第188話 古城の決戦
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
古城の広間には、陽光が窓から差し込んでおり、大量の砂埃が舞っているのが視認できる。陽光を受けてキラキラと反射していた。
「 お前たちは全員で精霊の魔力残滓を追え! 追いつけなくとも方角だけは見失うなよ 」
氷属性に特化した魔法剣士ケーニッヒは、冷たい笑みを浮かべたまま、部下たちに追跡命令を下した。
「 はっ! 」即座に部下たちは部屋を飛び出していく。
オズマを口に咥えた獣型の精霊が、崩壊した壁をさらに破壊しながら無理やり飛び出して行ったためだ。
ケーニッヒは全てを理解している。召喚した精霊には個体差はあるものの――射程が存在することを。
延々と逃げられるわけではないことを理解していた。
・
・
「 ほう! ガキのくせに、お前も剣を使うのか 」
いつの間にか、ガロの右手にはショートソードが握られていた。
ガロの容姿は白髪に青白い面、背格好は子供のソレだが、どう見ても通常の人間ではない。
「 ガキ 」と罵りながらも、ケーニッヒは本気で子供だとは思っていない。時の守人に対面するのは勿論初めてだが、事前にある程度の知識は入れていた。
情報源の年老いた漁師のように、幼い頃に一度目撃したことがあるだけの、朧げな記憶しかない者とは違った。
不老の種族で、魔法の才能に秀でている種族。そして、久遠の塔を連綿と守護してきた種族。
「 お前の魔法の才で、俺を愉しませてみせろ! 」
ケーニッヒが高く跳び上がる!
さらに空中の一部分を凍らせ、透明な氷の足場を瞬時に作り出す。
その足場に一瞬だけ足を乗せ、二段ジャンプのように、さらに高く跳び上がった。
「 俺の剣は我流! 」ケーニッヒはそう叫び、空中で体を捻った。
飛び上がった先に、さらに氷の足場を一瞬だけ作り、ありえない角度で空中を蹴りつけた!
いつの間にか、周囲には氷刃が複数形成されていた。
空を蹴った勢いのまま、一直線にガロを急襲した!
・
・
ガロは臆病者だが愚者ではない。ケーニッヒが跳び上がった時点で、ある程度の予測をし、詠唱を開始していた。
「 風属性! 空翔防壁!! 」
冷静にそのトリッキーな動きを見極め、左手をかざして風属性の浮遊する壁を創り出した。
ケーニッヒが射出した氷刃が、風属性の壁にぶつかり、霧のように砕け散った。
ケーニッヒは急降下しながら、思念を使い残りの氷刃を次々投げつけるが、ガロの創り出したフレキシブルな風の壁に阻まれ、同じく霧のように砕け散った。
氷刃は弾切れとなり、ケーニッヒ自身が剣を振り下ろしながら着地した! だが、ガロはブーツの裏と石床の間に風を発生させ、滑るように後退し見事に躱す!
ギイイイィィィン!!
振り下ろされた鋼鉄の切っ先が、石床に擦れ火花が散った。
ガロは後退しながら詠唱し、魔法を発動する。
「 炎属性! 煉獄の炎! 」
硬直しているケーニッヒ目掛け、巨大な火球が襲い掛かる!
「 氷結の盾! 」
ケーニッヒは一瞬ギョッとし瞠目したが、極短縮で詠唱し――瞬時に氷盾を創り出し右手で支えた。
大火球は燃え盛る炎をまとい、その熱量は周囲の空気を揺らし波動を生み出していた。
氷盾は冷たく輝き、まるでその冷気が火球の熱を迎え撃つかのように立ちはだかっている。
火球が氷盾に衝突する瞬間、激しい音が広間に響き渡る。火球の表面温度は数百度に達し、その熱が氷の表面に瞬時に伝わった。
氷分子は急激にエネルギーを受け取り、氷の結晶構造が崩壊し始めた。表面は即座に蒸発し、水蒸気が立ち上る。
火球の熱と氷の冷気がぶつかり合うことで、急激な温度差が生じ、爆発的な蒸気が発生する!
蒸気は高圧となり、周囲の空気を押しのけるように広がる。ガロは、創り出した風の壁の制御ができなくなっていた。
さらに広間全体が白い霧に包まれ、視界が一瞬で遮られる。
氷盾はその冷気を保ちながらも、火球の熱に耐えきれず、徐々に溶けていった。
しかし、氷の盾は完全に崩壊する前に、火球のエネルギーを吸収し尽くした。火球はその勢いを失い、燃え尽きるように消えていく。
蒸気が立ち込める中、氷盾の残骸が静かに佇んでいる。その冷気がまだ周囲に漂っていた。
「 基本に忠実だな、そして短絡的すぎる。確かに氷属性は炎属性に弱い、だが生憎だったな 」
ケーニッヒは吐き捨てるように言い放つ。
「 ぐっ・・・ 」
狼狽するガロ――
「 多属性使い、オールマイティーに強いやつだな。しかしここまでの使い手とは・・・少し甘く見ていたか 」
「 しかも――、召喚した精霊の維持をしつつか・・・面白い! 」
ケーニッヒは言葉通り、心底感心しているようだ。
さらに詠唱を開始するガロ――
「 雷属性! 雷撃閃光! 」
ガロの掌から雷撃が放たれる瞬間、青白い光が一閃し、空気がビリビリと震える。
雷撃はまっすぐにケーニッヒを狙い、轟音と共に炸裂する!
「 がぁ! うぅ・・・ 」
雷撃が剣を持つ方の腕に命中した。
しかし、ケーニッヒには魔法障壁が張られている。雷撃が障壁に当たると、青白い光が弾け、電流が障壁に吸収される。障壁は一瞬で消散し、ケーニッヒの腕には軽い痺れが残るだけだった。
ケーニッヒは驚きの表情を浮かべながらも、すぐに体勢を立て直し、剣を拾い握り直した。
雷撃の余波で腕に軽い痺れが残るが、致命的なダメージは避けられた。広間には雷撃の余韻が静かに漂う――
「 反属性の雷まで使うのか・・・この高火力! しかし炎と違い、雷は連発できまい! 」
「 今度は俺の番だ! 」
ケーニッヒは極短縮で詠唱を開始し――、唱える。
「 氷結の嵐! 」
ケーニッヒが魔法名を叫ぶ! その声が響き渡ると同時に、冷たい風が広間全体に巻き起こり、氷の結晶が空中に舞い上がった。
ダイヤモンドダストが広間を包み込み、温度が急激に低下する。石の床や壁が瞬く間に凍りつき、白い霜が広がっていく。
氷の結晶が次々と生成され、嵐の中で舞い踊るように回転していた。
広間全体が氷の世界に変わっていった――
ガロは嵐の中で必死に耐えながら、次々と――異なる炎属性の魔法を繰り出した。
・
・
・
数えきれないほどの火球がダイヤモンドダストに突入し、蒸気が立ち上る。
しかし今一つ氷嵐の勢いは止まらず、冷気が徐々に広間全体を支配していった――
・
・
ケーニッヒは嵐の中心で冷たい笑みを浮かべながら、魔力を鎮めた。
氷の結晶の発生が減り、広間全体が落ち着きを見せ始める。
「 お前のメイン属性は炎か? 」
ケーニッヒの問いに、ガロは答えない。
ガロは冷気に包まれながら思考を巡らせている。
ガロも魔法障壁を張っているが、身体の動きは加速度的に鈍くなっていった――
広間全体が混沌と化す中、勝者が決まる瞬間が近づいていた・・・
▽
「 安心しろ、お前を殺すのが目的ではない。伯爵の部隊が到着する前に、お前の身柄を拘束させてもらおう。俺の仕事はそこまでだ、その後は関知しない 」
「 この広間で満足に動くことができなくなった時点で、お前は拘束されることが確定したのだ 」
「 お前たちが暖炉から出てこない間、俺が何も仕掛けていないとでも思ったか? 」
「 隠蔽解除 」
ケーニッヒが魔法名を唱える。
唱えた瞬間、空気が一変する。隠蔽魔法が解除され、広間の端に氷で創られた像が2体、突然出現する。青白い光がその表面を反射し、冷たい輝きを放っていた。
氷像は、まるで生きているかのように微かに動き始めた。関節部分がきしむ音が響き、冷気が漏れている。像の目には冷たい光が宿り、ガロを見据えるように輝いている。
ガロの息は白く、白煙を吐き出しているようだった。
氷像はその巨体をゆっくりと動かし、まるで命を持ったかのように立ち上がった。
ガロに向かってゆっくりと近づき始める。
冷気が漂う中、像の動きは確実で、動きが緩慢になったガロを拘束しようと手を伸ばした。
ガロはその迫力に一瞬たじろぐが、すぐに体勢を立て直し、逆にこの時間を有効に使い詠唱を開始した。
・
・
「 お前こそ――、ぼ、僕が、いや僕たちが、何も準備せず、この城に潜んでいたと思っているのか? 」
「 僕の、メイン属性は、炎ではない! 土だ! 」
「 プリセットリチュアル発動! 」
「 極大魔法! 地殻流動! 」
ガロが魔法名を叫ぶと、床が震え始め、石板が微かに揺れ動いた。
次の瞬間、激しい揺れが広間全体を襲い、壁に掛けられた破れたタペストリーが激しく揺れ、天井から大量の埃が舞い落ち始めたのだった――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
MIYAVIの「Running In My Head」を鬼リピで毎日聴いていますです。




