第43話 逢魔が時
早朝、騎士団の精鋭6名が遅れて到着した。
無論6名全員が、ハンターのフリをして身分を偽っている。
1人1人丁寧な自己紹介を受けたが――正直覚えきれない・・・
リーダシップを発揮していた――短髪で長身の男性だけは印象が強く、この人だけは顔と名前が一致しそうだ。
「 では――後の段取りはリディアさんにお任せ致しますので、私はもうちょい寝てきます! リディアさんたちも、時間まで適当に休んでね 」
「 はっ! お任せください! 」
討伐依頼を受けてくれるハンターの募集締め切りまでには、まだ時間がある。
ハンター依頼を取り扱う施設から一番近い宿を取ったので、ギリギリまで寝ていても問題はないはずだ。
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お昼前、我々一同は施設に向かっていた。
締め切り時間まで後少しだ。
締め切り時間が、つまりはそのまま討伐ミッションの開始時間となるわけだ。
申請の際「 正式にハンター登録済ならば面倒な審査は無し 」という条件で依頼を出している。
剣道何段や柔道何段のように、この世界にも剣術や槍術、斧術、格闘術などなど、意外と様々なスキルが大別されて存在するらしい。かなり大雑把ではあるが、ランクも存在するらしいのだ。
依頼人によっては「 剣術が○○以上の方募集 」のように、縛りを入れてくる人もいるようだ。
しかし、各スキルランクなんぞはあくまでも目安らしく、勝手に自称している者も珍しくないようで、かなり曖昧でアテにはならない気がする。
とにかく私としては――やる気さえあればそれでいい。
最悪、敵前逃亡されたとしても、その人を責めたりはしないだろう。
「 何だか、私だけ休んでたようで悪かったね・・・ 」
「 いえ! お気になさらず! 」
私の真横をリディアさんが歩き、後ろから列を成して騎士団の面々が続いている。
「 そー言えばさ、ちょっとした疑問があるんだけどさ、対人の討伐依頼って――事前に聞いてた通り、討伐するに足る罪の証拠が必要! みたいなこと言われたじゃん? 」
「 はい 」
「 でさ、私たちはこの国の犯罪者を取り締まる役割もある騎士団の――、しかもそのトップが証書を作ってくれたから問題無かったけど。でも何で? 何でキューさんは対人の討伐依頼が王都で出せたの? おかしくない? リンさんの証言だけで、公式なモノって言うか・・・客観的な証明が無くない? 」
「 ああ、その答えは簡単です! 」
「 へ? 」
「 あまりの低報酬で、しかも依頼人が獣人だから、あくまでも暫定で申請が通っただけだと思いますよ 」
「 え? 全然わかんないけど・・・ 」
「 わたくしの予想にはなりますが、報酬が少な過ぎるのが原因で、この依頼を受ける者は絶対にいないだろう――と、断定されたからではないでしょうか? 一旦依頼を貼り出しても、全く問題ないと判断されたのかと・・・ 」
「 ああ、そういうことか! で、獣人も関係あるの? 」
「 はい。王都では獣人差別を露骨にする者は許すべきではない――という風潮が一部にですがありまして、ちゃんと正当な理由があって拒否したりしても、獣人の中には「 獣人だから拒絶された 」と、騒ぐ者もいますからね。ですので組合としては、どうせ依頼を受ける者はいないだろうし、後々面倒な事になるくらいなら――と、一応は受理したのではないでしょうか? 」
「 ああ、なるほどねー 」
そんな会話を歩きながらしていると、いつの間にか施設前に到着していた。
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「 昨夜、討伐依頼を出した者なんですけど、締め切り時間なのでお伺いしたんですが 」
「 あっ! 騎士団長様の――、こちらに臨時でお部屋を整えてありますので! 」
カウンター奥の部屋へ――受付の女性が先導し案内してくれた。
部屋の中に入ると、10名以上はいるかと思われる男女が、こちらへと一斉に視線を向けた。
「 皆さん! この度の討伐依頼を申請された方ですー! 」
受付の女性に促されるように、私は一歩前へと踏み出し簡単な事前確認を始める。
「 えー、この度はお集まり頂きありがとうございます! えー、今回の依頼を出させて頂きました春乃と申します。えー依頼書にも書いてあったと思いますが、審査とかは一切ありません。正式にハンター登録されているならば誰でも参加頂けます。基本報酬が金貨三枚。成功報酬でプラス金貨二枚です。もちろん三枚は前金でも構いません! えっと――、何か質問はありますか? 」
数名の男女が手を上げた。
「 あ、じゃあ――あなたからどうぞ 」
「 陸人の賊を討伐してくれって依頼だが、一番肝心な情報が記載されていない。まずは標的の戦力を知っておきたいのだが・・・ 」
男性の一人が至極当然の疑問を口にし、説明を求めてきた。
「 ああ、あくまで予測の範囲になっちゃいますけど、敵の戦力は多くても20~25前後と考えております。え~っと、あなたたちは12名いるので、全員が参戦OKってことならば、私たち8名を合わせて丁度20名ですので、戦力的には問題ないかと思われますが 」
「 敵の数はあくまで予測なのか、報酬は破格中の破格だが――不安な要素が大きいな・・・ 」
私の返事を聞いて、手をあげていた他の者たちは、ゆっくりとその手を下した。
――これはあれか? 報酬はおいしいけどリスクが高すぎる! とか、色々思案しているのだろうか?
死亡しても問答無用で生き返らせるとはいえ、現段階でソレを説明しても混乱させるだけだろうし――、もし口にしたとしても、誰も信じないのは確実だし・・・頭おかしい人だと思われるだけだ。
「 確かに頭数だけで言えば、拮抗している可能性が大いにありますね。しかし自慢じゃありませんが、私は魔道士で回復魔法の他にも属性攻撃魔法が使えます。もし皆さんが負傷しても何ら問題ありませんし、勿論無料で治療しますし、それに盾役もこちら側が務めますのでご安心を! ちなみに移動用として恐竜が牽く荷車をチャーターしております 」
「 え? 嘘だろ? 属性魔法も使えるのか? いやそれよりも盾役は任せていいのか! その他も、依頼書に書いてあった通りか 」
「 ふむ――では俺は参加させてもらおう! できれば基本報酬は前金でもらいたい 」
一人の男性が参加の意思を見せた途端――、他の者たちも次々と参加表明をし始めたのだった。
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総勢、丁度20名。
大型輸送車に揺られ、肥沃な大地を進む。
移動用として、恐竜車を丸二日間の契約で貸してもらった。
中央街から出発する現在の運行ダイヤだと、どうしても一頭遊ぶことになるらしく、これは丁度良かったと二つ返事で貸してくれたのだ。即金で金貨十枚叩きつけたのが、トドメの一撃だったようだが。
今回のお金の出所は、勿論国王様だ。
色々と無駄使いかもしれないが、ケチって失敗するよりは遥かにいい。
無論、与えてもらうばかりではない!
お返しに、国王様には自作の魔法のポーションを、最低でも百本は進呈するつもりだ。
それだけあれば――もし私が傍にいなくても、不測の事態に備えることができる保険となるだろう。
死亡者だけはどうしても私がすぐ傍にいなければ対処できないが、大怪我などであれば――ポーション一本飲み干しさえすれば事足りる。
ポーション代金として前金でもらったという体で、有難く頂戴したのだ。
現在湯水の如く使っているわけだが、別に後ろめたいとかって気持ちは全くない!
「 なぁあんた、詮索する気は無いんだが――あんた相当そいつらに恨みがあると見えるな! どんだけ金掛けてるんだよまったく・・・移動用の恐竜まで用意して、そもそも報酬が一人金貨五枚って! いくら危険な任務とはいえ、大盤振る舞いだな! もしかしてあんたまさか――、どこぞの外国の貴族様なのか? 一見そうは見えねぇが・・・ 」
「 いやいや、貴族とかではありませんよ。まぁ色々と込み入った事情がありましてね・・・ 」
「 ああ、いやすまん。本当に詮索する気は無いんだ。とにかく報酬さえちゃんともらえれば文句はねぇよ 」
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黄昏時を迎える。
馬車に比べればかなり低速だが、恐竜はとてもタフで休憩要らずだった。
ハンターたちにとっては嬉しい誤算だろう。
全員、徒歩で移動するものだとばかり思い込んでいただろうから。
ゆっくりと恐竜が停止する。
自ら御者を買って出てくれたハンターの男性が、荷車部分に頭を突っ込んできた。
「 ここからは徒歩が良いかと! この湿原を越えれば【三日月砦】が見えてくるはずですから、とりあえず恐竜はそこの大木に繋いどきます? このまま野営しますよね? 」
「 いえ、先を急ぎましょう! では皆さん武装をお忘れなく、ここからは我々が先頭に立ち進みますので、皆さんは後方を特に警戒してください! 」
「 え? ハルノ様・・・日没まではまだ暫くあると思いますが、しかしこの時間から湿原を突っ切るのは少々危険かと・・・ 」
リディアさんが苦言を呈してきた。
騎士団の面々も、言葉には出さないが不安な面持ちだ。ハンターたちは言うまでもない。
「 ん~・・・できれば砦を夜間に攻めたいんですよね。私にちょっとした策があるので! ちょっと危険かもだけど――サッサと湿原を抜けてしまいましょう 」
「 か、畏まりました・・・ 」
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「 おい、大丈夫なのかよ・・・俺、何だか不安になってきたんだが 」
「 しっ! 聞こえるぜ 」
先頭を進む少女と、その隣の女剣士に気取られないように――、最後尾を歩くハンター2人がヒソヒソと小声で会話を始めた。
「 俺・・・賊よりも、湿原に潜む大蛇の方が怖いんだが 」
「 確かにな――、この暗くなりかけた湿原に突入するなんて自殺行為だぜ 」
「 もしかして、あの依頼主のお嬢さんは、そもそも知らないんじゃないのか? 」
「 え? この湿原が大蛇の巣ってことをか? いやいや、それはねぇだろ、そこらの子供でも知ってるぜ 」
「 いや、あの様子だとあり得るぜ――俺ちょっと聞いてみるわ 」
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「 あの~、ハルノさん! ちょっとイイっすかね? 」
最後尾のハンターの1人が、先頭を歩く外国の少女の後頭部に目掛けて叫んだ。
「 あ、はい、何ですか? 」
少女が立ち止まった為に、全体も停止する。
「 浅いとこを選んで縫って進んでるのはいいとしてですね、ただこの湿原って、めちゃくちゃヤバい怪物が出没するんスよ。通称大蛇っていうでっかい蛇なんスけど、もし運悪く遭遇したら、正直この面子でもヤベーんじゃねぇかと思って・・・ 」
「 ああ、イシュトに向かうために乗った輸送車の中で聞きましたよ! 多分ですけど、もし出て来ても大丈夫だと思います。多分――私1人でも倒せると思うんで 」
「 は? はぁ? 何言ってんスか? 1人でって無理っスよ! ちょっとイイですかね? 全員の命に関わるからあえてキツイこと言わせてもらいますけどね、そんな楽観的に構えてたら、ここにいる全員を犬死にさせてしまいますよ? 」
「 う~ん、でも私が聞いた話によると、危険度を比べた場合ですけど、圧倒的にグリム原野のセルケトの方がヤバいって聞いたので、多分大丈夫ですよ 」
「 はぁ? いや、何言ってんスかマジで! 大丈夫の基準が意味わかんないんスけど・・・ 」
常に少女の隣に位置する女剣士が、やれやれといった様子で口を開いた。
「 貴公らの尺度でハルノ様を測らない方が良いぞ? ハルノ様はたった御一人で、その件のセルケトを屠っておられる。尤も人伝に耳にしただけでは到底信じられないだろうがな! 実際このわたしも――当初は信じることができなかった故 」
「 はぁ? 」
ハンターたちは、一様に「 何言ってんだ? こいつは・・・ 」といったような――、何とも言えない苦渋に満ちた表情を浮かべていた・・・
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