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第92話 架橋開始

「 す、凄いですな! このワイヤーロープは! 細い鋼鉄をより合わせ細い縄にし、それら複数本をさらにより合わせこの一本の太い縄にしておるのか! これ一本作るのに一体どれだけの時間を必要とするのか! 頭が下がりますな 」


鎖帷子(くさりかたびら)を編むのとはわけが違う。こんな途方もない長さをより合わせるのはかなりの労力が必要だが・・・この強度と品質を保つためには非常に高い技術と力が求められる 」


 様々な建設工事に関わる職人であるガスターさんは、息つく暇もないほどに驚愕していた。

 横顔がヘッドライトで直射され、暗闇に支配されつつあるこの原野でもその表情がよく判った。


「 驚いてるとこ邪魔してすみませんが・・・早速直線用のアンカーを打ち込みますね。斜め上から引っ張る役割のロープも張るんですよね? そのアンカーは後からでもいいです? 」


「 は、はい。これだけ強靭でしなやかならば、万が一にもまず落ちることはありますまい。先に最低6本、通してしまいましょう 」


「 了解しました。学者さん! アンカー打ち込む最適なポイント教えてー! 」

 私たち2人から少し離れた岩場で、学者さんは膝を突いて前屈みとなり、小さな木槌で地盤をリズミカルに叩き何やら調べていた。


「 すみません聖女様・・・もっとこちらに光源をいただけますか? 少し暗くて―― 」

 リクエストに即座に応え、光源となる黄色がかった球体を、学者さんの頭上に移動させた。


          ▽


          ▽


 ~2時間後~


 雷属性のハンマー魔法を駆使し、何本ものアンカーを岩盤に打ち込んだ後――ワルキューレ3体にフルに飛び回ってもらい、私とガスターさんは峡谷の対岸とこちらを何度も往復した。


 そして基本となる6本ものワイヤーロープを対岸に渡し、しっかりと張る事に成功したのだ。

 力仕事は、腕を自在に変形できる怪力ワルキューレたちに丸投げだ。


 完成までさらに倍以上の本数を張る必要があるだろうが、今はこれで十分だろう。


「 とりあえずここまでにしときましょうか! 後続部隊は夜通し行軍するらしいので、明日の日中には到着するって予定でしたし。明日陽が頂点まで昇ったら、この信号弾を数時間おきに撃ち上げます。何とか気付いてくれてスムーズに合流できるといいんだけどね 」


 私は用意した救命用信号セット( 発射筒✕1本 信号弾✕5個 )を段ボールから取り出し――、念のため2人に使い方を説明しておいた。


 というか・・・説明書をそのまま読んだだけで、私自身は実際使用したことなんて無いわけだが。


 学者さんは勿論のこと、ガスターさんも興味津々で、食い入るような目つきで終始真剣に聞いていた。


 売ってくれた島の漁協組合の方からの受け売りだが――、この救命信号は1000カンデラ以上の赤色光が上空約40メートル以上打ち上がり、発光時間は約4秒間という優れ物らしい。

 1時間か2時間おきに打ち上げれば、五発の内一発くらいは気付いてもらえるだろう――と、楽観視している。


「 あるていどの目安は地図に記しておいたので、大きく西にズレてしまうことは無いと思います。とりあえず渓谷に到達したら、崖沿いを東に進めと伝えてありますので。もしズレても時間の問題かと 」


 地質や地理に詳しい学者さんは、渓谷に近付いた辺りから神妙な面持ちになることが多く、当初のはしゃぎっぷりが嘘のようだった。

 単に二面性が激しい人物なのか――

 単に仕事となると急に生真面目になるタイプなのか――

 あのまま仕事中も奇声を発するような人物だとこちらが困るので、これはこれで良いのだろうが。


「 とりあえず食事にしましょうか! 腹が減ってはなんとやらですしね。お酒もありますよ! 」


「 おお! 」


          ▽


 焚火を囲み、調理不要な各種缶詰とお酒を振舞った。

 王都では当たり前のように流通している多目的ライターや、焚火用パック燃料着火剤、紙のお皿に紙コップ、そして缶詰に加え――日本から個人輸入したお酒におつまみ各種。

 もはや当たり前過ぎて、このていどのアイテムでは流石にこの2人も驚くことはなさそうだった。


「 いや~聖女様がお売りくださっている酒はどれも美味いですなぁ! 」

 ガスターさんは外見のイメージ通り、お酒が好きでかなり強いのだそうな。うちのお店でもよく購入して下さっているらしい。


「 そうでしょう、そうでしょう! 」

 半分はお世辞だと思われるが、一応調子を合わせておく。


          ▽


「 御二人は仲良く、このカプセル型テントの中で寝袋に入って寝て下さいね。チャックで開閉可能な窓も付いてますし、外部で異常があればすぐに気付けると思います。中にランタンをぶら下げることもできますので 」


 私は、ボンッ! とワンタッチで勝手にその場で膨らみ、勝手に組み上がる簡易テントをその場で設営した。


「 おおお、まるで魔法だ! 凄い! 凄すぎるっ! 」

「 なんという技術だ! どうなっておるのだ! 聖女様がお持ち下さる道具はどれも素晴らしいですな・・・ 」


 私自身も、「 凄いなコレ・・・ 」と感嘆の溜息を漏らしてしまったが、2人には察知されていない――

 ワンタッチで勝手に組み上がり、大人が2人寝ても余裕のある楽々スペースが確保できる簡易テントだ。

 勝手に組み上がると言っても、屋根部分だけはどうしても別で設置しなければならないが。


 ちなみに重量も、たった七キロ程度だった。


 こんな便利な物が、税込みで3万円ちょいなのだ!

 お約束のメイドインチャイナだが、性能を考えると安すぎる気もする。


 とはいえ他の物に比べると単価が高いので、数を仕入れるのは現実的ではないが。

 コレもハンターたちに対し売れ筋商品となり得るだろう。

 金貨2枚くらいでも十分安いと感じてもらえて売れる可能性が高い。


「 聖女様はどこでお休みになられるのですか? 」


「 あ~、私は車の中で布団かけて寝ますので御心配なく 」


「 ああ、なるほど! 」


 警護要員で「 暁の軍隊 」を喚び出すのが常套手段なのだろうが、明日ワルキューレを喚び出す必要があるため、今夜は警護無しだ。


 こんな僻地では盗賊の類も通りかかったりはしないだろう。

 だが、モンスターや魔物に襲われる可能性がゼロではない。


 ある意味賭けな部分もあるが、外界と遮断されるスペースの内部にいるのならば、即襲撃されることはまず無いとは思う。


 この原野には、夜間になると闇を好むアンデッドが多数出没することが確認されているらしい。

 (ゆえ)に、召喚を出せない代わりにせめてもの備えとして、光源魔法を出しっ放しにしている。

 煌々(こうこう)と輝く聖属性の光源だ。


 デュールさん曰く低位のアンデッドならば、この光の波長をその身に受けるだけで消滅するだろう――と言っていたので、最低限の備えにはなる自信があった。


 明るくてなかなか寝付くことができない! という苦情がもし2人から出ても、こればっかりは却下だ。


          ▽


          ▽


 ――スッ! ドスン!! ドスッ!!


「 ――――っは!? 」

「 何?? え? 地震? 」


 覚醒すると同時に、それまで見ていた夢を一瞬で忘れてしまった――

 包まった毛布を即剥ぎ取り、軽自動車の集中ロックのツマミを引き上げ、弾き出されたように車外へと転がり出た。


 とにかく滅茶苦茶に寒い・・・

 だが――それどころではないのは一目瞭然だった。


「 何だアレはっ!! 」


 私はどうやら盛大な勘違いをしていたのだ。


 聖なる光は――アンデッドという種全体が忌避する光なのだと・・・


 アンデッドの中には、ただただ生者を憎み――聖なる属性に過敏に反応し逆に攻撃的になる個体もいるってことを、この時まで知らなかったのだ――


 聖なる光に照らされたソレは、巨大な異形だった。


 2人もすでに簡易テントから飛び出している。


「 せ、聖女様! 」

「 あれはっ! あれはまさか! ウィルム族か? しかもあの肌は・・・ 」

 ガスターさんが叫びながら私のもとへと駆け寄る。


 学者さんは戦慄した様子で立ち尽くしていた。


 久しぶりの戦闘の予感・・・


 どうやら相手は襲い掛かる気満々の様子だった。


 だが、架け始めたばかりの吊り橋の――こんな至近距離でおっぱじめるわけにはいかない。

 万が一にも吊り橋が損傷することがあってはならないからだ。

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