第80話 ガサ入れ
~翌日、午前~
「 え? 全部売れたの? マジで? 五十本近くあったはずだけど・・・ 」
リディアさんと2人で騎士団詰め所へ向かう途中、ポーション交換所へ寄ると――マリアさんから驚愕の報告を受けた。
臨時の売り場を設け、元地球から仕入れた各種酒類――洋酒や日本酒(リキュールは除く)を売り物として並べてもらっていたのだが・・・
たった一日で完売するとは! 聖女パワー恐るべし・・・
「 陳列が終わり看板を出し暫くすると、まず貴族の使いの方が馬車で来られまして、三十本以上まとめ買いされていきました。どうやらハルノ様が荷物を置いていかれるあたりから、貴族の方が見物していたらしいです。残りは商人の方やハンターの方数名が購入されて――あっという間に無くなりましたよ 」
「 いくらになったの? 」
「 一本あたり大銀貨六枚という価格設定にさせて頂きまして、総売り上げは、金貨二十八枚と大銀貨八枚となります! 」
マリアさんが指折り数えながら報告する――
「 じゃあ今回に限っては元手はタダみたいなモンだから――営業利益は人件費の大銀貨三枚引いた額だね。釣銭は問題なかった? 」
「 はい! カインズ商会の全面協力が御座いますので。それからハルノ様。わたし共の人件費は無用で御座います! ハルノ様が私財を全て慈善事業に使われているのに、わたし共が懐に入れるわけにはまいりませんので! 」
「 いやいや、それは違うよ! 今は成り行きで――たまたま個人的な欲しい物には使ってないってだけです。そもそも陛下から頂いたお金は、深く考えず仕入れとかに使ってるし! 今後儲けが出たら遠慮なく私的に使うつもりだし。というかタダ働きさせるのは私の沽券に関わるので却下です! 聖女権限で却下します! 」
「 うっ・・・畏まりました―― 」
一応言葉では承服していたものの――、表情的には納得していない様子だった。
対照的に、後ろに控えるカインズ商会手代の男性2名は、素直に受け入れた様子で深々と頭を下げていた――
「 じゃあ私たちは行くね。引き続きお願い。今度は缶詰でも仕入れてこようかな 」
「 カンヅメ? で、御座いますか? 」
マリアさんはキョトンとしていた――
「 うん。調理済みの食べ物が入ってて、二年から三年くらい腐らずに保存できるんだよ~ 」
「 え? えええ! 三年ですか!? 」
「 うん。大体二年から最長三年くらいが平均だと思う 」
「 それって・・・何かしらの、魔法の効果とかですか? 」
「 いやいや、単純にパッケージのお陰! 密閉してるから細菌が触れることがないのよ。だから腐らないのよね。ハンターさんたちにとってみれば、一個一個が小さいから携帯できるし、その上長旅でも腐らない食料だし――、尚且つ安価なので喜ばれそうじゃない? 」
「 え? そんなに凄い携帯食料なのに安価なんですか? 」
「 うん。高くても銅貨五枚~七枚位の設定にするかなぁ~? 量にも因るけど・・・もうちょい高くても売れるかも? 銀貨一枚でも売れるかもね! 」
「 えええ!? 銅貨五枚? 凄いですね。それはとんでもなく売れると思われます―― 」
「 だよね! じゃあ行くね。引き続きお願いねー 」
「 はい! お任せください! 」
深々とお辞儀をする3人に手を振り、その場を離れた――
▽
――つーか、そもそも儲けが出ていない!
金貨を約七十枚ほど円に換金して――、大体190万円となった。
内100万円を叩きつけ、お酒を仕入れた。
つまり、金貨三十六枚ていどで仕入れた事になる。
んで――、仕入れたお酒全部じゃないものの、約八割ほどの本数を売り捌いた。
で、売り上げが金貨約二十九枚!
仕入れを自身の身銭で行ったと仮定したら、営業利益としてはトントン!
――儲け無いじゃん!
これぞ正に、トントンの極みですな!
私がポーションを進呈する代わりに下賜された大量の金貨。
その何割かを円に換金したので、ハッキリ言って陛下に仕入れを肩代わりしてもらったようなモノだ。
なので今回は、丸々利益になったとも言えるが・・・
まぁとにかく、今はこれでいいのだ。
今は様子見で、儲けは度外視だ。
▽
▽
「 待たせたな! 」
騎士団詰め所の応接間で紅茶を啜りながら待っていると、悠然たる態度の騎士団長サイファーさんが、お供を連れて現れた。
「 別に待ってませんよ。これから殲滅作戦ってことで宜しいの? とりあえず、これを飲んでください 」
私が持ってきた――元の世界のペットボトル入り紅茶をコップに注いだ。
「 おお、ありがてぇ! もうすぐ出発する。準備は万端だ! 」
「 しかし、嬢ちゃんは随分変わったな・・ 」
椅子に背を預けながら、対面のサイファーさんが呟く――
「 え? そうですか? 」
「 ああ、何と言うか――今や豪放磊落な女傑ってところか。豪胆な者は何人も見てきたが、大体そういう奴は慎重さに欠ける。だが嬢ちゃんは、豪胆さに加え慎重で用心深い。間違いなくこの王国でも最強だろうな! いや――嬢ちゃんほどの魔道士ならば、この大陸随一の強者かもしれんな 」
「 はぁ? 別に最強なんて目指してませんよ。武力はあるに越したことはないんだろうけど、降り掛かる火の粉を掃えれば――それでいいんです 」
「 ははは! 火の粉を掃うどころか――嬢ちゃんの力ならば単騎で国も落とせそうだがな! 正に、一騎当千だ! はははっ 」
――どこからどう見ても、この人の方が豪胆だと思うけど。
「 最強の剣士を護衛に持つ、希代の最強魔道士か・・・嬢ちゃんが覇権主義の隣国に属さず、我が国に属していることを、心の底からデュール様に感謝申し上げたいぜ! 」
「 あー、じゃあ今度あの人呼び出した時、直接本人に伝えてくださいよ! 」
「 はっはっはっ! 相変わらずデュール様をあの人呼ばわりか! 嬢ちゃんはやっぱ最高だな! 」
片手に持つ器から飲料が零れるほどに仰け反り、大笑いをしていた――
▽
開いている扉の内側をノックし、騎士団員の男性が顔を覗かせた。
「 団長! 馬車の用意が整いました! 点呼も終わっており、いつでも出発できます! 」
「 そうかご苦労。では嬢ちゃん――、行こうか! 」
「 ええ、天誅をお見舞いしてやりますか 」
▽
▽
▽
西門エリアに近づけば近づくほどに、どんどん粗末になっていく建築物。
カオスな雰囲気もさることながら、実際に空気も淀んでいる気がする。
瘴気漂う退廃地区――、そんな印象だ。
騎士団の質実剛健な馬車が、我が物顔で通過して行く――
道端で何をするともなく座りこんでいるボロを纏った人々は、それを視界に入れた途端、例外なく物陰に身を隠していた。
四台の馬車が停車する。
どうやら、目的の場所に到着したようだ。
廃材を集めて適当に建てたとしか思えない掘っ立て小屋・・・
私たちはゾロゾロと馬車を降り、誰が言うともなく整列を開始した――
「 おいグランザ! 斬り込みはお前に任せる。すでに罪状は確定している。暴れていいぜ。捕縛する必要はない! 殲滅だ! 必要なら、嬢ちゃんが蘇生すればいいだけだしなぁ! 」
団長からグランザと呼ばれた屈強な大柄の男性が、一歩前に出てくる。
片手には大型の、ハルバードと呼ばれる――斧と槍の特性を合わせたような鋼の武器を持っている。
「 団長みずから指揮するってんで愉しみにして来たんだが、とどのつまり、ただの小悪党の殲滅とはな! 」
グランザさんは得物で肩をトントンと叩きながら悪態をついた。
「 小悪党かどうかはまだ判らんぜ! 黄龍団・・・組織名だけは聞いたことがある。まさかこんな所がアジトだったとはなぁ 」
「 ふんっ! 相手がナニモンだろうが関係ねぇがな! このグランザ様が叩き潰す! 」
鼻息の荒いグランザさんを、私は片手で制した。
「 待ってね。全員に魔法障壁を付与するから! 」
「 女神の盾! 」
▽
グランザさんを皮切りに、リディアさんを含めた騎士団全員に、ダメージカット効果がある女神の盾を付与して回った。
「 ありがてぇ! ハルノ様がいてくれりゃあ怖いもんはねぇな。じゃあ狼煙を上げるぜ! 」
グランザさんは、頭上で大きく一度だけハルバードを振り回した。
「 ハルノ様。もう少し御下がりください 」
リディアさんと騎士団のユーイングさんが、私の眼前に割って入った――
次の瞬間グランザさんは、まるで砲丸投げの選手のように、その場でグルグルと回り始めた。
何度か回った直後、掘っ建て小屋の扉に向かって、遠心力を加えたハルバードを力任せにブン投げた!
ドゴォオオオォォォオ~~~ン!!
小屋の前面がことごとく破壊され、室内が剥き出しとなっていた。
――豪快すぎる・・・
近接パワー型なのは、一目見れば誰もが分かると思うけど、これほどとは・・・
破壊された入口へとグランザさんが駆け出した――
「 俺たちも続くぜ! 四班はここで待機してろ。万が一逃げ出す者がいた場合、殺して構わん! 容赦はいらんぞ! 」
そう言うと、サイファーさんも剣を抜き駆け出した。
▽
▽
「 拍子抜けだぜ! もぬけの殻だ! 」
グランザさんは怒りに任せ、水瓶を拳で叩き割り、微妙に残っていた水分が流れ出し床に溢れた。
地下はカビ臭く、ジメジメとしている。
私の光源魔法で周囲を照らしているので、物陰に隠れていてもすぐにバレるだろう。
今のところ、素人の私にでさえ判別できるくらい――人の気配は皆無だった。
元々、あばら屋と地下に拡がるこの部屋などに――何名潜んでいたのかは分からないが、こちらの警察のような組織である騎士団の捜査を予見し、ここを放棄して着の身着のまま逃げ出したのは明白だった。
「 逃げられたか・・・まぁ嬢ちゃんがあれほど派手に撃退したんだ。流石に手を出す相手を間違えたかと慌てふためき、トンズラしたんだろうよ。この様子だと――重要書類なども持って行ったか、処分した後だろうな 」
そう言いながら、サイファーさんも木棚を斬りつけ破壊していた。隠し通路の類を捜しているのだろうか――
「 やはり――、既に帝国領方面に逃げましたかね? 」
「 どうだろうな・・・尋問の証言を全て信じるならば、首領が帝国の出身で、帝国中枢からの依頼も受けてたそうだしな。頼るとしたら――やはり帝国だろうがな 」
「 しかし組織の右腕とやらの実行役は、嬢ちゃんがグチャグチャの肉塊にしてしまったから、それ以上の情報獲得はもう無理だがな! 」
「 うっ、確かにやり過ぎたかもしれませんが、いや確かに――人選を間違えたのは認めますが・・・ 」
薄っすら自覚していたことではあるが、どうせ捕縛し尋問するならば、最初から部屋の中で待ち構えていた男にするべきだった――
どうやらあの自信満々な男が、組織のナンバー2だった模様・・・
当たり前だが、その分もっと濃い情報を持っていただろう。簡単に口を割るかどうかは、また別の問題だが――
蘇生も不可能なくらいの死体にしてしまったせいで、今となっては後の祭りだ。
「 はははっ! 別に責めてるわけじゃねーよ! 」
「 こうなりゃ、帝国に乗り込んで国ごと潰しますか! 」
努めて冷徹に言い放つ。
「 は? おいおい! 冗談・・・だよな? 」
サイファーさんは真顔になっていた――
「 冗談ですよ! 」
「 じょ、冗談に聞こえなかったんだが・・・ 」
「 とにかく仕方がないですね。収穫無しで残念ですが、戻りますか・・・ 」
「 そうだな。後は三班と四班に任せよう 」
▽
▽
辺りはすっかり暗くなりつつあった。
馬車で悠々と東門詰め所に戻って来た私たちを待っていたのは――、存在を忘れかけていたハンターだった。
馬車を降りた私の下に駆け寄って来たのは、鮮やかな青色の鎧を着込んだ、カノン・ヘルベルさんだ。
「 ハルノさん! いやハルノ様! お久しぶりです。やっと会えた! 御帰りをお待ちしておりました! マリア殿からこちらだとお伺いしまして 」
「 おお! どうしました? 元気でしたか? ってか、様は勘弁して・・・ 」
「 い、いえ、そういうわけには・・・まさかデュール様の御使い様だったとは! 知らなかったこととはいえ、数々のご無礼――平にお許しください! 」
「 いや、だからやめてって! 畏まらないでください! 今まで通りでお願いします。様とか付けなくていいですから・・・まぁ、私の周りには何度言っても聞かない人たちばかりですけどねぇ 」
「 で――、わざわざ私を捜してたのは何でですか? 」
「 はい。折り入って御相談したい事が御座いまして・・・ 」
「 あー、待ってください。立ち話も何だし、中でお茶でもしながらゆっくり聞きましょう! 」
そう伝え――私は騎士団詰め所内へと、カノンさんを案内したのだった。
宣伝活動とか全くしてないし、周りにも一言も言ってないので、読んでくださってる方は少ないのかもしれませんが、なんやかんやで80話まで書いてもうたです!
もうこうなりゃ全弾撃ち尽くし外交ですわ!
撃って撃って撃ちまくりですわ!




