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第48話 神の使徒デビュー

時空操作(タイムコントロール)! 」


 間髪入れず連続で唱える!


光神剣(フォトンソード)! 」


 金色(こんじき)を纏う、浮遊する光の剣が眼前に出現する。


 敵味方含め――この場にいる全員がギョッと驚き、極めて激しい動揺を見せた。


「 こいつ・・・この状況で歯向かうつもりかぁ!! 放てぇ! 殺せぇ! 」


 赤羽根付きヘルムの指揮官が、怒鳴ると同時に――両翼に広がる弓兵が慌てて弓の弦を離した!


 私にとっては、あまりにもあり得ない状況だった。

 

 だが逆に、一瞬だけではあるものの、気の抜けた瞬間が生まれたのだった。

 あまりにもあり得ない状況の中心に、自分がいるせいなのか・・・妙に冷静になれる瞬間が、確かに存在したのだ。


 大勢の殺意を抱いた者に囲まれて、一斉に攻撃されるなんて・・

 元の世界で普通に生活していたら、まずこんな状況になるはずがない。


 呆けた様子の私は、敵兵の眼にはどう映っただろうか?


 全てを諦めた者に映っただろうか?


 魔法で創り出した剣をたった一本出したところで・・・あらゆる方向から迫る無数の矢を防げるはずもない。

 

 そう――、通常ならば無理だ。


 だが、私は特例だ。

 少なくともこの世界で神と崇められている存在から授かった――()わば私だけに許された特技。


 迫りくる無数の矢が超急失速する。


 失速した超スロウ状態の浮遊する矢が、ジリジリと迫る。


 もはや私の方が見えない糸で無数の矢を操り、自身の下へと引き寄せ集めているような錯覚すら覚える。


 光の剣を意思の力で操作し、横薙ぎに一閃!


 ほぼほぼ中空で静止しているかの如き無数の弓矢は叩き折られ――、強制的に進行方向を変えられていた。矢じりが私に刺さることはもうない。落下速度も超スロウなため、未だ中空を蠢いている。


 私はつい調子に乗り、まるでチアがバトンを回すように、眼前で光の剣をグルグルと乱舞させてしまった・・・


 まだ叩き落としていない視界左半分の矢を、一本ずつ丁寧に打ち付け、その向きを強制変更していく。


 全てを(はた)いても、まだ1秒残っていた。


          ▽


 【時空操作(タイムコントロール)】の効果が切れる・・・


 破壊された弓矢が、ボトボトと地面へと落下した。


 鈍化の影響が消えても、この場にいる全員が敵味方関係なく――微動だにすることができない様子だった。少なくとも敵兵は、全員驚愕し戦慄しているのだろう。


「 な・・・え? 何? そのスピードは一体? 一体何をしたらそんなにも 」


 【時空操作(タイムコントロール)】のドーム型フィールド内支配下では、全てが鈍化する。


 意識さえも――


 だが、それを自覚することはできないらしい。

 つまり完全な錯覚なのだが、唯一影響を受けない私だけが、超神速で行動しているように映ったはずだ。


 錯覚だとは――夢にも思っていないのだろう。

 そして私の超スピードについては、常識が邪魔をして容易く受け入れることもできない。


「 今見ていただいたので解ると思いますが、私に対する攻撃は全て無駄です! もしまだ私たちに対して何らかの攻撃を仕掛けてくるなら、次は容赦なくあなたたちの首を()ねますよ? 」


「 ・・・・・ 」


 これまた敵味方関係なく、ゴクリと固唾を呑む音が聞こえてくるほどに――誰もが緊張状態に突入したようだった。


「 ふ、ふざけるな! お前は一体何者だ! 」


 口を衝いて出たのであろうそのありふれた質問を無視し、眼前で――またしてもグルグルと光の剣を回転させた。


 指揮官は、「 うっ・・・ 」と(おのの)き、一歩後退りをしていた。


「 もう一度言います! まだ敵対するなら、神速で迫り容赦なく斬り捨てますよ? 」


 勿論ハッタリだった――


 【時空操作(タイムコントロール)】は、【再詠唱可能待機時間(リキャストタイム)】がかなり長いため、連続使用は無理だ。


 だがリディアさんも含め――それを知る者はこの場には1人もいない。


 ここからはハッタリも織り交ぜつつ、こちら側が優位に立てるように立ち回らねば!


「 何を隠そう、私は主神デュールの使徒! この地を統べる辺境伯。その悪行の数々は明白! 圧倒的権力を持つ者は誰よりも優しくなくてはならない! 相手が弱者であれば尚の事。だが当の辺境伯はどうだ? あなたたちも胸に手を当て自問してみるといい! 私がデュールに代わり、あなたたちを成敗する! 」

「 だが、この中には権力に逆らえず、仕方なく従っている者もいるかもしれない。故に先ほどのあなたの台詞を、そっくりそのまま返してやるよ! 」


 ゆっくりと深く息を吸い、目の前の指揮官の台詞を思い返した。

 そしてそっくりそのまま――、口調まで真似て


「 首謀者と同罪――と、断定するぞ? いいのか? 今ならまだ間に合うぞ? 」


 思わずたじろぎ、指揮官はさらに後退りをしていた。


「 くっ・・・デュール様の使徒だと? 確かに不思議な魔法を多少は使えるようだが、言うに事欠いて神の使徒だと? ブラフもそこまでいけば見上げたモノだな! そんな戯言に惑わされる者は、ここにはおらぬ! 」


 ――いや、後ろの皆さんめっちゃ動揺してますがな!


 ここで開き直られて、総攻撃を仕掛けられると非常にマズい・・・


 このまま押し切るしかない!


「 では、私がデュール(しん)の使徒だと証明して差し上げましょう! 行動を起こすのはそれを見届けてからでも遅くはないはず。もう一度言いますが、あなたたちにとっては最後のチャンスですよ? 神の慈悲に縋ることができる――最後のね 」


 指揮官はまたしても「 ふん! 」と鼻を鳴らした。


「 証明だと? 本当にお前がデュール様の御使いならば、この場で天変地異の一つも引き起こさねば、誰も納得はせんぞ! 出来るものならやってもらおうではないか! 」


「 私がお見せするのは、もっと簡単で判り易いものですよ 」

「 ユーイングさんと後数人で、そこに転がっている死体を一つ持ってきて下さい 」


「 は、ははっ! 」


 代表してユーイングさんが承諾の返事をし、数名が後ろから追いかけて、折り重なる死体の山へ走った。


 敵兵たちは呆然とした表情のまま、その後姿を目で追いかけていた。


          ▽


 私と敵の指揮官のちょうど中間に、一つの死体が静かに置かれた。


「 リディアさん! トリックがあると思われるのも(しゃく)なので、かなり残酷ですが・・・数回その剣で刺してもらえますか? こうグサグサと! 」


「 御意! 」


 敵兵を意に介さず、スタスタと死体に近寄ったリディアさんが、おもむろに腰の剣を抜き去った。

 そして地へ突き立てるように複数回――、すでに血まみれの死体を串刺しにする。


 興味津々で見つめる者。目を背ける者。様々ではあったが――、敵兵たちは一体これから何が起こるのか・・・想像もついていないのだろう。


「 ああ、こちら側だけでは後々トリックだと言い張る人がいるかもなので――、そちら側の方も誰か・・・同じようにこの死体を数回刺してもらえますか? 」


 こちら側の人たちには私が何をやりたいのか――、既に皆、理解しているだろう。


 だが敵兵たちは先の展開が読めず、相変わらず当惑している様子。


「 早く誰でもいいから! 同じようにこの死体を刺してください。確実に死んでいるという事を証明するためですので 」


 敵兵たちは指揮官も含め意図が読めないせいだろうか――、誰も動こうとしていなかった。


「 ああ、もうじゃあ――、そこの弓持ってる人! その腰の剣で刺してください! 」


 私が指を差したことにより、浮遊する光の剣の切っ先も連動し、指先と同じ方を向いた。

 敵の弓兵がビクッと身を震わせ自身を指差し――「 え? 俺? 」と返す。


「 そうそう、あなた。同じように胸辺りを刺してください 」


「 は、はぁ・・・ 」


 言われた通りにしないと、この光の剣が襲ってくるのかも・・・と思ったのか、指示された敵兵は光の剣の切っ先から目を離せないまま、死体へと近づいた。


          ▽


「 ではこれで、この目の前の死体が確実に、どう考えても死んでるって理解してもらえたと判断しますね 」


「 一体何なのだ! ナゼこの死者を辱める事が、お前がデュール様の御使いだと証明する事に繋がるのだ! 」


「 今、それをお見せしますよ。蘇生(レザレクション)! 」


 眩い白色光が賊の死体を包み、やがてその光が収束していく。

 そして光の珠となり――胸部へ吸い込まれていった・・・


          ▽


「 ヒイィ! こ、殺さないで! 殺さないで! 何でも喋りますから! 俺たちは辺境伯の命令で小銭稼ぎをしていただけだ! 悪いのは俺たちじゃない! いや、少なくとも俺は悪くない! 悪いのは俺じゃあないんだ! 」


 生き返って早々、こんなにも捲し立てるように話せるものなのだろうか・・・

 今まで蘇生を施した人たちとは、ちょっと違う反応だと思った。


「 い、生き返ったぞ・・・ 」

「 間違いなく死んでいた者が! まるで死んでいた事すら――自覚していないように 」

「 マジかよ・・・デュール様と同じ奇跡の御業だ・・・ 」


 敵兵たちは指揮官も含め、正に放心状態といった様子だった。

 ボトボトと、そこかしこで手に持つ得物を思わず地面へと落としている者たちが――唖然としたまま雁首を揃えていた。

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