第191話 久遠の塔
ガロさんから聞く話は、すべてが壮大で新鮮だった。
まるで超大作SF映画の中の話だった――
かつてこちらの世界の人類の祖先が築き上げた文明は、魔法技術、科学技術のどちらも極限まで進化していたらしい。
今や伝説となったその文明の街並みは、ガロさんたち【時の守人】一族を以ってしても、まるで夢のような光景だったと伝えられているらしい。
建築物は雲を突き抜け、空中庭園が広がり、建物の壁面には緑が生い茂り、自然と調和した都市が広がっていたという。空には無数の乗り物が行き交い、地上には乗り物など存在しなかった。人々は瞬時に目的地へと移動できる技術を持ち、時間の概念さえも変わっていたそうだ。
街の中心には巨大なエネルギータワーがそびえ立ち、その光は昼夜を問わず街を照らしていたらしい。エネルギーは無限に供給され、さまざまな――汚染などという問題は存在しなかった。すべてがクリーンで、持続可能なエネルギー源と個人個人の魔法によって支えられていたようだ。
人々の生活もまた驚くべきもののようだった。魔法技術に加え科学技術も極まって、病気はほぼ根絶され寿命はあってないようなものだったらしい。もはや死も恐るるに足らなかった。
回復魔法などの他にも私の推測ではあるが――遺伝子操作やナノテクノロジーによって身体の欠陥は即座に修復され、老化をも克服していたのだろう。人々は健康で活力に満ち溢れていたようだ。
しかし、その栄華は永遠ではなかった。
とある災厄が原因で文明は崩壊し、こちらの人類の祖先はその技術と知識を失ってしまった。
とりあえず魔法技術は横に置いておくが、今こちらの人類は、元の地球でいうところの中世時代のような段階までは再び文明を築いている。
そしてガロさんたち【時の守人】一族は、戒めとして古代文明人の興亡を忘れることはないようだ。
この一度滅びた過去の文明に対し、【時の守人】一族の中でも多少意見が分かれていたようだ。
「 かつての文明は我々が再び築き上げるべき目標だ 」と主張する者が少数いる一方で、「 自然と共存し急速な発展を望まず、地道な暮らしの中にこそ希望を見出し未来への道を模索するべきだ 」と大半の者は主張していたそうだ。
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「 入り方っていうか封印を解くカギは分かったけど、そもそもその古代文明が造った砂漠の塔に眠る――究極魔法っていったい何なの? サリエリ伯爵もアルバレス王も、その魔法を狙ってるって聞いたんだけど 」
「 彼らはただの不老を得る魔法だと、勘違いしていることでしょう。ですが真実は、違います 」
「 一言で申せば『 この惑星を静止させる、超極大魔法 』なのです―― 」
「 はぁ? 惑星を静止? まさか惑星自体の自転を止めるって意味? 」
「 さすが使徒様、惑星の運動を、御存知なのですね。ですがその魔法は、万策尽きた末の最終手段。自転はもちろんのこと――惑星そのものの、時を止めるのです 」
「 は? 惑星の時を止める? 」
「 はい。超極大の【時空魔法】と言えるでしょう。災厄から惑星を護るための、最終手段だったのではないかと・・・ 」
「 結果的には使う必要がなく、別の手段で一時的に解決したのか・・・もしくは、使う余裕がないほど追い詰められたのか・・・今の僕らには、どちらであったのかは判断できかねます 」
「 ただ、惑星を静止させるよりも、自分たちが滅ぶことを選んだのだと――僕はそう考えています 」
ガロさんはすでに私たちの存在に慣れ始めているはずだが、たどたどしい喋り方にあまり変化はなかった。だが内容はともかく――、概要的には簡潔で理解しやすい説明だった。
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タブラ砂漠に建つ【久遠の塔】
滅んだ文明が築き上げた天を貫く塔は、今もなお砂漠のど真ん中に威風堂々とそびえ立っているそうな。
その塔を構成する建材――というか素材には、時という概念自体が無いそうだ。何らかのオーバーテクノロジーで、強制的に時を停止させている素材で造られているらしく、まったく劣化せず朽ちることがないそうだ。たとえ傷つけようとしても無駄らしい。
まさに時の流れを拒むかのように、塔はその威容を保ち続けているのだそうな。
ガロさんの話を聞き、勝手なイメージを脳内に展開してしまう。
――砂漠の灼熱の太陽が照りつける中、塔の影は涼しげに広がり、周囲の砂漠とは対照的な静寂を保っている。塔の表面は滑らかでどこまでも続くような無限の高さを感じさせる。風が吹き荒れるたび砂が塔の基部に舞い上がり、まるで塔が砂漠と一体化しているかのような――そんなイメージだった。
もちろんガロさんは内部に入ったことがあるらしい。
塔の内部は外界の荒涼さとは無縁の、穏やかな静寂が支配しているそうだ。
もちろん階段もあるそうだが、ガロさんの一族は階段を使う必要がないらしい。何やらワープ装置のような高速で移動できる装置があるのだそうな。
内部はまるで新築のような輝きを放っており、壁には古代文字や図像が刻まれており、それらは今も鮮明に残っているのだそうだ。
塔の頂上に近づくにつれ空気は澄み渡り、まるで塔そのものだけではなく、内部の空間も時が止まっているのではないかという感覚に包まれるそうだ。
塔の頂上から見下ろすと広大な砂漠が一望でき、遠くには蜃気楼が揺らめき、まるで幻のように見えるのだそうな。
「 いや待って・・・もしかしてその魔法一回使ってるんじゃ? んであまりにもヤバイ効果だったので、わざわざ塔を造って封印したとか? 」
私の愚問に表情一つ変えずガロさんが答える。
「 わかりません。ですが実際に使用されたという、記述のある文献は残ってはおりません 」
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自転を無理やり止めるとどうなるのだろうか?
自転が停止すると、惑星の磁場に影響を与える可能性があるんじゃ?
地球の場合、磁場は主に地球の外核にある液体鉄の流動によって生成されていると習った覚えがある。
この流動は地球の自転によって影響を受けているため、自転が停止すると磁場が弱まるか消失する可能性があるのでは?
もし地球の磁場が消失した場合、太陽フレアや宇宙線からの保護が失われるため、大きな被害を受ける可能性がある。
太陽風が直接地球の大気に影響を与えるため、大気が宇宙空間に吹き飛ばされる可能性があるんじゃ? そうなったら地球の大気が薄くなり、生命の維持が困難になる。
磁場が消失すると――、やはり太陽からの有害な放射線や宇宙線が地表に直接到達するようになり、これにより地表の生物や人類に対する放射線被害が増加し、健康はもちろん遺伝子などにも重大な影響を及ぼす可能性があるだろう。
いや、もっと基本的な部分――
自転が停止するということは磁場消失だけじゃない。
昼夜の固定化、気候の大変動・・・
昼夜の固定化や気候の変動により、多くの生物が生息環境を失い生態系が大きく変わる。特に植物は光合成のために太陽光が必要なため、昼側と夜側で生育条件が大きく異なるだろう。
さらに自転が停止することで遠心力がなくなり、赤道付近の重力が増加するんじゃ?
そうなったら――、地殻変動や地震が頻発するのは頭の悪いバカな私でも容易に想像がつく。
ってかこっちの世界の様々な種族、巨大なモンスター、特に人類が進化の過程で亜人や獣人などに枝分かれしていったのって・・・元の地球とは生物進化の分岐が違うのって・・・磁場消失により放射線が爆発的に増加し、遺伝子に多大な影響を与えたからなんじゃないのか?
放射線の影響で、遺伝子が突然変異を引き起こす可能性があることは私でも知っている。
とある県内の低線量放射線被ばくが、DNAに損傷を与え、突然変異を引き起こすことが報告されている――と、習った記憶があった。
何千年何万年も費やせば、結果として新たな種が誕生することも十分あり得る。
――やっぱ少なくとも、一回くらいは使ってもうとるんじゃないだろうか?
「 そんな超危険な魔法を、利己的な為政者に渡すわけにはいかないよね・・・ 」
「 ミラさんの仇討ち助っ人、村人虐殺ガロさん殺害の落とし前、オズマさんの奪還、究極魔法発動の阻止 」
「 アルバレス王なりサリエリ伯爵を攻撃する大義名分が――、これで一気に増えたわけだけど・・・ 」
「 しかしこれってもう――、世界を救うって次元の話になっとるやないかー! 」
「 御意―― 」
私の心からの叫びを聞き、ミラさんとリディアさん、そしてバルモアさんもガロさんも、静かに臣下の礼をとっていた。
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