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第64話 殺人者の匂い

 ~午前10時45分~


 現在、西区小河内町という場所に在る白凰組の組長さん宅に向かっている。


 車の車種などには疎いのでよく分からないが、黒塗りの「 THE・高級車 」の後部座席に、姫野さんと並んで座っている。


 運転しているのは、松川さんという白凰組の組員だ。


「 ワシら、ニンニク臭いかのぉ? 」


「 う~ん、自分ではわからないけど・・・どうでしょう? 」


「 まぁええかー! 組長(オヤジ)は気にせんじゃろう! 」


 昨夜は、流川という歓楽街の高級焼肉店でたらふく御馳走になったのだ!


「 しかし泣きながら肉を食うとはのぉ! はっはっは! 」


「 もう~だってえ~、めちゃめちゃ美味しいんですもの! すっごい久しぶりだったし、向こうの世界では肉なんてゴムを食ってんのか! ってくらい噛み切れないし、パンなんて釘が打てるんじゃないかってくらい硬い時があるんですよ? 」


「 はっはっはっ! 」

「 上質な脂を摂ったせいか、しっかり寝たせいか、心なしか顔色も良さそうじゃのぉ! 」


「 確かに! コンビニで下着も新調できたし、熱いシャワーも浴びれたし! 広島サイコー! 」


「 はっはっは! そりゃあ何よりじゃ! 」


          ▽


          ▽


組長(オヤジ)に伝えてくれ! 今日は昨日話した――、春乃さんを連れて来たと 」


 姫野さんがインターホンに向かって大声で叫んだ。


「 少々お待ちください 」


 若い男性の声が即座に返ってくる。


 暫く門の前で待っていると・・・ガラガラとスライド式の戸が開いた。


「 お待たせしました。どうぞ、組長(オヤジ)が居間でお待ちです 」


「 おう! ご苦労! 」


 姫野さんは偉そうに返事をすると、ズカズカと勝手知ったるといった様子で中へと入って行く・・・


          ▽


 広大な敷地の見事な御屋敷だった。


 格式高い日本家屋といった(おもむき)で、個人的にはかなり住みたい家の上位に入る感じだ。


 よく手入れされた芝生の美しい庭を横目に、玄関でスニーカーを脱ぎ、上り口に対し真横に揃えた。


「 どうぞ、こちらです 」


 多分さっきのインターホンの男性なのだろう。


 会計士か税理士か、はたまた司法書士か弁護士か? そのあたりの所謂(いわゆる)(さむらい)族と(おぼ)しきカッチリスーツのメガネ男性だった。

 しかし(さむらい)族に見えるだけで、やっぱりこの人も極道(ヤクザ)なのだろうか?


 縁側を進み居間の障子を開けると、作務衣を着こなしたオジさんが湯呑を片手に座っていた。


「 度々すんません組長(オヤジ)! 今日こそはキッチリ信じてもらおう思うて、本人を連れて来たんじゃ! 」


 そう言いながら姫野さんは頭を下げた。

 私も釣られて頭を下げる。


「 おう! よう来たのぉ! お嬢さんがはるのさんか? 」


「 あ、はい! 姫野さんにはお世話になりっぱなしで! 」


「 まぁ立っとらんで座れや 」


「 し、失礼します・・・ 」


 流石に組長さんだけあって、かなりの威厳というか風格が備わっており、気圧されるような圧を覚えた。


組長(オヤジ)、昨日の続きなんじゃが――この人がほんまに魔法を使えるんじゃ! ワシは薬もドラッグもやっとらん! そもそも組で御法度の薬をこのワシがやるはずがなかろう! そんなんもう即破門じゃろうが! 」


「 真也ぁ! ちぃと黙っとれぇ! 」


 座ると同時に捲し立てるように声を発した姫野さんを、組長さんが制する。


 組長さんは、真っすぐ私の眼を見据えてきた。


 数秒耐えたが――、ドギマギしてしまいつい眼を逸らしてしまった・・・


「 あんた――、はるのさん言うたな? 」


「 は、はい・・・ 」


「 あんた、外見だけでいえばただの可愛いお嬢さんじゃが、今までに何人殺したんじゃ? 」


「 え? 」


「 ワシらみとぉな稼業を長年やっとるとなぁー、匂いで判るモンなんじゃ。どんな格好をしとっても本質的な匂いは隠せんけんなぁ。あんたには人殺しの匂いが纏わりついとる気がするんじゃわ 」


 ――ナニモンなんだこのオッサン


 眼の奥の奥を――、見透かされている感覚に陥る。


「 うっ・・・しょ、正直に言いますと、間接的なモノも含めると――、数え切れないほど殺してます。で、でも! ですが! 殺したのは悪党ばかりです! 」


「 ほうか、じゃがその悪党にも家族がおったかもしれんぞ? 家に戻れば乳飲み子が帰りを待っとったかもしれん 」


「 うっ・・・ 」


「 ははは! 冗談じゃ! あんたが殺人鬼じゃあないんは素人にでも判るわい! のう? 真也 」


「 はい! でも組長(オヤジ)、匂いって何なんじゃ? ワシにはサッパリじゃけど 」


 姫野さんが一見お道化たように発言した。


「 まぁアレじゃあ、有名人なんかに会うたら一般人とはオーラが違った! とかよく言うじゃろう? 簡単に言うとそのオーラみたいなモンじゃのう 」


「 う~ん、俺にはまだソレは見えんのぉ 」


「 まぁじゃけどこれで――、真也が言うとった話があながち嘘じゃあないんかもしれんと思い始めたわ。こんな特異な女の子が、戦国の世ならいざ知らず現代日本におるとは思えんけんなぁ! じゃが、まだまだ心底信じるには足りんのぉ。今日はワシを信じさせる為に、何か用意して来たんじゃあないんか? 」

 

「 おう! そんなら! 否が応でも信じてもらえるようにこうするまでじゃあ! 」


 姫野さんはそう叫びながら――

 いきなりバンッ! っと左手をテーブルの上に叩きつけた。


 さらに右手で、スーツの内側からスラッと短刀(ドス)を取り出した。


 ――ま、まさか!!


「 ちょ! ちょっとま、待って! 姫野さんっ!! 」


 私が叫ぶのも虚しく

 姫野さんはダンッ! と躊躇なく、短刀(ドス)を左手の甲に突き立てたのだった!


「 ぐああああ! い、いてえええ! 」


 ――そりゃあそうでしょうねえええ!!

 と、姫野さんの苦悶の叫びに対し心の中で絶叫した。


「 何をしとるんじゃあああ! 真也あああ!! 」


 組長さんも腕組みをしたまま目をカッと見開き、同じく絶叫していた。


「 な、何をって! 信じてもらうために決まっとろうが 」

「 ぐううぅぅ・・・い、いてえ、すまんなぁ組長(オヤジ)、テーブルを血で汚してしもうて、は、春乃さん――、そろそろ頼むわ 」


「 意図は解りましたが、事前に打ち合わせもなくいきなりこんな事は止めてくださいよまったく・・・マジで心臓に悪いわ! ってか抜いてくれないとできないよ 」


「 おお、ほうか・・・すまん 」


 これまた躊躇なく短刀(ドス)を引き抜くと、ブシュウ! と血が吹き上がった。


全治癒(オールキュア)! 」


 白銀色の眩い光が、姫野さんの身体を包む。


「 おおお! 何じゃあこりゃあ! 」


 組長さんは思わず叫んでいた。


          ▽


「 ホ、ホンマか・・・ホンマに完全に治っとるんか? 信じられん! あんたホンマに別世界の人間で、魔法が使える超能力者なんか? 」


「 ええ、まぁ超能力者というか何というか――、傷を治したり、死人を生き返らせたりとかできるのは本当ですが 」


「 なっ! なんじゃとお! 死人も生き返らせる? ホ、ホンマか・・・ 」


 泰然自若(たいぜんじじゃく)な組長さんも、流石に驚きを隠せない様子で激しく狼狽(ろうばい)していた。


「 ちょ、ちょっと待てえ! 春乃さん! 死人も生き返らせるとかワシ聞いとらんのんじゃけど!! 」


 姫野さんも焦りに焦って詰問してくる始末だった。


「 ええまぁ、言ってなかったですしね 」


「 ビ、ビックリじゃわ春乃さん。あんた! あんたまさか、実は中身は宇宙人で人間に化けとる――とかってことじゃあないじゃろうな? 」


 ――う~ん、当たらずとも遠からず


「 んなわけないですよ! でも生き返らせれるって言っても、脳にダメージが無い死体とか、首がちゃんと繋がってる死体じゃないと無理だと思いますけどね 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~広島市東区、浅村組~


「 失礼します 」


 浅村組組長の部屋に、黒ずくめの男性が入室してきた。


「 御用件は何でしょうか? 」


「 何でしょうか? じゃねーわ! これを見てみい! 」


 そう言いながら、浅村組長はスマートフォンの画面をズイッと差し出した。


「 これは? 日付は昨日の夜?! そんな、そんなバカな! 何で、何で生きてるんだ? 」


「 お前、確かにワシに言うたよなぁ? 完了した――と! 」


「 ええ勿論です! 確かに肺に二発撃ち込みました! 吐血も確認しましたし、間違いなく致命傷でした! この俺が見間違うはずがありません! 」


「 じゃあこれはどういうことならぁ! 胸を二発も弾かれた奴が、何でこんなにピンピンしとるんじゃあ! 女と流川(ながれかわ)を悠々と歩いとるじゃあないかぁ! おお? どういうことならあ! ワシに解るように説明せえや! 」


「 そんな・・・まさか防弾ベストでも着てたって言うのか? いやしかし、あの吐血は本物だ! 見間違うはずがない! この画像は本当に昨日の夜なんですか? 」


「 おいおい! ワシを疑うんかあ? お前をからかって遊んどる風にお前にはそう見えるって言うんかあ!? 」


 浅村組長の剣幕には鬼気迫るものがあった――


 本人が言うように、からかって遊んでいるとは到底思えない。


 浅村組御用達(ごようたし)の殺し屋――、黒ずくめの男・村上(偽名)は、激しい違和感に襲われていた。


 ――どう考えてもおかしい! あり得ない。

 だが、絶対にあり得ない事が実際に起きている。

 

 兎に角、もう一度調査からやり直さなければならない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

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