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第96話 領都来襲

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 バレス帝国

 ~離宮~


 庭園の中央に設置された英霊記念碑。

 成人男性の背丈の倍ほどもある石碑は、表面にウィン大陸語で銘文が彫られている。


 ルネリウスはその銘文部分を指でなぞり――、ふんっ! と鼻を鳴らした。


「 身命を賭して国に尽くしても、斯様(かよう)な場所で顕彰(けんしょう)されるだけとは・・・ 」


「 ルネリウス様、そろそろご準備をなされた方が宜しいかと存じます。ユリアーネ様の御出陣の刻限なれば・・・ 」


 皇位継承者の1人ルネリウスの傍に控えるのは、専属の護衛隊の1人――本日の護衛を務める騎士エンゲルトだ。

 フード付きのローブを羽織っただけのルネリウスとは対照的に、エンゲルトは正に騎士然とした出で立ちで、このまますぐにでも戦場で活躍できそうなほどにしっかりと鎧を着込んでいた。


 ルネリウスの護衛の中でも最も信頼が厚いとされる騎士だ。

 その証拠に、皇族の御前でも帯剣を許されている。


 騎士エンゲルトの呼び掛けに反応し、ルネリウスは溜息を吐きながらゆっくりと振り向いた――


「 争い、領地を奪い、支配領域を拡大して――、その先に一体何があると言うのだ? 誰の物でもない広大な大地に勝手な線引きをし縄張り争いを繰り返す・・・常に獲物を探しておる血に飢え腹を空かせたモンスターと何が違うと言うのだ? 」


「 ウィン大陸統一こそがバレス帝国の国是(こくぜ)なれば・・・是非ともルネリウス様には陣頭指揮を執って頂きたく・・・ 」


 騎士エンゲルトはそう返事をしながらも――、何故か目を伏せ(うつむ)いた・・・

 その様子を見逃さなかったルネリウスは、またしても――ふんっ! と鼻を鳴らした。


「 白々しいぞエンゲルト! どうせ俺はこのままだと皇位継承権はく奪・・・もしくは兄者に殺されるかのどちらかだ、貴公もそう思っておるのであろう? 」


「 め、滅相もございません・・・ 」


 静かにそう返事をしたエンゲルトの表情には憂いが浮かんでいたが――、眼には明らかな動揺の色があった。


「 まぁ良い、さて――麗しの戦姫(せんき)の出立を見送りに行くとするか 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


―――――――――――――――――――


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 領都

 ~中央商店通り~


 幾重にも重なるけたたましい角笛の大音量と共に、衛兵が大声で叫びながら街を練り歩いていた。


「 な? なんだあの大声! 」


 戦争孤児となりパン屋で住み込みとして働いているリードーアは、朝の店売り終了後の日課となる井戸水を汲む作業をしていた。


 突然の規格外な大声に度肝を抜かれ――頭だけを起こす。

 そして大声のする方角へと視線を送った。


『 数日の内――、帝国軍がこのパルム領に侵攻してくるという確かな情報が入った! 訓練が済んでいる志願者は練兵所まで来られたし! 』


『 その他一般の者は荷物をまとめて街を出――、速やかに北上せよ! 』


『 繰り返す! 一般の者は速やかに北上しサエスタ大橋まで移動を開始せよ! 』


 リードーアはただただ唖然としていた。

 衛兵が叫んでいる内容も驚愕に値する文言(もんごん)だが、単純に声がデカすぎる!


 ――どうやったらあんな大声を出せるんだ?


 ――っと言うか、まだ周りの皆はリューステール領って呼んでるけど・・・正式にパルム領に名称が変わったのか? いつの間にか新参者の執政官の名を冠した領地名に変わってる。


 帝国に関する不穏な噂は日常的にあったが、街を衛兵が練り歩き注意喚起(かんき)を行っているということは、いよいよまたしても戦争が始まる前触れなのだろう。


 しかしこの度は「 民衆も武器を取り戦え! 」ではなく「 即座に逃げろ 」と、指示を出している。


「 こ、今回は――逃げてもいいのか? 」


 十七歳のリードーアにとって帝国は父親を奪った(かたき)だ。

 父が戦死しほどなくして後を追うように母も・・・病に倒れ死んでしまった――


 前回の戦争では一般民衆も大勢徴兵され、緊急を要するからと訓練もそこそこに前線へと送り込まれたのだ。結果、帝国を退ける事が出来たわけだが――、同時に多大な犠牲を払う形にもなった。


 そして街には自分と同じ数多くの孤児が溢れた。


 そんな自分を我が子の様に育ててくれた親方と奥さん。


 ――逃げるなら3人一緒だ。


 せっかく汲んだ井戸水を放置し、店へと一目散に駆け出す――


 走り出した次の瞬間、突然自分自身の周りが一気に暗くなった。


 本来ならば単純に陽が雲に隠れただけだろう――と、咄嗟に誰もがそう常識的に思う現象だろう。


 反射的に上空を見上げる・・・確かに陽の光が遮られた事に()る一時的な闇だった。

 

 だが


 ――え??


 ――く、雲じゃない・・・


 雲じゃない! 全く違う!


 リードーアはその瞬間、身動きを封じられた。


 ただナゼ自分がこの場から動けなくなったのか――、明確な理由が見当たらない。

 まるで魔法か何かの特殊な力で拘束されたのではないか? と思えるほど微動だにできない。

 恐怖で雁字搦(がんじがら)めになったのだろうか・・・

 いや、その割には思考はハッキリとしている。


 ――こ、このままだと喰われる・・・逃げないと! すぐに!


 頭ではそう明確な判断ができているのに、肝心の身体が動かない・・・


 更に次の瞬間――


 ドゴォォォオオオ!!


 陽の光を遮った巨躯(きょく)が、井戸の傍の民家を圧し潰し破壊した!


 まるで膨らんだパンを簡単に潰すように・・・その巨体の重みを武器に一瞬で建築物が瓦礫(がれき)へと変貌(へんぼう)する。


 更に巨木の様な尾の一振りで、別の民家を吹き飛ばし、あっという間に崩れた残骸(ざんがい)が散乱した・・・


『 帝国尖兵のモンスターだ! 襲撃が始まったぞ! 民衆よ! サエスタ大橋まで逃げろ! 王都の救援部隊が駆けつけているはずだ! 帝国軍本隊が襲ってくる前にサエスタ大橋まで今すぐ逃げろ! 』


 またしても規格外の大声で衛兵が叫んでいる!

 逃げる先を敵に知らせても大丈夫なのか? と一瞬疑問を感じたが――

 矮小(わいしょう)な自分がそんな事を気にしている状況ではないと、すぐに打ち消した。


 ――親方と奥さんと3人で逃げるんだ! 俺1人で逃げても意味はない!

 ――くそぉ! 動け! 俺の脚!


 もしかしてこれが・・・腰を抜かしてるって状態なのか? 太腿(ふともも)を拳で叩きながら何とかその場を離れようと藻掻(もが)いていた。

 

 正にその時――


 視界の先の上空に、また別の浮遊体を捉えた。


 半透明な3体のゴーストの様な女戦士たちと、ソレにぶら下がっている状態の、どうやら1人の陸人だった。


 その陸人が井戸の傍に舞い降りたと同時に――、浮いていた3体のゴーストは霧散(むさん)するかの如く掻き消えた・・・


 その陸人は異様な服装をしていた。


 頬まで隠れる高さの襟が付いた、ツルツルテカテカとした――まるで見たことが無い素材の上着だった。

 下履きも上着と御揃いで、これまたツルツルテカテカとした真っ白い物だ。

 まるで親方が普段履いている物と同等の太さがある下履き・・・

 背中には鞄の様な物を背負っていた。


 そして靴は妙にゴツゴツとしている。布とも革とも判別できない素材で、一際大きな存在感のある靴だった。


 (うずくま)っている自分の方へと、おもむろにその陸人が振り返る。


「 早く逃げなさい! あのモンスターは私が撃退する! 」


 力強くそう言い切った陸人は、驚くことにどうやら女の子だった・・・

 どう見ても男物と思われる服装を着用してはいるが、間違いなく線の細い少女だった。


女神の盾(アイギスシールド)!! 」

 少女が手をかざし何やらこちらへ向かって叫んだ。


「 う、うわっ!! 」


 身体から盾の紋章が浮かび上がる!


 どうやら目前の少女が自分に魔法をかけてくれたのだ・・・


 少女の魔力の発露(はつろ)に反応したのか、翼を有する巨大な龍のようなモンスターがゆっくりと頭部をくねらせた。


 グルルル・・・と喉が鳴っている。

 警戒と苛立ちを感じさせた。


「 街の人と一緒に! 早く逃げなさい! 」


 そう言い放つと少女は、全く躊躇なくモンスターへ全力で突っ込んで行った――


「 逃げろって言われても、こ、腰が 」

          ・

          ・

          ・

 龍が鉤爪(かぎづめ)を剥き出しにし、その巨大な右手を大上段から振り下ろした!


「 あ、危ない! 切り裂かれる! 」


 だが少女は全く(ひる)んでいる様子を見せてはいない!


聖なる土龍壁(ホーリーウォール)! 」


 少女が叫ぶと突然――、大地の一部が急速に盛り上がって太い筒状となり、そのまま上空目掛けて伸び上がった。


 龍が振り下ろす剛腕を下からカチ上げる!


 腕を弾かれた衝撃で龍の巨体が大きく仰け反った!


「 す、すげぇ、なんだあの子・・・ 」


 リードーアは逃げることも忘れ、自然と少女を応援するスタンスとなっていった。

 魔法のことはよく分からないが、あの子は魔道士なのだろう・・・しかも強大な!

 自分とは住む世界の違う、希代(きたい)の魔道士なのだろうか?


聖巨人の左腕(ジャイアントブロー)! 」

 更に少女が叫ぶと――

 青白い雲が中空に浮かび上がり、その雲の切れ間から――、龍の剛腕をも凌ぐ巨大な筋骨隆々とした左腕だけが現れた!

 そしてその出現した勢いを殺さず、仰け反ってガラ空きとなった龍の胸部を殴りつける!


 信じられないことに巨大な龍の身体が一瞬だけ浮いた!

 殴られた衝撃によって更にノックバックされ――、すでに龍によって破壊されていた半壊した家屋へと頭から突っ込んだ・・・


 ガラガラと轟音を立てながら完全に崩壊していく家屋。


「 俺は夢でも見てんのか・・・ 」


 突然過ぎる襲撃に加え、これまた唐突な展開で思考が追いついていない。


 付近の住民は慌てふためき防壁の方角へと大勢逃げているようだ――


 重なり合う叫び声と大勢が駆けている音が、あちこちで響いていた。


「 怪我してんの? 動けない? 」


 少女は龍から目を離しこちらへと接近してくる。


「 あいや、その、腰に、腰に力が入らなくて・・・ 」


「 え? ギックリ腰ってやつ? あーこっちでは【魔法の一撃】って言うんだっけ? それとも完全に精神的なモノが原因? 後者だと私の魔法かけても効果無いかもな~ 」


 龍はまだ生きている・・・尻尾がバチバチと石畳を打っている! 今にも起き上がってきそうだ。


 なのにこの少女は、余裕から来る油断なのか――、龍の存在なんぞ全く気にも留めていない様子で龍に背中を見せていた。


「 お、おい、そんなことよりあんた! アイツはまだ生きてるぞ! とどめを刺せ! 」


 少女が首だけを動かし、瓦礫の下敷きになっている龍を一瞥(いちべつ)する。

 あんなモンスターを相手になんでこんなにも泰然自若(たいぜんじじゃく)なのか・・・リードーアは理解に苦しんだ。


 余裕をかましている間に反撃され致命傷を被る――

 当時まだ六歳か七歳の子供だったが、戦後すぐにはそんな話は五万と聞いた。


 真の強者は相手に余裕なんて見せない。

 斃せるチャンスに全力を用い、完膚なきまでに叩きのめすのが真の強者だ。


「 あ~大丈夫よ。それより一人でも多く声を掛け合って逃げなさい! あのモンスターは単なる尖兵。帝国の本隊が攻めてきたら、おいそれとは逃げられなくなると思うよ! 」


「 あ、あんた一体何者なんだ? あんなデカいモンスターをほぼ一撃で吹き飛ばすなんて・・・それより――、俺の事を心配する暇があったら早くトドメを刺せよ! 」


 ――目の前の少女は自分の言うことを全く聞いていない。


 無視ではなく耳には入っている風だが、モンスター同様自分の事もまるで相手にはしていない様子だった。


 リードーアは苛立ちを覚えた。

 そもそもこんな強大な魔道士に、自分のようなタダの人間が敵うはずもない。

 そんなことは解っている。

 この少女から見れば自分なんぞ蟻にも等しい存在かもしれない・・・


 龍が起き上がり、少女を後ろから襲う展開を少しだけ期待してしまっている自分に気付いた・・・


「 とりあえず治癒魔法をかけておくね。精神的なモノが原因だったら効果無いでしょうけどね 」

全治癒(オールキュア)! 」


 リードーアの身体を眩い白色光が包んだ。


「 う、うおっ! 」


「 じゃ! 私はこう見えて忙しいので次に行くわ! とにかく早く街を出て逃げてね! 」

 そう言うと少女は、龍が倒れている反対方向へと小走りで去って行った・・・


「 お、おい! 待ってくれ! (アイツ)はどうすんだ? おい! 」


 リードーアの叫びも虚しく――、少女は振り返りもせず視界から消えてしまった・・・


 溜息を吐いた瞬間、瓦礫を跳ね除け龍がその巨躯を奮い立たせた!


 戦慄が走る――

 身体は硬直し更に身動きが取れなくなる。


 だが、龍は(おのの)くリードーアには目もくれず、強靭な翼を広げ大空へと飛び上がり、先ほどの少女同様あっという間に小さくなっていったのだった・・・


「 い、一体何なんだ? 何が起こってるんだ・・・ 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

焼肉食べ放題

1人2948円です。

小学生は半額です。

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