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第194話 魔道騎士

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~タブラ砂漠~


 タブラ砂漠の広大な砂丘が夕陽に染まる中、アルバレス王の精鋭の軍隊が進軍していた。

 砂漠の風が吹き荒れ砂粒が舞い上がる中、彼らの進む道は――まるで無限に続くかのように見えた。


 アルバレス王は小型の砂漠生物「 サンドドラゴン 」にみずから(またが)り、鋭い眼差しで前方を見据えていた。

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          ・

 サンドドラゴンは砂漠の過酷な環境に適応した生物で、その外見はまるで砂の中から生まれたかのように見える。

 体長は約二メートルで砂色の鱗に覆われている。その鱗は太陽の光を反射し、まるで砂漠の一部のようにカモフラージュする。頭部には鋭い角が二本生えており、敵を威嚇するのに十分な迫力を持っている。目は大きく夜間でも視界を確保できるように進化していた。


 脚は強靭で、砂の上を滑るように移動することができる。特に後脚は強力で、砂丘を一気に駆け上がることができるのだ。尾は長くバランスを取るために使われるだけでなく、非常時には敵を打ち倒す武器としても機能する。


 その性能も驚異的だ。砂漠の高温にも耐えられる体温調節機能を持ち、長時間の移動でも疲れを知らない。また砂漠の風を利用して、低空ではあるものの極短距離を滑空することもできる。さらに一番の特性は、短時間ではあるが砂の中に潜ることができることだ。


 アルバレス王とその側近はこのサンドドラゴンに騎乗し、軍を率いて砂漠の過酷な環境をものともせず進軍していく。その姿はまるで砂漠の神々の使者のようであった。

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          ・

「 進め! 」アルバレス王の側近の声が砂漠の静寂を破る。その声は力強く、兵士たちの士気を高める。

 側近たちも一斉にサンドドラゴンを駆り、砂丘を越えて進んでいく。


 兵士たちは疲れを見せず、ただ王の命令に従い続けた。彼らの足音は砂に吸い込まれ、静寂の中に消えていく。


「 急げ! 一刻を争うのだ! 」側近は再び声を上げた。その声には決意と覚悟が込められている。


 兵士たちはその言葉に応え、さらに速度を上げる。彼らの目には遠くに見える巨大な塔の影が映っていた。


 タブラ砂漠の冷たい風が吹き抜ける中、アルバレス王とその軍隊はまるで一つの生き物のように動き続けていたのだった。


―――――――――――――――――――


 アルバレス王直属の魔道騎士3名も従軍している。

 殿(しんがり)を務めるため、軍の最後尾に付けている。


 雷光のゼファー、風の刃のマリス、隻腕(せきわん)のダリウス。

 エストレリア公国時代からアルバレス王に仕える武人たちだ。


 その通り名が示す通り――

 ゼファーは【雷鳴閃光】という雷属性を宿した剣技を得意とし、その斬撃が対象に直撃しなくとも、掠っただけで一瞬のうちに麻痺させることができるという剣技だった。斬撃と同時に周囲に強力な雷撃を拡散するのだ。


 マリスは【風神モード】という風属性を操る剣士だ。彼女の剣技はゼファー以上のアウトレンジで、遠距離の敵をも切り裂くことができる風の刃を高速で飛ばすこともできる。


 ダリウスは【炎獄烈火】という――斬撃と同時に爆発的な炎を放つ、豪快な剣技を得意としていた。


「 まさか――、またあの木偶(デク)人形と戦う羽目になるんじゃなかろうな? 流石にもう一本くれてやるとなると剣が振れなくなってしまうぞ 」

 不敵な笑みを湛えながら、ダリウスが一人で愚痴っていた。


 ゼファーが反応する。

「 今回は管理者と呼ばれる――生き残りの【時の守人】がいる。陛下の御言葉を借りるならば、ゴーレムは反応せず開錠する可能性が極めて高い。もし万が一開錠に失敗したとしても、真っ先に死ぬのはあの【時の守人】だろうな 」


 続けてマリスも口を挿んだ。

「 しかし管理者ってのも疑わしいわね。あんな幼子みたいな亜人が本当に役に立つのかしら・・・ 」


「 さあな、しかし今回は陛下みずから先頭に立っておられるのだ。安全が担保されているのだろう。我々は信じて従うしかない 」


「 でも最悪は常に想定しておいたほうがいいわ。またゴーレムが動き出したら、陛下が御逃げになるくらいの時間は稼ぐつもりだけど―― 」


「 ああ、そうだな 」


 2人の会話を遮り、ダリウスが話題を変えた。

「 しかしケーニッヒの野郎、行方不明らしいな! 手柄を部下に取られて、挙句の果てに行方不明とは! まさかもう一人いたとされる守人に()られたんじゃないだろうな? 」


「 あいつはそう簡単に死ぬようなタマじゃない 」

 ゼファーが真顔で答えた。


「 陛下もなんであんな奴を重用するのかしら・・・確かに腕は我ら以上に立つかもしれないけど、あんな不敬な奴が、好き勝手振舞ってるのは度し難いわね 」

 マリスも反応した。


「 確かに少し不自然だよな・・・いくらなんでも陛下に対してだけ不敬過ぎるしな。俺たちに対しては常に寡黙なだけで――別に俺たちを嘗めてる感じはしないしな。陛下は何か弱みでも握られてるんじゃないのか? 」

 ダリウスが半笑いで発言する。


「 おいダリウス。お前のその発言も十分不敬だぞ 」

「 そもそも、もし何らかの弱みを握られておられるのならば、既に始末されているだろう? 我らの手によってな―― 」


「 はははっ! 違いねぇ! 」


 その時だった――


 荷物を抱え少し前方を歩いていた兵士の1人が、後方の虚空を指差し「 何だアレはっ! 」と大声で叫んだ。

 魔道騎士の3人は、反射的に後方へ首を曲げた。


「 なっ!! 何だアレはっ! 」

 ダリウスの反応は、先の兵士とまったく同じだった。


 魔道騎士3人とも驚愕の光景に息を呑んだ。


 夕暮れの砂漠の熱気に揺らめく空に、得体の知れない大きな箱のような物体が浮かんでいたのだ。

 ソレはまるで天使のような複数の異形の存在に吊られているように見え、静かに空を飛び移動していた。


 その箱は巨大でありながらも不気味な静寂を保ち、異形の存在たちはほぼ羽ばたくことなく、ただ空中に浮かんでいるように見えた。

 姿は人の形をしているが、翼も全体も透き通っているように見える。まるで幻影のように揺らめいていたのだ。


 他の兵士たちもその光景に目を奪われ、完全に足を止めた。

 誰もがその異様な光景に言葉を失い、ただ見上げることしかできなかった。


 箱の中には何かが入っているのか? そしてそれを運ぶ異形の存在たちは何者なのか?


「 ま、まるで天使のようだが――あれは何だ? 」

 ゼファーは唖然としたまま、誰にともなく呟く。


「 へ、陛下を御護りしなければ! 」

 マリスが慌てて叫び、サンドドラゴンに鞭を打ち前方に駆け出す!


 巨大な箱は下界の軍隊の行進を気にも留めていない様子で、砂漠の空を滑るように進んでいった。

 その姿はまるで悪夢のようでもあり――大勢の兵士たちはその光景を目の当たりにしながらも、何もできずに立ち尽くしていたのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ~タブラ砂漠上空~


 タブラ砂漠の広大な砂丘が夕陽に染まる中、ランクルが空を舞っていた。


 召喚した三体のワルキューレたちが、その巨大な車体をなんとか持ち上げ砂漠の上空を滑るように飛行していた。精霊たちの透明な翼が、夕陽の光を受けて輝き幻想的だった。


 車内から見下ろすと、砂漠の広がりが一望できた。


 無限に続く砂の海、その中に一筋の太く黒い線が見えた。

 それは――大勢の軍隊が行軍する列だ。兵士たちは整然と並び、砂漠の過酷な環境にも屈せず前進を続けていた。


「 よし! 追いついたね! ミラさんの言った通りルートも予想通りだね。やはりアルバレス王はすぐに行動を開始していたと見える 」


「 まるで蟻の行列のように見えますね 」

 私の歓喜にミラさんが静かに反応した。


 ワルキューレたちは静かに翼を羽ばたかせ――私たちと荷物を乗せたランクルを安定させながら砂漠の上空を進んでいく。

 車内からは兵士たちの動きがはっきりと見えた。彼らの鎧が夕陽の光を反射し、まるで銀色の波のように輝いていた。


「 ところどころ兵士が担いでいる神輿のような物が見えるけど――あの中の一つにオズマさんが閉じ込められているのかも 」


「 ううぅ、オズマ・・・どうか、どうか無事であってくれ・・・ 」

 ガロさんが後部の窓を下げて頭を出した。


「 もう! ガロさん危ない! 頭引っ込めて! 」

「 こっちで操作して閉めるよ? 」


 私の苦言も右から左の様子で、ガロさんは心ここにあらずだった。


 私は運転席で操作し窓を閉め、さらに車窓の集中ロックを掛けた。


 砂漠の風が車内に吹き込み砂の香りが漂ってきた。ワルキューレたちの翼の音が静かに響き、ランクルは砂漠の上空を優雅に飛行し続けた。


 下の砂漠を行軍する軍隊の列はますます小さくなり、やがて視界から消えていったのだった。

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― 新着の感想 ―
更新して頂きありがとうございます。 砂漠の情景描写が美しいですね。 海外は行ったことが無いので、本当の砂漠の過酷さは分かりませんが、そんな環境に適応している生物には尊敬の念を抱きます。 サンドド…
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