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第50話 奈落

 ハンターたちとは中央街で別れた。


 デュール様の眷属から金銭は頂けない! 畏れ多くて――と、数名が報酬の後金受け取りを拒否していたので、若干手間取ったりしたのだが――リディアさんの「 煩わせるな! 」という鶴の一声で、無事全員に行き渡ったのだった。


 追加報酬は勿論いらないので、お供をさせてくれ――と、これまた数名が懇願してきた。

 だがこれ以上巻き込むわけにはいかないと諭し、私とリディアさん、ハンターのふりをしていた騎士団の6人、そしてパルムさんという構成で、朝一中央街イシュトを後にした。


 ちなみに領都軍の兵士諸君は、後から追いかける形で領都に入る予定だ。

 私たち見知らぬ者を何名も連れて――大挙して押し寄せるかのような街への入り方は、あちらの首脳陣を無駄に刺激する可能性が高いので、やめた方がいいのではないか? というリディアさんからの意見を尊重したのだ。


 ハンターたちがいなくなったとはいえ、まだ50名ほどもいたのだ。

 確かに「 間違いなく悪目立ちするよな 」と思い至り、必要最低限の少人数で出立したのだった。


          ▽


          ▽


 領都ミルディアに到着したのは、正午過ぎあたりの――陽がまだ頂点に近い頃合いだった。

 私は街へ入る直前からワクワクしていた。


 防壁の内側から聞こえる喧騒は、賑やかな活気ある人々の生活を想起させるには十分なものがあった。

 

 パルムさんのお陰で簡易的なチェックだけで済み、街の中へと入ることを許される。


「 ハルノ様。お気持ちは解りますが、今は先を急ぎましょう 」


「 あ、うん・・・ 」


 キョロキョロと落ち着きのない私の、「 おのぼりさん状態 」を肌で感じたのか・・・リディアさんが苦言を呈してきた。

 確かに今は浮かれている時ではないなと自身を戒め、足早に辺境伯が住まう城へと急ぐことにしたのだった。


          ▽


 規模は王都のシャルディア城ほどではないが、同じような要塞っぽい石造りの堅牢な城へと我々はやって来た。ちなみに騎士団の6人には街で待機してもらっている。


 パルムさんが守衛に話を通すと、独立した造りの待合所っぽい場所へ案内され暫く待つようにと伝えられた。

          ・

          ・

「 あんたに言われた通り、リディア・ブラックモアの名を出し、王国からの使者としてデュール様所縁(ゆかり)の者と共に謁見を申し出ている――と伝えておいた。事前連絡は勿論無しだが、領王様にとってこんなにも興味を惹かれる存在は他にいないだろ、故にすぐにでも許しが出るはずだ 」


 待合所に入ってくるなり――パルムさんが溜息交じりに言い放つ。


「 ご苦労様 」


 私のねぎらいの言葉さえ遮り、椅子にも掛けずパルムさんが次の質問を投げ掛けた。


「 拝謁時には言わずもがな丸腰になる。あんたには御自慢の魔法があるからいいだろうが、俺たちはどうすればいいんだ? 大勢の近衛兵に囲まれた時、あんたのあの早業で、一掃してくれるのだろうな? 」


「 パルム殿、どこで誰が聞いているか分からないだろう? ・・・あまり軽々しい発言は止めた方がいいのでは? 」


 リディアさんは眉根を寄せ――不快な表情で苦言を呈した。


「 いやしかし! 命がかかっておるのだぞ? お前は死んでも蘇生してもらえるのかもしれんが、俺にはその保障は無いだろ? 」


「 御心配なく! パルムさんがもし死亡しても、ちゃんと蘇生しますよ 」


 私はできるだけ笑顔を崩さないように答えた。


「 ほ、本当か? 」

「 しかしこのような形で、領王様を裏切ることになろうとは 」


「 おかしなことを言いますね。もし黒なら――、裏切っているのはむしろ辺境伯の方でしょう? そして逆にもし辺境伯が潔白なら、裏切るとか裏切らない以前の話で、何も問題は無いんじゃ? 」


「 ふんっ! あんた、潔白だとは(つゆ)ほども考えてないんだろ? むしろどうやって処刑しようか考えてるんじゃないのか? 」


「 まぁ確かにね、ここまでの展開を振り返ると、潔白はあり得ないでしょうけどね・・・ 」


 その時、扉がノックされ衛兵が入室してきた。


          ▽


 謁見の間を進む。


 両サイドには武装した近衛兵が、微動だにせず整然と並んでいた。置物か! と――ツッコミを入れたくなるほどに物音一つ立ててはいない。


 最奥、玉座に座り肘掛けに頬杖をついた人物と、隣に立つフードを被ったステレオタイプな魔法使いっぽい人物が、何やら小声で会話をしていた。


 そのフードを被ったローブ姿の側近が、粛粛と歩を進める私たちに、たった今気付いたかのようなわざとらしい仕草を見せた。

 

 すぐさま側近が段差を降りてくる。

 そして私たちと対等の場で対面した。


「 これはこれは、ようこそリューステール辺境伯様の領地へ・・・まさか剣聖として名高いブラックモア卿みずからおいで下さるとは、お会いできて光栄にございます。わたくしはリューステール様の参謀としてこちらに詰めております――魔道士のミルバートンと申します。以後お見知りおきを 」


 何だか悪賢そうな雰囲気で、老獪(ろうかい)なとでも表現すればいいだろうか、私的にはマイナスな第一印象しか持てなかった。だがリディアさんはとても丁寧で、貴族然とした気品のあるお辞儀をし、自己紹介をしていた。


 人の印象は出会って数秒以内に確定すると言われているが・・・私のこのマイナス印象が覆ることはなかなかに難しいだろう。


「 ――して、我が主リューステール様に如何様な御用でございましょう? 本来ならば、まずは使者を立てて頂き、御用件を吟味致し主の許しが出て後日謁見となりましょうが、この度は国王陛下の御傍付きであられるブラックモア卿のお越しということで、特例でございますれば・・・ 」


「 ご配慮痛み入ります。突然の拝謁をどうかお許し頂きたい。そして何より――快く受け入れて頂いたリューステール辺境伯様に最大の感謝を 」


 そう言って――リディアさんはその場に片膝を突いた。

 私もそれに倣って片膝を突くべきだろうが、あえてそれはしない――


 ちなみにパルムさんは待合所で待機していろ――との御達しがあり、大人しく待機しているはずだ。

 それを聞かされた時、本人は内心ほっとしている様子だった。


「 おっとその前に、こちらのご令嬢は? ――何でもデュール様に御縁のある御方であらせられる・・・と、お聞き致しましたが 」


 至極当然なその質問に私は直接反応せず、リディアさんが返答する。


「 はい、左様でございます。こちらのハルノ様は、デュール様の使徒様であらせられます! 未だ周知は成されておりませんが、先日シャルディア城内にて突如デュール様が御降臨なされ、ハルノ様の御紹介を賜った次第にございます 」


「 なんと! 」


「 ・・・・・ 」


 魔道士ミルバートンは驚愕の表情を見せたが、三段上に鎮座する辺境伯は――頬杖を突いたまま表情一つ変えず無反応だった。


 リディアさんと事前に話し合い決めた、予定通りの説明だった。

 できるだけ真実に沿って話を進め、まずは私の存在を説明する。


「 それが真実だとして重ねてお聞きしますが、我が主に如何様な御用でございましょうか? 」


「 国境沿いの獣人の集落が焼き討ちに遭い全滅した件で、少しばかりお話を伺いたく(まか)り越した次第でございます 」


 微妙に空気が変わった――


「 これは異なことを、そのような些事・・・お尋ねになられても、我が主が知る由もありませぬ故、無論わたくしも初耳でございますれば・・・ 」


 ここで私が初めて口を開く。


「 それはおかしいですね。実行犯どもを殲滅する為に行動を起こした私たちを阻止し――、抹殺する為に編成された部隊の・・・その隊長さんから聞いたんですけどね。辺境伯様の側近であるあなたから直接命令されたと、まさか私の聞き違いですかね? 」


「 ああ、なるほど! たった今思い出しました。あの違法だと報告を受けた依頼を出していたのは、ブラックモア卿と貴女だったのですか? わたくしはてっきり――盗賊崩れのハンターたちだとばかり、焼き討ちが事実だとして、もしその真犯人を我らに代わり処罰して頂けたと言われるのであれば、逆に褒賞を出さねばなりませんでしたな! 」

「 これは! わたくしの早合点ということで、大変ご迷惑をお掛け致しました! 」


 ――あくまでも白を切るつもりか? このおっさん。


「 いやいやおかしいでしょ? 仮に違法な依頼内容だったとしても、調査もせずにいきなり即抹殺って! いくら何でも苛烈すぎる反応でしょ? まるで真実に迫る人たちを、すぐにでも消そうと躍起になってる――そんな風にしか思えませんが・・・ 」


「 お嬢さん! さっきから何が申されたいのですかな? ・・まさか我が主が元凶だ――とでも? 獣人をわけも無く虐殺する悪鬼だ――とでも? そう申されたいのですかな? 」


 魔道士ミルバートンは、その鋭い眼光で私を射るように睨んでいた。


「 ええ、その通りですよ。むしろ黒幕はあなたなんじゃないかと――たった今思い始めていますが、とにかく獣人だからというだけで、罪も無い人たちを殺している――と、少なくとも私はそう考えています。勿論、辺境伯も共犯関係にありますよね? 」


 半ばフードに隠れたミルバートンの表情は、みるみるうちに憤怒の色を強めていった。


「 この小娘がぁ! 愚神デュールの使徒などと見え透いた嘘をほざきおってからに! 我が神への供物! 生贄2匹追加だ! この領地は帝国に接する領地だ。故に――侵攻を受ける前提でこの城は造られておる。それが意味するところ、その身で知れい! 」


 魔道士ミルバートンが右手を掲げ、何やら合図を出した――


 次の瞬間

 足元の石造りの床がパカッと左右に割れた!


「 うおぉ! うそぉ! マジかぁー-!! 」

「 ハ、ハルノ様ぁー--!! 」


 私たち2人は成す術無く――暗く深い奈落へと落下していったのだった・・・

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