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第22話 神の像

 案内役の侍従男性の後ろを、皆で列をなしてついていく・・・


 城門を潜ると、御者の兵士さんとマリアさんの二人は、厩舎(きゅうしゃ)エリアで待つように言い渡されていた。

 御者の方はともかく、マリアさんには同行して欲しいとお願いした結果、それが聞き届けられ今は最後尾を歩いている。


 あまりにも広大で、自分が今お城の中のどの辺りに居るのか――、もはや知る由もない。


 お城内部は、意外にも無骨な造りだった。

 一見すると、荘厳さよりも頑強さを選択したかのような造りだ。

 外観こそ欧州各地に今なお堂々と建っている、中世のお城に近いと思うが、内部はゴツゴツとした岩肌のような壁が目立ち、お昼ではあっても少々薄暗く、明かりをあまり取り込んではいない様子だった。


 存在感のある、とても大きな扉が視界に入ってきた。


 緻密な模様が表面に彫られた巨大な扉だ。

 私たちが近づくと、まるで意思を持ったかのように鈍い音を立てて観音開きに開いていく。


 どうやら向こう側の左右に、扉を開く係りの衛兵が居るようだ。


 扉を潜ると、快晴の空が頭上に広がっていた。

 かなり上層だが、ここはさしずめテラスだろうか?

 テラスと呼んでいいのか分らないが――、かなりの面積がある広場で、端の方には花壇のようなものも見受けられる。


 花壇のさらに向こうに、小さな教会のような、礼拝堂のような建物が視界に入ってきた。


「 お~、こんな立派なお城だと、城の中に礼拝堂まで建ってるんですね! 」

 思わず感嘆の声が漏れた。


 率直に感動したのだ。

 一部上場企業の、社屋の屋上に(やしろ)が建っているようなものか?

 いや、違うかな・・・


 こんなにも広大なお城の中に、まさか礼拝堂まであるとは! そのスケールに、私はただただ圧倒されるばかりだった。


 私の感嘆の声に、大隊長さんが反応する。


「 王族専用と言ってもいいでしょうな。さすがに国王様やオリヴァー殿下が、街の神殿へと礼拝に行くわけにもいきませんからね 」


「 ああ・・それもそうですね。礼拝に行くだけでも、何十人もの護衛を引き連れていくことになりますもんね 」


 案内役の方は、どうやらあの礼拝堂に向かっている様子だった。


          ▽


「 どうぞこちらです。こちらでお待ちいただきますようお願い致します 」


 案内役の侍従男性が、端に避けたまま扉を開けてくれた。

 先に私たちが入室するようにと促してくれる。


 決して広いわけではなく――、こじんまりとした空間だった。

 しかしながら、教会特有の荘厳な雰囲気に圧倒され気圧されてしまい、身が引き締まる感覚を覚える。


「 あっ! え? あの像は? 」


 なんだか見覚えのある男性の像が中央に設置されている。


 ――え? あれって・・・

 あれって、あの人にすごい似てるよな?

 

 まさかとは思うけど・・・


「 あの像が、信仰対象の神様なんですか? 」


「 そうですな、主神デュール様ですね 」


「 デュール? 主神ってことは、一番(くらい)の高い神様なの? このデュールってのが? 」


「 ハルノ殿! いくらハルノ殿でもデュール様を呼び捨てにするのは感心しませんな・・・ 」


「 ああ、ごめんなさいつい・・・ 」


 大隊長さんに、すぐさま(たしな)められた。


「 ってか――、あの神の像は何を参考に作られているんですかね? 同じ作者なら、外観的に同じようなモノが出来上がるんだろうけど、やっぱ作者によって違ったりしますよね? 」


 ――単なる偶然だよな・・・

 でも、偶然にしては似すぎているような気がするけど。


「 この大陸ですと・・・約200年前に、隣国に降臨なされたのが最後と言われています 」

「 時の為政者に助言をお与え下さったと文献には記されておりますな。ご尊顔を拝した者も多く、宮廷画家による肖像画も数多く残っております 」

「 外観は特に統一されているわけではないと思いますが――、絵画にしろ彫刻にしろ、その御姿そのものにはあまり差はないと思いますよ 」


「 え? 実際に神様がこの世界に降臨したってことですか? 実際にその御姿を拝見して作ったと? 」


 ――空想の産物や、単なる心の拠り所としての信仰対象ではなく、やはり実際に存在するのだろうか?

 まさかとは思うが、私をこの世界に送り込んだあの人なのか?


「 神様なの? 」と質問すると――、即座に神ではないと否定していたはずだけど。

 でも、何だかあの人の可能性が非常に高いような・・・


「 ええ、そうですよ。ハルノ殿は記憶障害の後遺症が続いているとお聞きしましたが――、まさかデュール様をお忘れとは・・・ 」

「 それから一応釘を刺しておきますが、先ほどのようにデュール様に対しての不敬な物言いは絶対に厳禁ですぞ! 信仰心の厚い信者の前ですと・・・決して大袈裟ではなく、刃傷沙汰(にんじょうざた)に発展する可能性もゼロではありませんから 」


 至って真剣な表情で、諭すように大隊長さんから注意を受けた。


「 は、はい・・・以後、気を付けます 」


          ▽


 騎士団長サイファーさんは腕組みをしたまま、礼拝堂の中ほどの長椅子に座った。

 サイファーさんが腰を下ろしたことにより許しが出たかの如く――、大隊長さんも長椅子に座り、残りの私たちもそれに(なら)った。


「 ってか何だか落ち着いちゃってますけど――、もしかしてここに国王様が来るんですかね? 」


 ソワソワしている私の質問には、サイファー団長が答えてくれた。


「 多分そうだろうな。あくまでも非公式ってことだろ。それに加え、嬢ちゃんの存在を秘匿(ひとく)するべきだ――と、お考えなのかもしれんな 」


          ▽


 入り口に控えていた侍従男性が、我々の方へと駆けて来た。


「 皆様! 国王様が御到着なされました 」


 全員椅子から立ち上がり、入り口方面へと顔を向ける。


 ちょうど入り口を潜る、法衣を纏った間違いなく国王様であろう老人が視界に入った。


 どうやら、お供は二人のようだ。

 

 一人は見覚えのある男性、オリヴァー殿下だった。

 そしてもう一人は――、凛々しい鎧姿の女性だ。


 騎士団長さんと大隊長さんとアイメーヤさんは、即座に中央通路まで出て端に寄り、右手拳を胸に当てながら頭を垂れた。


 慌てた私たちも、見様見真似でそれに倣う。


 入り口から差し込むわずかな光を浴びて、国王であろう老人が座席に身を落ち着ける。

 そして有無を言わせぬ威厳を湛えた瞳で、私を射抜くように見つめた。


「 よい! 楽にしてくれ。貴公が(くだん)の賢者殿か? 」


「 あ、はい、春乃と申します・・・ 」


「 我が国にようこそおいでくださった。先日は息子のオリヴァーが世話になったな 」


「 あ、いえ、こちらこそ・・・ 」


「 賢者殿、そう緊張せずとも良い! 楽にしてくれ 」

「 しかしながら神聖な場とはいえ、このような手狭な場所ですまんな 」

「 貴公の特異性に鑑み、余計な者にまでその能力を知られるのは不利益があると考えたのだ。貴公にとっても我らにとってもな 」


「 御高配を賜り、ありがとうございます 」


 私が腰を曲げた次の瞬間――


 礼拝堂の跪き台付近が激しく輝き出した!


「 うおっ! な、なんだ?? 」


 アイメーヤさんは狼狽し、会衆席に体を引っ掛けてしまったようで、その場で大きくよろめいた。


「 陛下! 御下がりください! 」


 鎧姿の女性騎士が、腰に差した片手剣の柄に手を掛けつつ、滑るように国王様の眼前に割って入った。


「 待て! 盾なら俺がなろう! 」


 騎士団長サイファーさんも女性騎士の横に並ぶ。

 

 どう見ても異常事態だ!

 国王様たちがこの場に入って来た途端、起こった異常。


 狙いは国王陛下か・・・?


 瞼を開けていられないほどの、眩い光量が礼拝堂内部に充満する。


「 ま、眩しい! これは魔法の類か? まさかハルノ殿が――、何か魔法を行使しているわけではないですよね?! 」


「 えええ? 私? もちろんですよ! 私じゃないです! 」


 大隊長さんが「 念のため確認しただけです 」と、付け加える。


「 一体何なのだ?! この光は何だ?! 」


 オリヴァー殿下が誰に言うともなく叫んでいるが、それに答えようとする者はこの場にはいない。


 とりあえずマリアさんを守らねば!


「 マリアさん私の後ろへ! オリヴァー殿下も下がってください! 」


「 賢者殿! この光は何なのだ? 父上を狙った不逞(ふてい)の輩の奇襲攻撃というわけではなさそうだが・・・ 」


「 い、いや、私の方が聞きたいくらいですよ 」


 内部に充満していた光が急速に収束していく。


 この場にいる者全てが、小さくなりつつある光の塊を凝視していた。


 光塊は、やがて神の像の真横に集まり始めた。

 まるで隣の像を、そのままコピーしたような形状の光塊になりつつある。


 もう私は理解した。


 やはり予想通りだ。


 眩い光が縁取る人型の腕部分が、微かに動いている・・・


 やがてその人型へ浸透するかの如く、周囲の光は弱くなっていった。


 そして完全に光の波が引いたその場には――、長身の男性が悠然と立っていた。


『 やぁハルノ君! 久しぶりだね! 変わりはないかい? 』


 私の命の恩人でもあり、こちらの地球に私を送り込んだ張本人。


 信じられない。でも見間違えるはずがない。

「 神ではない 」と、確かにあの人は言った。しかし、礼拝堂の真ん中で光の中から現れたその姿は、まさしく神々しいとしか言いようがなく、そして、先ほどまで見ていた像と寸分違わぬほどそっくりで――


「 あなただったんですか! 」


 私は、先ほど聞いた名を口にすることを躊躇(ためら)ったのだった。

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