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第77話 惨殺

 辺りは少しだけ暗くなりつつあった――


 予想はしていたが、やはり転移後の座標は微妙にズレていた。


 鉄の荷車の底には薄い毛布を敷いてある。割れ物防止の為だ。

 この荷車に荷物を全部積み込み、人気(ひとけ)の無い場所から転移したわけだが、出現位置は出発した治療院の付近などではなく、王都街のすぐ外側の草原だった。


 薄々感じてはいたことだが、多分、突然出現しても問題ない場所や、衆目の無い場所などなど、ある一定の条件をクリアしている場所に、自動で座標修正がなされているのかもしれない。

 

 憶測の域を出ないが・・・


 前回転移先の海に、ダイレクトにドボンしてしまうと考え、海中に投げ出された瞬間にワルキューレたちを召喚するつもりだった。

 実際には座標修正され、周防大島の、しかも人気(ひとけ)の無い場所へ転移したのが憶測の裏付けとなっていた。


 ――さて、もう隠す必要もないし、またしても派手に帰還しますかね。


岩人形創造クリエイトロックゴーレム! 」


 これ見よがしな魔法陣が出現し、鋼鉄製のロボットが浮き出てくる!


 ゴーレム君改め、センチュリオンが具現化した。


「 この荷車を牽いて頂戴! 一緒に王都街へ入りましょう~ 」


 更に――


聖なる水球(ホーリーウォーター)! 」


 荷車全体を巨大な水球で包んだ!


 これで浮力が少し働いて、剥き出しの瓶同士が、振動などで干渉しても割れることはまずないだろう。

 おつまみやスナック菓子も、真空包装や水の入る余地のないパッケージばかりなので、表面が濡れるだけで中身にまで浸透することは皆無だ。


 ――今初めて思いついたけど、意思の力で対象を包み込めるなら、敵に対してエグイ使い方もできるなこれ・・・包み込んで溺死するのを待つとか。


聖なる光球(ホーリーライト)! 」


「 よしこれで明るい! このまま進もう~! 」


          ▽


 王都街を囲む巨大な防壁に近づくと、大門のすぐ外に、十数名にも及ぶかなりの数の衛兵が並んで武器を構えていた。

 大門横の詰め所から、全員出てきたんじゃないか? という勢いだった。


 衛兵たちは、まだ肉眼ではこちらを正確に把握できないのだろうが、こちらには双眼鏡という反則アイテムがある。

 薄暗いので目を凝らす必要があるものの、一人一人の挙動までがしっかりと確認できた。弓矢をつがえている者もいる。


 多分――物見塔から眩い光源とセンチュリオンの巨体を何となく視認できたので、何事かと慌てて外へ飛び出してきたのだろう。


 ――しかし、もし脅威を感じたなら出てきちゃ駄目だろ・・・

 まず付近の民衆を避難させ、門を閉めて侵入させないように備えるとか、そういう対処をしないと・・・


          ▽


 かなりの至近距離まで近づいた。


「 おい武器を下ろせ! あれは聖女様だ。聖女様が戻られたぞ! 」


 ここにも届く大声で、衛兵の一人が叫び――、軍用ラッパのけたたましい音色が薄暗い空へと放射された。


 そして、まるでリレーのように後ろ後ろへと――「 聖女様だ! 」と、衛兵たちは時間差で連呼していた。


「 これはこれは、どうもどうも! 御出迎えご苦労様 」


「 あーはい、どうもどうも! 」


 両サイドに寄って道を開ける衛兵や民衆に対し、まるで安っぽい芸能人のように愛想笑いで手を振りまくり、その歓声に応えた。


 センチュリオンも、どこか誇らしげに荷車を牽いている。


 ――何だコレ? こんなにも大歓声を受けるほどの事を、私はしたのだろうか?

 

 いや――、したかもな・・・


          ▽


 もう辺りはすっかりと暗くなり、光源を頼りに進んだ。


 大門付近ほどではないが、すれ違う人たちからの歓声を受けながら練り歩き――、小一時間も掛けてやっと治療院の少し手前まで到着した。


 センチュリオンはもう必要ない。

 ここからはセンチュリオンが通るには狭すぎる。

 ここまで荷車を牽かせるだけ牽かせておいてかなり酷い扱いだが、この巨体は邪魔だ。


「 ご苦労様 」


 意思の力でセンチュリオンを送還した。


          ▽


 もうヒルダさんは寝ているのだろうか?

 いつものこの時間なら、まだ燭台で煌めく蝋燭(ろうそく)の、ユラユラと揺れる明かりが、建付けの悪い木製窓の隙間から漏れているはずだった。


 留守か?


 玄関扉を押すと、内側へと力なく、キイィー・・・と軋む音を立てながら動いた。


「 ヒルダさん? 居ないの? 」


 私は大声で名を呼んだことを即座に後悔した。


 もし寝ていたら、起こすことになってしまう。

 この時間に既に寝ているということは、日中に相当疲れたのだろう。


 眩い光で覚醒させてはならないと思い、光源魔法も掻き消した。


          ▽


 もはや私の部屋と化している、いつもポーションを製作している部屋の前まで進んだ。


 ――何かおかしい・・・上手く言えないが、何かがおかしい。


 そうだ! 私が明日戻ると思い込んでいるだろうから、リディアさんが居ないのは当然としても・・・王国にとって重要施設の一つと成ったこの治療院を、いつも警備してくれている兵士さんが1人も居ないのはおかしい・・・


「 やはりおかしい、警備の衛兵が1人も居ないなんて 」


 そう呟きながら私は扉を押した。


「 随分遅かったな! 待ちくたびれたぞ 」


 !!!!!


 闇が支配する部屋の奥から、突然低音ボイスが響いた――


「 だ、だれ?! 」


「 お前を救いにきた者だ 」


「 はぁ? 救う? 」


 もはや疑う余地が微塵もないほどの不穏分子・・・


 召喚はまだ呼べない。

 さっき送還したばかりだ。

 センチュリオンの霊子が完全にフルとなるまで、その他も含め召喚系は出せない。


 ただ、そんなに長い間具現化させていたわけじゃないので、再詠唱可能待機時間(リキャストタイム)はかなり短いだろう。


 この不法侵入者への対応を、アレやコレやと考えていると、室内奥から――空間の闇に比べ明らかに異質な黒い影の輪郭が、ゆっくりと近づいた。


「 王家に食いものにされ使い捨てられる前に、俺たちの組織が後ろ楯になってやろう! その異能を遺憾なく発揮したいと思わんか? 俺自身も調査し、お前のその類まれなる治癒の才能は、本物だと確信した。ポーション製作できる資格のある者は、極少数の治癒魔道士だけだ。その希少な魔道士の中でも更にお前は突出した神がかった存在だ! お前はこの国には勿体ない! 俺と共に国を出るんだ 」


「 何だか凄い褒められてる気がしますが・・・他国で? 別にこの国の王様から「 アレをやれ! コレをやれ! 」って、命令されて行動してるわけじゃありませんよ? 確かに後ろ楯にはなってもらってますが、かなり好き勝手やらせてもらってて、別に不満はありませんが・・・ 」


「 お前がそう感じるように王家が仕向けているだけだ! あのバカ共は自領だ他領だと、日々生産性のない派閥争いを繰り広げている! 民衆の事なんぞ二の次三の次、利己的で凡庸なバカ共だ。お前はそのバカ共に利用されているだけだ。俺と共にこい! こんな国で、その異能を無駄使いすることはない 」


「 お断りします! 自分の道は自分で決める。少なくともあんたは信用できない! 耳触りの良い言葉を並べ立てても――、私の直感が全て否定している! 」


「 これは骨が折れそうだな。お前のような神がかった異能は、世界の趨勢(すうせい)をも左右するというのに・・・ 」


 黒い影の男は、やれやれといった様子で、溜息を漏らしながら更に近づいてくる。


 長身で短髪の男だった。

 着ている物は全て黒で統一していると思われる。

 隠密稼業なのは明らかだった。


「 その前に・・・警備の兵士さんやここの責任者のヒルダさんに危害は加えてないでしょうね? 返答によっては許しませんよ? 覚悟してもらう! 」


「 ははは! これはこれは威勢のいい魔道士様だな! まさかこの俺とやり合うつもりか? 体術で俺に勝てるとは思えんが、お前が規格外の優れた魔道士だということは百も承知だ。だがそれは、霊薬精製も含めた回復系魔法の分野だけだろう? 治癒魔法を俺に当てるなら大歓迎だがな! 治癒に特化しているということは、他全ての属性は取るに足らない、そう――たとえ使えたとしても、生活魔法ていどの微力なモノだけだ! よってこの俺に勝てる要素がお前にはないぞ? 」


 絶対的な強者の風格。

 だが私の眼には、ただの虚勢にしか映らない。


 黒い男は腕組みをし――不敵な笑みを湛えていた。


「 あなたが私に勝てる要素の方が見当たりませんが・・・それより答えなさい! ヒルダさんと衛兵をどうしたんですか? まさか――「 殺した 」とか言いませんよね? 」


「 殺した、わけではないが、眠ってもらっている。薬品でな。こう見えて無益な殺生は好みではない 」


 私は魔法を唱えかけたが、咄嗟に飲み込んだ――


「 危なかった! 殺したって言い切ってたら、瞬殺してるとこだったわ・・・ 」


「 ははは! どうやってだ? こう見えて俺は素早いぞ? たとえお前が人並みの属性魔法を使えたとしてもだ、俺には届かん! たとえこの狭い部屋の中でもな 」


 ――ああ、理解した。

 この人バカなんだわ。

 自分の力量に絶対の自信があるのは悪い事ではないんだろうけど、常識に捕らわれ過ぎてて、可能性がまるで見えていない・・・


 ――私が常識を逸脱した非常識な魔道士だという真実が。その可能性を全く考慮してないんだわ。


「 本当は手荒な事はしたくなかったんだがな。仕方あるまい・・・最悪、手首足首を切断してでも持って行くぞ! お前の治癒魔法、もしくはお前が作った霊薬があれば、欠損した部位すらも復元可能なのだろう? そういう意味では楽な仕事だな! たとえ深く傷つけても後々問題にはならんだろうしな! はははっ 」


「 おいプランBだっ! 」


 ――もう、このアホとはこれ以上話しても無駄だな。


 ――プランBねぇ、私は常にプランAだ!

 初手から全力で叩き潰すっていうプランのみ!


 壁に嵌め込んである木製の窓が開き、そこから1人の男が滑るように、ヌルっと侵入してきた。そして廊下にも人の気配が発生する・・・


「 悪いが暫く眠ってもらう! 抵抗はしない方が身の為だぞ? いくら治るとはいっても、痛みを感じるのは嫌だろう? おいお前ら! 多少傷つけても構わん! 縛り上げろ! 」


 ――めんどくせえぇぇぇ!

 

 もう怒った!

 

 殺す!


時空操作(タイムコントロール)! 」


 真後ろの扉が勢いよくこちら側へと開き――男が飛び込んでくる!

 窓から侵入してきた男もこちらへと跳躍する!


聖なる光球(ホーリーライト)! 」


 石造りの天井中央へ光源を持って行き、照明代わりとした。


 その瞬間――スロウダウン効果が発動する!


 超スロウで跳躍する男・・・

 滞空時間がハンパない! フィギュアスケートだと何回転できるんだってくらいに、滞空時間の長い跳躍だった。


 真後ろから襲って来る男も、私に覆いかぶさろうと超スロウな動作で両手を広げていた。


 ――ちょうどいいわ、国王陛下に部屋の設備を一新してもらう口実になるかもだし、遠慮なくやりますか!


光神剣(フォトンソード)! 」


 まずは真後ろの男を、袈裟斬りで斜めに両断する!


 さらに絶賛跳躍中の男の両脚を、真一文字に斬り捨てた!


 斜めに真っ二つとなった男と、太もも部分から両脚とも切断された男は、身体の一部が落下するその速度までもがスロウだ。切断面から(ほとばし)る血液ですら超スロウ・・・


 そして私に自分は強者だと豪語していた正面の男は、何やら胸元から投擲(とうてき)武器でも出している最中なのか? 服の間に右手を差し入れた状態だった。そしてその動作も、これまた超スロウだった。


 その右手部分を容赦なく斬り落とす!


 更に――


聖なる氷塊(ホーリーアイス)! 」


 部屋の中央にドスンと音を立て、冷気を纏った巨大な氷塊が突如出現した!


 この時点で、ようやく【時空操作(タイムコントロール)】のスロウダウン効果が終了した――


「 ぐあぁあああ! う、腕があああぁぁぁ!! た、ただの治癒魔道士じゃあない! お前は何者だぁあああ! 」


「 ぎゃあああぁぁぁあああ!! あ、脚いぃぃ! お、俺の脚ぃ! あがぁあああ!! 」


 血飛沫(しぶき)を上げ、真っ二つとなった男は静かに倒れた。

 残り2人は、石床を転げまわりながら、次々と溢れる血液を撒き散らしている。


 ――う、うるさいなコイツら! しかし私、いつの間にか血が平気になってるな。

 慣れって怖い。これも一つの成長なのかな・・・


「 治して欲しいですか? 治して欲しかったら、なんで私を捕まえようとしたのか、理由を聞かせてください。納得したら元通りに治します! 」


「 があぁああ! な、治してくれ! 早く、早くぅう! 」


 両脚を失った男が泣き叫びながら懇願していた。


「 いやだから、襲撃した理由を教えて下さい! ただし納得する返答じゃないと治さないですよ? 」


「 て、帝国だ! お、俺たちの組織は、帝国と太いパイプが、あ、ある! ぐああぁ! それで・・お前を・・・お前の、れ、霊薬精製能力を独占し、帝国・・で売り捌く・・売り捌き、組織に莫大な利益を、くぁあああ! は、早く! 早く治して! 」


 両脚を失った男は、苦しみながらもペラペラとよく喋ってくれた――


「 なるほど――、単純に営利目的ですか! 実に解りやすいな 」


 しかし治すどころか、両脚切断の男はそのまま放置し、更に移動できなくする為に、手首を失い(うずくま)っている男の、今度は右足首を追加で切断する!


「 ぎゃあああ! なんてっ! なんてことしやがるぅこのクソアマぁあああ! バケモンがぁあああ!! 」


 両脚を切断され私の傍で泡を吹き痙攣を始めた男を何とか引っ張り、部屋の外まで引き()り出した。


 そして即部屋に戻り

 

 唱える!


聖なる暴風(ホーリーウィンド)! 」


 そして私は、またそそくさと部屋を出て扉を閉めた。


「 ぐああぁぁ・・・くそぉ! 痛てえぇ! こ、この俺がなんてザマだ! あの女は人間じゃあない! ひ、人の皮を被ったバケモノがあぁぁぁ!! くそがぁあ! ぐううぅ、死にたくない! まだ死にたくない! 」


 部屋の中には、真っ二つの死体と手首足首を失った最初から部屋に潜んでいた男と、引っ張り出した男の両脚の先だけとなった。


 部屋の中では暴風が吹き荒れ、中央に置いた巨大な氷塊を飲み込み、まるで激しく回り続ける洗濯機の中の様な状態になっているだろう。


 意志の力により徐々に砕かれた氷が、やがて小さな破片となり――無数の刃となって死体もろとも串刺しにしていくと思われる。


 最近考えた、限定的な空間での魔法による極悪コンボだ。


 なんだか最近、かなり残忍になってしまっている自分にハタと気付き・・・戦慄を覚えたのだった。

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