第196話 急転の前触れ
「 ぬおぉ! またアナウンスだ・・・やっぱコレ、私だけに聞こえてるよね? 」
順に表情を窺ったが、皆――「 え? 何がですか? 」というキョトン顔だった。
「 しかし・・・命数。つまり寿命を削り、術者の生命を燃料にして発動する魔法ってことか? 」
――いやいや! そんなの使うわけないやん! そもそも惑星を停止させるって何の目的で使うんだよ!
あまりにも意味不明な魔法すぎて、もはや理解不能。
だが、ここに眠る魔法を「 不老を得る魔法 」だと勘違いし、奪取せしめんと躍起になっている哀れな独裁者が、今まさにこの塔を登ってこようとしている。
『 適格者と確認しました。惑星停止を習得しますか? なお行使した際――停止させる対象の規模に比例して、行使者の命数を消費しますので留意してください 』
催促するように、再び同じ文言のアナウンスが脳内に流れる。
――う~む・・・習得するだけならば問題はなさそうだが、果たして・・・
もしかしてデュールさんの目的って、生物を絶滅させる恐れのあるこの魔法を悪用しないと断言できる私に覚えさせて、ある意味『 封印 』しようとしたかったのかも?
龍さんの話だと、南の方にあの龍さんに逃走という選択肢を取らせるほどの――凶悪な魔道士とやらも存在するみたいだし、その「 適格者 」とやらが私以外にもいるのは確実だろう。
『 適格者と確認しました。惑星停止を習得しますか? なお行使した際――停止させる対象の規模に比例して、行使者の命数を消費しますので留意してください 』
【 ――よし! 習得します! YES、YES, YES! 】
心の中でそう念じた。
『 承認されました。導入まで6時間32分を要します・・・3分後にエリアを封鎖し、適格者はスリープ状態へ移行します。ご注意ください 』
「 え? ろ、6時間? スリープ? 」
――まさか・・・3分後に眠りに堕ちるのか? しかも6時間以上寝てしまう?
「 いや待って! キャンセル! キャンセルする! 」
脳内に響く女性声のアナウンスに反応は無い。
「 くそっ、キャンセルは無理なのか・・・ 」
「 やばい! 皆よく聞いて! 私はこれから意識を失うかもしれない。しかも長時間! その間ココも封鎖するとか言ってる 」
「 え? えぇ! ナゼですか! 」
リディアさんが焦りながら叫んだ。冷静なのはバルモアさんだけだ。
「 たぶんだけど、この光の珠みたいに見えてる魔法を覚えるのに――必要な時間なんだと思う 」
「 ヒヒヒッ! 実に興味深い仕組みですなぁ 」
バルモアさんがグネグネと身を揺らしながら反応する。
「 もし私の意識が戻らないうちに、アルバレス王がこの最上階に登ってきてしまったら・・・ 」
「 全員でこの中に籠城するか・・・もしくは私だけを閉じ込め皆は外に出ていたほうがいいのか? 」
「 オズマさんの身の安全を考えると、この門を開ける必要がまだあると思わせる方がいいとは思うけど―― 」
「 畏れながら、全員この中に留まるのは、悪手かと。ひ、一つ階を下りて、待ち構えましょう。この階では、奴らに反応し、ガーディアンが動き出す可能性があります。その場合、被害が、僕たちにも及ぶかもしれません。ここは使徒様だけを隔離し、階を下りることを、提案します 」
ガロさんが捲し立てるように進言する――
「 ハルノ様。我らにお任せください! ハルノ様が御目覚めになる前に奴らと対峙したとしても、我らだけで退けてみせましょう! 無論、オズマ殿も必ず無事取り戻してみせます! 」
リディアさんが自信たっぷりに叫んだ。
「 ヒヒヒッ! 同じく―― 」
「 たとえハルさんがいなくても死守して見せます! 」
バルモアさんの声音は喜色を隠しておらず――、逆にミラさんは表情を引き締め決意表明していた。
「 分かったわ。塔内のことはガロさんが詳しいし一任する 」
「 念のためリディアさんに聖衣魔法を付与しておこう。もし寝てしまうなら、どっちみち私は無力だし。リディアさん鎧を脱いで 」
「 畏まりました! 」
私が何をしたいのかリディアさんは瞬時に察し、即座に上半身の鎧を脱ぎ始めた。
・
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「 ターゲット、リディア・ブラックモア。聖衣蒸着! 」
中空に光り輝く鎧の各パーツが現れ光を放ち始める。
リディアさん自身も同様の光に包まれ、各パーツがリディアさんの体に合わせ動き出した。
リディアさんの身体に聖衣の各パーツが装着される。
「 やばい、この感覚・・・ 」
強烈な眠気が襲う――
突然、まるで重い毛布が頭上から降りかかるような眠気に襲われた。
瞼が鉛のように重くなり視界がぼやけ始める。意識が遠のくのを感じながら必死に抵抗しようとしたが、身体は言うことを聞かない。まるで――いくつもの見えない手が私を掴み、深い眠りの世界へと引きずり込むかのようだった。
膝から崩れ落ちペットボトルが手から滑り落ちるが、光を放つ床には落下時の音は響かない。
最後の意識の中で、ただ一つの思いを抱いていた。
『 リディアさん・・・ヤバそうだったら逃げて・・・ 』
その思いもやがて消え、私は深い眠りの中へと堕ちていった。
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~福岡県、宗像市~
PHANTOMのエージェントである広瀬は、応援の追加要員として福岡入りした後輩の桃谷と一緒に、ホテルの一室で宗教団体・光輪会の事務室内の音に聞き耳を立てていた。
「 イギリスの本部なら数時間で解析が終わる施設があるんだが、ここ日本だと民間の施設を利用する方が早い 」
広瀬が桃谷の質問に即座に答える。
「 でも早いと言っても、最低でも一週間はかかるんですよね? 」
「 ああ、こればかりは待つしかない。辛抱強く待とう 」
「 そうですね。待つしかないですね 」
広瀬が最初の水ボトルを届けに行った際、付帯サービスだと偽り部屋の掃除を率先して行い、床に落ちている複数人の髪の毛を入手したのだ。その髪の毛のDNAを調べるため、国内の施設に解析を依頼していた。
髪の毛一本から調べられる個人情報は意外と多い。DNA塩基配列、薬物使用歴、健康状態、環境暴露などだ。
「 今できることは、どんな些細なことも聞き逃さないようにすることだ。時間を無駄にしないようにしよう 」
「 はい。ですがそこまで警戒がユルユルなら、ナゼ盗撮用機器も設置しなかったんですか? 」
「 リスクに対してあまりにもメリットが少ないからだ。盗聴器に関しては、あのサーバーを細かく分解しない限り発見されることはまずない。だがレンズを表面に出す必要がある機器は、それだけで発見されるリスクが何十倍も上がってしまうだろ? 」
「 確かに、それはそうですが・・・ 」
ここ数日、事務室内の音を全て拾い――全てを耳にしている広瀬はある意味拍子抜けしていた。
宇宙人、異星人、エイリアン、宇宙船、UFO、宇宙基地、ワープ、テレポート、ワームホールなどの単語や、異星人に関連する単語はただの一つも出ないからだ。
その代わり治癒や治療という単語はかなりの頻度で耳にする。やはり巷の噂通り、脱線事故で負傷した者たちを何らかの方法で治療し、信者として獲得しているのは間違いないだろう。
その他にも、今までに何度も聞いた――「 はるのさん 」「 りでぃあさん 」も頻繁に会話の中に出てくる。
それ以外の新しい個人名としては、「 ひめのさん 」「 おりばーでんか 」という個人名が、頻度は少ないものの出てきた。それ以外の個人名も出てくるが、大体信者のリストと合致するため重要視はしていない。
さらに、「 むこうに行く 」「 こっちに戻る 」といった単語も頻繁に出てくる。これは「 はるのさん 」たちの移動のことだろう――
福岡とワープした先の宇宙船や銀河系の別惑星のことだろう――と、前後の会話も含めると容易に推測できた。
突然――インカムに着信音が響いた。
独特のメロディ。日本支部長の持明院からの着信だ。
「 通話を受ける 」
広瀬が音声コマンドを発し、通話を開始した。
「 はい。広瀬です。現在通話可能です 」
「 持明院だ。広瀬――そちらは井口に全権を渡し、全員すぐに東京に戻れ 」
「 え? 一体何が・・・ 」
広瀬は即座に、事態が重大な局面に移行してしまったと邪推した。
つまり、国家レベルでの圧力がかかったのだ。
持明院の有無を言わさない声のトーンから、そう判断した。
「 広瀬の思考は読める。だが――そちらの問題とは全く関係がない。これは極秘中の極秘、絶対機密だ。全員を連れすぐに戻れ。これは命令だ 」
「 え? この福岡の異星人とは、ま、全く関係がない? 」
「 そうだ。二度言わせるな 」
「 了解しました。すぐに帰還します―― 」
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全話共通で――なのですが、もし誤字脱字、改行ミスなどがありましたら
教えて頂けると助かりますです。
宜しくお願いいたします。




