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第72話 ポーション補充

 今日は、朝から治療院に籠り――ポーション作りに(いそ)しんでいた。


 もう使徒という存在を隠す気がサラサラ無いので、治療に訪れた怪我人を――片手間ではあるが、秒で治したりもしている。


 一時的にヒルダさんの仕事を完全に奪ってしまう形にはなるが、もう遠慮するのは止めたのだ。

 すぐ目の前に救うべき人がいる。そして自分には救う能力(ちから)がある。ならば、躊躇(ためら)わず即行使するまでだ。


「 ハルノ様。小瓶があと三個で終了です 」


 リディアさんが強制終了間近を告げる。


「 そうですか・・・こればっかりは仕方がないですね。今何本になりました? 」


「 え~っと、69本なので、最終的には全部で72本になります 」


 ヒルダさんが指折り数え教えてくれた。

 木製の箱に、20本ずつ均等に並べて収納してくれているのは、治療院の責任者であるヒルダさんだ。


 ヒルダさんは背が高く、プロポーションも最高の黄金比で、赤髪が特徴の大変美しい女性だ。

 私如きが判定するのは大変おこがましいことだと重々承知の上で――、あえてその美貌を数値で表すことをお許し頂けるならば・・・総合的にはリディアさんよりも数値は上だと思う。それくらいに絶世の美女だった。


「 数的には、とりあえずこんなものでいいかな。でもマリアさんの話だと――かなりの需要がありそうなので、毎日コンスタントに製作しないといけないかもしれない。私が留守をしたとしても、その期間中も問題無いように、かなりの数をストックしときたいね 」


「 そうですね。城に降臨なされた天上人とハルノ様が――、実は同一人物なのだと周知されるのも時間の問題でしょうし、そうなれば――益々食堂に人が押し寄せるかと思われます 」


 整然と並ぶ小瓶が収納された木箱を重ねながら、リディアさんが意見を述べる。


 すでにヒルダさんにも私の真の素性を話してある。

 簡単に信じられる類の話ではないはずだが、蘇生魔法を目の当たりにしたことがあるヒルダさんにとっては――ストンと腑に落ちたらしく、色々な疑念が全て消失したと言っていた。


「 とりあえず王家のパワーを使ってるので、小瓶の発注は問題ないし、蒸留水の確保も問題ない。私の魔法で創り出した魔法水をそのまま使用できれば楽だったんですけどね。どうやら聖属性のエンチャントが、逆に上手く乗らないらしいので、ダメらしいんですよね・・・ 」


 ゴンゴンゴン!


 誰かが玄関の装飾金具を打ち鳴らしている。


新手(あらて)の患者さんですかね? 」


「 そうですね。ちょっと失礼します 」


 ヒルダさんはそそくさと部屋を出て行った。


          ▽


「 ハルノ様! マリアさんを補佐しているカインズ商会の従業員の方が、ポーションの補充分を取りに来られました 」


「 ええー? 持って行くって言ったのに・・・ 」


「 それが、もう無くなったようでして 」


「 はぁ? 十回食事して初めて1本交換できるのに? 今日まだ初日なのに、なんで? 」


「 多分、食事をせずにチケットを買い占めているのかも・・・それしか考えられませんね 」


「 う~む、それはどうなんだろうか? それはそれで良いのだろうか? 」


「 そもそも、ポーションの効果が凄すぎますからね。銀貨十枚分、つまり大銀貨一枚の出費で手に入ってしまうのは、どう考えても異常ですからね。皆――、特にハンターは飛びつきますよ 」


 思い悩む私に、ヒルダさんが率直な意見を述べる。


「 う~む、価格設定を間違えたかな? いやでも、手を出しやすいお手軽価格にしないと、長期的に安定しないしな。そもそも子供たちを救うのが目的なわけだし、その点は全く問題は無いし、食事のついでにカンパしてもらえればいいなって、安易に考えすぎてたのかな? でもバランスがなぁ・・・ 」


「 ハルノ様、そろそろ持って行かねば! 」


「 ああ、そうですね。悩むのは後だな 」


          ▽


 台車で自分が持って行くと言い張るリディアさんを(たしな)め、ポーションの小瓶が詰まった木箱四箱をリアカーに移し、颯爽(さっそう)とママチャリで駆け出した。


 街道は石畳で整備されているのだが、予想通りガタゴトと揺れが酷く、ペダルもかなり重い・・・


 ちなみに緩衝材として(わら)を大量に隙間に詰めているので、多少の衝撃が伝わるのは問題無い。


 商会の従業員の方と、リディアさんが駆け足でついてくる。

 そして、リディアさんが走りながら後方で叫んでいた――


「 ハルノ様! 私が運転致しますので! 御身みずから力仕事をせずとも! 」


 振り返って、私も負けじと叫ぶ――


「 ダメダメ! これを運転するにはちょっとしたコツがいるのよ。リディアさんには悪いけど、まだまだ練習不足だからダメ! 」


「 し、しかしっ! 」


          ▽


 マリアさんが店番をする交換所に到着した――


 提携食堂の二軒隣の空き店舗を、カインズさんの御厚意に甘え、無償で借りているのだ。


「 ごめん。お待たせ! 」


 店舗建屋の玄関先に、マリアさんは立っていた。


「 何か見たことのないモノが近づいて来ると思ったら・・・それは昨日、城内に安置されていた天使の揺り籠ですよね? しかも、ハルノ様ご自身がお見えになるとは 」


「 え? 天使の揺り籠って・・・何? 」


「 今、王都街で噂になっている――天の使いが運んで来たとされる揺り籠のことです。わたくしは残念ながら目撃できませんでしたが、ハルノ様が天から降りて来られた時に、乗られていたモノだとお伺いしております 」


「 ゆ、揺り籠って――、どこからどう見ても宅配便仕様のママチャリなんだけど・・・まぁこっちの世界の人からすると、何やら特殊な揺り籠に見えるってことなのか 」


 ――あ~、それで道中すれ違う人々が皆、私の方を見て祈っていたのか!

 じゃあ、もうあんまり声高に吹聴せずとも、もうこれに乗ってるだけで、私があのオッサンの使徒だってことは勝手に周知されていくんじゃなかろうか。


「 何と説明していいやら、これは揺り籠ではなく移動のための乗り物なんですけどね・・・荷物もこうして運べるし 」


「 なるほど! そうなのですね! 」


 周囲で遠巻きに私たちのやり取りを傍観している――、ハンターと(おぼ)しき一団の中から


「 聖女様が御一人で揺り籠に乗って来られたぞ、天使が運ぶのではないのか? 」

「 聖女様が今申されていたぞ。揺り籠は聖女様専用の乗り物なのでは? 」

「 なるほど! 魔力で操縦されておられるのだろう。天使たちは、聖女様の護衛だったのだろうな 」


 などと聞こえてきた――


 これ本当に――わざわざ使徒だと喧伝する必要はもう無いっぽいな。


 どうやら先日の「 空飛ぶママチャリ 」での凱旋が、相当インパクト(大)だったと見える・・・


「 ところでこんなに消費が激しいってことは、チケットを大人買いして、ポーション交換しまくってる人がいるの? 」


「 あー、いえ、特定の誰かというわけではないようですが、チケット十枚を一括購入する人がかなり多いようです。そのため在庫は全て無くなりまして・・・御覧の通り、補充されるのを今か今かと皆待ちわびているのだと思います 」


「 う~む、結果的には子供たちのためになるわけで・・・別に悪いことでも何でもないんだけど、単純に補充が大変なので、ルールを決めるべきだわねぇ・・・流石に市場にもかなりの影響がでるだろうし 」


 私は、リアカーの中から各種便利グッズが詰め込まれている――巾着を取り出した。


 巾着の口を(ひろ)げ、玩具(おもちゃ)の拡声器を取り出す――


 電池を二個装填するだけの小型の物だ。カテゴリーは玩具(おもちゃ)だが、その性能は本来の拡声器と比べても遜色(そんしょく)ない。


「 えー、皆さん! 私が自作したポーションを只今補充致しました! チケットを規定枚数所持している方は、遠慮なく交換して下さい~。ですが、別に責めているわけではありませんが、食事をせずチケットだけをマトメ買いする方が多いと報告を受けました! なので、只今より御一人様一日一枚までの購入とさせて頂きます! 重ねて申し上げますが、別に責めているわけではございません! むしろ積極的な御協力に感謝申し上げます! ですが、諸事情により――只今より勝手ながらそういったルールにさせて頂きます! ご清聴ありがとうございました~ 」


 パチパチパチ――と、ナゼだか解らないが拍手が巻き起こり、これまたナゼだか解らないが大歓声が沸き起こっていた。


「 ではマリアさん。新ルールを立て看板に書いてもらえる? それが完成次第、食堂前に設置して下さいね 」


「 畏まりました! 」


 しかしハンターの人を中心に、これだけ私の自作ポーションが急速に浸透してしまうと、既存の薬士からクレームが出るのは自明の理。多分、売り上げにもかなり影響が出るだろう。

 逆の立場だったら・・・廃業を検討するかもしれない。

 何せ――低価格で超回復力のある、正に「 魔法 」の薬なのだから・・・

 高価で回復力の低い薬が――売れる道理が無い。


 既存の薬士への何らかの補償をするべきだ。

 一応その辺りのことは、国王陛下に相談済なのだ!

 薬士の組合には、陛下直属の官吏(かんり)が赴いてくれる手筈となっている。


 その他の懸念は、実際に食堂へ食事をもらいに来る孤児が、賛同を得られていない者から迫害される危険性だろう。


 ボロを纏った子供が、自分が食事をしている場に現れれば、衛生上嫌悪感を滲ませてしまうのも頭では理解できるし、気持ちも解らないでもない。

 その辺りは何とか納得して頂き――、そして理解して頂けるように努め、真摯に取り組む以外道は無いだろう。


 取り敢えずやってみるのだ!

 ダメならダメで、その都度修正すれば良いのだ。

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