表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/232

第8話 人質交換

 視界いっぱいに点在する樹々たち――

 その内、眼前の数本だけがビクビクと震えだした。

 

 比較的、まだ若い広葉樹のようだが・・・


 驚いている合間に一瞬で人型を成し、私の眼前に8体の樹人族(ドライアド)が現れた。


 ――おおお! これぞファンタジー世界のモンスター! 巨大サソリ(セルケト)もあれはあれでインパクト大だったけど、また違った(おもむき)のあるモンスターだ!


 ――いや、感動している場合ではないわ・・・しかしこのモンスターからは邪悪なものを感じない。


 事前情報のお陰でそう思い込んでいるだけかもしれない。でもやはり恐怖を感じない。

 相対するとよくわかる。


 根拠は全くないけど、この樹人族(ドライアド)たちは私に対して攻撃とかはしてこない気がする。


「 ハルノ殿! お下がりくださいっ!! 」


 アイメーヤさんが叫びながら駆け寄ってくるが、私が手で制し動きを止めさせた。


「 あーあー、テステス。樹人族(ドライアド)の皆さん。私の話してる言葉がわかりますか? 」


【 ・・・ワレワレ・・ノ・・・ドウホウ・ヲ・・・カエセ 】


「 勿論お返しします! なのでそちらも私たちの仲間を返して頂きたい。こちらの勝手な都合でご迷惑をかけたことは謝ります。なのでどうか怒りを静めて頂きたい! ほらカノンさんたちも謝って! 通訳しますから 」


「 え? あ、はい―― 」


 カノンさんたち三人は武器をしまい、(こうべ)を垂れて謝意を示した。


「 本当に通じるのか・・・ハルノさん、通訳をお願いします 」


「 申し訳なかった――、責任は全てリーダーの俺にある。こいつらもそちらに捕らわれている奴も、基本的には俺の指示に従っただけだ。だからデュランを解放してもらえないだろうか? 身代わりが必要なら喜んで俺が代わろう 」


 私はカノンさんの言葉を一言一句違えず、そのまま樹人族(ドライアド)に伝えた。


 周りで聞いている者たちにとっては、ただ単に――二人が全く同じ言葉を連ねているだけの復唱に聞こえるだろう。


 だが樹人族(ドライアド)の言葉が私にのみ解るならば、樹人族(ドライアド)の方も、このメンバーの中なら私の言葉にしか反応しないと推測した。


 私が伝えた次の瞬間、反応が見えた。


 森の樹々がみずから脇道に寄るように移動し、気づけばそこに一本の道ができていた。


 このまま進んで奥へ行け、という意思表示だろう。


「 ハ、ハルノ殿・・・そいつらは何と? 」


 恐る恐るといった様子で、大隊長さんが小声で呟く。


「 いえ、特に返事は無いけど・・・まぁ、このまま進めってことなんでしょうね 」


「 わ、罠では? 我らを一網打尽にするための・・・ 」


「 いやぁ、襲うならもっと早い段階――それこそ森に入った時点で襲い掛かってきてるでしょ? それに彼らからは悪意を感じない。単なる思い込みだと言われればそれまでなんですけどね 」


 大隊長さん以下、全員無反応だった。


「 まぁとにかく奥へ行ってみましょうよ。怖いなら私だけで行ってきますけどね 」


「 むぅ! 見くびらないでいただきたい! 我ら騎士団、このていどで怖気づくほど弱者ではありませんぞ! 」


 ちょっとだけ嫌味な感じを醸し出してけしかけたが、効果てきめんだったようだ。


「 この奥にデュランがいるのか・・・ 」


          ▽


 私たち六人は、森が意思をもって作ったとしか思えない開けた道を進んでいる。

 その真後ろから、8体の樹人族(ドライアド)がピッタリと寄り添うようについてきていた。


「 こ、これってやっぱり――、罠なんじゃ・・・何だか絶対逃がさないぞ! って圧を感じますけど 」


 アイメーヤさんは大隊長さんとは違い、恐怖心を隠しきれていない様子だった。

 まぁ(くぐ)ってきた修羅場の数が違うのだろうし、大隊長さんと比べるのは酷だろう。


 私も正直、怖いといえば少し怖い。

 だが――、自分でも不思議なくらいに落ち着いているなとも思う。巨大サソリ(セルケト)との命がけの戦闘という、いきなり無茶苦茶ハードモードな修羅場を経験したせいなのだろうか?


          ▽


 どれくらい歩いただろう・・・

 樹々の方がみずから避けてくれているので、かなり快適に歩を進めることができている。


 私が抱える通称苗木と呼ばれる樹人族(ドライアド)の幼体は、相変わらず「 オオオォォォオオオォォ 」と、声にもならない音を発していた。

 やはり直接頭の中に響いて、言語として受け取っているのは私だけのようだった。


「 あ、あれは!! 」どうやらゴールのようだ。


 比較的太い樹の根本に、寄りかかるようにして男性が座っていた。

 戦士風の装備から見ても、デュランさんで間違いないだろう。


「 デュ、デュランッ!! 」


 カノンさんとウレックさんが、私を通り越し駆け寄る。


「 おいしっかりしろ! 助けにきたぞ! 」


 両手両足が血塗れだった。


 捕えられた時に触手のような枝で、両手両足を串刺しにされ拘束されたらしいが――

 その時の出血だろうか?

 だがそれ以上の攻撃は受けていないように見受けられる。


 呼吸も脈拍も一応は問題ないらしいが、完全に意識を失っていた。

 出血量が酷かったのかもしれない・・・


「 ハルノさん回復を! 治癒魔法をお願いします! 」


「 ええ、もちろん! 」


全治癒(オールキュア)!! 」


 へたり込んでいるように座るデュランさんの周りに、眩い白色光が纏わりつき、やがて収束していく。


          ▽


「 意識が戻りませんね・・・傷は完璧に治ってるはず 」


「 ありがとうございます! おい! デュラン起きろ!! 」


 ウレックさんがバシバシと容赦なく平手打ちを叩き込む。

 いわゆる往復ビンタってやつだ。


 ――往復ビンタ、してる人初めて見た・・・


「 なんで起きない? ・・・心の臓は確かに動いている。死んじゃいない! おい起きろ!! 」


「 ちょっとそこ、どいてもらえますか? もう一個魔法をかけますので 」


「 ああ、はい、すみません、どうぞ! 」


 デュランさんを取り囲む三人を押し退けて、もう一度唱える。


状態異常回復コンディションリカバリー! 」


 黄色を帯びた光がデュランさんを包み込む――


          ▽


 ――むうぅ、効果がないな!


 つい先ほど魔法を使う際、苗木は森に降ろした。

 すぐさま樹人族(ドライアド)の1体が拾い上げていたが・・・


 これで一応は人質交換終了と見て良さそうだが。やはり意識が戻る様子がない。


「 とりあえず村まで運びますか? これだけ男手がいれば何とか運べるでしょ? 」


「 そうですね。ハルノ殿の言われる通りこのままここにいても意味はない! 生きてはいるんだ、目覚めるのも時間の問題だろう。運ぶのはお前たち二人とフォルカーで担当しろ。ハンターのお嬢さんは俺と警護だ。お嬢さんが先頭、わたしが殿(しんがり)だ 」


 大隊長さんがテキパキと役割分担を決め、即座に行動を開始した。


 男三人が横並びになりデュランさんを抱え、隊列を組み歩き出した。


 ちょっと間抜けな運び方、というか運ばれ方だが。

 できるだけ寝ている体勢に近いままの方が良いだろう、という考えだった。


 こんなに真横に膨らんでも楽々と進めるのは、森自体が協力してくれているからに他ならない。


 樹人族(ドライアド)が、ナゼだか8体から7体に減っているが――

 来た時と同じように、やはり真後ろから付かず離れずでついてきている。


 行きは逃がさないぞ! 的な感もあるにはあったが、帰りは見守ってくれているような、そんな雰囲気だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ