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第55話 接続

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「 まさか! 逃げたのか・・・? 」


 ――ナゼだ?

 逃げる必要がどこにある? あれほどの、魔人のような猛攻を見せておきながら・・・


 そもそも猛攻から一転、(われ)を突然隔離したこと自体が意味不明だったのだが・・・

 最初から逃げるつもりだったのならば、一応は腑に落ちる。


 しかしナゼだ?

 逃げる意味も、必要もないだろう!


 少女があのまま手を緩めず攻撃を繰り出し続けておれば、我は滅していた可能性が高い。

 それは間違いない。


 まさか、わざわざ自分が手を下してまで滅する価値がないと・・・

 この我が、殺すまでもない雑魚だと見(くび)られたのか?


 まさかそんな・・・

 雑魚過ぎて、興味そのものを無くしたとでも言うのか?


 ビビアンは今一度――、周囲を隈なく見渡した。


 朱色に染まる我が住処(すみか)は、いつもと同じでどこにも全く変化はない。


 斬り捨てられた鎧騎士たちの残骸が、そこかしこに転がっているだけだ・・・


 ゴツゴツとした岩場の空間。

 身を隠せる場所は皆無。


 生き残った鎧騎士2体と唸りを上げる火炎龍が、手持ち無沙汰で(たたず)んでいる。


「 一体何なのだ? やはり矛盾だらけだな。存在自体も行動も、その魔法技術も。思考だけはかなり読みやすいと踏んでおったが・・・本当に逃走を図ったのならば、これ以上の思考は読めん! あまりにも予想外過ぎる 」


 この感情は当惑だった・・・


 久方ぶりだ。

 このように感情の起伏が激しい一日は。


 この住処に籠ってから、如何ほどの月日が流れたか・・・


 今迄、我の意識は沈殿し停滞していた。


 ただただ魔力の器を成長させることだけに尽力した日々。


 もうすぐ、もうすぐ目標に到達すると思われた――、まさにこの時、この瞬間に現れた超常の存在。


 これもまた運命というものか――、と覚悟を決めたのだがな・・・


「 我が決死の覚悟を嘲笑(あざわら)ったかぁ! 小娘えぇぇ!! 」


 ビビアンは沸々と湧き起こる憤りを吐き出した。


光神剣(フォトンソード)! 」


 (ザン)ッッッ!!


 宙に舞い飛ぶ回転する己の首から、真下の位置にある見慣れた胴体を見下ろした。


「 え?? 」


「 別に――、嘲笑ってはいませんよ 」


 何処かから、微かにくぐもった少女の声が聞こえる。


「 な、なん、なんだ? 何が起こった!? 」


 生身の人間ならば即死級の攻撃だが、魔物に身を堕として久しいビビアンにとっては、まだ何とか冷静に今の状況を分析できるダメージだった・・・


 だが、手遅れの致命傷には変わりない。


 絶望的な攻撃を受けてしまったことを自覚する。


「 ど、どこから? 」


 無残に地に転がった自身の首の前に、少女が姿を現した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私が動いた途端、即座に反応した――隣に佇んでいた首なし鎧騎士を、一刀両断で破壊した。

 そしてその後、私はゆっくりと鎧を脱いだのだ。


 いや脱いだというよりも、ドデカい「 着ぐるみ 」から脱皮したという方が正解か?


「 どうやら音に反応するようですね。もしくはある程度の動作に反応し、襲い掛かって来るんですかね? まぁどうでもいいけど。とにかくこの伽藍洞(がらんどう)の騎士のお陰で、これほどの距離にまで貴方へ接近することができましたよ 」


「 ってか、脱いでもまだ無茶くちゃ暑いな! あのでかい龍の所為か? 」


「 なんと! お主に倒され我が制御から外れた下僕の中に! 化けていたのか? 」

「 まさか、魔力を完全に打ち消していたのも――、全てはこの為だったのか? 」

「 くうっ、卑怯なっ! 火炎龍(サラマンダー)!! 」


 地に転がる真っ青な首だけのおっさんが、声を振り絞って叫んだ。


「 命のやり取りに卑怯も何も無いでしょう? 兵は詭道(きどう)なんですよ。あれは炎属性の召喚ですか・・・よくわかんないけど、水属性が効くのかな? 」


 中空から炎を纏った紅蓮の龍が、私を目掛け急降下してくる!


聖なる水球(ホーリーウォーター)! 」


 私の頭上に現れた巨大な水球を意思の力で操作し、思いっ切り振りかぶって、急転直下で迫り来る紅蓮の龍にぶつけた!


 ボジュゥゥゥゥウウウ!!


 接触したそばから次々と蒸発し、(おびただ)しい水蒸気が発生する。


 水圧で少しだけ動きが停止したところに、間髪入れず次を唱える。


聖なる稲妻槌(ホーリーハンマー)! 」


 青白い雷を纏った大槌が瞬時に現れ、停止した紅蓮龍を下から掬い上げるように、アッパーカット気味で殴打する!


 バリィィィイイイ!!


 バリバリバチバチと感電する轟音が空間内に響き、龍は中空でその身を歪めていた。


 更に、光神剣フォトンソードを操作し龍の首を切断する!


「 ――な、何という猛者(もさ)なのだ! ここまでの魔道士は未だかつて出会ったことがない! まるで伝説のデュール神の化身ではないか! 何という理不尽な存在なのだ! 」


「 あなたが糧とした人たちの死体――、どこにあるのです? 」


 私は巨大な首を見下ろし、できるだけ冷徹に訊ねた。


「 ・・・この更に奥へ進むと水流があってな。そこへその都度(つど)流しておった。外部の森へと通じておる。運が良ければだが、綺麗な死体のまま流れ着いておるかもしれんな。だがそのほとんどが――森の生物に喰われておるだろうがな 」


「 最後に、何か言い残すことはありますか? 」


「 ・・・不思議と清々しい気分だよ。確かに手段は間違っていたのかもしれんな。別の手段で研鑽(けんさん)を積み、もっと早くにお主に出会っておれば、(ある)いは・・・ふふ、もうお主が手を下すまでもないぞ。長い年月をかけて、溜めに溜めた魔力の流出がもうすぐ終わる・・・ 」


「 ん~・・・私には魔力が見えないんですよね 」


「 ははは! ――空前絶後の正体不明の強者(きょうじゃ)よ! 来世で会おう! 願わくば、その時まで我が名をその記憶に留めておいてくれぃ! 」


――デ、デスラーで良いなら、覚えておくよ・・・


 心の中で、しっかりと返事をした。


 真っ青な首が諦めの境地で私にお別れを告げた矢先・・


 突然、頭の中に声が響いた!


『 規定の魔力量を確認しました。これより調整(アジャスト)を開始します。マスターの認識時間単位で、約15分間必要です。暫くお待ちください 』


「 え? へっ? なにこれ? 」


 突然、頭の中に響いた女性のアナウンスにより、私は軽いパニックに陥った。


 強風に吹かれる砂漠の砂の様に、サラサラと消えていく真っ青な首だけのおっさんは、最後の最後にあたふたとする私をその眼で捉え、何を思ったのだろうか?


「 15分? 元の世界の時間単位を、今言ったよな? 」


『 後14分43秒です。暫くお待ちください 』


「 やはり言った! と、とりあえず待ってみるか・・・ 」


          ▽


          ▽


 光源魔法を用い辺りを照らしつつ、地面に三角座りをして良い子にして待っていた。


 すると突然――、またしても脳内にアナウンスが流れる。


調整(アジャスト)が完了し、魔力圧縮に成功しました。続いて、接続(コネクト)しても宜しいですか? 』


「 え? 接続? 何と接続するんだろ・・・ってか「 宜しいですか? 」って聞かれてもなぁ・・・この流れで「 YES 」以外の選択なんてできないだろ 」


「 えーっと、じゃあYESでお願いします 」


 私が声に出し承諾の返事をした直後、こちらへと走り込んでくる――二つの影を確認した。


「 ハ、ハルノ様! 御無事ですか? 急に魔力の波動が掻き消えましたので、御身に何かあったのかと・・・ 」


「 ああリディアさん、こちらへ近づけるようになったってことは・・・魔力酔いとやらが起きなくなったんですか? それでこっちへ来れたってことです? 」


 ほとんど下着姿のリディアさんは、隣に居るパルムさんの存在を意に介していない様子に加え、とても焦っていた。


「 はい! 濃い霧が突然晴れたように、魔力の波と言いましょうか? それがスッと突然引いた感覚がありまして、それでこちらへと急いで移動致しました! 」


 リディアさんは比較的血色が良さそうだが、パルムさんは相変わらず顔面蒼白だった。


「 なるほど。変な魔物がいたので倒したんですよね。多分それがトリガーになってんだろうけど・・・私にもイマイチよく解らなくてね 」


『 転移対象3名を確認しました。これより転移を開始します。なお初回に限り、霊子エネルギーが不十分な為、滞在時間は約2時間弱となります。2時間弱が経過しますと、強制転移が発動しますので御注意ください。ちなみに、転移後3分経過で再び転移することができます 』


 脳内のアナウンスが終わるや否や、眼前の中空の空間が歪み、小規模なブラックホールの様なモノが出現した。


 そして次の瞬間、突然重力から解放された宇宙飛行士のように、私たちは3人とも――自分の意思とは関係なく宙に浮き始めた。


「 うおおおおお! 何だコレ! おいお前! やめろ! 降ろせ、何やってんだよ! 」


「 私じゃないって! 何なのこれは!? す、吸い込まれるうぅ! リディアさんっ 」


「 ハルノ様! じ、自由が利きません! これは一体・・ 」

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