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第21話 拝謁の時

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 オリヴァーは、展望塔側から礼拝堂の裏口へと回った。


 木製の扉を引くと、内部から微かな灯りが漏れた。


 ――まさか、もうおいでなのか?


 カツカツと踵を鳴らし内部に侵入する。


「 戻ったか・・・ 」


 礼拝堂の最前列に置かれた長椅子に、ライベルク王国君主その人が意外なほど小さく座っていた。

 法衣に身を包む姿は、厳かな君主というよりは、むしろこの聖なる場所を守る聖職者のようにも見えた。 


「 父上、大変お待たせいたしました 」


「 よい、で? 首尾はどうであった? 」


「 想定以上の収穫がありました 」


「 ほう、聞こうか 」


「 まず桁違いの魔道士であることは間違いありませぬ。死亡しておった――とある少年に蘇生魔法を行使する現場に立ち会うことができました 」

「 報告通り、全て真実であると確認いたしました 」

「 ただ不思議なことに、かの賢者殿に魔力を一切感じないのです。考えられる可能性としては、意図的に何らかの方法――、たとえば何らかの魔法で隠蔽(いんぺい)しているとか・・・もしくは彼我(ひが)の魔力差があり過ぎることが原因かもしれませぬ 」


「 わははは! その賢者に比べると、魔力量においてはお前が赤子――いや、それ以下というわけか! ははは! 」


 厳かな静寂を好む聖堂に、国王の豪快な高笑いが、あるまじき反響を伴って響き渡った。 


「 しかしわかりませぬ、後者の場合、たとえ雲泥の差があったとしても、全く感じ取れない――そんなことがあり得るものなのか? (はなは)だ疑問ですね 」

「 それともう一つ重要な事がございます。蘇生魔法には付随する効果があるらしく、それはたとえ対象が重度の病魔に冒されていたとしても、蘇生と同時にその病魔をも滅する効果があるようです 」


「 なんだと! しかし一口で重度とは言っても如何ほどの病だ? 」


「 俺が立ち会ったその少年は、ルード病と呼ばれる病がかなり進行していたようですが 」


「 なんと! 小耳に挟んだことがあるぞ・・・ルード病、そうだ! 確かルード病といえば未だ治療法が確立されていない不治の病ではないか! その少年は間違いなく死亡していたのだな? 」


「 はい、間違いなく死亡していたと思われます。(くだん)の賢者殿は詠唱破棄で蘇生魔法を行使し――蘇生したついでに病も治したと申しておりました 」


「 そんな伝説的な魔法を・・・詠唱破棄だと? にわかには信じられんな。もはや神の御業だ 」


 国王は礼拝堂に設置されている男神像を見上げながら呟いた。


「 ええ、間近で目の当たりにした俺も我が目を疑いましたからね。正直に申しますと、未だに完全には信じることができない自分がおります 」


「 とにかく日和見(ひよりみ)を決め込んでおる貴族どもには情報が洩れないようにしないとな・・・奴らの中に間者がいないとは言い切れん。だが内容が常軌を逸し過ぎていて、単なる報告だけではまず信じることができないだろうがな。逆にその点は安心材料となり得るか 」


「 確かにそうですね・・・ 」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ドンドンドン!


「 お客さん! まだお休みかい? また人が訪ねて来たよ! 」


 宿のおばさんの、遠慮を知らぬような力任せのノックが響き、扉越しにその声が張り上げられる。 


 ――まったく、遠慮というものを知らないのだろうか?


「 はいー! 今下りますー 」


 昼前とはいえ心臓に悪い突然の激しいノックは勘弁してほしい――と、私は苦笑した。


          ▽


「 ああハルノさん! お休みのところ申し訳ありません! 」


「 あ! カノンさん! 街に戻っていたんですね 」


 誰が訪ねて来たのかと思ったが――

 道中の中継集落で出会ったハンターたちだった。


 私が階段を下りきると、カノン・ヘルベルさんとパーティーメンバーの三人が深々と頭を下げた。森で意識を失っていた者も、すっかり目覚めているようだ。


「 ああ、元気になったんですね! 身体の方は問題ないですか? 」


「 その節はお世話になりました! 微かな傷跡すら残っていません! 本当に感謝の言葉もないです 」


 屈強な体躯の割には、かなり丁寧な口調でギャップを感じる。


 ――ヤバい・・・この人なんて名前だったっけ?


「 それは良かったです! あー、それとライル君の病気も治りましたよ! 」


「 はい! 今朝街に戻ってきてカインズさんから事の顛末を聞きました。それでこちらの宿を教えてもらって、お伺いしたんですよ 」

「 ・・・正直、治療の仕方といいますか――魔法が使えない俺たちには理解できない方法なようで、ちょっとまだハッキリ申しますと信じきれてないんですけどね 」

「 しかしデュランの事もそうですが、何から何まで本当にありがとうございました! カインズさんも改めてお礼がしたいと仰ってましたよ 」


「 そうですか、まぁでも、今回は成り行きっていうか乗り掛かった舟ってやつですからね。それで、カノンさんたちはこれからどうするんですか? 」


「 俺たちは今日一日ゆっくり休んで、明日からまた依頼をこなしていこうかなと 」


「 そうですか、まーまた何か力になれる事があれば気軽に声をかけてください。少なくともあと数日間は、この街に留まることになると思いますし―― 」


「 はい、ありがとうございます! 本当にこの度は、本当にお世話になりました! 」


          ▽


 その日の夕方――


「 失礼ハルノ殿、今宜しいでしょうか? 」


「 あ、はい、どうぞ 」


 大隊長さんとアイメーヤさんが、私の部屋へとやってきた。


「 陛下への謁見が明日正午に決定しましたので、お伝えにあがりました 」


「 ああ、やっとですか・・・では明日支度しておきますね 」


「 はい、宜しくお願いします。我らも今日は宿に居りますので、御用があれば何なりとお申し付けください 」


「 あーはい、ありがとうございます 」


          ▽

          

          ▽


          ▽


 マリアさんと、念のため宿のおばさんにも目覚ましをお願いしていたが、目覚めると――ベッドのわきにはマリアさんだけが立っていた。


「 ・・・あ、マリアさん、起こしてくれてありがとう―― 」


「 おはようございますハルノ様。一時(いっとき)後には出発となりますので、身支度をお願いいたします 」


「 はい、急ぎますね 」


 ――いつも思うが、この世界の一時や一刻は、一体何分間に当たるのだろう? 街に定期的に響く鐘の音のおかげで、ようやく大まかな時間感覚は掴めてきたものの、未だに戸惑うことがある。


          ▽


 改めて、マリアさんが私の部屋を訪ねてきた。

 どうやら出発の時刻となったようだ。


 皆で表に出ると、ワゴン部分が大きな二頭立て馬車が停車していた。

 エンブレムはシンプルな剣と盾の紋章で、これぞ騎士団の馬車、といった印象を受けた。


 アイメーヤさんが扉を開け、最初に乗るようにと促してくれる。

 この世界にもレディーファースト的な文化があるのかもしれない。


 私は、この欧米の文化があまり好きではない。

 ナゼなら、先に行かせることで急な襲撃の予防にしていたという説があるため、根拠はないが私はそれを信じており、あまり良い印象がない。


「 ありがとうございます! ってか誰・・・? 」


 客車部分に乗り込むと、先客が座っていた。


 右頬に真横に走る剣傷跡がある、眼光鋭いおじさんだった。

 軽装鎧を身に纏っているので、間違いなく騎士団の方だろう。


 どうも! と会釈をしつつ、対面するように着席した。


「 団長すみません。本来ならば我らの方がお迎えにあがらなければならない立場ですのに・・・ 」


「 気にするな。そっちの方が二度手間になって面倒だろ? 」


 予め乗車していたおじさんに対し、大隊長さんが乗り込むなり謝罪の言葉を口にしていた。


 このおじさんが騎士団の長なのだろうか?


「 ハルノ殿、こちらが我が騎士団の団長で―― 」


「 おい! 自己紹介くらい自分でさせろよ! ったく・・ 」


「 す、すみません 」


 大隊長さんは、どうやらこの人物に頭が上がらないようだ。

 アイメーヤさんに関しては、もはや表情が強張っている。


「 嬢ちゃんが噂の賢者様か? 聞いていたよりも、これまた随分と若いな。俺はライベルク王国直轄騎士団の団長を務めているサイファーだ、宜しく頼む 」


「 ご丁寧にどうも、春乃と申します。以後お見知りおきを・・・ 」


 団長さんは、見た目通りの武人って感じだ。

 常に戦いに身を投じてきた歴戦の戦士ってところだろうか?

 その証拠に、顔だけじゃなく両腕にも無数の傷跡が残っていた。

 団長さんの強面もさることながら、その古傷の多さに私は釘付けになった。


 ――この無数の古傷・・・今私が治癒魔法をかけても綺麗にはならないのかな?


 これだけあれば、私の治癒魔法がどれほど効くか試さずにはいられない。だが、いきなりそんなことはできないと、辛うじて理性が踏みとどまったのだった。

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