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第52話 デスラー

 ――ん? 膨大な魔力? どっかで聞いたような・・


 そうだ! ポータルを探せって、ポータルは膨大な魔力の塊だってあの人言ってたよな・・・


 もしかしてこの先にいるのって――別に凶悪な怪物とかじゃなくって、探してるポータルってオチじゃないよな?


 とにかく不意打ちが怖いので、盾役を出しておくか。


岩人形創造クリエイトロックゴーレム! 」


 梵字のような文字が均等に並び描かれている魔法陣が、足元に展開された。


 ――このベタな魔法陣も、あの人がわざわざ創った演出なのか?


 魔法陣の中から沸き立つように、「 ゴーレム君 」が現れた。


 相変わらずロボットのようなデザインで、どう見ても岩っぽくない。


 ――あの人ネーミングを素で間違えたのか? それともワザとなのか?


「 う~ん、ネーミングか・・・私も人のこと言えないよな。ゴーレム君じゃあ流石になぁ。いくら何でもそのまんまだし 」


 ――う~む、ゴーレム君って戦車っぽいよな? ってか重戦車って感じか?


「 よし! ゴーレム君改めセンチュリオンと呼ぼう! かっこよい名前に変更~ 」


 戦車の名前を付けてあげたが、センチュリオンは相変わらず無反応で、その場に立ち尽くしていた。


 ガシャン!

 ガシャン!

 ガシャン!


 ん? 鎧のプレート同士が擦れる音か? 騎士団詰め所で頻繁に耳にする音だ・・・


 音が近づいてくる。

 明らかにこちらへと、何者かが走って迫る音だ。


 しかも二つ以上の可能性が高い。


「 迎撃態勢! 」

 センチュリオンに命じる。


 組み合う前のレスラーのような腰を落とした姿勢を即座に作り、センチュリオンは構えた。


 一拍おいて、湾曲したその通路の先から、フルプレートで全身を固めた騎士が2体疾走し突撃してきた!


「 うおっ! どう考えても敵だろぉ! センチュリオン! 問答無用、やっちゃってー! 」


 センチュリオンが腰のしっかりと入った右ストレートを繰り出す!


 ゴガッ!!


 向かって右側の、走り込んできた全身鎧の騎士を全力でブン殴り、その勢いを殺すことなくそのままセンチュリオンは転倒した。


 殴られた騎士は、フルプレートの胸辺りが激しくひしゃげ、そのまま錐揉(きりも)み状態で吹き飛び洞窟の壁に激突した!


 もう1体の騎士はお構いなしに私へと迫る!

 私を掴もうと、その鎧で固めた右手を伸ばす――


 ガグン!

 バダンッ!


 私へと手を伸ばしていた騎士が膝から崩れ落ちるようにつんのめり、「 バダン! 」と激しい音を発生させながら顔面を強打し倒れ込んだ。


 殴った勢いで転倒したセンチュリオンが、その倒れた状態のまま手だけを伸ばし、私へと迫る騎士の足首を掴んで倒したようだ。


 この私を何が何でも捕まえようとしている鎧の騎士と、それを愚直に阻止しようとしているセンチュリオンが揉みくちゃになりながら、収拾がつかない醜態を晒していた。


 最初にぶん殴られ吹き飛ばされた騎士が復活し、こちらへと走り込んでくる!


 片や寝たままガッシリと掴みロックしているセンチュリオン。そして、それを振り払おうと躍起になっている鎧騎士。そんな滑稽な2体を飛び越え、私を目掛け復活した騎士が迫った!


「 ええ!? あ、頭が無いやんか! 」

 私は我が目を疑った。首から上が無いのだ。


 くんずほぐれつ、寝たまま取っ組み合っている2体を飛び越えたソレには頭部が無かった。 

 殴られ壁に激突した衝撃で、ヘルムが飛んだのか?

 いやヘルムだけじゃない


「 まさか! 中身が無いのか? 鎧だけのモンスター? 」


 ――確かに、幾ら何でもデカすぎると思ったわ。センチュリオンほどではないけど、人にしてはデカすぎる・・・鎧だけで活動できる存在なのか? もう完全にRPGの敵キャラだわコレ。


 いや、呆けている場合ではない。迫る首なし騎士は得物を携えてはいない。剣も盾も装備していない。


 何が何でも捕まえようと一直線に向かって来る姿勢は、ゲームや洋画などでよく観かける理性を失ったゾンビの様相を呈していた。


 ――掴まれるのはヤバい。直感だけどヤバい気がする。この直線的な移動・・・そしてとにかく掴もうとする姿勢。掴まれてはダメだ。


 一度バックステップで後方へ飛ぶ!


 首なし騎士は後方へ飛んだ私の着地点に合わせるように、蛙の如き身のこなしで再び跳躍した。


 ――いくら私が戦闘の素人だとしても、さすがに動きが直線的過ぎるんだよ!

 対空技を喰らえ!

聖なる土龍壁(ホーリーウォール)! 」


 オリヴァー殿下と戦った時にも使った、土魔法で創り出した壁を発生させる。


 首なし騎士の着地点を予測し、アッパーカットのように降下中の騎士へと当てることに成功した。


 急速に伸びた壁の穂先と洞窟の天井に挟まれ、首なし騎士は無残にプレスされた。

 眼に見えてペチャンコになっている。


 ギャリィ! ギイイイィィィン!!


 フルプレートの鎧が激しく天井の岩に擦れ、甲高い残響が洞窟内に響き渡った。


 ――この魔法の壁、防御面でその真価を発揮するんだろうけど、攻撃面でも多用できそうだ。


 光源を意思の力で操作し、センチュリオンの方へと戻した。


 ――まだやってんのか。

 センチュリオンと頭部有りの騎士は、未だに寝転んだまま取っ組み合いを繰り広げていた。


 センチュリオンが騎士の背中目掛け、うつ伏せで寝転んだ姿勢のまま、振り上げた右拳をハンマーの要領で振り下ろした。


 かなり不自然だったが、一瞬「 く 」の字に曲がった鎧騎士は、そのまま停止した。

 だがすぐに地面を手で掻き、近づく私へとその手を伸ばす。


 貼り付いているセンチュリオンを無視し、とにかく私を捕まえようとしている一連の行動に、自己の意思は全く感じられず、愚直に一つの命令だけを遂行しようとしている自動操縦型ロボットのような印象を受けた。

 ――何なんだこいつらは? 一体何が目的なんだ?

 

 とりあえず破壊する!


聖なる稲妻槌(ホーリーハンマー)! 」


          ▽


 粉々に砕けた鎧の残骸が、そこかしこに散乱していた。


 やっぱり鎧だけの存在で、中身は空洞だ。


 しかし、この程度のモンスターならば何ら問題はないな。


 脱出できるまでに、後何体襲ってくるのか・・・皆目見当が付かない。

 だがセンチュリオンが健在ならば、とりあえず問題はないだろう。


 ――それに、ダンジョン探索と思えばちょっと楽しいかも!


 光源を先行させ、センチュリオンの巨体の陰に隠れつつ、通路のその先へと進む。


 突然――、光が拡散した!


 どうやら広場に出たようだ。


「 ほう――我の創り出した「 運搬兵 」を倒したのはお主か? その巨大な下僕はお主の使い魔か? 」


 ――低い声!! 新手の敵か!?


 突然、まだ光が届いていない広場の奥から――重低音が響いた。


「 随分と幼いようだが・・・お主矛盾しておるな! 魔力を微量も感じないぞ? がしかし、我の兵を粉砕したのは間違いなくお主だろう? そこな巨人兵が直接手を下したとしても、操っておるのはお主で間違いないであろう? ならばナゼだ? ナゼ魔力を全く検知できないのだ? 非常に興味深い! 答えてもらおうか! 」


 ズズズ・・・と、何やら引き摺るような音を立てながら、ソレは光源の射程範囲内にその身を晒した。


「 うあっ! あ、青い! 真っ青やんか! 」


 一言で言い表せば巨人族。

 ソレは黒いローブを纏った真っ青な顔色のデッカいおっさんだった。


 でも、以前出会ったギガースと比べても倍以上はデカい。それに、何だかローブも含め半透明な気がする。


 子供の頃、父親が嬉々として観ていたテレビアニメ――「 宇宙戦艦 」とかいうアニメを思い出した。

 いい歳した父親が、テレビにかじりついて観ていたので強く記憶に残っている。


 詳しい設定はよく知らないが、あのアニメに出ていた敵役だったと思うが、「 デスラー 」とかいうキャラの顔色にそっくりだった。


「 ぶはっ! デスラーやん。真っ青すぎる 」


「 こ、小娘がぁ! 我の容姿を見て笑いものにしておるのか! 」

「 まぁよい。もう一度聞く! 我の質問に答えよ! この場に平然と立っておるとなると、明らかに何らかの対策を講じ、ここへ赴いた魔道士であろう? だがナゼ魔力を内包しておらんのだ? 我が看破できないほどの、何らかの阻害障壁でも張っておるのか? 」


「 いえ、特に何もしてないですけど・・・ってか聞きたいのはこっちです! あなたは何者? こんな所で一体何をしてんの? 」


 ドデカい青ざめたおっさんは、不満げに上体を起こした。


「 う~む、虚言ではないな! やはり矛盾しておる。実に興味深い! (にえ)ではないのか? かと言って、我を討ちにわざわざ赴いたわけでもなさそうだが? 下僕が何やら失態を犯した――と考えるのが妥当か? 」


「 下僕? 下僕って誰? 話の流れがイマイチ掴めませんが。ミルバートンって名乗ってた――あなたをそのまま標準サイズにしたような、あのおっさんのこと? 」


 青ざめたおっさんは、さらに無遠慮に距離を詰めてきた。


「 ちょっ! これ以上近寄らないで欲しいんですけど! 」


「 如何にも! ミルバートンは我の下僕だ。奴がお主を贄として送ってきたのか? 我が兵をものともしないお主のような魔道士がナゼだ? あえて奴の術中にハマったフリをしたのか? 」


「 あんた質問多いな! とりあえずココで何してんのか答えなさいよ! 」


 何だか会話が平行線で噛み合わない。


 しかし明らかにモンスターに分類されるのであろう――この真っ青なおっさんの琴線に、私は触れてしまったのだろうか?

 

 興味津々なその様子を見るに、私への興味は尽きることがなさそうだった。

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