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第27話 朝の一時

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~シャルディア城、騎士団詰め所~


 騎士団長サイファーは、その長い両脚を執務机の上に無遠慮に投げ出し、片手で醸造酒の入ったグラスをクルクルと器用に回していた。


「 どうしたラグリット、嬢ちゃんのことが心配なのか? 」


 不意に声を掛けられた騎士団第三大隊長は、ハッと我に返り「 あ、いえ別に・・・ 」と返す。


「 そうかぁ? 顔に書いてあるぞ? 」


 騎士団長は「 ふふ・・ 」と笑いながらグラスを傾けた。


「 心配と言いますか・・・それ以前にあまりにも予想外の展開で、思考が追いついていない状態ですよ 」


「 ははは! 俺もだ! 」


 豪快な笑い声が部屋に響く。


「 しかし、国王陛下はどうお考えなのでしょう? 」


 騎士団長はお行儀の悪い脚を机から下ろし、ラグリットに向き直った。


「 さぁ、どうだろうな。当初は嬢ちゃんの存在を秘匿し、その驚異的な力を内々で独占するつもりだったんだろう。だが、嬢ちゃんがデュール(しん)様の御使(みつか)い様だと判明した途端、掌を返したように王家の旗印にしようとした。それがお前としては気に入らないってところか? 」


「 い、いえ、気に入らないなどと――、そのような不敬な思いはございませんが 」


「 嬢ちゃんは、己がどれほどの影響力を持つか――解っていないように俺には見えたなー。たとえ王家が担ぎ上げなくても、遅かれ早かれ大衆の知るところにはなるさ。あるていど、(あらかじ)喧伝(けんでん)しておいた方が――俺たちにとっては有利に働くってのは正直なところだな。嬢ちゃんはきっと「 迷惑だからやめてくれ! 」と言うだろうがな 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


          ▽


          ▽


 ~翌朝~


 私が目覚めた時、リディアさんはすでに起きていた。

 リディアさんの左腕を独占していたためか、リディアさんはできるだけ動かないように気を配り、私が起きるのをじっと待ってくれていたようだ。


「 ・・・あ、ごめんなさい。抱き枕みたいにしちゃって 」


「 おはようございます、ハルノ様! 」


          ▽


 私は「 暁の軍隊 」8体を送還して消し去り、身支度のためリディアさんと共に部屋を出た。


「 わたくしも一度部屋に戻り、着替えを済ませたいと思います。ハルノ様、申し訳ありませんが御一緒にわたくしの部屋へ――、まだ賊が潜んでいるやもしれませぬ(ゆえ)


「 あ、はい、そうですね。あ~、早まったかな。まだ送還しない方がよかったかも 」


          ▽


          ▽


「 こちらが謁見の間でございます 」


 身支度を終わらせた私たちは、リディアさんの案内で広大なお城内部を移動し、国王陛下が待っている広間に到着した。


 神秘の扉とでも言おうか――、精巧なレリーフが施された石扉がゆっくりと開いた。


「 ハルノ様をお連れいたしました!! 」


 ――うおっ! ビビった!


 すぐ斜め後ろから、とんでもない声量でリディアさんが叫ぶ。


「 ハルノ様、どうぞお進みください 」


 広間中央へ進むと、国王陛下とオリヴァー殿下が足早に駆け寄ってきた。


「 ハルノ殿! 十分お休みになられましたかな? 」


「 ええ、何から何までありがとうございました 」


「 先ほど報告を受けたのですが、お休みの間に何やら不穏な動きがあったとか・・・ゴーストの類かもしれぬとお聞きしましたが――、一体何が? 」


「 ああ、今のところ不確定な要素が多いですね。寝顔を見られただけで、結局何もされなかったし、何とも言えないのですけど、とにかく私よりも陛下こそ御注意ください。もしかすると幽霊ではなく、賊の可能性も否定できませんので 」


 国王陛下は顎に手を添え、「 ううむ・・ 」と何やら思案を始めた。


「 とりあえずは警備を増やし、城内の捜査を徹底することをお勧めします 」


「 ふむ――、御忠告、痛み入ります 」

          ・

          ・

「 ハルノ殿、本日よりポータル捜索を開始されるのでしょう? この路銀と、さらにコレもご用意いたしましたのでお使いくだされ! 必ずやお役に立つかと 」


 そう言って、国王陛下が懐から――革製の巾着袋と掌サイズの細工されたエンブレムを手渡してきた。

 エンブレムには、二匹の竜が絡み合い、左右対称の模様を成したレリーフが彫られている。


 革袋を握ると、硬貨が擦れるジャラジャラとした感触が伝わってきた。


「 これ、幾ら入ってるんですかね? それに何ですかこのバッジ――、何だかすごい装飾ですね 」


「 はい。これを持つ者は、『 王家と同格の地位をライベルク国王が保証している 』と証明できるものですな 」


「 へ? 」


 幼少の頃、おばあちゃんの隣でよく見ていた時代劇を思い出した。


 毎回、水戸の御老公の隣に陣取るおっさんが、大体20時45分前後に懐から取り出すアレか?


 本来の使い道は、王族やその親族が遠征に出かける際、身分証明として――念のため持っておくためのものか?


 何らかのトラブルに巻き込まれ、他国自国を問わず、貴族以上の者やお役所関係者とモメた時などに重宝しそうだな。


「 資金はなくなれば遠慮なくお申し付けください! 即座に補充いたしますので 」


「 い、いえ・・・これ、もしかして全部金貨じゃないですよね? すんごい大金な気がするんですけど・・・とりあえず有難く頂戴いたします 」


「 はい! 遠慮は無用ですぞ 」

「 今後は、我が愚息を存分にお使いください! 一刻も早くポータルが発見され、デュール様に良い御報告ができることを祈っております。そうだ! 朝食はまだですかな? これから御一緒にいかがです? 」


「 あ、折角のお誘いなのに恐縮ですが、リディアさんと一緒に街で済ませようかと・・・ 」


「 そ、そうですか・・・残念ですな 」

「 ブラックモア! しかとお守りするのだぞ! お前の剣の腕ならば、必ずやハルノ殿の期待に応えられると信じておるぞ 」


「 はっ! 」


 リディアさんは胸の前で右拳を握るポーズをとり――陛下の激励に応えた。


 陛下の後ろで黙って聞いていたオリヴァー殿下が、ずいっと前に進み出た。


「 ハルノ殿! 今から俺は、ライベルク王国の第一王子ではなく、貴殿の護衛につく魔道士だ。何でも遠慮なく言ってくれ 」


「 あ、それなんですが・・・殿下には今暫くこの城内に待機していただこうかなと。実は、まだちょっと街でやりたいことがあって。どっちみち、有力な情報が出揃ってから動こうかなぁーって考えてて、もし遠征することになったら、必ずお声がけしますので、それまで殿下にもできるだけ情報を集めておいてもらえると嬉しいです 」


「 む・・・そうか、承知しました! 」


 意外だったが、オリヴァー殿下は素直に私の提案を承諾した。


「 ところで陛下、孤児の件なんですが 」


「 はい。本日、王都街の孤児院への助成金等を管轄しておる財務官の一人を呼び寄せております。その他関係者と連携を図り、まずは現状把握に努める所存です―― 」


「 宜しくお願い致します。色々お忙しいでしょうけど、彼らが命を落としてからでは遅いので。何卒、迅速な対応を―― 」


「 はい。肝に銘じておきます 」


 ――しかしこれは、デュール神の降臨効果だろうなぁ。

もし「 デュール神の後ろ楯を持つ女 」という立ち位置じゃなければ、ここまで真剣に取り合ってはもらえなかった気がする。本来なら、陛下や殿下にとって、街の孤児問題なんて些事(さじ)だろうしなぁ・・・まぁ孤児院があるていど機能しているのならば、かなりの安心材料と言える。


          ▽


          ▽


 城内移動用の専用馬車に乗せてもらい、リディアさんと共に王都街の外周へ入った。


「 リディアさんお腹減ったでしょ? これから朝ご飯――ってかもうお昼ご飯だね。本来ならお城でゆっくり食事を頂いて、のんびり下りてくればよかったんだろうけど、なんだか宮廷は落ち着かなくてさ。ごめんね 」


「 いえ! わたくしは苦にはなりませんので。練兵中は実戦演習で森に入り、丸二日何も口にせず過ごすこともありましたので 」


「 す、凄いサバイバルですね・・・ 」


 外周の東門エリアに差し掛かった。

 大通り沿いに建ち並ぶ建屋では、様々な店が商売を営んでいる。


 地球時間で言えば、大体なんとなくの雰囲気で、午前10時~11時頃だと思う。

 人の流れも活発で、一般的な人々はもちろん――装備からハンターだと判別できる人たちが闊歩(かっぽ)していた。


 宮廷の静寂も時には心地良いのかもしれないが、雑多な朝の喧騒の方が、やはり私には性に合っていた。これもまた心地よい。


 角を曲がると、見覚えのある大きな石造りの尖塔が見えた。


「 あ、多分この辺りかも! すみません、この辺りでお願いします 」


 御者さんに御礼を伝え、カインズさんの商会建屋の近くで降ろしてもらった。


「 とりあえず食事にしましょう! お金はたんまりあるし――ちょっとくらい贅沢してもいいよね? 」


          ▽


 そこそこ繁盛していそうな食堂に入り、一番奥のテーブルに座る。

 この世界の大衆食堂では、店員が注文を取りに来ることはないようだ。食べたい物や飲みたい物は、こちらから店員に伝えに行かねばならない。何にしたらよいかわからない私は、注文をリディアさんに任せる。


「 本当にわたくしが決めても宜しかったのですか? 恥ずかしながら、わたくしが食べたいと思った品になってしまいましたが 」


「 勿論勿論、それでOKです! そーいえばさー、結局マリアさんたちには会えなかったけど、先に街へ戻ったのかな? 」


「 騎士団長をはじめ、あの一団は昨夜、城内の騎士団詰め所で食事をとった後、騎士団の馬車で城郭エリアを出た、と聞きましたが 」


「 そうですか・・・こっちの世界にもスマフォみたいな物があれば連絡も容易なのになー、テレパシー的な魔法ってないのかねぇ? 」


「 え? すまほ? でございますか? わたくし魔法分野は苦手でして・・・ 」


「 ああ、気にしないで。こっちの話 」


「 ハルノ様、これからのご予定をお聞きしても宜しいですか? 」


「 うん。とりあえず食事の後、懇意のカインズさんっていう商人さんに会いに行って、孤児の救済になればと思って考えた『 子供食堂 』のことで相談に乗ってもらおうかと。私の考えたシステムで上手く回るのか、その辺りの意見を聞きたくてね 」


「 子供食堂――ですか? それは一体どういったものでしょうか? 」


「 う~ん、まぁー・・・結構長くなるからさ、後でカインズ商会で詳しく話すよー 」


「 も、申し訳ございません! でしゃばった真似を・・・ 」


「 もう――、だからそんなに畏まらないでって! お友達ってのはリディアさん的には難しいのかもしれないけど、もっとこう普通に接してくれればいいよー 」


 私が考えたシステムは、現代日本の「 子供食堂 」そのままではない。そもそも、この世界の国民や貴族、行政がそこまで成熟しているとは思えない。神の威光を使えば強硬策も取れないことはないだろうが、多方面から不満が噴出する恐れがある。


 そこで私は、資金源としてハンターたちの協力を得ようと考えている。もちろん、協力することでハンターたちにも十分な見返りがあるシステムにするつもりだ。


 正直、意味不明なポータル捜索なんかよりも、やりがいを感じられるこういった小さな改革を色々と試してみたい、と私は思うようになっていた。

 そのためには、やはり何らかの商売を始める必要があるかもしれない。

 人に喜ばれるサービスを売って利益を出し、その資金を様々な事業の足がかりにしたいと考えていた。

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