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第59話 攻略準備

「 そうです! 我々はハンター組合の詰め所へと助力を乞うため、走っていたところなんです。この異常事態を察知しているのは――どうやら我らだけかもしれません。街の者には誰にも知らせてはいないのではないかと思います 」


          ▽


 数時前、騎士団の待機組6名が城門前に到着すると――

 警備のために常駐しているはずの衛兵は誰もおらず、不審に思い――不法侵入になってしまうと躊躇いながらも城内に踏み入ったそうだ。

 

 暫く城内を探索していたが、突然騒音が耳に飛び込み、そちらへ走ると・・・

 アンデッドの群れと白兵戦を繰り広げていた衛兵数十名と遭遇したらしい。


 そしてその絶賛交戦中の衛兵の1人から、「 街へ下りて助けをできるだけ呼んで来てくれ! 」と懇願され――、それを即座に聞き入れる形で街へ駆け下りたのだそうだ。

 

 そして、運良く私たちと合流できたらしい。


「 よくわかりませんが、ミルバートンが何かしでかしたみたいだね。十中八九、私がデスラーを倒したから、それが関係してるんだろうけど 」


「 え? デスラー? 」


 騎士団6名は、怪訝な表情だった。


「 ああ、こっちの話。どっち道、腹ごしらえをした後に城へ攻め込んで、総攻撃を仕掛けるつもりだったので――ほぼ既定路線だね 」

「 いざ! 向かいますか決戦の地へ 」


「 ええ? 総攻撃? 」


「 そうそう、総攻撃! でもその前に何か食べさせて・・・ 」


 最近、推し進め方が物騒になってきた自覚はある。


 数多の戦闘経験を重ねた結果――

 まずは武力によって解決策を模索する癖が付いているのかもしれない。


 こちらの世界では、()られる前に()る! が大原則だ。


 いや、元の日本でも姫野さんが突然銃撃された事件に(かんが)みるに、根源的な部分は同じだろう。


          ▽


          ▽


 城へと走る途中――、食料品店の店先で売っていた串肉を三本購入し、私たち3人はそれを(かじ)りながら小走りで急いでいる。


 ユーイングさんを含めた5名は私たちに随行しているが、残りの1名は、緊急事態を伝えるためにハンター組合詰め所へと向かった。

 念のために、天下御免の印籠を持たせてある。アレを見せつければ、絶大な効果が得られるだろう――


「 アンデッドかぁ。映画で出てくるようなアンデッドそのまんまなのかな~? アンデッドって、ゾンビとかスケルトンとかのことだよね? 」


「 え? エイガ、ですか? えっと――衛兵と交戦していたのは、影型(シャドウ)十数体でしたね 」


 ユーイングさんが、映画という耳慣れない言葉に戸惑いながらも即座に答えた。


影型(シャドウ)? どんなモンスター? 」


「 対象に取り憑いて生命力を吸い取り、挙句の果てには傀儡としてしまう魔物ですね。死霊の一種かと思われます 」


「 ああそうか、実体の無い幽霊タイプは、同じアンデッドでも、モンスターじゃあなくって魔物のカテゴリーなんだったっけ? ・・・ややこしいな 」


「 そうですね。一応はそういう区分になるかと・・・ 」


 この大陸――もしくはこの世界では、単純に動植物を糧としているか、魔力を糧としているかで、総称が変化するみたいだ。


「 お前たち、予備の剣を持っていないか? 」

「 ん~、持っていないようだな・・・ 」


 リディアさんが、食べ終えた串肉の木串を剣に見立てて振りながら――ユーイングさんに催促していた。


 小走りで走りながら、騎士団の面々が顔を見合わせる。


「 いえ・・・我らは、それぞれ自身の剣しか持ち合わせてはおりません 」


「 そうか・・・ 」


 リディアさんもパルムさんも、謁見前に衛兵に預けており、没収されたままの状態で丸腰だ。


 剣士としては、腰に得物が無いのが直接不安に繋がるのだろう。


「 不謹慎かもですが、それだけの乱戦ならば、倒された兵士たちの剣がそこらに落ちてるでしょ? 戦いながら現地調達でいいと思いますよ 」


「 はっ、失礼致しました! 」


「 心配しなくても、リディアさんは私が守る! 傷一つ付けさせないから安心して! 」


「 ハルノ様! お・・・俺は? 俺も守ってくれますよね? 」


 パルムさんは先回り気味に加速し、斜め前で自身を指差しながら焦っていた。


「 ええ勿論――、全員守りますよ 」


 即答する私を見て、パルムさんは安堵の溜息を漏らしていた。


 私に対するパルムさんの態度が、あまりにも豹変していることに驚いたのか、騎士団の面々はまたしてもお互いの顔を――何度も見合わせていた。


          ▽


          ▽


 城門前に到着――


 すでに城内の敵が、外部へ溢れつつあるのは一目瞭然だった。


 しかし様子がおかしい。


 跳ね橋のど真ん中で、衛兵同士が戦闘を繰り広げていた。


「 何か――同士討ちしてるように見えるんですけど・・・ 」


 我々に背を向けた状態で剣を振り回し、次々と斬り伏せている衛兵たち。

 そしてそれを意に介さず、城内部から続々と押し寄せる衛兵たち。


 両者共に――城に詰める兵士だった。


影型(シャドウ)に殺された兵士が、ゾンビ化しているんだと思います 」


「 えー!? 」


 私の疑問に、即座にユーイングさんが答えさらに補足する。


「 そのゾンビに殺された者も、一定時間経過後にはゾンビと成り果て、被害が急速に拡大しているのではないかと・・・今現在、城内は地獄絵図かもしれませんね 」


「 最も効果的な解決策は? 」


「 ゾンビに身を堕とした者は、残念ながら首を刎ねるか――消し炭にするしかないとは思います。まずは影型(シャドウ)を操っている者がいるはず! その死霊使い(ネクロマンサー)の息の根を止めることが、最優先かと存じます 」


「 なるほど。ミルバートンがその死霊使い(ネクロマンサー)とやらってオチか! 何をトチ狂ったのかは知らないけど、デスラーが倒された事実を察知し、自暴自棄になったか・・・或いは何らかの準備が整い、一気呵成に打って出たか・・・目的がわかんないけど――そんなとこですかね 」


「 リューステール辺境伯様が、やはり黒幕でしょうか? 」


 リディアさんが口を挟んだ。


「 どうだろうね。まぁ共犯であることは間違いないんだろうけど、黒幕かどうかは微妙な感じがする。単なる直感だけどね。――ってかさ、もし私がその成り行き上でさ、辺境伯を殺してしまったら、政治的に何か――かなりマズい事になったりするのかな? 最悪蘇生すればいいんだけどねぇ 」


「 いえ、私見ではございますが――全く問題はないかと! ここまでの狂乱を巻き起こしたとなれば、もはや弁明の余地もございませんので。しかも成敗なされたのが、ハルノ様みずからとなりますと――陛下は勿論のことですが、その他の派閥の貴族も口を出すことは叶わぬでしょう。無論それには、ハルノ様がデュール(しん)様の眷属という真実を、広く知らしめる必要が出てくるかもしれませんが 」


「 う~ん、さすがに公表しないとヤバい事になるのかなぁ。う~、それも仕方ないのかもねぇ。とりあえずあの兵士さんたちに加勢しよう 」


暁の軍隊(サモンアーミー)! 」


 幾つもの黒い影がムクムクと膨れ上がり、外套を纏った細身の戦士8体が、私たちを取り囲むように顕現した。


 完全なる無表情で、まるで精巧なマネキンのようだった。


 どう見ても生物ではない。


「 アンデッドと化している者を――根こそぎ首を刎ねて倒しちゃってください! 」


 私が簡易的に命令を下すと、承諾の意思さえ微塵も見せず、8体は疾風の如く跳ね橋へと突撃して行った。


「 あ、あの者たちは・・・以前、寝室で警護を担っていた者たちですよね? 」


「 そうそう、頭数が多い分、一体一体の強さはセンチュリオンには劣ると思うけどね 」


 以前リディアさんと一緒に同室で寝た時、朝まで警護を任せたことがあったのだ。


          ▽


 暁の軍隊を、我々も小走りで追いかける。


 我々が跳ね橋に到着した時には、少なくとも橋の上の敵は一掃されていた。


 何体ものゾンビと思われる者たちが(ほり)に落ち――、バシャバシャと足掻いていた。


 橋上の数体は、すでに胴と首が全て離れている様だ。


「 た、助かった・・・あなたたちは? 」


 まるで弁慶の如く――アンデッドを街へ下ろさないために、跳ね橋のど真ん中で通せん坊をしていた衛兵4人。駆け寄る私たちを確認し、ヘナヘナと腰を砕いて安堵の溜息を漏らしていた。


「 ああ、話すと長いのですけれど、援軍だと思ってくれていいですよ。一体何があったのか、簡潔に教えてもらえますかね? 」

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いですよ。 誰かに何か言われました? 100話と言わず、頑張って下さい。
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