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第63話 白凰企画

 私は一人で城内の中庭に佇んでいた。


 光源魔法のお陰で、私の周囲はかなり明るい。


 予期せぬ巻き込みがあってはならないと考え、人払いをお願いしてある。


 この中庭には私のみだ。


神威の門(マティスポータル)! 」


『 転移対象を確認しました。これより転移を開始します。霊子エネルギー充填完了済。滞在時間は約74時間となります。74時間が経過しますと強制転移が発動しますので御注意ください。ちなみに転移後3分経過で再び転移することができます 』


 ――ふむぅ、3日ていどは滞在できる計算か

 3分経過後ならば任意ですぐにまたこちらに戻れる――と、解釈してもよさそうだ。


 ――問題は、以前と同じ元の日本に戻れるのか? ってとこだけかな。

 こっちの世界も含め、パラレルワールド的なモノは無数に存在するのかもしれないし・・・


 頭上に、またしても小規模なブラックホール的なモノが瞬時に現れた。

 渦を巻く漆黒の円縁は、幽かに白銀色に煌めいていた。


 三回目ともなれば慣れたものだ。


 変に抵抗はせず、私は素直に身を任せた。


          ▽


          ▽


「 うおっ、ここは? 明るい! こっちは朝か? いやこの空気感・・・お昼くらいかな? 」


 成功だ!

 やはり以前と同じ――、峠道の歩道に立っていた。


 キョロキョロと周囲を見回しているこの間にも、両方向から何台もの自動車が通過していた。


 間違いない日本だ!

 以前降り立った座標とは若干違うと思う。

 同じ世界ならば、「 道の駅 」付近に降り立ったのは間違いない!


 山々の合間に敷かれた峠道で、ツクツクボウシの大合唱が暑さを助長していた。


 私は淡いブルーのいわば民族衣装を着ており、足元は汚れに汚れたスニーカーだ。

 背中には革バッグを背負っている。


 多少なりとも独特なファッションに見えるかもしれない。

 だが――、とりわけ奇異な目で見られるってこともまずないだろう。

 というかそう願う。


 通り過ぎるドライバーからは、「 こんな峠道を徒歩で何してんだ? 」とは思われるだろうが――、ただそれだけだ。疑問には思うかもだが、不審者とまでは到底思われないだろう。


「 とりあえずタクシーを拾いたい・・・ 」


 前回の転移の際、姫野さんが投げ入れてくれた財布の中に、実に21万円もの紙幣が入っていた。

 姫野さんはコレを使えと言ってくれたので、お言葉に甘えようと思う。

 これだけあれば、タクシーで目的地まで行くことが可能だろう。


 しかしドラマのように、丁度タイミング良くタクシーがこちらへ向け走って来る。なんてことはなかった・・・


          ▽


          ▽


「 お客さんすんません。反対車線ですけどココでええですか? 路面電車が走っとる関係で、目の前まで行くとなるとかなり大廻りになるけぇ。お客さんも目の前でメーター上がっても嫌じゃろう? 」


「 ああ、あの茶色の建物ですよね? 」


「 そうそう! ここらじゃ一番有名な建物じゃけぇねぇ 」


 運転手さんは苦笑いしながら答えていた。


「 ありがとうございました! ではここで結構です 」


「 ほい! じゃあ――、えっと丁度1万5千円じゃね 」


 運転手さんはゆっくりと路肩に停車した後、何やら中央のメカをいじり料金を請求してきた。


「 おー、思ってたよりも安いですね! ではこれで 」


「 いや~、ワシはラッキーじゃったわ! まさかお姉さんが、こんな長距離(ロング)のお客さんとは思わんかったけん。ほい~、じゃあ5千円のお返しです 」


          ▽


 テラテラと煌めく綺麗で光沢のある石材っぽい素材で組まれた、三階建ての建物だった。


 ――何の石材なんだろ? まさか全部大理石じゃないよな?

 まぁ建築関係はよくわからない・・・


 ――う~む、監視カメラが凄い数設置してあるわ。何だか隙の無い造りだわー。と言うか小道を挟んでいるとはいえ、隣がコンビニって・・・このコンビニの運営会社は一体何を考えているんだろうか?


 ――つーかコンビニで揚げ物買って食べたい! ジュースも飲みたいし、お弁当も食べたい! スイーツも外せない! だが今は、とりあえず姫野さんに会う方を優先する。


 玄関と思われる重厚な扉の横には、「 白凰企画 」という看板が掲げてあった。


 ――極道(ヤクザ)の組ではなく、あくまでも事業所という(てい)にしたいのかもしれないが・・・

 もし全く土地勘がない人が初見で見たとしても、ここが極道(ヤクザ)の建物だと100%絶対にバレると思う。

 

 それに企画って何なんだ? ヤクザが何の企画してるって言うんだよ!


 インターホンを押してみる。


 五秒位して――、「 はいどなたでしょう? 」と反応があった。


 意外にも、優しい感じの若い男性の声が響く。


「 ああ、あのー・・・姫野さんからココを訪ねるようにって言われて来たんですけどー、春乃が来たと伝えてもらえれば、分かると思うんですけどー 」

 

 返事はない。


 だが、さらに十秒ほど待つと扉が内側に開いた。


 中から顔を覗かせたのは、私と同じくらいの年齢の頭髪を金色に染めている男性だった。


若頭(カシラ)に? 用件は何です? 」


「 あーいえ、特に用ってわけじゃあないんですけど、ただ困った時は助けるんで訪ねてくれって言われてたので。お言葉に甘えてやって来ました! 」


 組員の男性は怪訝な表情のまま、「 あー、とりあえず中へどうぞ 」と促してくれた。

 図々しくも、ズカズカと建物内へと入る。


 応接間のソファへ座ることを促され、良い子で待っていると・・・

 スマフォを片手に、先ほどの男性とその他にも二名の若者が、勢い良く血相を変え室内に滑り込んで来た。


「 い、今、若頭(カシラ)に電話繋がってますんで! どうぞ! 」


 簡素な説明だけで、投げるようにスマフォを渡された。


「 もしもし? 」


『 おおお! ほんまにはるのさんか! こんなに早く訪ねて来てくれるとは思わんかったけぇ! 今ちぃと外に出とるんじゃわ。これからすぐに戻るけぇ! 待っとってくれぇ! 』


「 あ、はい。何だかすみません! 私もう家族がいないので、他に頼る人もいなくて、一緒に乗ってたお父さんはどうやら死んだみたいだし・・・ 」


『 何を言うとるんじゃ! ワシが何でも力になる言うたじゃろお! とにかくすぐ戻るけぇ、待っとってくれえ! 』


「 あ、はい、待ってます! 」


 ありがとうございます、と付け加え――若い組員の男性にスマフォを返した。


「 あ、あの――、何かお飲み物を・・・何が宜しいでしょうか? 」


 若い組員は、こちらが恐縮してしまうほどナゼだかバカ丁寧になり、目に見えて腰が低くなっていた。


 ――姫野さんが何かを指示したっぽいな。

 でもこの様子だと、私との邂逅を組員にはちゃんと説明していないのかもしれない。

 尤もちゃんと説明したところで、信じる人がいるとは到底思えないけど。


「 あっ、お構いなく! というか隣のコンビニで買い物してきてもいいですかね? 実はお金が姫野さんの物なんですよね。使っていいとは言われてるんですけど。コンビニで使ってもいいですかね? 」


「 え? いやそれは、若頭(カシラ)がそう仰ったんなら――、大丈夫だとは思いますが 」


「 そうですよね! では、ちょっと久しぶりに買い物してきます! 」


          ▽


          ▽

 

 ~約40分後~

 

 白凰組の若頭姫野さんが、お供の若い男性を連れ扉を蹴破る勢いで入室してきた。


「 おお、はるのさん! よう来てくれた! 今回はどんくらいこっちに()れるん? って・・・何やこれは? 」


「 どうも姫野さん! 御無沙汰です!ってほどでもないですかね・・・この度は、御厚意に甘えてちょっとお金を使わせてもらいまして 」


 応接間のテーブルの上には、私がコンビニで買い込んできたお菓子やスイーツ、飲料のペットボトルなどが所狭しと無造作に置かれている。


「 これ全部、はるのさんが買うて来たんか? 」


「 は、はい、すみません。ちょっとテンション上がって買い過ぎちゃって、姫野さんのお金なのに 」


「 いやいや、金のことは気にせんでええよ! そもそも財布ごとはるのさんにやったもんなんじゃけぇ、気にせんといて 」


 私に対面するように、姫野さんがドカッ! とソファに腰を下ろした。


「 それで、今回はどんくらい居れるん? そーいや――、今回ははるのさんだけなんか? 」


「 あ~今回は私一人なんです。こっちに滞在できるのは大体あと三日弱ってとこですね 」


「 おお! 結構長いんじゃな! 」


「 ええ、今回はエネルギー的なモノの充填が完了してるみたいなので 」


「 ほう・・・よう解らんが丁度ええわ! 今日はゆっくりしてもろうて、明日うちの組長(オヤジ)に会うて欲しいんじゃが 」


「 え? オヤジ? 姫野さんのお父さんです? 」


「 はははっ! いや、オヤジ言うても血の繋がりがある方じゃのうて、組長のことじゃわ 」


「 え? 組長さん? 」


「 ワシが弾かれた件と、はるのさんのことを正直に話したんよ。じゃけどまぁ、わかっとったことじゃけど、やっぱり信じてくれんでなぁ~。じゃけぇはるのさん本人が来てくれたら話が早いと思うてな! 」


「 まぁ確かに、普通は信じないでしょうね 」


「 そうなんよ。弾かれた件はともかく、はるのさんのことを真剣に話せば話すほど、お前は薬をやっとるんじゃないんか? って本気で疑われてしもうてな。んでさっき退散してきたところなんよ! 」


「 な、なるほど。私は一向にかまいませんが・・・ 」


「 ほうか! なら今日はゆっくりしていってくれえ! 客間にはシャワーも付いとるし、自分の部屋じゃ思うて使うてくれてええけぇ。おい! はるのさんを客間に案内せぇや! 」


「 はいっ! 」


 数名の若い組員は緊張した面持ちで返事をし、内二名がテーブルに散乱するコンビニ商品を――手際よく搔き集め小脇に抱えた。


「 どうぞ! こちらです! 」


 私は促されるまま、部屋の奥にある階段を昇るのだった。

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