第79話 講義
「 出たな! 核兵器おじさん! 」
男神像の真横に出現した光塊は、球体からやがて人型となり、最終形態となる美しい銀髪を備える男性へと変化していった。
「 ハルノ君! 久しぶりに会ったのに・・・おじさん呼ばわりはないだろう? それにナゼ核兵器なんだね? 」
デュール神が顕現した瞬間、私の後ろで整列する国王陛下たちは、すぐさま跪き頭を垂れた。
「 聞いた話ですけど、デュールさんがブチキレて戦場の兵士を皆殺しにしたとか・・・まさに兵器的な存在だな~っと思って、それで命名した次第です! 」
「 やれやれ、君には敵わないな・・・ 」
デュールさんはワザとらしくよろめき、髪をかき上げ、そして私の背後に視線を投げた。
「 諸君! そう畏まらず楽にしてくれたまえ。申し訳ないが、またしても暫く2人だけにさせてもらうよ? 」
「 ははっ、ごゆるりと! 」
国王陛下の快活な返事を聞き、デュールさんが中空を腕で振り払うと――、半透明で淡いブルーの円錐が出現し、私たち2人を囲った。
「 さぁ、これで我らの会話は洩れない。見たところ、ポータルを発見し魔法習得はすでに済んでいるようだね! それどころか、もう何度か行き来をしていると見たが・・・ 」
満面の笑みを湛え、かなり満足そうだ。
「 ええ、そうですね。最初から魔法だって教えてくれてたら良かったのに・・・世界間を行ったり来たりできる魔法を、私に覚えさせることが、一体何の役に立つんですかね? 最大の疑問なんですけど・・・ 」
「 そうだね。自分自身が何の為に存在しているのか、アイデンティティの確立を、君たち人類が非常に重要視する傾向にあるのは、君たちの思考に何度もシンクロしているから理解している。いいだろう。噛み砕いて――君にも理解できるであろう範囲で話してあげよう 」
「 う~む・・・その微妙な上から目線が気に入りませんが――、お願いします! 」
私の発言を受け、またしてもワザとらしく、ガクンと膝を折る――
「 わたしにはハルノ君の態度の方が気になるよ・・・わたしに対し、その様な不遜な態度をとる者が久しく存在しなかったので、ある意味新鮮ではあるがね。とはいえ、そこがまた君の良い点でもあるのだが 」
「 まぁいい、本題に入ろう――君がこちらの世界とあちらの世界を渡る意味は、互いの【惑星】としての存在を固着させ、確固たるものとする為なのだよ 」
「 確固たる? 」
「 そうだ。君たちの人類が名付けたこの地球という惑星は、かなりレアなのだ。近い惑星は無数に存在するが――性能的に地球と同等、またはそれ以上の惑星は存在しない。故に地球は、宇宙全体にとって、最も重要な役割があるのだ。その役割については、かなり話が長くなるので今は割愛するが、この星は存在していることそれ自体が――奇跡と言っても過言ではないのだよ 」
「 そして本来、この星のみならず――この宇宙空間そのもの全て、単なる記号に過ぎないのだ。無論ハルノ君も、その後ろに控えている者たちも、この城もこの大地も、全ての存在は――本来ただの記号に過ぎないのだ 」
「 ご、ごめんなさい・・・既に何言ってるかわかんないんですけどぉ――記号って 」
このおっさんは一体何を言っているのか・・・
哲学的な分野の話をしているのか?
▽
高校の時の授業で、先生が似たようなことを言ってたのを思い出した――
確かDNA構造の授業だったか・・・
二重螺旋構造のDNA。
遺伝情報の継承と発現を担う高分子。
DNAの塩基成分には、Aアデニン、Tチミン、Gグアニン、Cシトシンの四種類があって、DNAの中に対が60億個だったか6億個だったか忘れてしまったが、とんでもない数の塩基が並んでいる。
だが、種類はたったの四種類なのだ。
このたった四種類が基になっている。
差が出るのは、単に塩基配列の違いなのだ。
並んでいる順番・・・ただそれだけの差。
まるでプログラミングみたいだ――と、当時感じたのを思い出した。
たとえば、臓器のドナーをDNAの塩基配列を基に探した場合――
極稀に、自分と全く同じ塩基配列を持つドナーに巡り会うことがあるという。
国籍も性別も年齢も、ありとあらゆる違いがあるにも関わらず――
移植しても拒絶反応が全く無い、自分と全く同じ塩基配列の人間が存在する・・・
この紛れもない事実。
上位概念が独自のプログラムを駆使し――、生命を創造したのか?
デュールさんが言う記号の意味がいまいち解らないが、生物もまた――「 ATGC 」というたった四種類の記号で創られたのか?
▽
「 ハルノ君にはデータと言った方が解りやすいかもしれないな・・・つまり宇宙も含めた全ての存在は、【観測者】がいて初めてその存在を確立できるのだ 」
「 え? 何? つまり私がその観測者ってことですか? 私が両方の世界を行き来して観測することで、結果ただのデータが、具現化されて存続できるってことです? 」
「 なかなかの理解力だと褒めておこう――、当たらずとも遠からず 」
「 だがハルノ君は、まだまだ観測者の器にはほど遠い――、ハルノ君はただ道を繋げる。ただそれだけで良いのだ、今はね! 」
「 はぁ? やっぱり意味不明なんですけど、結局何をさせたいの? 」
「 表層意識では荒唐無稽な話という認識で、理解が及ばぬ部分だらけだろう。だが今はそれで良い! ハルノ君は自分の思うままに生きれば良いのだよ。ただ一つだけ――、星も一つの生命だということだ。それを忘れなければ、おのずと早い段階で答えに辿り着くかもね。君は存外賢いからな 」
「 いや、今さらそんな風に褒められても・・・結局のとこ答えになってない! やっぱ理解不能なんですけど 」
「 そうかな? 君たちが魂と呼ぶ――ハルノ君の中のソノ部分は、今の説明で大半を理解しているようだがね 」
「 はぁ? 」
「 はははっ! 今は細かいことは気にせず、生きることを謳歌するのだ! それが結果的には、わたしの望む展開へと繋がるだろう。で――他に疑問はあるかい? 」
「 ん~、なんだか消化不良・・・ 」
「 あー! 向こうの世界にこっちの人間を連れて行った場合、何か不具合が生じる可能性ってありますか? 何らかの時空的なアクシデントとかで、私だけは行き来できたとしても、連れて行った人が別のとこに飛ばされたりとか、そんな事故的なのが生じる可能性ってあります? 実は最初の転移の時、不本意ながら巻き込んでしまって・・・その時は何の問題もなく、行き帰り全員特に問題はなかったけど 」
「 心配無用だ。その可能性は全く無いね 」
デュールさんは自信満々で言い切った――
「 そ、そうですか――、安心しました! 」
「 他に疑問はあるかね? 」
「 ん~・・・まぁ疑問だらけなんですけどね。魔法って一体何なんですかね? 魔法で世界間を移動するって、一体全体どーやってんのか気になって仕方がない時があります 」
「 魔法とは単なるテクノロジーの一つだよ。世界によって科学的な進捗が全く違うというだけの話だ。行きつく所まで行きついたテクノロジーは、たとえ知的生命体の文明が滅んでも――ソレ自体は残るということだ 」
「 そして転移方法はだね、宇宙同士を貼り合わせ穴をあけ、そこを通過しているだけだ! 種を明かせば実に単純明快だろう? 」
ふふん、と得意気に鼻を鳴らす銀髪のおっさん――
「 はぁ? マジで何言ってんの? 」
「 やれやれ、ハルノ君のインテリジェンスに合わせているんだがね・・・では、もっと解りやすく説明しよう 」
そう言うと、懐に手を差し入れ――折り紙の様な正方形の小さな紙を二枚取り出し、それぞれの手でつまんだ――
「 この真っ白い紙と真っ黒の紙。この二枚がそれぞれの宇宙だとする。ハルノ君が魔法を唱えるとだね――、この二枚がこうなるわけだ! 」
デュールさんは胸の前で合掌し、それぞれの手に持つ紙を貼り合わせた。
「 この状態にして穴をブスッとあけてだね――、そしてそこを通過するのだよ! 」
「 い、いやもう無茶苦茶やん! 魔法で宇宙を貼り合わせるって、そんなことできるわけないじゃん! いくら何でも・・・ 」
「 それができるのだよ! 先ほども言ったが、全ては記号なのだ。記号の状態の宇宙を貼り合わせているだけだよ。造作もない! 」
「 いや、ごめんなさい・・・質問した私がバカだったわ。もういいです、頭痛くなってきたわ 」
「 はははっ! とにかく何度も言っているが、ハルノ君は生きる事を愉しみたまえ! ただそれだけで良いのだ 」
▽
「 では、彼らをこれ以上跪かせるのも忍びないのでね。本日の講義はここまでとしよう 」
そう言うと――デュールさんは腕を振り、遮断のベールを掻き消した。
「 やぁ待たせたね! 君たちの協力にも感謝しよう! 次に会う時までに、何か褒賞も考えておこうか 」
鷹揚に言い放つ。
私は彼が何をもって褒賞とするのか・・・少しだけ興味が湧いていた。
「 勿体ない御言葉で御座います! 」
国王陛下たちは、さらに平身低頭となり、床に額を擦りつける。
「 今後もハルノ君のバックアップを頼んだよ 」
「 はっ! 我らにお任せくだされ! 」
「 うむ、ではまた会おう! 」
そう言い終わるや否や――、またしても即座に眩い光を放つ光塊となり、徐々に細く縦に伸びていき――やがてプツンと完全に消滅した。
「 あ~、もう! フラストレーション溜まっただけだったなぁー! いやでも、同行者が不具合などに巻き込まれる可能性が無い――と聞いたのは安心材料だったわね 」
「 ハルノ殿! 此度はどのような神命を賜ったのですかな? 」
国王陛下はゆっくりと立ち上がり、私に質問してきた――
「 いえ、特に新しい指示は無かったですねぇ。ただ好きなように生きろと・・・ 」
「 そうですか・・・ 」
「 とりあえず国王様。デュールさんが褒賞を与えるって言ってたし、欲しいモノを考えておいた方が良いかもしれませんねぇ。デュールさんが用意したモノをもらうより、御自身が本当に欲しいモノをもらった方が良いかもしれませんよ? 個人的には――あの人が用意するモノがちょっと気になるけど・・・ 」
「 いえ、僭越ながら――デュール様が御選び下さった方が価値があるかと存じます! しかし贅沢な悩みですなぁ。これぞまさに身に余る光栄、まさか我が一生の内に、こう何度もデュール様のご尊顔を拝する機会に恵まれようとは・・・全てはハルノ殿のお陰ですなぁ! 」
ウットリとする国王陛下の横顔を見つめながら――、あまり深く考えず気楽にいこう! と、改めて思ったのだった。
お読みいただき誠にありがとうございました!




