要な商人と所領を持つお武家さんたちに集合をかけるんや」
「はっ、上洛の命、確と申し付けまする!」
申し訳ないが直接の生産者さんの声を訊き届ける気はない。
天彦は下々の声を広く訊き届ける聖人君主ではない。というより畏まられて真面な会話にならないだろうから無駄を省く。どうせ訊くという大前提の下。
「佐吉」
「はっここにございまする」
「そのための文を。文言は任せたん。印章はこの印を使うとええさんや」
「……天下布武印。はっ、直ちに取りかかりまする」
魔王さん、何てもんを預けはるんやろ。
それはそう。あの印こそ上意の権化なのだから。
しかもその印章を放って寄越すこの人も人で頭可怪しい。
天彦の周囲に侍る雑用係の若き用人たちの目が口よりも露骨に語っていたとかいないとか。
いずれにしても菊亭の下に畿内全土の商人と武家の頭領が呼び集められることとなったようである。
と、
「くふふふ、ええこと思いついたん。これを機会にたっぷりと儲けたろ」
天彦の秘奥義“銭欲に塗れてしまって心の声が駄々洩れ”が炸裂したところで。
あ。
あ。
あ。
あ。
あ。
あ。
あーあ。
菊亭一門の心が一つに通い合う。
雪之丞会心の“あーあ”で締めくくられた残念フラグの行方は果たして。
最後までお読みくださいましてありがとうございます。
待った?ごめんね。
とか。流行に乗ってしまいもうしたー嘆き!
もうたぶんダイジョブなのできっと書けると思います、はず。知らんけど。
暑いのでお身体お大事に、ゆっくり呑気に参りましょう。またねー




