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第60話 幽かな違和感

「 あなたたちは領都のハンターか? 事情を聞いてどうする? とにかく今は、アンデッド共を一体でも多く滅してくれると有難い 」


「 ああ、先行してる私の召喚8体が、ガンガン駆逐してるでしょ。とにかくまずは詳しい事情を聞きたいんです 」


「 しょ、召喚? 先ほどの戦士たちが、召喚魔法だと言うのか? あなたは魔道士か? 」


 橋上で腰を下ろしたままの衛兵の一人が、呆けたような表情で私を見上げていた。


「 ええ、そうです。とにかく時間が勿体ないので、簡潔に詳しくお願いします! 」


 簡潔に尚且つ詳しく――ってのは、なかなかに難しいよな? と思いながらも、つい口を衝いて出てしまった。


「 早く答えろ! 時間が惜しい! 」


 リディアさんが声を荒げた。


「 あ、ああ、申し訳ありません。何か事情が御有りのようですね・・・ 」


 リディアさんは現在、お世辞にも高貴な恰好はしていない。

 だがこの衛兵は鼻が利くのか――、リディアさんが貴族家出身、もしくはそれに近い存在だと直感で捉えたのかもしれない。


「 ええ、今はこちらの事情を説明している暇はないのでお願いします 」


「 ではこいつに! こいつが事の発端を見ているはずなので・・・ 」


 指をさされた四名の内一名が、ハっと我に返り話始めた――


「 俺は政務室の扉前で、警護の任に就いておりました。すると突然、激しく扉が破られ――領王様が飛び出してきたんです! それはもう獣のような有様で廊下へと・・・そして隣で同じく警護をしていた同僚の喉元にいきなり喰らい付いたんです! 俺はもう突然の事で何が起こっているのか理解できなくって・・・同僚の喉元から鮮血が吹き上がったのを見て我に返り、とにかく反射的に衛兵の詰め所まで逃げたんです。今思うと――領王様にも影型(シャドウ)が取り憑いていたんじゃないかと・・・ 」


「 その後、城内は阿鼻叫喚の極みですよ・・・城の至る所から悲鳴が上がり、瞬く間にエントランスが影型(シャドウ)の群れで埋まってしまって。他の衛兵たちが乱戦に持ち込んでいましたが、明らかに劣勢で・・・それでもはや城内はダメだと判断し、城外へと一目散に逃げた次第です 」


「 ですが、流石にここで堰き止めないと領都中がアンデッドの巣窟になると思い、大廻りで跳ね橋まで戻ってきたところ、俺と同じ考えのコイツらと合流しまして、それで今まで何とか踏ん張っていた次第です 」


「 そうですか。大変でしたね。しかし辺境伯に異変が? ミルバートンはその時どこにいましたか? 」


「 ミルバートン様は、同じく政務室におられたはずですが、もうすでに――ミルバートン様も領王様に殺されたんじゃないかと思います。とにかく俺は、自分の身の安全を優先してしまって・・・お恥ずかしい限りです 」


 説明をしてくれた兵士は項垂れてしまった。


「 いえ、気に病む必要は全くないですよ。その選択で正解です。どうせ元凶はミルバートンでしょうから 」


「 えっ?! 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 侍女のエイミーは、激しい動悸を抑え込むことに全神経を集中している。


 自身の意思に反し、治まる気配は全くない。


 ドクドクと脈打つ心臓。

 いやもう――全身が心臓に変化したんじゃないかと錯覚するほどに、激しい動悸だった。


 異変を察知し、咄嗟に城で働く者の胃袋を支える――食料貯蔵庫へと逃げ込んだのだった。


 この選択は間違ってはいなかった。


 この食料貯蔵庫は、内部から閂を差し込むことにより、外界との接触を断絶できるからだ。


 だが、もし扉を蹴破られ突破されたら・・・まさに袋のネズミ。その後待っているのは、絶望のみだろう。


 ガタガタと全身が震え動悸も治まらず、呼吸も激しく乱れていた。


「 はぁはぁ、はぁ、ど、どうしよう、どうしよう・・・ 」


          ▽


 エイミーの思考が現実のものになりつつあった――


 ガン! ガツン! ガン! ガン!


 食料貯蔵庫の分厚い扉を、何者かが激しく殴りつける音が響く!


「 ヒッ! 」


「 おい! 誰かいるのか? 開けてくれ! 誰かいるのか? 早く、今すぐ開けてくれ! 」


 城内を襲撃している多数の魔物が、扉を力任せにぶん殴っているのだという先入観が働いたが――、どうやら城内で働いている誰かが――自分と同じ考えでここへ逃げて来たようだ。


 あの貯蔵庫ならば開いている! 身を隠せる! ――と期待して。

 全力で走ってきた後の、まさかの先客アリ。

 鍵が閉まっていた時の絶望は、想像するに難くない・・・


 エイミーは咄嗟に扉へと走り、力任せに閂を引き抜いた。


          ▽


「 た、助かった! とりあえずここならば食料もたんまりあるし、暫く籠城し様子を見よう。だが先に逃げ込んだ者がこの時間帯にいたとはな・・・こんな至極当然の予測すらできんとは――不覚にも俺は軽いパニック状態だったようだ 」

「 いやはや、しかし君がいてくれたお陰で、話し相手に困ることはないな! 」


「 外はどうなっていますか? なんでこんな事に、何が原因でこんな事態に・・・ 」


「 俺にも何が何だかサッパリだ・・・申し遅れた、俺は衛兵のランドールだ。ほら立ってないで君も座れよ! 君は何て名だ? 」


 ランドールは調理台の上に置いてあったパンを鷲掴みにして、そのまま床に座り込んだ。


「 エイミーです。侍女長補佐です 」


          ▽


 ランドールの存在のお陰で気が紛れたためか――、手渡された固いパンが、何とか喉を通るまでにエイミーの精神力は回復していた。


「 ・・・何だか、外の騒音があまり聞こえなくなったような? 」


「 確かに、いきなり静かになったな。あまりと言うか、全く何も聞こえんな・・・ 」


 ランドールは、返事をしながらゴクリと固唾を呑んだ。


 二人は入り口の分厚い扉に寄り添い、耳をそばだてている。


 あるていどこの状況に慣れてきたためか、はたまた騒音が突然掻き消えたためか、二人の警戒心が徐々に緩和されつつあった。


 ――だが、油断は禁物だ。

 そう自分に言い聞かせながらも、ランドールは淡い期待を抱き閂に手を掛けた。


「 ちょ、ちょっとぉランドールさん! まさか開けるおつもり!? 」


「 ああ、やけに静かになったのはナゼだ? 新たな獲物を求めて、狂った兵士どもが全て城外に出て行ったってのか? こればっかりは――自分の眼で確かめるしかないだろ? 」


「 し、しかし―― 」


「 もはや蝋燭も残り少ない・・・完全に闇が包む前に、外の様子を一度見ておきたいしな 」


 その瞬間――


 ドンドン、ドン!!


 耳をそばだて、今まさに扉を開けようとしていたランドールは、仰け反り気味に後方へ――みずから吹き飛んでいった。


「 うおお! ビビったぁ! 」


「 ヒッ! 」


 何者かが激しく扉をノックしたため、ランドールだけではなく、エイミーも派手に尻もちを突き、短い悲鳴を上げた。


「 もしも~し! 誰か中にいますね? とりあえずこの付近はもう大丈夫です! 開けてください! 救助に来た者です。繰り返します。もうこの付近は安全ですよ! 」


 若い女性の大声が――、分厚い扉のすぐ向こう側から聞こえた。


 知恵の高い魔物が女の声色を使って自分たちを騙し、みずからの手で扉を開けさせようとしているのではないか? ――と、二人とも同じような思考を脳内に展開させたが・・・そんな事はあるはずがない――と、揃ってすぐに打ち消した。


「 きゅ、救援? こんなにも早く? 」


「 とりあえず開けるぞ? おいエイミー、開けるぞ? いいな? 」


「 は、はい・・・ 」


 恐る恐るゆっくりと・・・とにかくゆっくり徐々に、扉を押した――


 まず眼に飛び込んできたのは、数個の松明の灯りによる煌めきと、それに照らされた数名の男女だった。


「 もう大丈夫ですよ。この辺りの――アンデッドと化した兵士は殲滅しましたから 」


 ノックした張本人であろう――淡いブルーのチュニックを着た少女が、ニコニコと笑顔を湛えながら立っていた。

 そして少しだけ開いた扉を、ランドールに代わりグイっと目一杯開けた。


 ――殲滅? 城内に詰めていた精鋭揃いの衛兵でも劣勢を強いられていたのに? あの数の敵を? こんな短時間で殲滅? ま、まさか・・・街のハンターが総出で駆けつけてくれたのか!


「 助かった・・・どなたか知らないが、街のハンターをかき集めて来てくれたのだな! こんなにも早く救援に赴いてくれるとは! ハンターの存在意義を改めねばならんな! 」


「 ああ、いえ――私たちだけなんです。生き残りの兵士さんは街へ避難してもらってますので、御二人もすぐに向かってください 」


「 え? 君たちだけ? そんなバカな! 」


「 私たちだけってか――私が喚び出した召喚が殲滅してくれました。あ~、ところで政務室って――この奥を左に曲がった突き当たりの部屋で合ってますよね? 」


「 え? ああ、そうだが・・・え? 召喚? 召喚魔法のことか? 精霊召喚? 」


「 あー、説明してる暇はなさそうなので・・・じゃ急ぐのでここで! あー、もし城の中で外套を纏った長身の人形みたいな戦士を見かけても、驚かないでくださいね。それらは味方なので! 」


「 は、はぁ? ・・・ 」


 ランドールは、狐につままれたような呆気に取られた表情で、生返事をしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 角を曲がると、幅5メートルはあろうかという通路が広がっていた。


「 いるなぁ~・・・あれが影型(シャドウ)とやらか? 」


 それらは等間隔に数体――、通路の脇に佇み、踏み入ってきた私たちを凝視していた。


「 そのようですね 」


 そう返事をし、リディアさんが剣を正眼に構えた。


 私も敵を一網打尽にするために、攻撃魔法の選択に入る――

          ・

          ・

          ・

          ・

精霊召喚(サモンスピリット)


暁の軍隊(サモンアーミー)


岩人形創造クリエイトロックゴーレム


神威の門(マティスポータル)


時空操作(タイムコントロール)


聖属性付与(ホーリーエンチャント)


聖巨人の左腕(ジャイアントブロー)

          ・

          ・

          ・

「 瞼の裏スクリーン 」に、いつものように投影されている仄かに光る魔法名を、意思の力で上へ上へと高速で流す――


 ――ん? あれ? 違和感・・・何か違和感が・・・


 ――んん? ポータル?

 

 何だこの魔法? こんなのあったっけ?

 

 いや、間違いなくなかった。

 

 あの位置に――元々あった魔法って何だったっけ?


 つい最近まで、何か違う魔法だった気がする。唱えても何も発動しなかったあの魔法か?

 え? あの魔法が変化した?

 んでポータルって・・・ポータル探せって言われてたけど、この魔法名にあるポータルって、その探せって言われてたポータルに関係してるよな?


 間違いなく関係してるはず。

 無関係なはずがない。


 まさかもう私は、いつの間にか発見したって判定になってて、すでに自分の魔法として習得済ってことなのか?


 え? つまりポータルって――、発見後自分の魔法として使えるモノだったってこと?


 それならそうと最初から言えよぉ! あの長髪野郎!

この前大通りを歩いていると、向こうから「 三島平八 」の様な白髪で真ん中だけがハゲた髪型の、初老の男性が歩いてきました。


すれ違う瞬間


「 ヘイハチーウィン! 」

と私がカタコトで叫ぶと、その男性がハッと私の方を向き、親指をグッと立ててくれました。

そんなある日の暑い昼下がりでした。

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