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第38話 火だるま作戦

「 もう一度確認するが、お前が発見した時、その新手(あらて)の敵集団は――攻め込むのを躊躇(ちゅうちょ)していたのだな? 」


 オリヴァー殿下が、もう一度斥候(せっこう)の兵士さんに問い(ただ)した。


「 はい、地形の起伏を利用しギリギリまで接近しました。馬の(いなな)きに邪魔された為、断片的ではありますが――「 話が違う 」とか、「 火が消えていないので失敗したのではないか? 」「 このまま突っ込むのは早計だ 」「 王国兵はどれくらい生き残っているんだ? 」――などの会話が聞こえてきました 」


「 そうか・・・敵と認識してまず間違いないだろう。ところでその他の斥候はどうした? 」


「 他三方の斥候は、そのまま偵察していると思われます 」


「 そうか、ご苦労だったな。お前には後ほど褒美を取らせよう。隊列に戻れ 」


「 はっ! 」


 ねぎらいの言葉を掛けられた兵士は、小躍りしながら自分の隊へと戻って行った。


「 ハルノ殿、これは好機です! 敵が陣形を組み突撃して来る前に、一気呵成(かせい)に叩くべきかと! 」


 ――まさか、こんな事態になるなんて

 これからやろうとしているのは、小規模かもしれないけど戦争そのものだ。


「 マジですか! 矢とか飛んできたらどうしよう・・・めっちゃ怖いんですけど! ってか戦術は? まさか、最大戦力のリディアさんと私が――先頭切って突貫攻撃って考えてます? 」


「 いえ、ハルノ殿は最後尾で、定石ですが――隊を三つに分けて俺たちの隊が正面から、他の隊はそれぞれ左右側面からで、我々正面は「 ゴーレム君 」を(じく)として攻めましょう! 」


 緊迫した雰囲気に包まれているのに、私は吹き出しそうになってしまった。


 ――ゴーレム君って!

 ――私がそう呼んでるし、そもそも私が理解しやすい言葉に自動で変換されているだけなんだろうけど。


「 ブラックモアは左翼の隊を指揮しろ、俺の中央隊で敵を引き付ける 」


「 承知しました! 」


「 えー・・・怖いんですけどぉ 」


          ▽


 殿下が率いる中央隊は歩兵10名、騎兵12名という若干不安を感じる戦力だった。

 騎兵は全て中央隊に投入している。


 隊列の中、手に手に松明を持った6人が、等間隔に並び接近を開始した。

 士気の高い兵が揃っているぞ――とアピールするかの如く、軍用ラッパを吹き鳴らし、軍隊特有の掛け声も発しながら意気揚々と歩を進める。


 言わずもがな、敢えて必要以上に目立つことにより、両翼の隊の接近をギリギリまで気付かせないという狙いがあった。


 ゴーレム君の存在にもギリギリまで気付いてほしくないので、馬の食料の一つである大量の藁を、太い縄でその巨躯に巻きつけ、即席ではあるがカモフラージュしている。

 更に、この乾燥した藁にはたっぷりと油を染み込ませてあり、若干闇夜と同化している様な色合いだった。


 私はゴーレム君と一緒に最後尾につけている。


 私を含むこの25名ほどの部隊を視認した瞬間、敵の集団はどういった反応をするのだろうか?


 即逃げ出すようなら深追いはせず、両翼の部隊と合流し、天幕エリアまで▲の魚鱗陣形のまま後退する手筈となっているらしい。


 木盾をやや斜め上に構えながら、徐々に近づいていく・・

 

 すでに敵は、我々が接近していることに気付いている。


 闇夜の向こうで右往左往する騎乗した者たちの影が――、最後尾のここからでもハッキリと確認できた。


「 よし行進速度を落とせ、音を出すぞ! 」


 殿下の合図と共に、松明を持っていない兵士全員が――、盾の縁をガンガンと剣で打ちつける。

 それぞれが意図的にタイミングをずらし、激しい打撃音が虚空に放射された。


「 ゴーレム君が突撃した後、戦線から離脱する敵兵を討つぞ! 相手が騎兵ならば馬を狙え! 死を恐れるな! 俺たちにはハルノ殿がついている! 」


「 おおぉ! 」


 私が超即席で考えた作戦を、実行に移す時がきた・・・


「 散開! 」


 オリヴァー殿下が叫び、隊列が左右に分断され道ができる。


「 ゴーレム君! 突撃お願い! 」


 最後尾からドスンドスンと激しい地鳴りを伴わせ、ゴーレム君が敵の集団目掛け全速力で駆けだした。


「 よし! 松明投擲(とうてき)! 」


 ゴーレム君が味方の隊列を抜けた瞬間、ゴーレム君の背中に向かって――2人の兵士が松明を投げつけた!


 松明が触れた瞬間、全身に纏った油を含ませた大量の藁に炎が次々と燃え移り、あっという間に業火に包まれる巨体が完成する。


 無論ゴーレム君にとっては――この程度の炎など何の問題も無いと思われる。


 合図も兼ねたこの突撃。

 文字通り――口火を切る形となったこの「 火だるま作戦 」は、これ以上無いほどの機先を制することになったのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 盗賊団を束ねるギャリットは、逃走するか迎撃するか――、この瞬間ではまだ迷いに迷っていた。


 ――まだよく見えんが、戦力はこちらの半分ほど・・・ってところか? こっちにもかなりの被害が出るだろうが、剣を交えて勝てない規模じゃないな。騎兵もいるようだが、登って来る奴らをこの小高い地形の上から弓で狙い撃ちにし――、たとえ数名でも仕留めて減らすことができれば・・・練度だけで言えばこっちが不利かもしれんが、相対的にはこっちに分がある!


 目を凝らして観察していると・・・いきなり一際大きな火の手が上がった。

 太い火柱の様なモノが、結構なスピードでゆるやかな坂を駆け上って来る!


「 お、おい! 何だ・・・あれは?! 」


 ――炎を纏った人間!?

 そもそもあの炎の規模だと普通――、数歩進んだ所で消し炭だろ! いや待て、根本的に人間にしてはデカすぎる!

 

 ギャリットは戦慄を覚えた――

 あれは人間ではあり得ない・・・


「 か、(かしら)! どうやら攪乱(かくらん)に使った巨人族(ギガース)のようです! あいつら巨人族(ギガース)に火を着けて特攻させてやがるんだ! 」


「 何だと! そんなバカなことがあるか! あの炎・・・いくら獣人の巨人でも、耐えられるわけがねぇ! 」


 ――おかしい、絶対におかしい!

 そもそも何で王国の奴らのペットになってるんだ? ・・・いや、アイツがやったように何らかの手段で操ってるのかもしれねぇが、しかし――やはりあれほどの炎に包まれながら平然と動いてる事自体が、そもそもおかしい・・・


 ――な、何だ!? 炎に呑まれるどころか、スピードを上げてやがる!

 

「 おい! ボーっと眺めてるんじゃねぇ! まだ距離がある内に()殺せ! 」


 盗賊の頭目であるギャリットからの指示を受け――、配下の者たちは次々に弓矢をつがえ、火の巨人に向けて矢を放った。


 ギイン! ギイン! ギュイン!


「 なっ! 何なんだあのバケモノは! 当たってんのに刺さってねぇ、弾いてやがる! 」


 ――どう考えても異常だ!

 

 異常過ぎる・・・


「 て、撤退だ! お前ら撤退するぞっ! 」


 またしてもギャリットが大声で指示を出し、盗賊たちは即座に反転を始めた。


 反転した為、いきなり最前列となったのであろう付近から突然――

 悲鳴のような叫び声が連続で湧きあがった!


(かしら)! 王国兵です! 左右から同時に! 」


「 何だと?! 」


 前門の王国軍兵士! 後門の火だるま巨人!


 ――に、逃げ道がねぇ! 話が違う! 俺たちが攻め入る頃合いには指揮官は死んでいて、王国の奴らは壊滅状態になってるはずだって話だったのに! 指揮系統が崩壊し、多数生き残りがいたとしても、混乱状態の極みなのは間違いねぇって聞いてたのに!


 逡巡(しゅんじゅん)している間にも、パワフルに駆け上る火だるまの巨人が、背後のすぐそこまで迫っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「 よし! 我らもゴーレム君に続けぇ!! 逃走する敵兵を討つことに専念しろ! 」


 私はついに吹き出してしまった・・・


 ――殿下が大真面目に「 ゴーレム君に続けぇ!! 」って・・・滑稽すぎる。


 滑稽と言えば――

 ここから見上げるように眺めているのだが、火だるまのゴーレム君が、何度もピョンピョンと飛び上がり――ボディプレス攻撃を仕掛けていた。

 

 かなり滑稽で、シュールな絵面だった・・・


 圧し潰された敵兵は即死しているだろう。

 頭を潰されていたら、たとえ蘇生魔法を使っても蘇生できないかもしれない。


 とりあえず、作戦は大成功と言っていいだろう。


          ▽


「 か、勝てるわけねぇ! 」


「 やってられるか!! 」


 数名の敵兵が散り散りに敗走を試みる――


 だが、三方向から王国軍に包囲されているので逃げ切るのは容易ではない。


 全速力で敗走する騎乗した敵兵を、こちらの騎兵がすぐさま追いかけて行って、手槍を投擲(とうてき)し仕留める――という職人技を、何度も見ることができた。

 勿論、全てを仕留めることは出来ていないが・・・

 

 ここから見ていても、何名かは逃走に成功したと思われる。


 未だにピョンピョンと飛び上がり、地を打つ轟音を響かせながら――ボディプレス攻撃をしているゴーレム君。

 纏っていた炎は、すでに消えている様だった。


 しかし敵兵はともかく――、敵兵が乗っていた馬が可哀想だ・・・

 脳が無事なら、馬だけは蘇生してあげても良いかな――と思ったのだった。







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